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電球を買えても一人で換えられない

 2015年からの10年間は、高齢者の中でも世帯主の年齢が75歳以上の世帯・単独世帯が急増する。特に女性の単独世帯に占める65歳以上の割合は2013年46.6%、2025年50.9%、2035年56.4%となり、女性の単独世帯は高齢者女性の代名詞に変わる。
 電球を買えても一人で換えられない世帯=消費サイクルを一人で完結できない世帯の増加は、物販からサービスへとマーケットニーズを大きく変える。
 サービス化が進むと、これまで一般に小売されていた商品は消費財から生産財へと変わり、小売マーケットは人口減少・高齢化の影響以上に縮小する。
 サービスの生産性向上が重要な意味を持つ時代になっている。

効率の悪い小売業

 少しデータは古くなるが、平成19年 東京都の卸売業は、全国の14.1%の事業所数、22.6%の従業者数で39.9%の年間商品販売額を売り上げている。1事業所当りの売上規模は全国平均の約3倍、従業員1人当りの年間商品販売額は全国平均の約2倍と非常に高い値を示している。
 それに対し、同じ東京都でも小売業は事業所数9.0%、従業員数10.3%で年間商品販売額は12.8%でしかない。1事業所当りの売上規模は全国平均の1.4倍、従業員1人当り年間商品販売額も全国平均の1.2倍強であるから、卸売業と比べると、全国との差はあまりない。
 商圏に住む消費者と「距離」「時間」「消費量」「購買頻度」という関係で成り立つ小売店舗は、卸売業のように距離や時間を超えて、一つの取引先と一度に大きな取引をすることはない。
 あくまでも、対象は不特定多数の消費者であり、商品の現物在庫を持って、不定期・不特定時間(時刻)に、不特定の多品種商品を、少量ずつ、高頻度で、個別に取引する。効率の悪い取引形態である。
 商品の現物を扱う限り、発注を含めた在庫管理、現物管理に手間がかかり、物流、庫内物流・補充、レジ清算なども煩雑である。売れれば売れただけの点数が何度か(最低でも荷受け、補充、レジ清算の3回)人の手を経ることになるから作業の手間・作業時間は販売点数に比例して増える。しかも、一度売れたからといって、次も同じ商品が、同じように売れる保証はない。多品種の商品を少量ずつ扱えば必ず一定量のロスは避けられない。
 さらに店舗という大きな固定費、制約条件を持つから人口が減少する時代には難しい。

日本の人口は?

 日本の総人口は2008年がピークであり、2010年までは12800万人を維持していた。おそらく多くの人が「日本の人口は?」と聞かれてまず頭に浮かぶのが、この12800万人という数字だろう。しかし、我が国の人口は、2011年から毎年20万人超の規模で減り続け、2015年1月1日現在12700万人である。わずか4年間で約100万人、1つの県に相当する人口が減少したことになる。
 意外と知られていないが、総人口12700万人という数字には日本に住む外国籍の約150万人が含まれている。もちろん在留邦人も2013年10月1日現在126万人いるが、国内の日本人は12,550万人しかいない。
 人口の減り方には特徴があり、現在20万人台にある減少幅は2018年には年間50万人、2024年には70万人を超え、2041年からは毎年100万人超の人口が減るというように加速する。まるで放物線を描くように減少する。

人口頼りの食品スーパー、都市型立地のコンビニエンスストア

 主要業態の中で最も売上規模の大きい食品スーパー(以下SM)は、幅広い立地に展開しているが、飲食店などが数多く集まる都市部でシェアが低い。SM の1人当り売上(都道府県SM年間商品販売額÷都道府県人口)の大小は、食に関する選択肢の多様性を判断する一つの指標と見ることができる。
 一方、コンビニエンスストア(同CVS)の1店舗当り売上(都道府県CVS年間商品販売額÷都道府県CVS事業所数)は、1店舗当り人口(都道府県人口÷都道府県事業所数)の大小よりは、日常生活の中で、消費者が気軽に、高頻度に利用できる立地環境、買物習慣・業態の定着度合によるところが大きい。都市部で発展した業態であるため、そのような特色が色濃く表れている。

東京都と周辺のベッドタウン

 東京都は人口1330万人(都総務局統計部「東京都の人口(推計)」平成26年1月1日現在)に加え、毎日290万人の通勤・通学客が通う(都総務局統計部「東京都の昼間人口 平成22年」平成25年3月)。その95%が埼玉県、千葉県、神奈川県からである。
 これら3県は、年間商品販売額、1人当り県民所得、県内総生産とも47都道府県中10位以内と高い値を示すが、1人当り年間商品販売額(年間商品販売額÷県人口)だけは、40~46位と全国的にみても異常に低い。
 昼間の時間帯を都内で過ごす通勤・通学者290万人(広島県の人口とほぼ同じ)にとって、東京都は日常的、かつ主要な生活圏である。定期乗車券を持つことから、休日の買い物に都内を使うことも日常である。仮に、この3県の1人当り年間商品販売額が全国平均並み(実際にはもっと多いはずだが)とすると、その額は3兆円にもなる。3県の住民が東京都内で消費する額である。

政令指定都市に見る人口減少と高齢化

 2010年=100とした時に、2040年全国の総人口は83.8、それよりも指数が低い政令指定都市が静岡市78.0、北九州市80.3、新潟市82.3、浜松市83.7と4市ある。
 政令指定都市の中でも都市型の典型である川崎市の2025年の人口ピラミッドと地方型の静岡市、新潟市などの2010年の人口ピラミッドを見比べると似たような形になっている。(川崎市の15年後の姿?)
 年少人口(0-14歳)、生産年齢人口(15-64歳)、65歳以上人口、75歳以上人口(再掲)の年齢4区分全てにおいて、同じ構成比になる時期が全国に20ある政令指定都市だけで比べても10年から15年、場合によっては20年も違う。
 例えば、年少人口を見ると、2010年時点で大阪市、京都市、札幌市が11%台であるが、他の多くの市では11%台になるのが10~15年遅い2020~2025年である。早くに11%台になった市は、その後10%を割り込むが、2010年時点に比較的高い値を示している市は2040年になっても10%を割り込むことがない。
 同様に生産年齢人口を見ると、北九州市は2015年に58%を割り込むが、新潟市、浜松市、静岡市などはそれよりも10年遅く2025年、熊本市、広島市、横浜市、相模原市などは、さらに10年遅い2035年まで58%を割り込むことはない。
 65歳以上でも、早くに30%台に乗せた北九州市、新潟市、静岡市と京都市、浜松市、千葉市、神戸市、札幌市では5年の差があるし、福岡市、さいたま市、堺市、名古屋市、広島市、仙台市、大阪市、大阪市、相模原市などとは、15年もの差がある。75歳以上の人口構成比が20%台に乗せるのも早い市と遅い市では10~15年の差がある。
 日本全国にある市区町村を見渡せば、自分が住んでいる都市の将来の姿、過去の姿があるから、いろいろなヒントを得ることもできる。高齢化し、人口が減る過程でどのような現象が起き、どのような構造的問題が現れるのか、具体的に知ることができるだろう。
 大阪都構想を否決した大阪市も86.0だから現状維持が容易とは思えない。何よりも2010年に対し、2040年全国で最も人口減少幅が大きいのが大阪府の▲140万人であることを考えると、都構想に反対し、否定した人達がそれに代わる代替案を策定し、実行する責任を負わないと、ただ住民投票をし、結論を先送りにしただけで終わってしまう。
 住民はもちろんだが、企業も明確な方向性を出さないと生き残ることは難しくなる。特にリアル店舗を構えた小売業は損益分岐点が高く、経費が固定費的に発生するだけでなく、物理的に商圏が限定される。知恵と行動力が必要である。
 
 

2015年度 芝浦工業大学授業資料

2015年度 芝浦工業大学授業資料

思考法
レポートの書き方について
人口減少・高齢化から 読み解くマーケット変化

ヴィンクス 第39回流通小売業向け研究セミナー「高齢化、人口減少時代に対応するマーチャンダイジング」

日本の人口は、2010年から2030年までの20年間に約1140万人(9%)減少すると予測されています。これは中国5県、四国4県を合わせた9県の人口に相当します。一人当り消費支出が変わらないと仮定して、人口減少による消費支出の減少を試算すると約26兆円(2010年GDP480兆円、消費を6割としてその9%)、小売業の年間商品販売額(物消費)は12.1兆円(2007年134.7兆円の9%)にも上り、その額は平成25年日本チェーンストア協会加盟58社8321店舗の売上12.7兆円にほぼ匹敵します。人口減少、高齢化による消費支出の質的変化(支出費目とウエイト)、商圏、購買チャネルのシフトなど、マーケットの変化と対応すべき方法について解説します。

2014年度 芝浦工業大学授業資料

2014年度 芝浦工業大学授業資料

第12回 スモールカンパニーのメリットを活かせ!

1. スモールカンパニーのメリットを活かせ!
「スモールカンパニーのメリットを活かせ!」の連載も今回で12回目になる。
原稿を書き続けたこの1年の間にも状況は様変わりしている。
これまで、将来のこととばかり思っていた我国の人口減少はいよいよ現実のものとなってきた。2030年までには急速な地方の過疎化と都市部への人口集中、さらにその都市部でも急激な高齢化が予測されている。
 小売業界では、ダイエーが中・四国から撤退し、3大都市圏中心のリージョナルチェーンへと変身することを打ち出したし、イトーヨーカ堂も30店舗もの不採算店の撤退を発表している。
 このことは、撤退店舗がある都市の急激な小売販売額の減少、地価の下落、雇用の減少など地域経済の衰退を意味している。すでに一小売企業の問題という域を超え、行政をも含めた地域経済、さらには地域の歴史・文化の存続までを左右しかねない状況が目の前に広がっていることを改めて認識すべきであろう。
 国土交通省は、重点施策の一つとして『地域活力の維持強化、地域構造の再編』 (平成17年8月12日http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/01/010812/02.pdf)
を打ち出している。
 具体的テーマとして『中心市街地の再生、振興』を採りあげるなど都市部の空洞化を避けるために、都市機能の立地の見直し=公共公益施設、大型商業施設などの立地の見直しをしようという動きである。
 2001年3月時点で約3200あった地方自治体の数は、2006年3月には4割減の1920(実際には1800代まで減っている)まで減少すると言われている。
地方自治体としての村や町はすでに存在しないが、市町村合併によって合併した地域は生き延びられるという考えである。しかし、過疎で小学校が廃校になれば、就学児童を抱える家族は小学校のある都市部に引っ越すしかない。
 高齢者の病気や介護も十分な設備のそろう都市部へ人口が移動する重要な要因となるだろう。大型店舗の撤退により、地域経済が衰退すれば仕事を求めて都市部への人口移動が加速することも考えられる。
 就学、就労、病気治療、介護など自然減(出生数が死亡数に満たない)に加えて社会減(転出が転入を上回る)が過疎に拍車をかけることになるだろう。
地方の崩壊が始まったとみてよいだろう。

(1) スモールメリットの行き着くところ
『スモールメリット』というものを提唱したきっかけは、無謀とも言える『チェーンストア理論への妄信』に対するアンチ・テーゼ、問題提起である。
さまざまな業態、さまざまな企業が衰退していく原因を探っていけば、店齢、および商圏に住む人達の高齢化、企業組織の肥大化・硬直化など共通する原因が見えてくる。一方、小規模企業のオーナーの志向は、成功し、大きくなった企業の話を好んで聞き、マネしようとばかりしている。大きくなった企業が目標であるから理解できないでもないが、大きい企業と小さい企業の状況は明らかに違う。大きい企業の手法を取り入れたからといって、そのまま上手く適用できるとは限らない。
 また、他人の芝生はなぜか青く見える。大きくなることで陥ったさまざまな構造的問題点は見ずに『スケールメリット』ばかりを見て何でもかでも無闇に取り入れようとする。
 冷静さを失っては見えるものも見えなくなり、せっかく培ってきた自分達の良さも捨て去ってしまう。本来の良さ=強さを自ら放棄してしまえば、このような難しい時代を生き抜くことは難しい。長い時間をかけてせっかく育ててきた特徴ある企業が、情報に踊らされて自滅していくのを見るのは忍びない。総ては勘違いと言ってしまえばそれまでだが、間違った意思決定の積み重ねは取り返しのつかない事態を招く。
 『スモールメリット』は、このような状況に対する警鐘、アンチ・テーゼであり、問題提起である。
 さらに、人口動態を追いかける中で消費に直結するさまざまなことも分かっている。
 最も重要なことは、高齢化に伴うライフステージの変化、特に家族構成の変化は消費支出の優先順位、量・質を大きく変えてしまう。
 日本人の平均年齢は1970年の31歳からすでに10歳以上上がっている。小さな子供を抱えるニューファミリーは、小中学生を抱える世帯へと変わってしまった。このまま行けば、近い将来子供が独立した中高年夫婦のみの世帯、あるいは単身の高齢者  
世帯が日本の標準的な世帯像に変わってしまうことだろう。
 時代とともにお客も年を重ね、変化していくのであるから、これまで売れていたものが売れなくなるのは当然である。
 店舗間の競争の激化は明らかだが、インターネットの普及も商品の販売チャネルや価格形成に大きな影響を与えている。
 すでに大きな店を構えて商品をたくさん並べたからといって必ずしも競争力があることにはならない時代になっている。
価格についても同様である。価格比較サイトでは最も安い価格をリアルタイムで知ることができるし、商品を購入して使った人の生のコメントも読むこともできる。商品を購入する前に消費者が得られる情報は信じられないほど増えている。しかも、これまでには有り得なかった『自分と同じ目線で商品を見ている消費者』の生の声=疑問、賞賛、非難、嘆きである。消費者の購買行動が変化するのも当然だろう。
 東証一部上場のあるホームセンターでバラの品種を調べようとしたことがある。しかし、販売している品種が載っている本はない。『インターネットで簡単に調べられる』と販売員に提案したが、店ではインターネットを使うことができないと言う。
 消費者がインターネットを用いて簡単に世界のバラを調べられる時代に何ということであろうか。大きな企業のアキレス腱とも言える決定的な弱点である。
資材館ばかりに目を奪われ、情報の重要性を認識できなかった結果だろう。情報戦略の遅れは機器の導入、インフラ整備だけの問題ではない。
 ローコストを推進するために人員を減らし、パート、アルバイトばかりにしてしまえば、いくらインフラ整備を急いでも、それを使いこなせるだけの人員を確保することは難しい。
 POSをはじめとした情報化の設計思想が『限られた人員の有効活用』『情報化による質的向上』ではなく、『コストとしての人員の排除』であったことが今後致命的な差となって現れてくることは確かである。
 小回りが利く小さな企業が生き延びるためには、インターネットなどIT(情報技術)を駆使することでより専門性を高め、地域に密着して消費者との関係を築き上げていくことが重要になる。
 一生懸命に汗かくことを避け、豊富な資金量だけを頼りに大きな店舗と広い駐車場、何処にでも売っているたくさんの商品と低価格だけで商売をしようとしてきた企業と戦うには一生懸命に汗をかき続けることが一番である。
 そのような企業には絶対にできない手間隙かかることをやるのが正攻法である。

 「スモールカンパニーのメリットを活かせ!」では、はじめはこの点に集中して考えていた。しかし、大きい企業よりももっと手ごわい相手が次々と現れてきた。
 一筋縄ではいかない相手は、地方で急速に進む「過疎」であり、日本という国に向こう100年は続くと見られる人口減少である。
 この時点で『スモールメリット』の考え方は、地域との共存なくしては成り立たない性格のものでもあるということが分かってきた。『スモールメリット』の理論的な修正である。
 もし、人口減少に直面する地方都市の小さな企業が生き延びようとすれば、現状で考えられる選択肢は大きく分けて3つである。
 一つは人口の多い都市部への事業移転、二つ目はインターネットによる全国的な商圏の確保、三つ目が行政や他企業・他産業と協力して地域の活性化を図ることである。 
 すでに人口減少が避けられなくなっている状況を考えれば、地方自治体同士の人口の取り合いは現実的、かつ避けられない問題である。人が住みやすい、魅力ある地方自治体は他の地方自治体から住民を得ることが可能である。
 『日本の市区町村別来推計人口』(平成15年12月推計 国立社会保障・人口問題研究所http://www.ipss.go.jp/)によると、2000年を100とした2030年の人口推計で人口が増える都道府県は僅かに東京都、神奈川県、滋賀県、沖縄県の4都県のみである。個別に見ると50を切る市区町村に対し、逆に110以上の高い指数を示す市区町村もある。多くの場合、企業が地域に根付き、雇用の増加・安定が従業員を中心とした人口の増加に寄与している。当然、宅地開発も盛んであり、人口増のほとんどが社会増(他からの移転)であることが分かる。
 人口の増減は、社会増減と自然増減の相乗効果でどちらか一方へぶれやすい。雇用、住宅が確保され、社会増で人口が増えれば、さらに自然増も見込まれる。
 小売業者、地場産業、農林水産業などが従来のような大資本や行政からの補助金頼り=他力本願から脱皮し、自らの力で発展し、雇用を確保することができれば新たな住民=消費者を確保することもできる。行政もこれまでのように国からの補助金は見込めないから、自らの努力で発展するしかない。
 地方自治体間の競争だとすれば、行政と企業が協力して汗をかくしかない。
 重要なポジションにあるのは、全体を企画・統合し、特に販売を支えることができる企業である。小売業者がこれまでとは別の意味で重要な役割を果たす時代と言ってもよいだろう。