第12回 スモールカンパニーのメリットを活かせ!

1. スモールカンパニーのメリットを活かせ!
「スモールカンパニーのメリットを活かせ!」の連載も今回で12回目になる。
原稿を書き続けたこの1年の間にも状況は様変わりしている。
これまで、将来のこととばかり思っていた我国の人口減少はいよいよ現実のものとなってきた。2030年までには急速な地方の過疎化と都市部への人口集中、さらにその都市部でも急激な高齢化が予測されている。
 小売業界では、ダイエーが中・四国から撤退し、3大都市圏中心のリージョナルチェーンへと変身することを打ち出したし、イトーヨーカ堂も30店舗もの不採算店の撤退を発表している。
 このことは、撤退店舗がある都市の急激な小売販売額の減少、地価の下落、雇用の減少など地域経済の衰退を意味している。すでに一小売企業の問題という域を超え、行政をも含めた地域経済、さらには地域の歴史・文化の存続までを左右しかねない状況が目の前に広がっていることを改めて認識すべきであろう。
 国土交通省は、重点施策の一つとして『地域活力の維持強化、地域構造の再編』 (平成17年8月12日http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/01/010812/02.pdf)
を打ち出している。
 具体的テーマとして『中心市街地の再生、振興』を採りあげるなど都市部の空洞化を避けるために、都市機能の立地の見直し=公共公益施設、大型商業施設などの立地の見直しをしようという動きである。
 2001年3月時点で約3200あった地方自治体の数は、2006年3月には4割減の1920(実際には1800代まで減っている)まで減少すると言われている。
地方自治体としての村や町はすでに存在しないが、市町村合併によって合併した地域は生き延びられるという考えである。しかし、過疎で小学校が廃校になれば、就学児童を抱える家族は小学校のある都市部に引っ越すしかない。
 高齢者の病気や介護も十分な設備のそろう都市部へ人口が移動する重要な要因となるだろう。大型店舗の撤退により、地域経済が衰退すれば仕事を求めて都市部への人口移動が加速することも考えられる。
 就学、就労、病気治療、介護など自然減(出生数が死亡数に満たない)に加えて社会減(転出が転入を上回る)が過疎に拍車をかけることになるだろう。
地方の崩壊が始まったとみてよいだろう。

(1) スモールメリットの行き着くところ
『スモールメリット』というものを提唱したきっかけは、無謀とも言える『チェーンストア理論への妄信』に対するアンチ・テーゼ、問題提起である。
さまざまな業態、さまざまな企業が衰退していく原因を探っていけば、店齢、および商圏に住む人達の高齢化、企業組織の肥大化・硬直化など共通する原因が見えてくる。一方、小規模企業のオーナーの志向は、成功し、大きくなった企業の話を好んで聞き、マネしようとばかりしている。大きくなった企業が目標であるから理解できないでもないが、大きい企業と小さい企業の状況は明らかに違う。大きい企業の手法を取り入れたからといって、そのまま上手く適用できるとは限らない。
 また、他人の芝生はなぜか青く見える。大きくなることで陥ったさまざまな構造的問題点は見ずに『スケールメリット』ばかりを見て何でもかでも無闇に取り入れようとする。
 冷静さを失っては見えるものも見えなくなり、せっかく培ってきた自分達の良さも捨て去ってしまう。本来の良さ=強さを自ら放棄してしまえば、このような難しい時代を生き抜くことは難しい。長い時間をかけてせっかく育ててきた特徴ある企業が、情報に踊らされて自滅していくのを見るのは忍びない。総ては勘違いと言ってしまえばそれまでだが、間違った意思決定の積み重ねは取り返しのつかない事態を招く。
 『スモールメリット』は、このような状況に対する警鐘、アンチ・テーゼであり、問題提起である。
 さらに、人口動態を追いかける中で消費に直結するさまざまなことも分かっている。
 最も重要なことは、高齢化に伴うライフステージの変化、特に家族構成の変化は消費支出の優先順位、量・質を大きく変えてしまう。
 日本人の平均年齢は1970年の31歳からすでに10歳以上上がっている。小さな子供を抱えるニューファミリーは、小中学生を抱える世帯へと変わってしまった。このまま行けば、近い将来子供が独立した中高年夫婦のみの世帯、あるいは単身の高齢者  
世帯が日本の標準的な世帯像に変わってしまうことだろう。
 時代とともにお客も年を重ね、変化していくのであるから、これまで売れていたものが売れなくなるのは当然である。
 店舗間の競争の激化は明らかだが、インターネットの普及も商品の販売チャネルや価格形成に大きな影響を与えている。
 すでに大きな店を構えて商品をたくさん並べたからといって必ずしも競争力があることにはならない時代になっている。
価格についても同様である。価格比較サイトでは最も安い価格をリアルタイムで知ることができるし、商品を購入して使った人の生のコメントも読むこともできる。商品を購入する前に消費者が得られる情報は信じられないほど増えている。しかも、これまでには有り得なかった『自分と同じ目線で商品を見ている消費者』の生の声=疑問、賞賛、非難、嘆きである。消費者の購買行動が変化するのも当然だろう。
 東証一部上場のあるホームセンターでバラの品種を調べようとしたことがある。しかし、販売している品種が載っている本はない。『インターネットで簡単に調べられる』と販売員に提案したが、店ではインターネットを使うことができないと言う。
 消費者がインターネットを用いて簡単に世界のバラを調べられる時代に何ということであろうか。大きな企業のアキレス腱とも言える決定的な弱点である。
資材館ばかりに目を奪われ、情報の重要性を認識できなかった結果だろう。情報戦略の遅れは機器の導入、インフラ整備だけの問題ではない。
 ローコストを推進するために人員を減らし、パート、アルバイトばかりにしてしまえば、いくらインフラ整備を急いでも、それを使いこなせるだけの人員を確保することは難しい。
 POSをはじめとした情報化の設計思想が『限られた人員の有効活用』『情報化による質的向上』ではなく、『コストとしての人員の排除』であったことが今後致命的な差となって現れてくることは確かである。
 小回りが利く小さな企業が生き延びるためには、インターネットなどIT(情報技術)を駆使することでより専門性を高め、地域に密着して消費者との関係を築き上げていくことが重要になる。
 一生懸命に汗かくことを避け、豊富な資金量だけを頼りに大きな店舗と広い駐車場、何処にでも売っているたくさんの商品と低価格だけで商売をしようとしてきた企業と戦うには一生懸命に汗をかき続けることが一番である。
 そのような企業には絶対にできない手間隙かかることをやるのが正攻法である。

 「スモールカンパニーのメリットを活かせ!」では、はじめはこの点に集中して考えていた。しかし、大きい企業よりももっと手ごわい相手が次々と現れてきた。
 一筋縄ではいかない相手は、地方で急速に進む「過疎」であり、日本という国に向こう100年は続くと見られる人口減少である。
 この時点で『スモールメリット』の考え方は、地域との共存なくしては成り立たない性格のものでもあるということが分かってきた。『スモールメリット』の理論的な修正である。
 もし、人口減少に直面する地方都市の小さな企業が生き延びようとすれば、現状で考えられる選択肢は大きく分けて3つである。
 一つは人口の多い都市部への事業移転、二つ目はインターネットによる全国的な商圏の確保、三つ目が行政や他企業・他産業と協力して地域の活性化を図ることである。 
 すでに人口減少が避けられなくなっている状況を考えれば、地方自治体同士の人口の取り合いは現実的、かつ避けられない問題である。人が住みやすい、魅力ある地方自治体は他の地方自治体から住民を得ることが可能である。
 『日本の市区町村別来推計人口』(平成15年12月推計 国立社会保障・人口問題研究所http://www.ipss.go.jp/)によると、2000年を100とした2030年の人口推計で人口が増える都道府県は僅かに東京都、神奈川県、滋賀県、沖縄県の4都県のみである。個別に見ると50を切る市区町村に対し、逆に110以上の高い指数を示す市区町村もある。多くの場合、企業が地域に根付き、雇用の増加・安定が従業員を中心とした人口の増加に寄与している。当然、宅地開発も盛んであり、人口増のほとんどが社会増(他からの移転)であることが分かる。
 人口の増減は、社会増減と自然増減の相乗効果でどちらか一方へぶれやすい。雇用、住宅が確保され、社会増で人口が増えれば、さらに自然増も見込まれる。
 小売業者、地場産業、農林水産業などが従来のような大資本や行政からの補助金頼り=他力本願から脱皮し、自らの力で発展し、雇用を確保することができれば新たな住民=消費者を確保することもできる。行政もこれまでのように国からの補助金は見込めないから、自らの努力で発展するしかない。
 地方自治体間の競争だとすれば、行政と企業が協力して汗をかくしかない。
 重要なポジションにあるのは、全体を企画・統合し、特に販売を支えることができる企業である。小売業者がこれまでとは別の意味で重要な役割を果たす時代と言ってもよいだろう。

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