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サービスを科学する

 平成27年3月2日、「生産性運動60周年記念パーティー(主催;日本生産性本部)」の席上で阿部首相がサービス生産性革命の必要性を訴えた。
 サービス産業は「GDPと雇用の約7割」を占めるまでになっており、さらなる市場の創造、拡大が見込まれる重要な分野である。しかし、サービス産業の生産性は製造業や諸外国のそれと比べても低い状況にある。新たな成長を目指すには、ウエイトを高めるサービス産業の生産性を「革命」といえるほどに向上させることが不可欠になる。
 ただでさえ我国は急激な人口減少・高齢化(生産人口減少)に直面しており、成長を持続するにはあらゆる分野の生産性向上が喫緊の課題である。
 進化著しいIT、ロボットなど最先端技術の導入も期待されるが、中小零細企業が多いサービス産業の現状を考えれば、資金、人材面など現場導入にはハードルが多い。
 そのような認識もあってか、6月18日「第1回サービス生産性向上協議会」では「小売」「飲食」「宿泊」「介護・福祉」「運送」の5分野について経営者、所管省庁担当者の参加に加え、トヨタ自動車など生産性の高い企業からの専門家派遣も決めている。
 問題は、人口減少・高齢化の速度=生産性向上に与えられた猶予期間である。
 いくら生産性が高い企業から派遣される専門家が世界レベルにあったとしても、受け手側であるサービス産業は、製造業とは全く異なる進化の仕方をしている。
 例えば小売業であれば、パート・アルバイトという安価な労働力の比率を高めたこともあり、離職率が高く、勤続期間は短い。また、消費者との距離が近く、店舗間競争はダイレクトで変化が早いため、迅速な対応が求められる。
 時間とコストをかけて人を教育するよりは、改装・増床して大型化、商品入替え、出店、新業態開発をする方が結果は早いし、数値も読みやすい。経費削減は、社員をパート・アルバイトに置き換え、さらに人数も減らす。粗利率を上げるには生産国を移す、大量発注する、PB比率を上げる。
 チェーンストアという特性、経験から得られた経営スタイルは、個々の現場よりは全社的な仕組みを優先する。業界特有の状況、歴史、意識・感覚、価値観、制約条件、経営上の優先順位など様々な環境与件の違いは大きい。
 いずれにせよ、限られた時間内で世界のトップクラスに登りつめるには、既存の事業、組織、体制、方法を改善するよりは、全く新しい事業を創出する方が明らかに早い。
 現在、必要と考えられるのは、① 個別分野に関する高度な専門知識・技術(当該事業者だから専門知識・技術に詳しいとは限らない)、② IT(デジタル・ネットワーク技術)、自動化・ロボット技術、③ ①と②、あるいは異分野を結び付けて新たな価値・事業を創出するアイデア、企画力、④ ③を実現するための具現化技術、リアルネットワークを含む組織(実行部隊)などであるが、この中で唯一進んでいるのは②だけである。
 他は全て一世代前のバージョンと言ってもよい状況にある。
 最先端技術の導入、次世代を担うビジネスモデルを考えた時、当該分野の事業者・研究者の意識、経験・知識・技術・ノウハウでは不足する部分も多く、それを埋めるためには③、④の人材・事業者の育成が急務である。
 シーズはあるが、シーズの活かし方が分からない・活かせる組織がない。プロデューサー、ディレクター、エンジニアが必要である。
 流通革命時のチェーンストア、インターネット普及時のアマゾン、楽天市場、ヤフーなど、時代が大きく動いた時、変革者として業界に新風を吹き込み、過去の常識を覆して新たな成長の中心になったのは異分野からの参入者である。
 既存事業者は店舗などの資産、人員(経験・知識・技術)、過去の経験・知識・価値観・判断基準・手法などが足枷となって、ドラスティックな転換ができない。
 足枷となる資産も先入観もない新規参入者が新しい事業の中心となれる所以=持つ者の弱み、持たない者の強みである。
 そう考えると、新規事業参入の推奨、参入者の育成、参入障壁の撤廃こそが新たな成長へのカギを握ると考えるべきだろう。
 全く新しい視点から、サービスを科学していく必要がある。

◆「サービス」「サービス業」「サービス産業」
 第一次産業(農林水産業)、第二次産業(鉱工業)に分類されるもの以外、商業、金融・保険、情報通信、運輸、不動産、飲食・宿泊、医療・福祉、教育、サービスなどの全てが第三次産業に分類される。
 ただし、第3次産業以外にも「農業サービス業」「園芸サービス業」「専門サービス業」「技術サービス業」など様々なサービス業(請負)があり、それらは請負う本業の分類に入るから、第一次産業、第二次産業の中にも事業としてのサービス業が存在する。
 また、産業分類にかかわらず、企業・組織には「サービス(間接)部門」があり、「サービス業務(作業・動作)」を行うことで「サービス(機能/効用)」を提供している。
 「サービス」「サービス業」「サービス産業」「サービス部門」「サービス業務」…等々、いろいろな物事を「サービス」という一つの言葉で全て表わしているため、対象範囲、意味などは全く整理されていない状況にある。
 一般的にサービス=サービス産業=第3次産業はGDP(国内総生産)と雇用の7割を占めるとされているが、それはあくまでも統計上の集計であって、様々な分野に分散するサービス業務、サービス事業まで含めれば、おそらく8~9割の間にあると考えてよいだろう。
 サービスに関しては、事業、業務形態、機能から整理すると、大きく①水道、ガス、電気、運輸、通信など事業者が敷設した設備を用いた便益提供、②器具・備品・設備、自動車、会議室・ホール、ソフトウエアなどの使用権利の供与、③クリーニング、ヘアカットなどの機能代行(消費者・クライアントに代わって行う)、あるいは塾・教室などの機能支援(教育する、補助する)という3つに分けることができる。
 統計処理上、集計単位としての産業分類は重要だが、業務の生産性向上を考えるには、上記のように事業、業務形態、機能をベースにして分けた方が分かりやすい。
 特に生産性向上を目指すには、①~③のタイプにより、アプローチの仕方は変わるから、クラシフィケーションの考え方に基づいて、それぞれの特性に応じて類似するパターンをグルーピングし、対処する方が効率的である。

*現状では、サービスの定義もあいまいであり、様々な分野の研究者が、様々な立場から発言している。まさに百家争鳴といった状況にある。
 確実に「科学する」必要がある。

クラシフィケーション(商品特性)と商品構成

◆商品構成の定義
 商品構成は「目的に応じて、いろいろな要素(役割)の商品をバランスよく組み上げ、一つのまとまりあるものにすること、またはそのようにして出来上がったもの」ということができる。
 目的としては、安さを強調する、高級感を演出する、専門性や特殊性を目立たせる、オシャレであることを強調する、業者にも対応できることを印象付ける、幅広い品揃えであることを強調する、ここへ来れば何で揃うと主張する、限定した目的だけに対応していることを強調する、とりあえずの商品は揃う、….等々、様々なものが考えられる。
 また、いろいろな要素(役割)には、売上の中心になる、利益を稼ぐ、商品回転率を高める、少ない在庫を多く見せる、集客する、価格が安いことを強調する、良い商品があることを印象付ける、専門的な商品があることを印象付ける、品揃えの幅が広いことを強調する、…等々がある。
 このように、いろいろな要素(役割)の商品をバランスよく組み合わせ手商品構成を設計する、あるいは組合せのバランスを確認して商品構成を分析・改善するには、クラシフィケーション・マトリックスが有効である。
 クラシフィケーションマトリックスをベースに商品構成を定義すると「商品構成とは、クラシフィケーション・マトリックスの中にバランスよく商品を配置すること」と言うことができる。

◆クラシフィケーション・マトリックスによる商品構成
 クラシフィケーション(Classification;商品特性)には、デザイン、素材、形状、サイズ、色、構造などの物理的特性、成分などの化学的特性、呼吸、熟成などの生理的特性、状態を維持する上で必要となる温湿度のような管理上の特性、年間商品、季節商品などの販売上の特性、目的買い、衝動買いなど購買上の特性、消費者の使い方による使用上の特性、….等々、様々な特性がある。
 これら商品特性を基にすると数多くある商品でも管理しやすくなる。もとにあるのは、製造分野で多品種少量生産に対応し、高効率、高生産性を実現したグループ・テクノロジーであり、製造分野では当り前のように定着した考え方、手法である。
 数多くある商品特性のうち、商品構成を見ていく上で有効となるものはいくつかに限られるが、有効な商品特性を特定し、それによって商品をグルーピングして固定くと非常にわかりやすくなる。 
 お客が商品を選定する場合、例えば風邪薬であれば、症状(咳、喉、鼻、熱、複合など)、剤形(錠剤、顆粒、粉末、カプセル、液体など)、容量(日数)など、商品特性を拠り所として商品を選択するから、選択する上で用いる商品特性の順序、商品特性ごとの売上比率などをとらえることは、お客が商品選択する手順と割合を知ることになる。
 当然、その手順に従って、売場が分類され、一定の比率でフェイシングされていることが「買いやすさ」につながるから、「見やすい」「分かりやすい」「選びやすい」「買いやすい」売場を実現することにもつながる。
①ある総合スーパーのアクセサリー売場では、ピアスとイヤリングの売上比率が9対1、同様にある百貨店では6対4であった。ピアスは耳に穴を開ける必要があるため、一定以上の年代層にはあまり受け入れられない。9対1と6対4という数値を比べると総合スーパーよりも百貨店の方が全体的にお客の年齢層が高いと推測できる。さらにデザインや素材などまで落とし込んで売上比率をとらえれば、客層、売上比率に応じた商品構成のアウトライン(骨格)を知ることができる。
◆事例
②ある総合スーパーでは、ビジネス・スラックスの中心サイズが82~88cm、デザイン別に調べるとツータック88cm、ノータック82cmが中心になっていた。色別にはツータックは紺とグレーが多く、ノータックでは茶系が多い。ツータックとノータックでは、買う客層が違うため、中心サイズや色が異なると考えられる。それを前提とすると、売場の分類の仕方、商品のサイズ別在庫の持ち方は明らかに現状とは違う形になる。
③ある総合スーパーのブラックフォーマル対カラーフォーマル売上比率は3対2。ブラックフォーマルの中ではスーツ対アンサンブルの売上比率は5対2だが、カラーフォーマルでは16対1と圧倒的にスーツのウェイトが高くなる。取扱いアイテム数を調べてみると、ブラックフォーマル対カラーフォーマルが5対4、ブラックフォーマルのスーツ対アンサンブルが10対9、カラーフォーマルのスーツ対アンサンブルは8対1となっていた。
 明らかに売上比率と取扱いアイテム数の比率が違っている。必ずしも機械的に売上比率に応じたアイテム数を配置する必要はないが、何らかの意図があって比率を変えているのと、何も知らずに結果として比率が違っているのでは意味が違ってしまう。サイズまで踏み込めば、さらに品揃えと売上のミスマッチが明確になる。
④ある総合スーパーの文具売場では、カッター付セロテープのSサイズ対Mサイズの売上比率は6対1だが、スペアテープでは1対2と逆転する。また、フラットファイルのA4サイズ対B5サイズの売上比率は10対8.5だが、レバーファイルになると10対4.5、パンチレスファイルでは7対10と逆転する。お客の使い方によって、同じファイルでもサイズの売上比率は変わるが、品揃えは全て一定になっている。
⑤ある食品スーパーの加工食品売場では、カレールーの甘口対中辛対辛口の売上比率が4.2対10対3.8。200g未満では4.6対10対4.2、200g以上では3.7対10対3.1となり、大容量の方が中辛の比率が高くなっている。また、レトルトカレーの甘口対中辛対辛口の売上比率は2.5対10対5でであり、中辛が多いのはカレールーと同じだが、甘口よりも辛口の比率が高くなっている。
カレールーとレトルトカレーでは客層や用途が違うため、このような売上比率の違いとなっていると考えられる。
⑥ある食品スーパーの日配売場では、木綿豆腐と絹ごし豆腐の売上比率は10対8.4。豆腐の大きさ別に見ると、木綿豆腐では450g未満対450g以上の売上比率が5対1であるのに対し、絹ごし豆腐では1対3と逆転する。取扱いアイテム数を見ると、販売数量の少ない絹ごし豆腐の方が多い。また、大きさ別では何故か木綿豆腐、絹ごし豆腐とも販売数量が少ない方のアイテム数が多くなっていた。
 このように商品特性ごとに売上比率を調べてみると、いろいろなことが分かってくる。
 店の客層、商品の使い方による買い方(売れ方)の違い、お客が店をどのように使っているかなども推測できる。もちろん、品揃えするアイテム数の比率やフェイス数の比率なども売上比率を参考にして行う必要がある。ただし、現在の売上比率が必ずしも正しいとは限らないので、他社情報や業界情報を参考にする必要がある。
*ある総合スーパーでは過去5年間、婦人のブラウスとシャツブラウスの売上比率が年間を通して8対2であった。しかし、メーカーや問屋の出荷実績を調べてみると春夏は3対7、秋冬は7対3という比率であり、この数値を参考にして商品構成をやり直した結果、徐々にこの数値に近づいている。あくまでも売上比率は目安であるが、商品特性別に売上比率を知ることが商品構成の基本になる。

ローコスト・マネジメント

 一時期、ローコスト・オペレーションということが盛んに言われたことがある。ローコスト・マネジメントではなく、オペレーションというところが何となく小売らしいが、そのことが大きな錯覚を生み出したことは確かだろう。
 かつて乾いた雑巾を絞ると言われた製造業が取組んでいたのはトータル・コストの低減であり、言葉としてはコストであるが、その実は生産性、効率の向上である。
 一方、小売業で盛んに行われていたのは、本来の目的である成果(継続的な売上・利益向上=客数アップ、客単価アップ)にこだわらないコスト・カットであり、非常に歪んだ形の結果をもたらすことが多かった。
 製造業がローコストを考える時、どんな手法を使おうが絶対に守られていることは製品としての成立条件=「機能」「性能」「品質」などが絶対条件として設定されていることである。どうしてもコストが受け入れられない時には「トレード・オフ;いろいろな要素をハカリにかけ、許容原価の範囲内で製品としてのバランスを考え、取捨選択して妥協点を見出す」という手法を用いる。
 しかし、その対象は2次的要素であって基本的な「機能」「性能」「品質」まで無くすことは絶対にしない。例えて言えば、シャープペンのコストをどんなに削っても鉛筆にはしないし、テレビのコストをどんなに削ってもラジオにはしない。
 それでは小売業としての成立条件=「機能」「性能」「品質」とはいったい何なのだろうか。実は、最も大切なこのような議論が曖昧なままという状況が小売業にはある。つまり、小売、売場、商品、販売、接客、…等々に関する「機能」「性能」「品質」とはいったい何なのか、という定義である。
 そう考えると、ローコストにこだわるあまり、テレビと思っていた売場をラジオにしてしまうことはないだろうか? ….素朴な疑問である。
 通常、生産性、効率の向上を考える時、投入資源と成果の比を如何にして大きくするかという議論をする。もちろん、理想としては投入資源を下げ、なおかつ成果を大きくすることであるが、単に投入資源を小さくすればよいのではなく、より大きな成果を得るためには投入資源を増やすということも重要な選択肢と成りうる。
 ある意味、積極的に攻めるのか、守るのか、それとも現状はいなして済ますのか、…など、状況によって判断することになるが、少なくとも選択肢も取り得る手法、対象も幅広く見ている。
 それに対し、小売業は、あまりにも対象が狭く、やることも限られている。
最も大きな経費は人件費であるから、まず手を付けるのは人件費からである。売上は天候・気候やお客という管理不能な要素が大きいし、商品原価もある程度限界がある、として半ばあきらめる。あと弄れるのは販促費や水道光熱費であるから、チラシを小さくしたり、本数を減らす、昔であれば蛍光管を外す、ということしか発想できない。
 しかし、ここには大きな間違いがたくさんある。
 まず、最大のコストは人件費ではなく、商品原価である。そこに隠れて見えない値下・廃棄ロスも大きい。さらに人時でしか管理できない現場の業務・作業に関する精度を高めれば、人件費はそのままでもパフォーマンスを数段高めることは可能である。
 要するに、コストの使い方を評価して精度を高めることをせず、コスト・カットだけへ向かうから、いつまでたってもコスト・マネジメントのレベルにはなれないということだろう。
 過去の経験として「いくらやってもできない・できなかった」という物事に対しては、はじめからムリなものとして、新たな方法を考えようともしないし、取り組もうともしない。
 そうである限り、小売業は新たなステージに立つことは難しいだろう。
 人口減少、高齢化は、ここから10年の間にマーケットを様変わりさせるだろう。その時には、確実に規模の競争から損益分岐点の競争に変わる。
 コストを制する者だけが生き残ることができる時代になると言ってもよいだろう。
 コスト・マネジメントの重要性はますます増すことは確かである。

 

人口減少時代に何を残す?

 いま教えている学生が20歳であるから、ちょうど彼らが生まれた頃から人口動態を調べていることになる。すでにその頃には「いずれ近い将来、急激な高齢化と人口減少が起こる」と指摘されていたが、実感がないのか、多くの組織が何の対応もせずに、結果としてその時を迎えてしまったことになる。
 ここ1,2年、政府が本腰を入れ始めたことで、さすがに地方自治体も何らかの行動をとりはじめてはいるが、本当の意味で効果のある動きかどうかは定かではない。
 一方、企業、特に小売業は、目先のことに忙しいのか、そんな先のことまで構ってはいられないということなのか、何となく分かってはいても、実際の状況に関しては全くと言ってよいほど把握できていない。当然、準備もできていないから、多くの企業がかなりの確率で難しい状況に陥るだろう。 
 「茹でガエルの話」ズバリそのものが目の前で起きているから、見ている方がハラハラしてくる。気づいた時には….と散々警告を発してはいるが、行動パターンはそう簡単に変わらない。経営者の限界が組織の将来を決めてしまうことになる。

 どこに基準を置くかにもよるが、まず学生に関しては、我々が過ごした時代より、はるかに難しい時代を生きていかなければならないことは確かだろう。そうであれば、卒業するまでにどのような武器を持たせてやれば良いのか、ということが教える側にとっての重要な課題になる。
 筆者が学生の時に教わった故津村豊治 芝浦工業大学名誉教授は、「産業界に優秀な学生を送り出す」という使命感を持って学生を育てていた。筆者が何十年経っても変わらずに自分の基本に置いている原理原則はその時身につけたものと思っている。
そう考えると、我々も21世紀に貢献できる人材を…と願うばかりだが、それでも、現在の環境与件を考えるとなかな状況は難しい。

 「国内の市区町村のうち約半分に当たる896の都市が消滅可能性都市である」という日本創成会議の発表も、実際に細かなデータを見てみれば、全くの嘘、脅しということではないことがすぐに分かる。まず都市が消滅する以前に、人口減少と高齢化によって、もっといろいろな現象が次から次へと顕在化してくるから、大騒ぎになるか、あるいは騒ぐだけの余力もなく人知れず消滅していくことになるのだろう。
 「その時はその時、どうにかなるサ」という楽観的な考え方もないわけではないが、理工系の学生であれば4年という歳月に加え、600万円という高額な授業料を投資している。ただ大学を出ましたというだけではあまりにも効率の悪い投資だから、少なくともそんな時代を生き抜くだけの知恵、スキル、ネットワークなどの武器を身につけていって欲しい。
 情報はWebを探せばいくらでも手に入る時代であるが、頭の中に情報が引っ掛かる糸が張り巡らされていなければ、どんなに価値ある情報も気づかずにスルーしてしまう。それでは、こんなにチャンスの多い時代に、いつまでたってもスタートラインに立つことはできない。
 小中高12年の間に、頭の中に糸を張りめぐらすような作業が済んでいれば、大学生になってから基本的な勉強の仕方を身につけるような作業は必要ないのだが….。
 「教育」「勉強」というと、どこか神聖で、俗っぽくあってはならない、全てのモノに優先するといった風潮が昔からある。まるで錦の御旗のように正論を振りかざして、どんどん現実離れした虚構の世界へと子供たちを誘導してしまう人達がいる。
 しかし、現在のような時代にこのような勘違いばかりが横行していては取り返しのつかないことになってしまう。
 人口が減る時代には一人一人がとても大切である(人口が多い時は大切ではないというつもりで言っているのではない)。
 持てる能力、可能性をいかに引き出すことができるかが非常に重要なテーマである。しかし、小中高12年の間に堅く固まって閉ざされてしまうと、その殻を壊し、本来の持てる能力を引き出して開花させることはかなり難しくなる。
 そもそも「勉強とは何かが分かっていない」し、「思考方法が身についていない」「世間知らずで危機感もない」からスタートライン(自分は分かっていないと気づくまで)に着くまでに時間がかかる。「勉強とは工夫すること」「実技だから実際にできるようになること」「大学では観察力や工夫の仕方を身につけること」ということを実践的にやるしかない。
 一度でも専門的な分野の現場に入り込み、実際に行われているレベルを自分の目で見、肌で感じることで、自分とのレベルの差を身をもって実感できれば早いのだが、そのような環境もなかなか揃わない。
 少なくとも12年間(おそらく閉鎖社会の中しか知らないで、子供を教えている人達はもっともっとず~ッと長い間)も社会から隔離されてきたことを考えれば、簡単ではないかもしれないが、早急に自分たちが生きていかなければならない世界を知る必要がある。
 持てる能力を十分に引き出し、開花させることこそが、自分にとっても社会にとってもWin-Winの関係をつくり出す最も望ましい姿である。
 経営者も教える側も、「自分の限界を超えては与えることができない」という点では全く同じである。
 人口が増えていた時代を生きてきた人たちが、人口減少時代を生き抜かなければならない人たちに、何をどう教え、何をどう残すのか、…..。
 できないのであれば、早めに退席してバトンタッチすべきだと思うが、どうも理屈通りにはいかないから難しい。
 大阪都構想の反対票が高齢者に多かったという後日談があるが、イギリスのEU離脱同様、これなどは典型的な例である。47都道府県の中で最も人口減少数(2010年比2040年▲140万人)が多いのが大阪府である。このことを知って投票した人が何人いただろうか。全ての都道府県、市区町村について、将来の推計人口を見ていけば、現在の地方自治の仕組みがそのままの形で維持できるはずがないことは容易に理解できる。
 何が正しい判断かは前提条件(今なのか、それとも20年後、30年後への準備なのか)によって変わるし、住民投票の結果であれば、それが民意ということになってしまうが、それでは将来に向けての最善の選択は無視される。さらに、大阪と構想は、単に大阪だけの話ではすまないということも重要である。
 日本という国を構成する地方自治の仕組みを今後どうするのか(ずいぶん前になるが、日本をいくつかのブロックに分ける道州制という構想があった)、…。20年後、30年後に対する非常に重要な修正の切っ掛けと見られていただけに、大きなチャンスを逸したことだけは確かである。
 20年後、30年後、誰もこの意思決定の責任はとれ(ら)ないが、その分、その時代を生きる人たちの負担が増すことだけは確かである。
 人口減少時代に、何を残すべきなのか?
 難しい問題であるが、どんな時代にも使える普遍的な知恵を残すのが一番だろう。課題形成、問題解決、クエスチョニング…等々、言葉はいろいろあるが、要は観察すること、疑問に持つこと、考えること、工夫すること・試すこと(ダメモト)、実行すること、実現すること、そして何よりも難しくせず、簡単にやってしまうことである。
 
 
 

小売業の原理原則と実態との矛盾

 イトーヨーカ堂に入社して、初めに教わったことは、「小売業は損益分岐点が高く、経費が固定費的に発生するから、売上を上げると利益は容易に倍加するが、売上が下がるとすぐに赤字に転落する脆弱さを持つ」ということであった。
 筆者が提唱するCGP(チェーンストア・グローイング・パラドックス;チェーンストアが成長し、大きくなると停滞する)でも検証された、まさに小売業の本質である。
 ところが、多くの小売業は、この原理原則に反したことをやってきた。典型的なのはパート・アルバイトの比率を高めたことである。
 本来、パート・アルバイトは臨時人件費=変動費であるが、小売業では固定化してしまったから、実質的には固定費の単価を下げたのと同じ状況をつくり出してしまった。
 もちろん、その時点で人件費は多少下がるが、本来、変動費であるはずの臨時人件費を固定費化してしまったことで経費構造は柔軟性、自由度を失ってしまう。さらに人数まで減らしてギリギリまで絞ったことで、いよいよ経費構造は硬直化し、売上変動への対応ができなくなった。
 本来であれば、固定費を変動費化することで売上変化への対応力を増し、損益分岐点を下げるべきである。それを、わざわざ変動費を固定費化したのでは、小売業の最大のリスク=管理不能な売上変化への対応がますます難しくなる。
 店舗の大型化、店舗数の拡大も同様である。
 日本の人口が増え続け、経済的にも大きく成長していた時代には、店舗の大型化、店舗数の拡大が競争を勝ち抜く上で有効な手段であった。しかし、既に日本の人口は2010年に12800万人でピークを打ち、東京圏までもが2015年をピークとして人口減少が始まると宣言されている(首都圏整備に関する年次報告 平成27年版 首都圏白書)。
 多少、インバウンド消費が期待されたとしても、商圏は確実に狭まり、商圏密度も低下する。さらに高齢化によって消費量は減り、消費支出はモノからサービス、非消費支出へとウエイトを移す。
 本来であれば、固定費を下げ、損益分岐点を下げるべきであるが、逆に固定費(率よりも絶対額)を増やし続けている。人口減少、高齢化による影響は、例え地域一番店であっても固定費負担ができなくなれば撤退を余儀なくされるという形で現れる。広い地域に数多くの店舗を持つ場合も、限定された地域にドミナントを形成している場合も、一部の店舗から業績悪化するという形ではなく、一度に数多くの店舗が立ちいかなくなるという形で現れる。
 理由は簡単である。競合店との競争のように局地戦で限られた店が不振に陥るのであれば、部分的な修正を繰り返すことで、ある程度状況は改善する。しかし、全国的な人口減少・高齢化=消費支出の減少+チャネルの多様化というマーケット構造の変化により、規模の競争から損益分岐点の競争へと変わると、構造的に損益分岐点の高い企業は、どの店も固定費負担が難しくなる。
 その時、固定費の塊である店舗、そして売場スタッフをどうするのだろうか?
 小売業の実態が原理原則を超えて、新たな法則を創りだすのか、それとも原理原則と矛盾した実態がリスクを拡大させ、最悪の事態を引き起こすのか….。ここ10年くらいの間に結論が出るはずである。

わくわくする店「食品ブティック」を創ろう!

◆いまこそワクワクする店「食品ブティック」を創ろう!
筆者が初めて「食品ブティック」を提案してから20年以上経つ。拙著「業務革新とクラシフィケーション」(株式会社商業界平成9年7月)追補「21世紀への提案」の中にも書いているが、91年にノンフーズの実験的な店舗をつくり上げ、その後食品スーパーでも新しいフォーマットをつくろうと考えていた。
消費を経済活動ととらえれば、売場は激しい競争の場となるが、「消費は文化」ととらえれば、そこは新たな文化を産み出す創造の場となる。
現状では、売場が単なる価格競争の場になってしまったから、皆が疲弊し、日本中からワクワクする売場が消えてしまった。倉庫のような売場、補充作業のような買物ばかりでは、お客はインターネットやテレビ通販に移ってしまう。そろそろローコストと低価格で荒廃した売場ではなく、買物の楽しさ、面白さ、ワクワク感が得られる売場が現れてもおかしくはない。別に高い商品を売る店を創ろうというのではない。お客が楽しめてワクワクできる店である。

◆普通の食品スーパーとは違う!
日本では、壁面に生鮮食品、中島にグロサリーという古典的食品スーパーの売場づくりが頑なに守られている。20年ほど前のアメリカでは「食品スーパーは業態ではなく業種」だと言われ、さまざまなタイプの店が現れていた。(業種の方が業態よりも大きな概念。)
赤い絨毯にシャンデリアという高級スーパー、マーケットのようなつくりの自然食品スーパー、倉庫のようなウエアハウス型食品スーパー、...等々である。
入口付近の青果はテイクアウトデリやイートインに変わり、氷を敷き詰めた鮮魚売場は鮮度を象徴する売場となっていた。自店の主張を表現する手法はさまざまであり、個性的な店舗が多かった。
日本でも高級スーパーを目指した店舗はあるが、内装や什器の色、制服、商品の価格帯など表面的な装いを変えただけで売場の意味は大きく変わっていない。結局、「お客にとっての買物」の意味が変えられないから、高額商品、高額品を売っているというだけで普通の食品スーパーと本質的には何も変わらない。
もし、高額商品を集めたのが高級スーパーというのであれば、「食品ブティック」は高級スーパーではなく、「食品ブティック」という全く異なる専門業態である。

筆者が提案する「食品ブティック」は、かつての東急ハンズやジョイフル本田のようなポジションの店を発展させたものである。ただし、商品構成は「いつでも」「何でも」揃う必要はないし、フルライン構成である必要もない。生鮮食品がなくてもよいし、生鮮食品を扱うのであれば、調理など機能代行サービス、あるいはホームセンターのBIY(Buy it Yourself;材料は自分で買うが加工は専門業者に有料で委託する。DIY Do it Yourselfの次の概念) を取り入れる。
お客にメニュー提案をするだけではなく、産地・生産者と直接情報交換ができるネットワークの設定、お客が買った生鮮食品の下ごしらえ、お客の要望に応じた調理、店内のイートインで食べられる料理の提供、シェアキッチンや地方の郷土料理を教え、提供できるスタジオ(インターネットライブ配信)、….等々、「食に関するソリューションビジネス、エンターテイメントビジネス」である。もちろん、管理栄養士、理学療法士、作業療法士などが健康状態に応じてアドバイスやレシピ提案をし、カルテによって食事や日常生活の管理まで行えば医食同源が実践でき、地域の健康デポとしての機能も果たす。

食品スーパーは他にもたくさんあるから「食品ブティック」に必要な商品はこだわって品揃えするが、取り扱う意味のない商品は扱わない。立地、売場面積、お客のニーズに合わせて商品ラインを絞り込み、専門的な商品構成、サービスと売場創りに特化する。そこに行けば、見たこともないような商品やサービスがあるから、遠くからでもお客は来店する。店内に入れば時間を忘れるほど飽きさせない売場は、お客をワクワクさせる。価格競争から解き放たれた自由な空間は、売場を創る側もそこで買い物するお客も心から楽しむことができる空間になる。
売場の意味も買物する意味も食品スーパーとは全く違うから直接競合する店は存在しない。競合店を持たない業態づくりは最強の戦略である。

◆食品ブティックの売場イメージ
従来の食品スーパーのように直線的な什器配列では「食品ブティック」を表現することは難しい。オシャレな空間に仕上げるには、IKEAのようなシーン別コーナーをつくる。壁面をブースのように小分けにし、品種中心に構成したショップ(ブティック)を配置する。ショップには、チョコレート、キャンディ、クッキー、ドレッシング、カレー、パスタソース、トマト、玉子などを並べ、調理の実演試食もやる。それぞれのショップはプチ専門店としてユニットを形成する。品種を構成するクラシフィケーション(分類)を増やせば、商品の豊富感が表現できる。表現上のテクニックとして、アイテム数の多さを強調し、単品大量陳列によるカラーリングと組み合わせて全体のバランスを図る。
すでにドラッグストアで検証済みだが、壁面のグロサリーを用いたカラーコントロールはマグネットとしてだけではなく、定番のプロモーションスペースとしても有効である。単品大量陳列は、欠品防止、発注・補充作業の軽減など作業におけるプラス面も多く、数量管理もラフに行える。 中島には生鮮食品をマーケットのように配置し、賑わいを演出する。場所がまとまる分、人との距離感が縮まり、買いやすい。 お客にとって心地のよい空間、日常生活で便利な空間を創ることが「食品ブティック」の重要テーマである。楽しく、満足感が得られる、ワクワクした売場である。

図表1 レイアウトイメージ は、いまから20年以上前、バブル崩壊後に提案し、当時、「今はまだ早い」と言われた食品ブティックをイメージしてつくったものである。バブルの終盤、同様なコンセプトのノンフーズの実験店まではできたが、食品の店はアイデアレベルでお蔵入りした。
現在は、既存業態ではマーケットの進化に対応できないという点で当時とどことなく似た状況にある。しかも、新しい店舗をつくるためのアイデアもそう大きく変わっていないのに、使える道具は比べ物にならないくらいに増えている。

◆食品ブティックというアイデア
食品ブティックの前提の1つは、図表2 事業展開マトリックスから見る未開マーケットにある。食品スーパーは生鮮食品、いまは総菜に注力し、しかもワンストップショッピング、フルラインにこだわっているから、どこも同じような品揃えになる。店数も増えているから、1店舗くらいフルラインでない特徴的な店=他店には当たり前にある品がスッポリ抜けている店があってもおかしくはない。考えてみれば成城石井にはビールくらいしかNB商品はないが、返ってそのことが特徴となっている。
そこで、商品販売を絞り、事業展開マトリックスの未開のマーケットとした知識・技術・ノウハウ中心のビジネス以降をうまく配置することを考えた。
高い商品を集めたフルラインの高級スーパーではなく、食品スーパーとは全く異なる機能を持つ、全く異なる概念の食品ブティックである。

◆企画・計画段階から製造工程の素材、二次加工品、製品、リサイクル・リユースなど全ての段階を扱う
当時、生きた魚を扱い、丸のまま、三枚おろし、下拵え、半調理、刺身、煮魚、焼き魚、…等々、客の求めに応じて加工・調理し、持ち帰りも、店内での飲食もできるという店があった。その方式を取り入れれば様々な対応ができる。
また、食品スーパーが扱う魚と飲食店が仕入れる魚では仕入れルートが違うから差別化ができる。魚に限らず、肉や野菜でも同じことが言える。
さらに管理栄養士を配置し、会員に対しては個人カルテを作成、データベース化して食事指導から調理サービスに際してのカロリー、塩分、脂質などのコントロールも同時に行えば、ただの物売りではない、全く違った店ができる。
郷土料理などまで範囲を広げれば、他にはない特徴的な空間になる。ただし、固定する必要はない。47都道府県の郷土料理を週替わりで展開すれば52週はすぐに埋まる。スペース、商品・サービス、スタッフ、…等々、全てを固定的に考えなければ魅力的な空間が創造できる。

◆冷ケースを中央に置くレイアウト(面積効率は飛躍的に高まる)
実際にシミュレーションしてみればわかるが、冷ケースを壁面に置くと目いっぱい使っても高さは1800(mm)止まりであり、中島のグロサリーも1800が限界である。一方、中央に冷ケース、壁面にグロサリーを配置すると、壁面は2700~3000まで使うことが可能であり、冷ケースを置く場合と比べて壁面は1.5~2倍の陳列が可能になる。また、たとえば棚板1枚に横6フェイス取る商品を横2ファイスずつ上下3枚の棚板に縦にとると、商品アイテム数が同じでも種類が多く見え、さらに高く陳列しても下の棚にも同じ商品があるから商品に手が届く。商品ストックだけでなく、遠くからのアイキャッチャー、マグネットとしても有効である。昔、ディズニーストアで見た陳列であり、ドラッグストア数十店舗で有効性は検証済みである。
また、売場が広くなると壁面主通路に面した冷ケース、中島のエンドは一直線上に並んで商品が全く見えない。多少凸凹になるようにショップを配置し、中島の什器配列を外周通路に対して不規則になるようにすることはマグネットとしても有効である。

◆外周のショップは品種の専門店(コーナー) + 飲食、教室、キッチン、カウンターなどの アラカルト
中央の平場に要冷商品、外周のショップエリアは物販、飲食、教室、キッチン、カウンターなど様々な機能によって構成し、見に来るだけでも十分時間がつぶせる空間、様々な目的で来店できる複合機能の空間とする。消費者と生産者、メーカーをつなぐ、来店する消費者同士をつなぐ、リアルプラットホームとしての機能も持つ。
現在であれば、AI(人工知能)、AR(Augumented Reality拡張現実)、VR(virtual reality仮想現実)、MR(Mixed Reality複合現実)、SR(Substitutional Reality代替現実)、XR(X Realityクロス・リアリティ)など、はじめて聞くような様々なデジタル技術を活用できるから、限られた空間であってもテーマパークやアミューズメントパークなど様々な要素を加えて機能拡張することも可能になる。

アイデア次第で様々な特徴を出せるから、ターゲットやオケージョンの設定次第でアレンジできるバリエーションは限りなく広がる。
すでに、野菜や果物の生育状況や収穫作業、あるいは魚の養殖場や漁の場面をWebカメラで見るだけでなく、場合によっては、自分がそこにいて実際に触っている感触までをデジタル技術によって得られる時代になっている。

いずれにせよ、近い将来、リアル店舗もデジタル化し、様々に機能拡張するようになれば、店は単に商品という「物」を買う場から生産・製造場面を疑似体験しながら納得して買い物ができる「場」にも変わる。
そうであれば、重要になるのはアイデア、企画力、情報力、マーケティング力を含めたプロデュース力ということになる。
店がディズニーリゾートやUSJのようになる日が来るのかもしれない。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都心のアウトレットモール 単なる独り言

郊外のアウトレットモールの多くは売場面積2~3万㎡クラス、売上も100~300億円程度である。それに対し、都内の百貨店は小型と言っても売場面積は2~3万㎡、大きくなると6~8万㎡もある。集客力も売上規模も郊外のアウトレットモールとは比べものにならない。
現在のアウトレットモールはアクセスの不便さを指摘する声が多いから、都心にあれば消費者のニーズに合致する点も多い。東京23区内には観光スポットも増えており、ゴールデンウィークなどはホテルも取りづらいほどの状況にある。アウトレットモールの立地としては申し分ない。
池袋、新宿、渋谷、秋葉原、有楽町など主要ターミナルに位置する大型家電量販店のように、アジアからの観光客を取り込むことができれば集客力も飛躍的に増す。インバウンド消費が注目され、大型の免税専門店をつくる動きも活発であるが、都心の大型アウトレットモールが周辺エリアに与えるインパクトは計り知れない。(現状でもインバウンド消費で十分潤っているから無理はしないのかもしれないが...)
重要なことは、個々の店舗や企業だけで考えるのではなく、秋葉原がやってきたような街づくりに取り組むことだろう。
ここからは、筆者の勝手な妄想、独り言であるが、もし、ビックカメラとヤマダ電機LABI1日本総本店がある池袋に、6~8万㎡クラスの巨大アウトレットモールが出現したら、東の秋葉原、西の池袋となって非常にエキサイティングだし、とてつもなく大きな可能性を感じる。
まずはやってみないと分からないが、一つのきっかけから大きな動きが生まれるかもしれない。そう考えると2020年を前にして都心のアウトレットモールの可能性は検討してみる価値があるのではないだろうか。

商品構成と品揃え

辞書によると『品揃え』という言葉は,『商品を用意しておくこと。また,その商品の種類。「―の豊富な店」(ハイブリッド新辞林)』,あるいは『販売のため,多種類の商品を用意しておくこと。「―の豊富な店」(広辞苑)』とある。
『用意』は『あらかじめ必要なものをとりそろえること。準備。したく。(ハイブリッド新辞林)』『意を用いること。心づかい。注意。用心。準備。したく。(広辞苑)』であるから,『品揃え』とは『注意をしながら,あらかじめ必要な商品を取り揃える(仕入れる)こと,また取り揃えた(仕入れた)商品』ということになる。
『商品構成』という言葉は,そのままでは辞書に出ていないので『商品』と『構成』という2つの言葉に分けて調べてみる。
『商品』は『市場で取引されるもの。財貨・サービスなど。(ハイブリッド新辞林)』『商売の品物。売買の目的物たる財貨(広辞苑)』とあり,『構成』は『いくつかの要素を一つのまとまりあるものにすること。また,その組み立て。(ハイブリッド新辞林)』『幾つかの要素を組立てて一つのものにこしらえること。また,その結果。構造。(広辞苑)』である。
つまり,『商品構成』は『市場での取引,売買を目的として財貨・サービスなどを組立てて,一つのまとまりあるものにつくりあげること,また,つくりあげられた結果,構造』ということになる。
どちらも似たような意味だが,どちらかといえば,『品揃え(する)』の場合は,『商品を取扱う,仕入れる』というような行為を表す動詞的な使い方や『取扱う商品,選んで仕入れた商品』というように売場全体の商品を漠然と指すような使い方をすることが多い。
一方,『商品構成』の場合は『構成』という言葉の持つ意味がかなり具体的であり、構成要素である個々の商品の顔(特性、キャラクター)や商品構成として出来上がった姿までが見えるような印象である。

高齢化によるアパレルとショッピングセンターの危機

ニューヨークのお洒落なシニア女性にフォーカスした「アドバンスト・スタイル」が話題になっている。自己主張、自己表現、人生、…等々、様々な言葉で表現できるが、ファッションが表面的で薄っぺらなモノではなく、もっと根源的な意味を持つことを教えてくれる。
急激な高齢化が進む我国でもおしゃれへの関心度は高く、「平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果」によると、男性57.2%、女性80.2%が「積極的にオシャレをしたい」「ある程度はオシャレをしたい」と答えており、特に女性では60~80歳で80~85%、85歳以上でも55.2%と高い値を示している。
しかし、一方では「体形に合うものがない17.5%」「好みの衣料品が近くの店では買えない15.1%」「値段が高い13.8%」「色、柄、デザインが気に入らない10.0%」「種類が少ない7.4%」「縫製や品質が良くない6.4%」「素材が気に入らない5.3%」など消費者の不満も多い(*)。

家計調査(2013年総世帯)によると、被服費および履物の1カ月支出額はこの10年間で約2割減少している。その半面、あるシニア調査では衣料品への実際の支出額と使ってもよいと回答した額との間には二倍もの開きがあり、潜在マーケットは約2兆円にも上るという。

理由はいろいろと考えられる。
①日本老年学会の調査によると65歳以上の身体、知的機能、健康状態などは10~20年前と比べて5~10歳若いという。実際に「自分が高齢者だと感じるか」(*)という質問に対しても、60歳代では7~8割、70~74歳で約5割の人がいいえと答えており、80歳を超えるまでは高齢者だという認識はあまり持っていない。
ファッション=ヤングという感覚でシニアを位置付けたのではアイテム、デザイン、素材、型紙、構造、縫製など、バランスのとれた良質な商品を提供することはできない。

②高齢者の関心(*欲しい日常生活情報)は「健康づくり41.1%」「年金30.3%」「医療26.0%」「趣味、スポーツ活動、旅行、レジャー22.6%」などへ集中し、「衣料品4.5%」など物への関心は薄れている。また、今後取り組んでみたい活動(*)でも「テレビ・ラジオ30.4%」がそれまでの調査(平成11年、16年、21年)より8~11%低くなっているのに対し、「中間・友人とのおしゃべりや交際39.1%、+15%」「旅行37.9%、+6~10%」「散歩・ウォーキング・ジョギング30.4%、+9~15%」「食事・飲食27.1%、+10~15%」「家族との団らん26.5%、+8~10%」など、ポジティブ、アクティブなシニアを象徴する結果となっている。
観光業がsightseeingからsight doingへと転換したように、参加型消費へと進化する仕組み、それを創出するためのクリエーター、プロデューサー、エンジニアが必要である。
③「体形に合うものがない」理由は加齢に伴う体形変化と商品規格・企画とのミスマッチである。
肥満・標準体重に関わらず、男女とも加齢に伴い腹囲が増加する。そのため、ウエストに合せて服を選ぶと他の部位が大き過ぎて綺麗にフィットしない。従来の身長、体重に年齢要素を加味した規格の開発が必要である。
平成23年国民健康・栄養調査によると腹囲 男性85cm以上は30歳代で40%、40歳代で50%を超え、60歳代では60%にもなる。女性75cm以上(メタボリック症候群の基準は90cm以上)は、20歳代30%から30歳代には50%を超え、その後80%超まで増える。  
 BMI(Body Mass Index 体重÷身長2 標準18.5~25、25以上肥満、18.5未満低体重)と腹囲の関係を見ると、男性の場合、BMIが25以上、かつ腹囲85cm以上(肥満でウエストも太い)の比率は20歳代16.0%から30歳代30.4%と急増するが、40歳代32.1%、50歳代32.3%から60歳代31.1%と下がり始め、70歳以上では25.0%まで減少する。一方、加齢に伴いBMIは正常範囲なのに腹囲のみ85cmを超える(肥満でないのにウエストだけ太い)比率は60歳代29.30%、70歳以上では30.35%にもなる。
女性でも肥満・標準体重に関わらず、腹囲90cm以上の比率は加齢に伴い増加する。
別の調査データを基に男性20歳代と70歳代の身長/チェストを固定し、いくつかのパターンについてウエスト、ヒップ、腕付根囲、太腿囲の年齢差を見ると、70歳代がウエスト8~10cm、ヒップ1~3cm太くなるが、腕付根囲はほぼ同じ、太腿囲は逆に3~4cm細くなる。この結果を基に商品をつくると、例えばチェスト・袖・ヒップはAB体、上着・パンツのウエスト部分だけB体という商品になる。
女性に関する別の調査データから、加齢に伴う各部位の身長比(各部位÷身長×100)を算出し、20-24歳を100とすると、60-65歳はウエスト125、バスト112、ヒップ111、太腿103である。
男女とも加齢に伴いウエストが特徴的に増加する。例えどんなに気に入った商品があったとしても体形に合わなければ着られない。シニアがオシャレをあきらめる重要な理由である。

④靴業界ではコンフォートシューズ、ビジネスシューズ、パンプスなど幅広いジャンルで木型、素材、構造などを改善し、足・膝・腰への負担を軽減する、あるいは外反母趾を予防するなど、健康を考慮した靴が広く普及している。

アパレル業界にとって重要なマーケットである首都圏の人口減少が宣言されたことを考えると、量販店、専門店、ショッピングセンターの生き残り競争は熾烈を極めることは確実である。
一つの方向として、衣料品も靴業界のような進化・成熟の仕方が必要になるだろう。

*平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果

クラシフィケーション 分類

「ものの特性」には物理的特性,化学的特性など個体特有のもののほかに製造上の特性,販売上の特性,使用上の特性など様々なものがある。ただし、数多くある特性の中でマネジメント上重要となる特性は限られる。
 効果的なマネジメントを実現するには、この特性を特定すればよい。このような特性をクラシフィケーション(classification)と呼び,クラシフィケーションによってまとめられたマネジメント上有効な単位をマネジメント・ユニット(management unit)と呼ぶ。
 マネジメント・ユニットはマネジメントの目的に応じて変わる。例えば製造段階で納期、加工工程などでくくられていたものが流通段階ではサイズや重量,販売段階ではデザインや色,価格、機能というように変化する。
 マネジメント・ユニットは共通,もしくは類似の特性をもつことから、その特性に応じたマネジメント方式の採用が有効であり,このことにより,より状況に適した多次元的で効果的なマネジメントが可能になる。
 この一連の過程は,「個別の事象について観察もしくは測定し,共通,もしくは類似の特性によりグルーピング,モデル化を図って、その仕組や法則性を見出す」という,まさに科学的方法そのものである。
 マネジメント・ユニットの設定,マネジメント方式の採用とともに対象となる「ものの特性」により主体となる組織も影響を受ける。目的となる対象のもつ特性により、業務が影響,もしくは制約を受けるため、組織もまた対応せざるを得ない。したがって,「ものの特性」,マネジメント・ユニット,マネジメント方式に対応した形で業務/組織もまた形成される。また,これらの運用,マネジメントを行う上で必要となる情報もマネジメント・ユニット,クラシフィケーションを単位として設定される。特に数値情報は項目,単位,期間から構成されており,その単位がマネジメントの単位とリンクしていなければ全く意味をなさない。
 このように「ものの特性」によりマネジメント・ユニットを明らかにし,その特性に適したマネジメント方式の採用,業務/組織の形成,それらとリンクした情報により,はじめて効果的なマネジメントの実現が可能となる。
 本来,「分類」には単に分けるのみではなく,ある基軸に基づいて全体を秩序正しく整理するという意味がある。したがって,クラシフィケーション理論を用いることは個々の状況を多次元的に見るとともに全体の体系づけ,バランス回復をすることにもなる。
 これらのことからクラシフィケーション理論はマネジメントの重要なポジションにあり,マネジメントの具体的な概念、方法として位置づけることができる。
 クラシフィケーション理論はビッグデータの活用を効果的、かつ効率的に行う上でも重要な概念、方法であり、コード化を含めたさらなる研究が必要になる。