小売業の原理原則と実態との矛盾

 イトーヨーカ堂に入社して、初めに教わったことは、「小売業は損益分岐点が高く、経費が固定費的に発生するから、売上を上げると利益は容易に倍加するが、売上が下がるとすぐに赤字に転落する脆弱さを持つ」ということであった。
 筆者が提唱するCGP(チェーンストア・グローイング・パラドックス;チェーンストアが成長し、大きくなると停滞する)でも検証された、まさに小売業の本質である。
 ところが、多くの小売業は、この原理原則に反したことをやってきた。典型的なのはパート・アルバイトの比率を高めたことである。
 本来、パート・アルバイトは臨時人件費=変動費であるが、小売業では固定化してしまったから、実質的には固定費の単価を下げたのと同じ状況をつくり出してしまった。
 もちろん、その時点で人件費は多少下がるが、本来、変動費であるはずの臨時人件費を固定費化してしまったことで経費構造は柔軟性、自由度を失ってしまう。さらに人数まで減らしてギリギリまで絞ったことで、いよいよ経費構造は硬直化し、売上変動への対応ができなくなった。
 本来であれば、固定費を変動費化することで売上変化への対応力を増し、損益分岐点を下げるべきである。それを、わざわざ変動費を固定費化したのでは、小売業の最大のリスク=管理不能な売上変化への対応がますます難しくなる。
 店舗の大型化、店舗数の拡大も同様である。
 日本の人口が増え続け、経済的にも大きく成長していた時代には、店舗の大型化、店舗数の拡大が競争を勝ち抜く上で有効な手段であった。しかし、既に日本の人口は2010年に12800万人でピークを打ち、東京圏までもが2015年をピークとして人口減少が始まると宣言されている(首都圏整備に関する年次報告 平成27年版 首都圏白書)。
 多少、インバウンド消費が期待されたとしても、商圏は確実に狭まり、商圏密度も低下する。さらに高齢化によって消費量は減り、消費支出はモノからサービス、非消費支出へとウエイトを移す。
 本来であれば、固定費を下げ、損益分岐点を下げるべきであるが、逆に固定費(率よりも絶対額)を増やし続けている。人口減少、高齢化による影響は、例え地域一番店であっても固定費負担ができなくなれば撤退を余儀なくされるという形で現れる。広い地域に数多くの店舗を持つ場合も、限定された地域にドミナントを形成している場合も、一部の店舗から業績悪化するという形ではなく、一度に数多くの店舗が立ちいかなくなるという形で現れる。
 理由は簡単である。競合店との競争のように局地戦で限られた店が不振に陥るのであれば、部分的な修正を繰り返すことで、ある程度状況は改善する。しかし、全国的な人口減少・高齢化=消費支出の減少+チャネルの多様化というマーケット構造の変化により、規模の競争から損益分岐点の競争へと変わると、構造的に損益分岐点の高い企業は、どの店も固定費負担が難しくなる。
 その時、固定費の塊である店舗、そして売場スタッフをどうするのだろうか?
 小売業の実態が原理原則を超えて、新たな法則を創りだすのか、それとも原理原則と矛盾した実態がリスクを拡大させ、最悪の事態を引き起こすのか….。ここ10年くらいの間に結論が出るはずである。

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