高齢化によるアパレルとショッピングセンターの危機

ニューヨークのお洒落なシニア女性にフォーカスした「アドバンスト・スタイル」が話題になっている。自己主張、自己表現、人生、…等々、様々な言葉で表現できるが、ファッションが表面的で薄っぺらなモノではなく、もっと根源的な意味を持つことを教えてくれる。
急激な高齢化が進む我国でもおしゃれへの関心度は高く、「平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果」によると、男性57.2%、女性80.2%が「積極的にオシャレをしたい」「ある程度はオシャレをしたい」と答えており、特に女性では60~80歳で80~85%、85歳以上でも55.2%と高い値を示している。
しかし、一方では「体形に合うものがない17.5%」「好みの衣料品が近くの店では買えない15.1%」「値段が高い13.8%」「色、柄、デザインが気に入らない10.0%」「種類が少ない7.4%」「縫製や品質が良くない6.4%」「素材が気に入らない5.3%」など消費者の不満も多い(*)。

家計調査(2013年総世帯)によると、被服費および履物の1カ月支出額はこの10年間で約2割減少している。その半面、あるシニア調査では衣料品への実際の支出額と使ってもよいと回答した額との間には二倍もの開きがあり、潜在マーケットは約2兆円にも上るという。

理由はいろいろと考えられる。
①日本老年学会の調査によると65歳以上の身体、知的機能、健康状態などは10~20年前と比べて5~10歳若いという。実際に「自分が高齢者だと感じるか」(*)という質問に対しても、60歳代では7~8割、70~74歳で約5割の人がいいえと答えており、80歳を超えるまでは高齢者だという認識はあまり持っていない。
ファッション=ヤングという感覚でシニアを位置付けたのではアイテム、デザイン、素材、型紙、構造、縫製など、バランスのとれた良質な商品を提供することはできない。

②高齢者の関心(*欲しい日常生活情報)は「健康づくり41.1%」「年金30.3%」「医療26.0%」「趣味、スポーツ活動、旅行、レジャー22.6%」などへ集中し、「衣料品4.5%」など物への関心は薄れている。また、今後取り組んでみたい活動(*)でも「テレビ・ラジオ30.4%」がそれまでの調査(平成11年、16年、21年)より8~11%低くなっているのに対し、「中間・友人とのおしゃべりや交際39.1%、+15%」「旅行37.9%、+6~10%」「散歩・ウォーキング・ジョギング30.4%、+9~15%」「食事・飲食27.1%、+10~15%」「家族との団らん26.5%、+8~10%」など、ポジティブ、アクティブなシニアを象徴する結果となっている。
観光業がsightseeingからsight doingへと転換したように、参加型消費へと進化する仕組み、それを創出するためのクリエーター、プロデューサー、エンジニアが必要である。
③「体形に合うものがない」理由は加齢に伴う体形変化と商品規格・企画とのミスマッチである。
肥満・標準体重に関わらず、男女とも加齢に伴い腹囲が増加する。そのため、ウエストに合せて服を選ぶと他の部位が大き過ぎて綺麗にフィットしない。従来の身長、体重に年齢要素を加味した規格の開発が必要である。
平成23年国民健康・栄養調査によると腹囲 男性85cm以上は30歳代で40%、40歳代で50%を超え、60歳代では60%にもなる。女性75cm以上(メタボリック症候群の基準は90cm以上)は、20歳代30%から30歳代には50%を超え、その後80%超まで増える。  
 BMI(Body Mass Index 体重÷身長2 標準18.5~25、25以上肥満、18.5未満低体重)と腹囲の関係を見ると、男性の場合、BMIが25以上、かつ腹囲85cm以上(肥満でウエストも太い)の比率は20歳代16.0%から30歳代30.4%と急増するが、40歳代32.1%、50歳代32.3%から60歳代31.1%と下がり始め、70歳以上では25.0%まで減少する。一方、加齢に伴いBMIは正常範囲なのに腹囲のみ85cmを超える(肥満でないのにウエストだけ太い)比率は60歳代29.30%、70歳以上では30.35%にもなる。
女性でも肥満・標準体重に関わらず、腹囲90cm以上の比率は加齢に伴い増加する。
別の調査データを基に男性20歳代と70歳代の身長/チェストを固定し、いくつかのパターンについてウエスト、ヒップ、腕付根囲、太腿囲の年齢差を見ると、70歳代がウエスト8~10cm、ヒップ1~3cm太くなるが、腕付根囲はほぼ同じ、太腿囲は逆に3~4cm細くなる。この結果を基に商品をつくると、例えばチェスト・袖・ヒップはAB体、上着・パンツのウエスト部分だけB体という商品になる。
女性に関する別の調査データから、加齢に伴う各部位の身長比(各部位÷身長×100)を算出し、20-24歳を100とすると、60-65歳はウエスト125、バスト112、ヒップ111、太腿103である。
男女とも加齢に伴いウエストが特徴的に増加する。例えどんなに気に入った商品があったとしても体形に合わなければ着られない。シニアがオシャレをあきらめる重要な理由である。

④靴業界ではコンフォートシューズ、ビジネスシューズ、パンプスなど幅広いジャンルで木型、素材、構造などを改善し、足・膝・腰への負担を軽減する、あるいは外反母趾を予防するなど、健康を考慮した靴が広く普及している。

アパレル業界にとって重要なマーケットである首都圏の人口減少が宣言されたことを考えると、量販店、専門店、ショッピングセンターの生き残り競争は熾烈を極めることは確実である。
一つの方向として、衣料品も靴業界のような進化・成熟の仕方が必要になるだろう。

*平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください