わくわくする店「食品ブティック」を創ろう!

◆いまこそワクワクする店「食品ブティック」を創ろう!
筆者が初めて「食品ブティック」を提案してから20年以上経つ。拙著「業務革新とクラシフィケーション」(株式会社商業界平成9年7月)追補「21世紀への提案」の中にも書いているが、91年にノンフーズの実験的な店舗をつくり上げ、その後食品スーパーでも新しいフォーマットをつくろうと考えていた。
消費を経済活動ととらえれば、売場は激しい競争の場となるが、「消費は文化」ととらえれば、そこは新たな文化を産み出す創造の場となる。
現状では、売場が単なる価格競争の場になってしまったから、皆が疲弊し、日本中からワクワクする売場が消えてしまった。倉庫のような売場、補充作業のような買物ばかりでは、お客はインターネットやテレビ通販に移ってしまう。そろそろローコストと低価格で荒廃した売場ではなく、買物の楽しさ、面白さ、ワクワク感が得られる売場が現れてもおかしくはない。別に高い商品を売る店を創ろうというのではない。お客が楽しめてワクワクできる店である。

◆普通の食品スーパーとは違う!
日本では、壁面に生鮮食品、中島にグロサリーという古典的食品スーパーの売場づくりが頑なに守られている。20年ほど前のアメリカでは「食品スーパーは業態ではなく業種」だと言われ、さまざまなタイプの店が現れていた。(業種の方が業態よりも大きな概念。)
赤い絨毯にシャンデリアという高級スーパー、マーケットのようなつくりの自然食品スーパー、倉庫のようなウエアハウス型食品スーパー、...等々である。
入口付近の青果はテイクアウトデリやイートインに変わり、氷を敷き詰めた鮮魚売場は鮮度を象徴する売場となっていた。自店の主張を表現する手法はさまざまであり、個性的な店舗が多かった。
日本でも高級スーパーを目指した店舗はあるが、内装や什器の色、制服、商品の価格帯など表面的な装いを変えただけで売場の意味は大きく変わっていない。結局、「お客にとっての買物」の意味が変えられないから、高額商品、高額品を売っているというだけで普通の食品スーパーと本質的には何も変わらない。
もし、高額商品を集めたのが高級スーパーというのであれば、「食品ブティック」は高級スーパーではなく、「食品ブティック」という全く異なる専門業態である。

筆者が提案する「食品ブティック」は、かつての東急ハンズやジョイフル本田のようなポジションの店を発展させたものである。ただし、商品構成は「いつでも」「何でも」揃う必要はないし、フルライン構成である必要もない。生鮮食品がなくてもよいし、生鮮食品を扱うのであれば、調理など機能代行サービス、あるいはホームセンターのBIY(Buy it Yourself;材料は自分で買うが加工は専門業者に有料で委託する。DIY Do it Yourselfの次の概念) を取り入れる。
お客にメニュー提案をするだけではなく、産地・生産者と直接情報交換ができるネットワークの設定、お客が買った生鮮食品の下ごしらえ、お客の要望に応じた調理、店内のイートインで食べられる料理の提供、シェアキッチンや地方の郷土料理を教え、提供できるスタジオ(インターネットライブ配信)、….等々、「食に関するソリューションビジネス、エンターテイメントビジネス」である。もちろん、管理栄養士、理学療法士、作業療法士などが健康状態に応じてアドバイスやレシピ提案をし、カルテによって食事や日常生活の管理まで行えば医食同源が実践でき、地域の健康デポとしての機能も果たす。

食品スーパーは他にもたくさんあるから「食品ブティック」に必要な商品はこだわって品揃えするが、取り扱う意味のない商品は扱わない。立地、売場面積、お客のニーズに合わせて商品ラインを絞り込み、専門的な商品構成、サービスと売場創りに特化する。そこに行けば、見たこともないような商品やサービスがあるから、遠くからでもお客は来店する。店内に入れば時間を忘れるほど飽きさせない売場は、お客をワクワクさせる。価格競争から解き放たれた自由な空間は、売場を創る側もそこで買い物するお客も心から楽しむことができる空間になる。
売場の意味も買物する意味も食品スーパーとは全く違うから直接競合する店は存在しない。競合店を持たない業態づくりは最強の戦略である。

◆食品ブティックの売場イメージ
従来の食品スーパーのように直線的な什器配列では「食品ブティック」を表現することは難しい。オシャレな空間に仕上げるには、IKEAのようなシーン別コーナーをつくる。壁面をブースのように小分けにし、品種中心に構成したショップ(ブティック)を配置する。ショップには、チョコレート、キャンディ、クッキー、ドレッシング、カレー、パスタソース、トマト、玉子などを並べ、調理の実演試食もやる。それぞれのショップはプチ専門店としてユニットを形成する。品種を構成するクラシフィケーション(分類)を増やせば、商品の豊富感が表現できる。表現上のテクニックとして、アイテム数の多さを強調し、単品大量陳列によるカラーリングと組み合わせて全体のバランスを図る。
すでにドラッグストアで検証済みだが、壁面のグロサリーを用いたカラーコントロールはマグネットとしてだけではなく、定番のプロモーションスペースとしても有効である。単品大量陳列は、欠品防止、発注・補充作業の軽減など作業におけるプラス面も多く、数量管理もラフに行える。 中島には生鮮食品をマーケットのように配置し、賑わいを演出する。場所がまとまる分、人との距離感が縮まり、買いやすい。 お客にとって心地のよい空間、日常生活で便利な空間を創ることが「食品ブティック」の重要テーマである。楽しく、満足感が得られる、ワクワクした売場である。

図表1 レイアウトイメージ は、いまから20年以上前、バブル崩壊後に提案し、当時、「今はまだ早い」と言われた食品ブティックをイメージしてつくったものである。バブルの終盤、同様なコンセプトのノンフーズの実験店まではできたが、食品の店はアイデアレベルでお蔵入りした。
現在は、既存業態ではマーケットの進化に対応できないという点で当時とどことなく似た状況にある。しかも、新しい店舗をつくるためのアイデアもそう大きく変わっていないのに、使える道具は比べ物にならないくらいに増えている。

◆食品ブティックというアイデア
食品ブティックの前提の1つは、図表2 事業展開マトリックスから見る未開マーケットにある。食品スーパーは生鮮食品、いまは総菜に注力し、しかもワンストップショッピング、フルラインにこだわっているから、どこも同じような品揃えになる。店数も増えているから、1店舗くらいフルラインでない特徴的な店=他店には当たり前にある品がスッポリ抜けている店があってもおかしくはない。考えてみれば成城石井にはビールくらいしかNB商品はないが、返ってそのことが特徴となっている。
そこで、商品販売を絞り、事業展開マトリックスの未開のマーケットとした知識・技術・ノウハウ中心のビジネス以降をうまく配置することを考えた。
高い商品を集めたフルラインの高級スーパーではなく、食品スーパーとは全く異なる機能を持つ、全く異なる概念の食品ブティックである。

◆企画・計画段階から製造工程の素材、二次加工品、製品、リサイクル・リユースなど全ての段階を扱う
当時、生きた魚を扱い、丸のまま、三枚おろし、下拵え、半調理、刺身、煮魚、焼き魚、…等々、客の求めに応じて加工・調理し、持ち帰りも、店内での飲食もできるという店があった。その方式を取り入れれば様々な対応ができる。
また、食品スーパーが扱う魚と飲食店が仕入れる魚では仕入れルートが違うから差別化ができる。魚に限らず、肉や野菜でも同じことが言える。
さらに管理栄養士を配置し、会員に対しては個人カルテを作成、データベース化して食事指導から調理サービスに際してのカロリー、塩分、脂質などのコントロールも同時に行えば、ただの物売りではない、全く違った店ができる。
郷土料理などまで範囲を広げれば、他にはない特徴的な空間になる。ただし、固定する必要はない。47都道府県の郷土料理を週替わりで展開すれば52週はすぐに埋まる。スペース、商品・サービス、スタッフ、…等々、全てを固定的に考えなければ魅力的な空間が創造できる。

◆冷ケースを中央に置くレイアウト(面積効率は飛躍的に高まる)
実際にシミュレーションしてみればわかるが、冷ケースを壁面に置くと目いっぱい使っても高さは1800(mm)止まりであり、中島のグロサリーも1800が限界である。一方、中央に冷ケース、壁面にグロサリーを配置すると、壁面は2700~3000まで使うことが可能であり、冷ケースを置く場合と比べて壁面は1.5~2倍の陳列が可能になる。また、たとえば棚板1枚に横6フェイス取る商品を横2ファイスずつ上下3枚の棚板に縦にとると、商品アイテム数が同じでも種類が多く見え、さらに高く陳列しても下の棚にも同じ商品があるから商品に手が届く。商品ストックだけでなく、遠くからのアイキャッチャー、マグネットとしても有効である。昔、ディズニーストアで見た陳列であり、ドラッグストア数十店舗で有効性は検証済みである。
また、売場が広くなると壁面主通路に面した冷ケース、中島のエンドは一直線上に並んで商品が全く見えない。多少凸凹になるようにショップを配置し、中島の什器配列を外周通路に対して不規則になるようにすることはマグネットとしても有効である。

◆外周のショップは品種の専門店(コーナー) + 飲食、教室、キッチン、カウンターなどの アラカルト
中央の平場に要冷商品、外周のショップエリアは物販、飲食、教室、キッチン、カウンターなど様々な機能によって構成し、見に来るだけでも十分時間がつぶせる空間、様々な目的で来店できる複合機能の空間とする。消費者と生産者、メーカーをつなぐ、来店する消費者同士をつなぐ、リアルプラットホームとしての機能も持つ。
現在であれば、AI(人工知能)、AR(Augumented Reality拡張現実)、VR(virtual reality仮想現実)、MR(Mixed Reality複合現実)、SR(Substitutional Reality代替現実)、XR(X Realityクロス・リアリティ)など、はじめて聞くような様々なデジタル技術を活用できるから、限られた空間であってもテーマパークやアミューズメントパークなど様々な要素を加えて機能拡張することも可能になる。

アイデア次第で様々な特徴を出せるから、ターゲットやオケージョンの設定次第でアレンジできるバリエーションは限りなく広がる。
すでに、野菜や果物の生育状況や収穫作業、あるいは魚の養殖場や漁の場面をWebカメラで見るだけでなく、場合によっては、自分がそこにいて実際に触っている感触までをデジタル技術によって得られる時代になっている。

いずれにせよ、近い将来、リアル店舗もデジタル化し、様々に機能拡張するようになれば、店は単に商品という「物」を買う場から生産・製造場面を疑似体験しながら納得して買い物ができる「場」にも変わる。
そうであれば、重要になるのはアイデア、企画力、情報力、マーケティング力を含めたプロデュース力ということになる。
店がディズニーリゾートやUSJのようになる日が来るのかもしれない。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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