ローコスト・マネジメント

 一時期、ローコスト・オペレーションということが盛んに言われたことがある。ローコスト・マネジメントではなく、オペレーションというところが何となく小売らしいが、そのことが大きな錯覚を生み出したことは確かだろう。
 かつて乾いた雑巾を絞ると言われた製造業が取組んでいたのはトータル・コストの低減であり、言葉としてはコストであるが、その実は生産性、効率の向上である。
 一方、小売業で盛んに行われていたのは、本来の目的である成果(継続的な売上・利益向上=客数アップ、客単価アップ)にこだわらないコスト・カットであり、非常に歪んだ形の結果をもたらすことが多かった。
 製造業がローコストを考える時、どんな手法を使おうが絶対に守られていることは製品としての成立条件=「機能」「性能」「品質」などが絶対条件として設定されていることである。どうしてもコストが受け入れられない時には「トレード・オフ;いろいろな要素をハカリにかけ、許容原価の範囲内で製品としてのバランスを考え、取捨選択して妥協点を見出す」という手法を用いる。
 しかし、その対象は2次的要素であって基本的な「機能」「性能」「品質」まで無くすことは絶対にしない。例えて言えば、シャープペンのコストをどんなに削っても鉛筆にはしないし、テレビのコストをどんなに削ってもラジオにはしない。
 それでは小売業としての成立条件=「機能」「性能」「品質」とはいったい何なのだろうか。実は、最も大切なこのような議論が曖昧なままという状況が小売業にはある。つまり、小売、売場、商品、販売、接客、…等々に関する「機能」「性能」「品質」とはいったい何なのか、という定義である。
 そう考えると、ローコストにこだわるあまり、テレビと思っていた売場をラジオにしてしまうことはないだろうか? ….素朴な疑問である。
 通常、生産性、効率の向上を考える時、投入資源と成果の比を如何にして大きくするかという議論をする。もちろん、理想としては投入資源を下げ、なおかつ成果を大きくすることであるが、単に投入資源を小さくすればよいのではなく、より大きな成果を得るためには投入資源を増やすということも重要な選択肢と成りうる。
 ある意味、積極的に攻めるのか、守るのか、それとも現状はいなして済ますのか、…など、状況によって判断することになるが、少なくとも選択肢も取り得る手法、対象も幅広く見ている。
 それに対し、小売業は、あまりにも対象が狭く、やることも限られている。
最も大きな経費は人件費であるから、まず手を付けるのは人件費からである。売上は天候・気候やお客という管理不能な要素が大きいし、商品原価もある程度限界がある、として半ばあきらめる。あと弄れるのは販促費や水道光熱費であるから、チラシを小さくしたり、本数を減らす、昔であれば蛍光管を外す、ということしか発想できない。
 しかし、ここには大きな間違いがたくさんある。
 まず、最大のコストは人件費ではなく、商品原価である。そこに隠れて見えない値下・廃棄ロスも大きい。さらに人時でしか管理できない現場の業務・作業に関する精度を高めれば、人件費はそのままでもパフォーマンスを数段高めることは可能である。
 要するに、コストの使い方を評価して精度を高めることをせず、コスト・カットだけへ向かうから、いつまでたってもコスト・マネジメントのレベルにはなれないということだろう。
 過去の経験として「いくらやってもできない・できなかった」という物事に対しては、はじめからムリなものとして、新たな方法を考えようともしないし、取り組もうともしない。
 そうである限り、小売業は新たなステージに立つことは難しいだろう。
 人口減少、高齢化は、ここから10年の間にマーケットを様変わりさせるだろう。その時には、確実に規模の競争から損益分岐点の競争に変わる。
 コストを制する者だけが生き残ることができる時代になると言ってもよいだろう。
 コスト・マネジメントの重要性はますます増すことは確かである。

 

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