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sightseeing から sight doing へ 消費もdoingの時代へ

 観光業界ではsightseeingではなく、sight doingでないと売れない、といわれてから久しい。マズロー(A.H.Maslow)の欲求階層ではないが、アチコチ、ただ見て回るだけではなく、実際に参加、体験、自己実現というようなものでないと満足できなくなっていると考えてよいだろう。
 消費の場面でも、ただ物を買って満足する、たくさん所有して満足するという消費の仕方から参加、体験、自己実現という消費の仕方が注目されるようになっている。
 すでに数年前から、中元や歳暮のギフトカタログとして、いろいろな教室への参加や体験(物ではなくコト)だけを集めたものが注目を集めている。
 また、イトーヨーカドー上尾店では「バーベキューをしたくても、近所のバーベキュー場は予約が取りづらい」というお客の声をもとに、店舗で肉を買ったお客には無料で店舗内のテラスでバーベキューができるようにした結果、4か月で1万人が利用し、肉だけでなく野菜や飲み物などの売上も大きく伸びたという。(NHK News WEB 平成27年5月26日)
 また、東京メトロ外苑前駅近くのビルの屋上に「神宮前SORA」というバーベキュースペースがあり、手ぶらで出かけてバーベキューが楽しめるという。(平成27年7月17日日本経済新聞や夕刊)
 二子玉川の河原のバーベキュースペースが有料になってからも凄い混みようであることを考えれば、都心に雨、風、紫外線を避けながらバーベキューができる全天候型のスペースがあってもおかしくはないし、会社帰りや学校のサークルなど、皆で調理を分担しながら飲食するという、まるで合宿のような時間が過ごせるスペースがあってもおかしくはない。
 物販もただの物売りから、そろそろ脱皮する時期だと思うが、なかなかそのような新しい試み・業態は生まれてこない。
 いつも言ってるように、小売業が過当競争と固定費アップでバタバタしている間に、他の業界から参入した企業が美味してところを全て持っていってしまうのではないかと思っているが、どうだろうか….。

 

物の時代とデジタル・ネットワークの時代  ミスマッチの構図

 物中心の20世紀型産業(社会、経済も含めて)からデジタルとネットワークの21世紀型産業(同)への移行は、先進国、新興国という全く異なる進化過程を持つ多くの地域を巻き込みながら、同時進行で起こっている。
 素材・部品供給、製造、販売、技術、資本関係、投資、税制、為替など、さまざまな側面でグローバル化は進んでおり、このことが「物」に価値を見出す世界と「デジタル・ネットワーク・情報」に価値を見出す世界を混在させ、状況をより複雑化させている。
◆商品(物)の進化と普及プロセス
 先進国は、経済成長・所得向上に伴い、長い時間をかけて自動車や家電製品などの商品(物)が普及した。「デジタルとネットワークの情報化時代」は「物の時代」の次に来るステージというのが、我々が経験的に持つ共通認識である。
 多くの商品(物)はイノベーター理論で説明されるように、はじめに新しい商品に敏感なイノベーター(革新者)、その後アーリーアダプター(初期採用者)、アーリーマジョリティ(前期追随者)などを経て、大量生産による低価格化、大量普及、コモディティ化というプロセスを経る。(もちろん、市場に出ても普及せずに終わる商品もたくさんある)
 メーカーは、商品(物)のマイナーチェンジを繰り返し、世代交代を促しながらライフサイクルをコントロールする。その過程で商品は基本機能から二次機能、三次機能へと進化する。
 基本機能は、例えばテレビであれば映像が映り、音声が出るというように、モノがモノとして存在する上で必要最低限具備すべき条件である。
 二次機能は、商品(物)に物理的に付加された基本機能以外の副次的機能、例えばテレビであれば複数のチューナーを搭載し、複数番組を同時に見ることができる、ハードディスクに直接録画ができるなど、主に使い勝手が向上するような周辺機能である。それらはあくまでもテレビの本質を決定づける要件とは異なるが、商品が高度化し、商品の価値を決める上で基本機能のウエイトが低下すると、商品を構成する上で欠かせない重要な要素となる。
 三次機能は、商品という物(機能)から物理的に離れて独自の意味・価値を持つようになったもの、例えば商品・企業ブランドは、信頼性、ステータスなど、商品(物)そのものが直接果たす機能とは別の意味を持ち、商品は本来の機能とは別にそれらの「象徴としての意味・価値」を持つようになる。
 アップルのiPhone、iPadなどが典型的な例であるが、商品個々の優位性やシステムなど商品(物)が物理的に果たす機能とは異なる特別な意味・価値をもつ。スティーブン・ジョブズ(Steven Paul Jobs)氏、氏の行う新作発表会、商品デザイン、ネイミング、…等々。アップルのトータルなイメージは、個々の商品を演出するステージである。
 ファン、信奉者、あるいはカルチャーとも言える要素は、個々の商品(物)を超えた次元で重要な役割を果たす。情報量、情報の伝播速度が増幅されるデジタルとネットワークの時代にはメーカーと消費者という単純な関係は崩れさり、様々な立場からネットワークを通じて情報が発信、配信されるから拡散の仕方は複雑である。
 三次機能の持つ意味・価値も当事者の手を離れた情報空間で増幅するから、デザイン、マーク、ロゴなど、象徴、識別するための記号は重要な役割を果たす。 
◆先進国と新興国の進化の違い
 先進国は物を中心とした20世紀型産業によって経済成長し、自動車や家電製品など多くの商品(物)が充足たした。時間的な経過、技術の進歩など、あらゆる観点から見ても、デジタルとネットワークの情報化時代は物の時代の次のステージと位置づけられる。
 それに対し、新興国では「先進国のデジタル化・ネットワーク化・情報化」が新興国の経済成長を促し、その結果として商品(物)の充足へと向かうという全く逆の進化をしている。
 先進国が経験した商品(物)の充足・商品(物)の進化過程など、先進国が経験した「物の時代」を飛ばし、先進国が得た成果を移植する形で、いきなり完成度の高いデジタルとネットワーク環境を、しかも低価格で提供したことが重要な理由である。それは先進国が新興国に対し、生産基地としての近代化を求め、提供したものであって、歴史的に見ればいつの時代も同様のことが繰り返されている。
 大きな違いがあるとすれば、これまでは「物」という同軸上で起こっていたことが、今回は物から「デジタル化・ネットワーク化・情報化」という異質なものへ移行するタイミングで起こっているという点である。
 物の時代を長年経験し、その枠組み・秩序の中でしか物事を発想してこなかった場合と、いきなりゼロの状態からデジタルとネットワークの世界に入る違いは大きい。
 例えば、長年技術を磨いてコツコツと物づくりをしてきた人が、いきなり、全く同じものを3Dスキャナーで計測し、3Dプリンターで作る様子を見たら、どのようなリアクションを取ることができるだろうか。
 しかし、この状況に適応できなければ、変化のスピードと圧倒的なボリュームに瞬時にして押し潰されてしまう。
 日本の製造業にありがちな「良い商品さえつくっていれば….」という妄信は、物に帰属する基本機能の性能を高めたり、二次機能を付加したり、というように物をベースに置いた物時代の発想でしかない。
 デジタルカメラがスマートフォンに押されて売れなくなったから高性能な機種、ミラーレスへとシフトする、液晶テレビの巻き返しに3Dテレビ、或は、よりきれいな4Kを…という発想も同様だろう。
 デジタル化は、モノづくりをチップと限られたユニットの単純なアッセンブリに変えてしまった。コピーによって大量生産されれば単価は下がり、大量に普及することで専門的な商品もコモディティ化する。
 大量の論理では、マーケットが仕様と価格を決めるから、どんなに「良くても高価な物」はコモディティに向かない。
 マーケットのニーズが高価格でも高性能な商品を求めてるのか、一定の性能・利便性さえ満たせば低価格の方がよいとするのか、あるいはアップルのように個々の製品だけではなく、ソフト、全体システム、ブランドなどトータルなライフスタイル=三次機能を高めることを求めているのか、…。
 また、マーケットは先進国を狙うのか/新興国を狙うのか、ターゲットはイノベーター(革新者)か/アーリーマジョリティ(前期追随者)か/レイトマジョリティ(後期追随者)なのか、これから普及する新しい商品を狙うのか/ある程度普及した商品の買い替え需要を狙うのか、一般消費者を狙うのか、初級者・中級者・上級者のどこを狙うのか、…。(それによってマーケットサイズ、設定する商品のスペックと単価、数量規模、売上規模、設備規模、投資規模、…等々、様々なものが大きく変わる)
 先進国と新興国という全く異なる進化過程、異なるニーズを持つマーケット、その中のさまざまなセグメントに対して、どのようにターゲットを設定し、どのように競争し、どのように攻略しようとするのか、冷静に状況を整理しないと戦略を見誤る。進化の方向を見れば、物の時代からデジタル化・ネットワーク化・情報化と進んだ現在は、デジタル機器がまだ単品でシステム化されていない状態からトータルシステムを提供するサービスへと向かっていることは明らかである。
 新興国のパワー・ボリューム・スピード・価格に圧倒されたにもかかわらず、まだ同じ土俵で巻き返しを図ろうと「物=単体・価格・量」に固執している企業はなかなか再起できずにいる。早くに業績を回復したのは「物=単体」を大切にしながら「トータルシステム」「サービス」へと切り替えた企業である。
 
 
 
 

もしAIBOが生きていたら

 ソニーが1999年に発売したAIBOという犬型ロボットがある。すでに話題になることもなくなったが、このようなかつてのヒット商品も企業にとっては重要な経営資源の一つである(はずである)。
 物発想であれば、AIBOも過去の商品ということになるが、サービス発想に変わるとスマートフォンやタブレットPCと同じ情報端末、しかも自分で動き、ペットにもなる、場合によっては話し相手にもなる情報端末として蘇るかもしれない。
 各種センサー、カメラなどを搭載すれば、独り暮らしの高齢者や赤ちゃん、ペットなどの状況を四六時中監視することもできるし、留守宅のセキュリティ用にもなる。iPhoneのSiriのような対話型音声認識機能を搭載すれば話し相手にもなるし、プロジェクターを搭載して音楽や映像の他、さまざまな情報を投影すれば情報端末としてほとんどの機能を果たすことができる。
 掃除機でさえ自分で勝手に充電する時代であり、基本的なハード、ソフトについても自己診断することは可能である。環境さえ整えば、話し、かつ動く総合的な情報端末として化ける可能性がある。
 問題は「物」で終わらせずに「システム」としてさまざまなサービスを提供するビジネスモデルに仕立てることができるか否かである。
 セキュリティ企業とコラボレーションすれば安否確認や防犯という形で使えるし、各種小売業、飲食業、給食センターなどとコラボレーションすれば、日常的な物品、食事などの発注端末として使うこともできる。医療機関とコラボレーションすれば、健康状態の確認も、テレビ電話で問診することも可能になるだろう。
 企画とアイデア次第では、双方向の情報端末としてさまざまな分野の総合窓口になり得るから、一大ビジネスに発展する可能性もある。何よりもスマホのように全てを小さく凝縮することにこだわる必要がない。大きな身体を十分活かしてホームコントローラーをつくることができるし、1台(匹)で全て完結させる必要もなく、複数に分散してグループとして機能を果たすシステムとして構築することもできる。
 いずれにせよ、重要なことは「物」の呪縛から解き放たれることであり、「サービス」という新たなビジネスの扉を開くことである。
 いつまでもAIBOという物にこだわり、物を売ろうとするのか、AIBOを一つの要素として活用し、新たなシステムを構築するのか、この違いはあまりにも大きいだろう。
(AIBOの飼い主たちは、AIBOが復活するのも待ち望んでいるはずである。それがソニーという文化の復活でもあるように思うのだが…。)
 
 

消費者としての男性と女性の違い

 Youtubeにsheconomy https://www.youtube.com/watch?v=c-xRDI9gNn8 という動画がある。アメリカでは商品購入、あるいは購入商品決定の8~9割を女性が握っているという。
 日本も食品スーパー、ドラッグストアなどでは客層の8~9割が女性であり、総合スーパーの紳士肌着、紳士用品売場も代理購買の女性客が購買の中心になる。
 男性と女性では大脳生理学的な違いが認められているから、売場づくり、品揃えする商品そのもの・商品構成、価格設定、陳列方法、販促手段などに関する感じ方、反応の仕方も大きく変わると考えられるが、残念ながら実際に検証した事例はほとんどない。ぜひともやってみたいものである。
 いろいろな調査結果や資料から、商品購入に影響すると考えられる女性の特性を整理すると次のようになる。
①男性はbuy、女いろいろな調査結果や性はshopping ; 購買に至るプロセスは男性が論理的、直線的であるのに対し、女性は同じようなプロセスを何回も繰り返す、あるいはランダムに行き来する。アパレルの試着で女性の購入率が男性の3分の一しかないというデータもあるが、1、2時間迷った挙句、結局何も買わないということは珍しくない。
迷うこともshoppingである。
「Gapへ行ってパンツを買う」という調査実験では、男性が直接Gapへ行って購入し、所要時間6分、コスト$33であるのに対し、女性はSC内をいろいろと歩き回り、所要時間3時間26分、コスト$876 といったものもある。
男性が、どちらかというと商品を手に入れるという結果を主目的として買物するのに対し、女性は、結果だけではなく、買い物するという行為の全てのプロセスを楽しみながら買い物をする。
②ストレス解消、満足感 ; 目的買いは、予算内で買えて当たり前。一方、衝動買いは予定外だから「思わず良い買物ができた時の満足感」は非常にに高い。買物にはいろいろな意味があるが、特に買物によるストレス解消、得られる満足感の存在は重要である。「自分へのご褒美」という買い物理由も当り前であるから、買う前の情報収集、ウインドウショッピング、接客やあれこれ迷う購入プロセス、買うという行為そのもの、買った商品、買った商品を使っている自分のイメージ、使用後のブログへの書き込みなど、さまざまな段階でイメージを膨らませて楽しむことができる。義務的、あるいは必要に迫られて行う補充作業的買物 と ワクワクする自分へのご褒美的買物、前者の買物の意味を大きく変えることができれば、女性が行う日常的買物は大きく変わる。
③ブログ、雑誌、口コミなどに影響されやすい ; 「くちコミ」調査2005(廣広社株式会社、亜細亜大学二瓶研究室、岸波広告事務所)によれば、くちコミに関心があると答えたのは男性47.3%、女性66%、くちコミが購入に影響したことがあるは男性51.5%、女性69%、くちコミを話題として話した経験があるのは男性59.2%、女性74.9%、その理由は男女とも「自分がいいと思うものは他人に紹介したいから」というものであり、その傾向は男性よりも女性の方が強い。特に友人・知人のくちコミの影響が大きく、有名人のブログや雑誌の影響が大きいとされることも、くちコミと同様な理由と考えられる。自分がいいものを使っていることを知ってもらい友人・知人にも使って欲しい、いいものに関する情報を発信することで自分はよいことをしている、..等々、さまざまな心理が働く。
④安全志向 ; 農産品の購買について、国内品・地元品、無農薬・有機栽培を選ぶのが、男性がいずれも約50%であるのに対し、女性はそれぞれ約70%、約60%と高い値を示している。女性は何か「正しい」「よい」と思える規範を守り行動する傾向にあるが、男性はあまり規範を重要視せずに行動するという。
⑤ポイント好き ; 博報堂「生活者のポイントサービス活用実態調査(2004.2.16)」によるとポイントカードの活用は男性平均6.95枚に対して女性10.28枚、ポイントをためるために店を選んでいるのが男性61.9%、女性69.7%、現金で払える場合でもクレジットカードを使うのが男性41.9%、女性46.7%。ポイントサービスのイメージとしても「楽しい」「好き」という項目が上位にきており、どこか実利をゲーム的感覚で楽しんでいる。
ポイントカードが、補充作業的買物の中に見出せる数少ない「楽しみ」と感じていることが、日常的な買物の意味を変える一つのヒントになる。

 
 

オズボーンのチェックリストに見る発想のバリエーション

  1. らオズボーンのチェックリストなるものがある。改善案をつくる際などに用いるものであり、全く何もないところからアイデアを発想するよりも、明確な拠り所を持つことでアイデア発想がやりやすくなる。
    チェックリストは、過去のいろいろな経験や事例をもとに以下の9項目にまとめられているが、実際にやってみると類似しているものもあるから、別にこだわる必要はないだろう。
    ①他に転用できないか? ②他に似たようなもの、応用できるものはないか? ③色、音、匂い、意味、動き、形など、構成要素を変えることで別のモノにならないか? ④大きさ、時間、頻度、高さ、長さ、強さなど、拡大したら? ⑤同様に縮小・短縮・軽量化・簡素化したら? ⑥他の何かで代用できないか? ⑦配列、組合せ方などを変えたら? ⑦逆にしたら? ⑨結合したら?  似たことを言葉を変えて言っているだけで実際にやれば同じことでは…と思えるようなこともあるが、英語を訳したために難しい面もある。とりあえず、長年、大きく修正もされず、このチェックリストが使われていることを考えれば、人間の思考のバリエーション=それによって出来上がっている様々なモノ・コトもこのような範囲の中で動いていると考えてよいだろう。
    そう考えると、世の中は非常に単純な枠組みの中にあるとも思えてくる。
    複雑で分かりにくいことが高度で、単純・簡単なことは程度が低い、といった錯覚もあるが、世の中そんなに複雑ではないのだろう。
    複雑で難しいことを難しく言う、単純・簡単なことを複雑に難しく言う、複雑で難しいことを単純化して簡単に言う、…どれが最も高度なことか、棲む世界によって基準は違うだろうが、少なくとも誰から見ても単純で簡単なことを難しく言って評価されることには疑問が残る。ややもすると自分に理解できないことを言っている人はすごいという勘違いがあり、そのことによって詭弁が評価されてしまうことも多い。何が正しいのか、見定めることは難しいが、そのことにより多くの才能と大切な時間、タイミングを逸してしまうことも事実である。実にもったいないことである。

棚割はあるけど商品構成がない

 ビッグデータ流行りである。数多くある様々なデータから商品が「売れる法則」、あるいはお客が「商品を選ぶ、あるいは買う法則」などを見出して、品揃えや商品構成、関連陳列・関連販売、販売促進など様々な形で応用する。
 ただし、どんなにデータをたくさん処理し、様々な法則を見出したとしても、商品を売場に並べて販売している限りは「棚割り」が必要になる。
 特に現在は生鮮食品まで自動発注や計画発注で加工センターから納品することが当り前になりつつあるから、棚割りと在庫管理によって、売場にある商品の数量管理の精度を高めることがこれまで以上に重要になっている。
 ところが、棚割りについては明確な理論が存在しない。
 かつては、入り口から奥に行くに従って安いモノから高いモノへ、什器の上から下に向かって高いモノから安いモノへ。また、PB商品はNB商品と比較するために必ず並べて陳列する…などと言われたものであるが、それも今では遠い過去の話であリ、そんな並べ方になっている売場は見かけなくなっている。
 実際に売上を優先する場合、荒利率を優先する場合、商品回転率を優先する場合、品揃えの特徴を強調したい場合、価格訴求をしたい場合など、目的によって、どの位置にどんな商品を、どのくらいのスぺースを割いて、どのような陳列方法で並べるか、など大きく変わってくる。しかも価格重視のコモディティ商品、用途機能重視の目的買い商品、商品イメージを重視するファッション商品など、商品のタイプ、消費者の購買動機などによっても変わるから、そんなに単純な理屈で全て片付けるわけにはいかない。
 その中でも、特に問題と思われるのが、バイヤーが取引先に行って行う「棚割り」には、「棚割りはあっても商品構成がない」ことである。
 本来であれば、売上を優先する、荒利率を優先する、商品回転率を優先する、価格訴求を優先する、品揃えの特徴を強調する、様々な要素を上手く組み合わせてバランスをとる、…等々の目的に応じて商品構成があり、その商品構成を売場で適切に表現するために棚割りがなされるべきであるが、取り扱う商品が決まり、売場に並んでいく過程を見る限りではそのようにはなっていない。
 「棚割りはあるけど商品構成はない」 このような店が増えてくると、単品を価格で訴求したり、メリハリつけずに全部安くしたり、やたらとPB商品ばかりでNB商品との棲み分けが分からなかったりというように売場は混乱してしまう。
 最も大切なことは、お客が買いやすい売場は、販売員にとっても管理しやすい売場である、という大原則であるから、目的を明確にした上で、一定の法則に従って商品構成、商品陳列をするという基本に戻すべきだろう。
 おそらく、キチンと基本を守るだけで売上が上がる、単価が上がる、不良在庫が減って商品回転率が上がる、オペレーション時間が減る、…など現場の生産性は目に見えて上がるだろう。
 新商品が次から次へと発売されるとバイヤーは全ての商品を把握できないし、自分で作った棚割りを次から次へと自分で壊すようなものだから、一定期間良い状態を維持することもできない。
 原理原則に戻せば、全てがもっと単純で楽になるはずだが、次から次に出てくる新しいモノに振り回されてしまうのかもしれない。
 いったい主役は誰なのかと疑問に思うこともあるが、簡単には整理できないのだろう。

粗利率以外の相乗積計算

相乗積というと粗利ミックス、値入ミックスなど、基本的に利益率計算というのが一般的であるが、同じ考え方、計算方法を用いて、売上伸び率、在庫日数、商品回転率などでも相乗積計算を用いることができる。
粗利ミックスでは、例えば A商品相乗積=A粗利率×A売上構成比 式を展開すると (A荒利高÷A売上高)×(A売上高÷売上高合計) となり、分母と分子にあるA売上高が消えるから、A荒利高÷売上高合計 つまり、全体の売上に対し、Aという商品が稼ぎ出す粗利高の比率を求めていることになる。
同様にして、売上高伸び率では、例えばA商品売上高伸び率相乗積=A売上高伸び率(この場合100%に対して±で表示)×A昨年売上高構成比 式を展開すると {(A本年売上高÷A昨年売上高)-1(100%を引いて増減だけにする)}× (A昨年売上高÷昨年売上高合計) 、前項をもう一度展開すると、(A本年売上高-A昨年売上高)÷A昨年売上高 分子と分母にあるA昨年売上高が消えるから、(A本年売上高-A昨年売上高)÷昨年売上高合計 となって、Aの売上高伸び分が昨年売上高合計に対して、どのくらいの比率になるかを算出していることになる。
もし、A、B、C 3つの商品があったとすると 3つの本年売上高増加分を足して昨年売上高合計で割ったものが売上高合計の伸び率(この場合、伸びた分だけ算出しているので昨比110%は+10%、昨比90%なら▲10%)になるから、Aの売上高伸び率相乗積は、そのうちAが稼ぎ出した(貢献した)売上高増加分ということになる。
他にも相乗積の考え方、計算方法が応用できるものがあるので、知っておくと便利である。
特にExcelでフォーマットをつくっておくと数値を入れ替えるだけで瞬時に答えが出るから、短時間で様々なケースについてのシミュレーションを行うことができる。

ユニットコントロールの偉大なる誤訳「単品管理」

 小売業界に限ってみれば、「単品管理」というと誰でも知っている言葉だろう。ただし、「単品管理って具体的にどんなこと?」と聞いて答えられる人は何人いるだろうか?
 面白いのは、単品管理という言葉は知っていても、改めてその元になる言葉が何なのかということになると、あまり知られていない。
 単品管理をその筋の辞書で引いてみるとunit controlと出てくる。
 まさに???…..と言ったところである。
 もともとユニットコントロール(unit control)はダラーコントロール(dollar control)に対する言葉であるはずであり、ダラーコントロールが、金額を単位として物事をコントロールすることに対し、ユニットコントロールは数量を単位として物事をコントロールすることということになる。
 店舗や部門の販売予算/実績管理には金額を用いるが、商品発注や在庫管理など具体的な業務の進捗管理は数量を単位として行う。少なくとも、店の発注担当者もバイヤーも、このTシャツを10万円発注するとか、今日は豆腐を2万円発注するなどとは言わないことを考えれば、数量を単位として多くの物事が動いていることは容易に理解できる。
 多くのケースでは、金額で予算/実績管理、商品を対象とした日常的な発注や在庫コントロールには数量管理を用いながら、数量単位と金額単位を相互に変換しながら整合性をとるという形で業務が行われるというのが一般である。
 多くの企業が「単品管理」という言葉に引きずられ、ある意味出来るはずもない膨大な量のSKU、或はアイテムの動向を追いかけることに振り回されているが、POSを含め、多くの投資をしている割に期待されたほどの成果は得られていない。
 うがった見方をすれば、先駆した企業が「単品管理で成功した」とマスコミにリークし、多くの企業ができもしないことに四苦八苦している間に、その企業だけ涼しい顔をして独り旅…というようにとらえられないこともない。
 おそらく、ユニットコントロール(数量による管理)を単品管理などと訳しているのは、産業界広しと言えども小売業だけだろう。
 歴史的に見ても偉大なる誤訳と言わざるを得ない。
 物事の基本を考えれば、数量と金額、この間の整合性をとりながら計画-実施-評価-修正を繰り返しながら精度を高めていくというのが、いたって自然な流れである。
 SKUやアイテムを追いかけるだけではなく、状況によっては商品群やライン、クラスといったもっと大きな単位を数量ベースで抑えることもあるわけだから、変に言葉に縛られず、基本を理解した上で原理原則に基づいていくのが一番である。

 

商品を科学する-① 買い方(売れ方)による商品タイプの整理

 我々が商品を研究する目的はさまざまであるが、基本的には①売れる(売れない)商品を探す、②現存していない、開発する意味のある商品を探す、③商品タイプごとにどのような売り方が有効なのか探す、…等々、事業として有効な商品開発、商品構成、販売・販促方法を探すことが基本である。
 むやみやたらと商品を開発するのでも、品揃えするのでもなく、必要な時に、必要な商品を、必要な量、適正価格で、適切な販売方法・チャネルによって消費者に提供するという最も基本的なことの精度を高めることが重要になる。
 そのためには、いろいろな角度から商品を科学(事実の相互関係から仕組みや法則性を見出す)することが大切である。
◆買い方(売れ方)による商品の分類
 我々は生活をしていく上で、いろいろな商品を必要としている。例えば、卒業式や入学式に着る服は、何年に一度しか着なくても特別な日に着る服なのでとても重要な意味を持つ。一方、毎日着る肌着や靴下などは、1日でも欠かすことができないという意味では大切であるが、卒業式や入学式に着ていく服のように特別な意味を持つものではない。
 このような商品のもつ意味の違いは、買い物の仕方の違いとなって現れる。大切な時に着る服であれば、多少高くても自分の気に入ったデサイン、長く着られるような品質のよい商品、好きな店・納得できる店・販売員を選ぶだろうし、商品を選ぶために十分時間もかける。一方、毎日着る肌着・靴下などは、毎日着るものであるから、複数枚持つだけでなく、傷みによる買い替えも頻繁に起こる。単価もそれほど高くはなく、買う数も多いので、いろいろな色・柄・素材・デザイン・価格のものを試してみたいという心理も働くだろう。
 例え同じ範疇の商品であっても、商品の使用目的、使用場面、使い方、買う量・頻度、価格などが違えば買う店、購入金額、デザイン・素材など買い求める商品に対する要求も変わる。お客にとってその商品がどんな意味を持つのか、どのような位置づけの商品なのかによって、全く同じに思える商品であっても商品の買い方=売れ方は大きく変わることになる。
 買い方によって商品のタイプを分けると次のようになる。
①同じ人が繰り返し継続して買う商品/その都度買うものが変わる(一度買うと二度同じ商品を買わない)商品
a. 同じ人が繰り返し継続して買う商品
例えば、ビールやタバコなど習慣性のある商品は、同じ銘柄の商品を継続して買う傾向が強い。調味料なども料理の基本となる味を決めるものであるので、似た傾向にある。化粧品ではスキンケアを中心とした基礎化粧品がこのタイプに入る。
b. その都度買うものが変わる(一度買うと二度同じ商品を買わない)商品
食品では菓子、化粧品ではパヒューム、メイクアップなどがこのタイプである。流行に敏感でライフサイクルが短く、入れ替わりが早くて商品の種類も多い。メーカーは多くの商品を次から次へと発売し、さまざまな商品を試してみたいという消費者心理を刺激する。常に新しい商品に入れ替えていかなければ、売上を維持することが難しい商品である。
②頻繁に買う商品/一定間隔で買う商品/一度買うとしばらくは買わない商品
a. 頻繁に買う商品
牛乳、卵、納豆、豆腐などは、多くの人が毎日のように使う商品であるが、鮮度の関係から例え安くても一定量以上はまとめ買いをせず、なくなったら必要量だけ買うという買い方をする。チラシなどで客数が増えれば、客数に比例して販売数量が増えるため、チラシなどに合わせて集中販売するか、継続的にじっくり売っていくのに向く。
b.一定間隔で買う商品
味噌・醤油などの調味料、トイレットペッパー、衣料用洗剤、食器洗剤、粉ミルク、紙オムツなどは、一度買うとなくなるまでに一定の期間がかかる。商品がなくなりかけるか、なくなってから次の商品を買うので一定間隔で買う商品である。特売商品として用いられることが多く、いつでも必ずどこかの店でチラシ・特売にかかっているため、ストックが利く商品でありながら余程安くならない限りは大量にまとめ買うことはない。お客はいろいろな店のチラシ・特売のタイミング、価格などを調べて、いつでも安く買っている。
c.一度買うとしばらくは買わない商品
テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品、パソコンなどは価格も高く、長く使えるので、一度買えばしばらくは買い換えは起こらない。もし買ってみて気に入らない、あるいは不便だったとしても、すぐに買いかえることはできない。また、廃棄する際に費用もかかるため、買う時点でさまざまなリスクがある。
③安くすると売れる商品/高くないと売れない商品・安くしても売れない商品
a.安くすると売れる商品
 牛乳、卵、ティッシュペーパー、洗剤などは価格を安くすることでお客に訴求して客数増を図る。また、季節商品も処分価格にすることで販売促進をする。日常よく使う商品、欲しいとは思うが価格が高いために躊躇していた商品などは、価格を下げることで販売量を増やすことができる。
b.高くないと売れない商品・安くしても売れない商品
 化粧品やブランドバッグなど、高額であることが一つのステータスになっている商品は、例え原価率が低くても価格を安くし過ぎてしまうと、価値が認められず販売量枷伸びないことがある。
 例えば、片方は有名メーカーがつくってテレビCMも流れ、綺麗なパッケージに入って5000円、もう片方は無名メーカーがつくり、無包装で200円という基本的に成分が同じ化粧水が2種類あったとする。この2つの商品を比べると、高い方の化粧水には有名メーカーの名前や5000円という価格に対して無意識の内に何らかの効果を期待してしまうが、安い方の化粧水には、まず効果を期待することはないだろう。価格の高いことがステータスであると同時に商品への信頼にもつながるケースでは、価格の高い方がよく売れ、安くするとかえって売れない。
④皆が同じものを買う商品/人によって買うものが違う商品
a.商品格差が少なく、他の商品で代替が利く商品
衣料洗剤やティッシュペーパーなどのようにメーカー数、ブランド数、アイテム数などが限られ、商品の品質/価格もほぼ同様な商品場合、使用する上でも個々の特徴が明確に認識できるほど大きな差は認められない。どの商品でも、それほど極端な差がないことから、商品格差に対する認識はあまりなく、その時々で安くなっている商品を購入する傾向にある。
b.皆が同じものを意識して買う商品
お客の心理として、自分も流行の中にいるという『安心感』を得るために、皆が同じものを意識して買うということはよくある現象である。ブームが極端であればあるほど限られた商品に集中するが、逆に短命で終わる可能性も高い。
c.人によって買うものが違う商品
キッチンツール、工具・道具類、ペット用品(フードを除く犬関連用品)のように、比較的マーケットサイズが小さく、中小零細企業が数多くシェアを分け合っているような商品、ブームになりにくい商品、あるいは明確なブランドがなく流通チャネルも限定されるような商品に多い。
⑤常備する商品/必要に応じて買う商品  
a.常備する商品
常備する商品は、大きく3つのグループに分けることができる。
一つ目は、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、食器洗剤、衣料洗剤、米、調味料など、毎日のように使うので、いつでも切らさないようにしておく商品。
二つ目は、卵、ダイコン・ニンジン・タマネギなど用途が広く、いろいろな料理に使える食材。使い回しが利くので、あれば何かと便利な商品である。
三つ目は、レトルト食品、インスタント食品、乾電池、電球、頭痛薬、胃腸薬、風邪薬など、万が一のことを考えてあらかじめ用意しておく商品。家庭における使用頻度、切らした場合の影響度合などを考えると、一番重要なのが一つ目の毎日使う商品、次が二つ目の用途の広い商品、最後が三つ目の万が一のことを考えて常備する商品だろう。商品構成や売り方にもこのような商品の位置づけを考慮して行うべきである。
b.必要に応じて買う商品
例えば、カレーのルーは夕食メニューが決まった段階で買い求めればよく、必ずしも常備する必要はない。同じカレーでも、急に夜中に食べたくなったという場合のレトルトカレーとは基本的に意味が違う。
使うことが決まってから使うまでに準備する時間的余裕がある商品ということができる。

売場を科学する①

小売業にとって「売場を科学する」ことは、とても重要である。
アメリカからチェーンストアという経営形態が日本に紹介され、全く新しい流通形態が形成されていた時代には、KKDS(勘・経験・度胸・要領)と言われていた小売業も科学的な方向へと向かい進みはじめていた。
売場を構成する商品/価格、商品構成、什器、陳列・演出、POP、レイアウト・通路、商品リレーションなどには、消費者に買物がしやすいよう、あるいは購買意欲を喚起よう、様々な工夫がなされていた。
ずいぶん前になるが、東北に取材でいった時には、バイヤー経験もある食品スーパーのベテラン店長が、いろいろなことを教えてくれた。例えば、競合店の惣菜を分析する際には、現物を買ってきてバラし、個々の素材の重さを測って自社と作り方の比較をしたとか、野菜をバラで売る時にいろいろと価格を変えて売ってみたが、78円の時が数量、金額とも一番売上が大きくなったとか、…等々、現場で業績を上げるための日々の工夫が溢れていた。おそらく、時間さえ許せば、一晩中そのような話を聞けたのだろう。
まさに現場にはたくさんの科学者がいて、毎日のように仮説を立て、実験を繰り返して様々な法則を見出していたことになる。
売場は、商品を販売する実験の場であり、様々な実験結果から得られた法則が数多く語り継がれてもいた。
だから、売場は刺激的で面白かったと言えるし、また、面白い発想をする人、面白い実験を実際にやった人が数多くいた。
まさに「科学する」ことの原点と言ってもよいだろう。疑問、問題意識と工夫、実験、多くの経験がノウハウを蓄積させていたと言ってもよいだろう。
ただ残念なことは、これらの多くの経験、実験とそこから見出された法則が組織として蓄積、整理されることなく、個々の人間とともに売場から消えて去ってしまったことである。
名もない科学者達は単純に売場が、そしてこの仕事が好きだったのだと思う。彼らが発見した多くの功績が小売業の現場から消えて行ってしまうことは、いろいろな意味で大きな損失である。
IoTの時代になっても基本は変わらない。「売場を科学する」ことが継続すれば更なる進化も可能だろう。