売場を科学する①

小売業にとって「売場を科学する」ことは、とても重要である。
アメリカからチェーンストアという経営形態が日本に紹介され、全く新しい流通形態が形成されていた時代には、KKDS(勘・経験・度胸・要領)と言われていた小売業も科学的な方向へと向かい進みはじめていた。
売場を構成する商品/価格、商品構成、什器、陳列・演出、POP、レイアウト・通路、商品リレーションなどには、消費者に買物がしやすいよう、あるいは購買意欲を喚起よう、様々な工夫がなされていた。
ずいぶん前になるが、東北に取材でいった時には、バイヤー経験もある食品スーパーのベテラン店長が、いろいろなことを教えてくれた。例えば、競合店の惣菜を分析する際には、現物を買ってきてバラし、個々の素材の重さを測って自社と作り方の比較をしたとか、野菜をバラで売る時にいろいろと価格を変えて売ってみたが、78円の時が数量、金額とも一番売上が大きくなったとか、…等々、現場で業績を上げるための日々の工夫が溢れていた。おそらく、時間さえ許せば、一晩中そのような話を聞けたのだろう。
まさに現場にはたくさんの科学者がいて、毎日のように仮説を立て、実験を繰り返して様々な法則を見出していたことになる。
売場は、商品を販売する実験の場であり、様々な実験結果から得られた法則が数多く語り継がれてもいた。
だから、売場は刺激的で面白かったと言えるし、また、面白い発想をする人、面白い実験を実際にやった人が数多くいた。
まさに「科学する」ことの原点と言ってもよいだろう。疑問、問題意識と工夫、実験、多くの経験がノウハウを蓄積させていたと言ってもよいだろう。
ただ残念なことは、これらの多くの経験、実験とそこから見出された法則が組織として蓄積、整理されることなく、個々の人間とともに売場から消えて去ってしまったことである。
名もない科学者達は単純に売場が、そしてこの仕事が好きだったのだと思う。彼らが発見した多くの功績が小売業の現場から消えて行ってしまうことは、いろいろな意味で大きな損失である。
IoTの時代になっても基本は変わらない。「売場を科学する」ことが継続すれば更なる進化も可能だろう。

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