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訪日外国人マーケット(インバウンド消費)を活かせるか?

平成28年3月30日、第2回「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」において、訪日観光客の目標が大幅に引き上げられている。
すでに2015年の実績が2000万人弱(1974万人、消費額は3兆4771億円、買い物代金は全体の約4割)と当初の2020年目標をほぼ達成するような状況にあることから、目標は大きく修正され、2020年4000万人、訪日外国人旅行者の消費額8兆円、2030年6000万人、同15兆円という数値まで提示されている。
さらに、現在、東京、大阪に宿泊、インバウンド消費が集中していること、またリピーターが増えたことで、メジャーな観光地から地方に残る日本の文化、日常生活へと訪日外国人の興味が変化しつつあること、LCC(Low Cost Carrier;低コストの航空会社)を中心に地方空港への乗り入れが増えたこと、…などから、訪日外国人を都市部だけでなく、地方部(三大都市圏;埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫 県以外の地域)に呼び込む施策を強化する方向にある。
3大都市圏以外の外国人宿泊者数の目標を、2015年実績2519万人泊に対し、オリンピックイヤーの2020年には7000万人泊、2030年には1億3000万人泊と大幅に増やすとし、それに伴う様々な施策も具体的に明示されている。
外国人リピーター数は、2020年には2015年の約2倍2400万人、2030年には約3倍3600万人を目標にしている。
観光に関するニーズも民泊やKitchHike(キッチハイクhttps://ja.kitchhike.com/ 例えば日本人家庭=ホストが設定した有料メニューをゲストが選択し、ホスト宅で一緒に調理し、食事をしながら交流するマッチングサイト)に象徴されるような普段着の日本を見たい、経験したいというように変わっていくと考えられる。当然、その周辺にあるニーズも変わるから新たなビジネスチャンスが様々な形で生まれることだろう。
その他、日本人の旅行消費額についても2020年21兆円、2030年22兆円を目指すとしており、過去5年間の平均伸び率を参考に5年ごとに約5%ずつ伸びると想定している。
このような想定を前提として、規制緩和、制度改革の議論、各施策についての行動目標も具体的に示されているから、周辺マーケットへの動きは今後ますます活発になることが予測される。
政府が観光ビジョンとして挙げた政策は、・迎賓館など公的施設の一般開放、・規制緩和による国立公園の宿泊施設誘致、・著名外国人による広告宣伝活動の強化、・外国語観光ガイドの規制緩和、・通訳などがそろう医療施設の5倍増、・美しい景観作り(電柱の地中化など)、・観光地におけるクレジットカードへの対応、…な多岐に渡る。
すでにセブン銀行では、このような状況を踏まえ、他行に先駆けて海外で発行されたキャッシュカード、クレジットカードで日本円が引き出せるATMへ切り替えている。コンビニエンスストアのセブンイレブン、総合スーパー、百貨店、ショッピングセンターなどの商業施設、主要空港など身近な設置場所、22000台という設置台数の多さ、ほぼ24時間可能な利用時間など(4月8日時点セブン銀行のホームページより)、多くの点で優位なポジションを確立しており、他行との比較においてその優位性は揺るぎないものになっている。特に訪日外国人はSNSを通して様々な情報を発信しており、その情報に基づいて次の訪日来訪者も行動するという傾向にある。海外発行カードが使えるATMがまだ少ない状況で「セブン銀行は使える」「セブンイレブンへ行けばよい」という情報が流れれば、実際のATMの数以上のメリットがあると考えてよいだろう。
免税店だけでなく、マーケットの変化に素早く対応した企業は確実に次のステージの主役の座を確保していくと考えるべきである。

政府が提示する施策に関し、特に小売業と関連すると思われる項目をあげると、地方の商店街等における観光需要の獲得・伝統工芸品等の消費拡大に向け、◍地方部の免税店数2015年10月1日時点11137店を2018年2万店(当初2020年目標を前倒し)、◍2020 年までに計50 箇所の商店街・中心市街地・観光地で街並み整備、◍計1500 箇所の商店街・中心市街地・観光地で外国人受入環境(免税手続カウンター、Wi-Fi 環境、キャッシュレス端末、多言語案内表示、観光案内所等)を整備、◍市町村が旗振りとなり、ふるさと名物の開発、◍世界に知られていない、日本が誇るべき優れた地方産品を500選定し、海外販路を開拓する、…などの他、「東北6県見るもの・食べるもの100選」を国内外に発信など、様々なものがある。
内容を見れば、大手小売業を対象としているという印象はなく、地元密着の中小零細企業、個人が中心と考えられるが、これだけの内容を、しかも短期間で実現することは実質的にかなり難しい。
すでに「地方創生」で明らかなように、人材、技術、経験、資金など、新たな事業を展開するのに必要な資源が豊富にあるわけではなく、行政が音頭を取っても、実際に動く中小零細企業、個人はなかなか前に進めないという状況が見えてくる。
展示会への出店も盛んだか、ちょっと注文が入ると生産能力が間に合わず、全ての活動が止まってしまうという。
そのような意味では、チェーンストア企業が持つ経験やノウハウ、人材、資金力は非常に重要であり、地元企業、自治体と一緒になって取り組むことはいろいろな意味で有効である。
ちょっと考えただけでも、商品企画・開発、販売チャネル、オペレーションシステム、リクルート・教育システム、資金調達など、チェーンストア企業が持つ資源は多い。
地域を運命共同体と考えるか否かで選択肢は大きく変わるが、もし運命共同体と考えるのであれば、小売業という限定された事業だけにこだわらず、企業組織としての動き方、成長・発展の仕方を地域に還元しながら、共に成長していくような関与の仕方が必要になる。単に地元商品を仕入れるという協力の仕方ではなく、調達や生産まで踏み込んだ指導、あるいは複数の中小零細企業、個人の機能統合をリード、コーディネイトするようなかかわり方が必要になるだろう。

チェーンストア、特に総合スーパー(GMS)生き残りのヒントは「集中」と「分散」…?

システムを考える時、分散か集中かというという見方がある。
分散型は集中型と比べ、一つ一つに対する投資が軽微で済み、リスク分散できる。個別に設定するため、環境的な違いにも比較的柔軟に対応できる。
現在のようにチェーンストアが普及する以前は、百貨店と商店街を構成する生業店、専業店くらいしかなかったから、どちらかと言えば集中型といってよいのだろう。
それに対し、チェーンストアは百貨店のような大きな投資もせず、数多くの店舗を分散していろいろな都市やロードサイドなどに出店する。
一店舗当たりの投資が小さく、限られた資金でいろいろな立地、いろいろな規模・形態の店舗を出店することが可能であるから急激な環境変化などに対するリスク分散も可能になる。
バブル時代、ドーナッツ現象と言われるように土地の高騰から住宅が郊外へと広がり、それに伴って商業施設も郊外に拡大していった。その後、バブル崩壊とともに土地の価格が下がり、今度はアンパン現象と言われるように都心に人口、商業施設なども集中してきている。
現在の状況を考えると、集中と分散が複雑に入り組んでいる状況と見ることができる。
インターネット通販は、店舗のように分散することなく、一つのサイトで全国に対して販売でき、しかも商品ジャンルと関係なく販売することができるから集中型ということができる。ただし、一方ではインターネット環境さえ整備されていれば、どこに本社、サーバーを持ってもよいから必ずしも都心である必要はなく、地方を拠点とする分散型でも十分成り立つ。
情報システムに限定して考えると、向かっている方向はクラウドなど集中型ということができる。IoTという視点からも様々なモノ・コトを統合する巨大なシステムが想定されており、セキュリティ上の問題からも分散する膨大な数のデバイスを個々に管理することには無理があるということが理由である。
携帯電話の普及で一家に一台だった電話は個人が持つように変わったから集中から分散型に変わった。一方、インターネットの普及によって、携帯電話がスマホに替わったことで、電話、メール、インターネット、電子マネー・クレジットなど、あらゆる機能が集約した。
このような進化のプロセスから分かることは、分散型が成り立つのは個々を構成するデバイスが持つ機能の完成度合いが高い場合であり、自己完結できる場合にその可能性が高まっている。
そう考えると、チェーンストアが分散型でも成立するための条件は、インターネットなどをうまく活用することで自己完結できるように機能を集約することなのだろう。
ただ、限定された商品を扱っているだけの単機能では、いくら店舗を拡大し、取り扱い商品を増やしてみても限界がある。
スマホが進化することで、手帳も、時計も、地図も、ナビゲーターも、パソコンや財布さえも必要なくなってしまった。その分、スマホの存在価値は増し、必要不可欠な存在となっている。
チェーンストア、特に総合スーパー(GMS)などが生き残るヒントはこの辺にあるのだろう。
あとは、その本質が理解できるか否かにすべてがかかっている。

セブンイレブン鈴木会長退任 10~20年後はどうなっている?

セブンイレブン鈴木会長の退任でマスコミは大騒ぎだし、様々な解説も飛び出している。
「5期連続で最高益を更新しているのに、なぜ?」といった論調もあるが、そうやって改革が遅れ、取り返しがつかなくなったのがソニーのテレビやシャープの液晶に代表される日本の家電メーカーだったことも忘れてはならない。
規模が大きくなれば抜本的な構造改革には多くの時間が必要になる。まして物からデジタルへと大きく構造が変わろうとしているタイミングである。
周辺にあるしがらみなど、細々とした状況を全て排除して、鈴木会長が何に違和感を感じ、何を変えようとしていたのかを一度客観的に整理してみる価値はあるだろう。
セブンイレブン、イトーヨーカ堂の業務改革、消費税5%還元セール、セブン銀行、DS業態ザ・プライスなどの仕掛けが生まれてきた、そのベースにある感覚、時代の読みが論理的に整理されることが必要である。
現在、業績がいいのは、現在ではなく、過去の意思決定の結果、その延長線上にあるから、現在の意思決定が評価されるのは10~20年後になると考えるべきだろう。
セブンイレブンができた時、誰もセブンイレブンやイトーヨーカ堂が現在のような状況にあるとイメージする人はいなかったはずである。
「周囲が反対すること」というよりは「周囲の人間には理解できないこと」を独自の感覚で見出しているとすれば、そのことを感覚的、論理的に理解、解説できる誰かが明らかにしなければ、永遠にわからずじまいで終わってしまう。それはそれで大きな損失と考えるべきだろう。

総合スーパー(GMS)の衣料品の問題点と再生の方向

◆ GMSの衣料品を考える上で、重要な意味を持つと考えられるのが以下の3点である。
①現在の状況に至ったプロセス
GMSの衣料品では、ヤング向けのカジュアル商品が成長してきた際にそれらを平場から外し、事業部化、別会社化して本体の衣料品売場から切り離した。その結果、平場はシニア、ミセスを中心としたベーシックな単品商品中心に構成するようになった。
その後、バブル時代にプチ百貨店を目指してブランド品や高額品を扱い、売場を広げたことで、ファッション衣料を接客して売っていくのか、日常的な実用衣料をセルフで単品大量販売していくのか、という方向性、MD、売場づくり、運用の仕組などさまざまな点でブレており、整合性が取れていない。
②歴史的に採用してきたMD手法
かつては、百貨店や専門店が扱う商品の内、成長期から成熟期にある商品をコピーして低単価で大量販売するのが量販店の手法と説明されてきた。
前述のようにバブルをきっかけとして、GMSが提供するのはファッション性の高いトレンド商品なのか、それともベーシックな実用衣料なのか、業態としてのポジションに対する解釈がさまざまにブレている。コピー中心のMDから開発中心のMDにシフトする試みも見られるが、コンビニエンスストアにおける惣菜やスイーツ開発のような本当の意味での企画・開発型MDにはなっていない。やはり、ヒートテックのようなコピー対応のMDが得意と言わざるを得ない。
近年、高齢化への対応で重要になるのは、表面的なデザインやディティールだけではなく、加齢に伴う体型変化や運動能力低下に伴う着やすさと考えられるが、型紙、構造、素材など機能的な対応の遅れは否めない。
③バブル期に拡大した広過ぎる売場とMD
GMSでは、バブル崩壊後も広がった衣料品売場を埋めるためにかなり多くのアイテムを投入している。しかし、競合する業態・チャネルが増え、商圏・購買するオケージョンが狭まったことで広すぎる売場の運営、MDにムリが生じている。

図表1は、商品の取扱い方から「アイテム売場(接客販売に向く商業型商品)と品種売場(フェイス管理によるセルフ販売に向く工業型商品)(筆者が命名)」について定義したものである。
以前、ユニクロ、他の専門量販店1社、大手GMS2社について、品揃えと在庫状況からMDを比較したことがある。その結果、ユニクロだけが品種を構成するアイテム数を絞り込む一方で、SKU数(色×サイズ)を増やして豊富感を演出し、さらに1SKU当り在庫数を多く持つことで欠品を予防するというセルフ販売の仕組を確立していた。
GMS2社は、一見するといろいろな商品があるように見えるが、いざ買おうとして個別に色×サイズを見ていくと、かなりの確率で欠品していた。品種を構成するアイテム数は多いが、アイテム別に在庫数をSKU数で割った1SKU当り在庫数を見ていくと1.0を切る商品が結構目立つ。
MDが定番商品の継続よりも、短いサイクルでの商品切り替え、スポット投入中心になっていることが原因である。
このように商品構成と在庫状況を見ると、GMSの売場は結果的にSKUを限定して数多くのアイテムで構成するブティックのような売場(接客販売に向く商業型商品の扱い方。ただし、はじめからそのようにMDを設定したのではなく、結果として在庫が歯抜け状態になったアイテムが増えている。)であり、セルフ販売、単品量販に向くようような運用になっていない。
広すぎる売場を埋めるためにアイテム数を増やしたこと、および取扱商品の特性(短いサイクルで回すファッション衣料なのか、定番的に継続発注するベーシック商品なのか)が整理できていないことが原因であり、やろうとしていることと、実際の売場運営、MDなど仕組との間にミスマッチがある。

◆ MD概念の変化
前述の構造的問題に追い打ちをかけているのが、マーケットの構造変化である。
従来、アパレル業界では、オン=ビジネス、オフ=プライベートという概念でマーケットを見ることが多い。ところが、クールビィズ、ウォームビィズなどノーネクタイ、カジュアルな服装がビジネスシーンに定着するとオン/オフ概念は曖昧になる。さらに高齢化によって、リタイアする人が増えてくると、年中オフという人の比率が高まる。
すでに従来のオン/オフ概念、ファッションをテイストだけで分類して構成するMDでは対応が難しくなっている。
例えば、ただ決まりだからと毎日会社に着ていくスーツと休日にオシャレに決めて出かける際のカジュアルウエアを比べたら、どちらがファッション的に気を使うだろうか?
毎日会社に着ていく制服のようなスーツは、定番的普段着のビジネスシーンバージョン、それに対し、休日にオシャレに決めるカジュアルウエアは、気持ちの入り方、こだわり方などから考えても、個人のアイデンティティ、その時の気分を表現する重要なアイテムとしての意味合いが強い。
ハレ(祭)とケ(日常)というとらえ方をすれば、明らかに毎日着るスーツがケ(平日)、カジュアルウエアがハレ(祭)ということになるだろう。
ビジネスシーンがカジュアル化し、高齢化によってビジネスシーンを持たない人が増えてくれば、オン=ビジネス、オフ=プライベートではなく、オン(ハレ)=本気度・こだわり、オフ(ケ)=定番・日常というようにとらえた方が消費者の価値観、マーケットの実態により近い。
そう考えれば、ビジネス/プライベートに関係なく、消費者が持つさまざまなオケージョン=服を着るシーンへの気持ちの入り方、本気度をベースにとらえるべきだろう。
銀座に買物に行く時の服がオン、近くのGMSに買物に行く時の服がオフというように、同じプライベートのショッピングでもオケージョン(行く場所、店、一緒に行く人など)によってオン/オフがあると理解すれば、いろいろな状況に応じた服装も見えてくる。
セオリー通りの定番的着こなしやオーソドックスなドレスアップ、遊び心のドレスダウンなどファッションに関する考え方を深耕し、オケージョン別に細分化して考えれば、ファッション=オケージョン、結果的に機能やテイスト、グレード、....等々、というように変わるだろう。
マーケットの状況を考えれば、MD概念の修正が重要なテーマになる。

◆ オケージョンをMDに活かす
すでに商圏やマーケットの状況を考えても売上を以前のように大きく伸ばすことは難しい。業績改善を考える上でも、まずは、さまざまなミスマッチを修正することで効率的な売場運用を実現することが優先になる。
そう考えると、オケージョンをMDに活かすことで得られるメリットは多い。特にGMSが抱える広すぎる売場をアイテム数を増やすことで埋めるにはムリがあるから、全体をビジネスユニットによって一定のスペースに切り分け、それぞれの特性に応じたMD、運用システムに整理し直す必要がある。
紳士、婦人、子供といった分類や、ビジネス/カジュアルといったオン/オフ概念はすでに粗すぎるし、GMSが抱えるさまざまな問題を解決することにつながらない。
例えば、家計調査の結果から、高齢者世帯では「国内旅行」の支出が全年齢平均よりも高いということが指摘(経済産業省 産業活動分析(平成24年1~3月期)「高齢者世帯の消費について」)されており、「トラベル」関連商品を強化する企業が確実に増えている。
東京駅などで定期的に行っているストリート調査(ココベイ株式会社シニアストリートリサーチ)などを見ても、シニア世代の国内旅行における服装や持ち物(服飾雑貨)の傾向はある程度見えているが、それらはアチコチ探し回って買い集めなければ揃わない。
夏以外のシーズンにハワイに行こうと思っても水着を売っている売場は限られるし、ゴールデンウィークにヨーロッパに行こうとしても、長袖のインナーを手に入れることは難しい。
クルージングがシニアの間で注目されているが、くつろげる服装からディナー、パーティと幅広いオケージョンに対応できる服装が必要になる。しかも、ペアでの行動が基本である。
同じフォーマルでも、遊び感覚の強いドレスダウンしたフォーマルもあれば、クラシックなフォーマルもあるし、自己主張したい時のクセの強いフォーマル、目立ちたくない時のベーシックなフォーマル、...等々、オケージョンや気分によっていろいろなバリエーションが考えられる。
同じゴルフでも近所の打ちっぱなしとコースでは違うし、同じコースでもメンバーやコースのグレードでもまた変わる。ランニングも近所をちょっと走るのと、ホノルルマラソンや東京マラソンに出るのでは気合いの入り方、走る意味が全く違う。
単に旅行やスポーツという粗いとらえ方では、現在のマーケットに対応することは難しい。
さらに視点を広げると、オケージョンの中には、結婚式に招待された若い女性のように、似たようなメンバー(特に学校時代の友達や会社の同僚など)が繰り返し違う結婚式で顔を合わせるようなケースもある。
このようなケースでは、毎回同じ服装ということにもいかず、バッグ、靴、アクセサリーなどを購入して使い回すより、その都度レンタルで切り替えていく方がより実態に合っている。
消費者が持つさまざまなオケージョンを考えれば、物販だけが唯一の選択肢ではなく、レンタルも中古買い入れ・販売も有効なMDの選択肢の一つと考える必要があるだろう。
オケージョン売場と言いながら、ただ旅行用品やスポーツ用品のコーナーをつくって終わるのか、それとも消費者のニーズ、ソリューションを念頭において(例えば旅行代理店・添乗員、旅行のベテランなどのアドバイス)、新たなビジネスモデルへと舵を切ることができるのか、というビジネスの進化が今後のGMSにとって重要な意味を持つ。

分かっているから行く食品スーパー(SM)、ホームセンター(HC)、ドラッグストア(Dg.S)、分かっているから行かない総合スーパー(GMS)…???

生鮮食品を買おうとすれば食品スーパー(SM)に行くし、収納用品や自転車など生活関連の大物や園芸用品、ペット用品を買おうとすればホームセンター(HC)へ行く。医薬品や健康食品、化粧品やシャンプーなどの他、ちょっとした日配品、飲料、菓子類はドラッグストア(Dg.S)ストアで十分間に合う。価格も結構安く、何よりも短時間で必要な買い物ができるから(ショートタイムショッピング)、使い勝手が良い。
ある意味、どんな商品が、どんな価格で売っているのか、分かっているから行く店 といってよいだろう。

それに対し、総合スーパー(GMS)は、「どんな商品を買いに行くのか」といった時に具体的なイメージがあまりない。いろいろな商品はあるが、どれも、そこそこの品揃えであるから、特徴がない。
むかし、ある企業の商品部長の奥さんが、オープンしたばかりのその企業の新店を見て 「大きなコンビニエンスストアみたい」 と言っていた。一般消費者としての素直な感想があまりにも印象的で筆者もこの表現をよく使わせてもらっている。色々集めてはいるが、どんな店、何の店といったといった明確な特徴、イメージがないということだろう。
だからSMS(Specialty Merchandise Store)という新業態を提案したのだが…。
結局、「ワンストップショッピング」という言葉にこだわって、限られた売場面積の中であれも、これも、と多くの人が買える中庸=特徴のない商品を押し込めば、個々の部門は小さな専門店よりも劣ることになる。「大型総合店」が陥るパラドックス(自己矛盾)、大きな弱点である。
ワンストップショッピング=とりあえず何でも揃う」ことにこだわると、いざ何か買おうとした時には「欲しいものがない」「同じ商品は他の業態の方が品揃えがよくて、しかも安い」「広すぎて探すのが大変」「時間ばかりかかって疲れる」など、マイナス面ばかりが目立ってしまう。まして急激な高齢化という日本の状況を考えれば、ある意味、行き方が逆行しているとも考えられる。
もし、「何でもある」ことにこだわって作った店が、消費者から「何もない」と見られたとすれば、業態としてのコンセプトそのものを修正する必要がある。
日常使う最寄り店という位置づけであれば、「何でも揃う」必要はないし、買い物に何時間もかかるような「広い売場」も必要はない。
そう考えると、「分かっているから行く店」に対し、「分かっているから行かない店」 という言い方がなんとなく当てはまるような気がする。
すでに「何でも揃う」ワンストップショッピングに低価格を加えた形ではWebやカテゴリーキラー、専門業態が実現している。
消費者が何か必要だ、買いに行く必要がある、買い物に行こう、…と思った時に「店を選ぶ理由」 が明確な業態、店であることが必要になる。
あるドラッグストアで調べたことがあるが、実際にお客が買っている点数は約5点、その内お客が買おうとし、その店を思い描くのにつながった商品は1~2点(その商品を買うのに、その店を思い描く、イメージが結びついている)、あとの3~4点は、店に来てからの衝動買いやついで買いである。
その店を思い描くのに使われた商品が、その店のイメージ(お客にとってその商品を買う店 例えばシャンプーは〇〇店、お茶2Lペットボトルなら△△店など)と考えれば、お客に思い描かせるのに用いる商品をどう設定するのか、お客に印象付けするのか、ということが重要になる。
これだけデジタル化が進んだことで、取れるデータも多く、やろうと思えば様々な分析もできる。もっとも目的が明確にならなければ必要なデータも分析方法も決まらないが….。
そう考えれば、「分かっているから行かない店」から「分かっているから行く店」に変えるための、業態としての方向付けが先のようである。こればかりは、どんなにデジタル化が進んでも簡単ではない。

エクセルで相乗積のシミュレーション

相乗積を使えば一瞬で粗利率や売上のシミュレーションをすることができる。しかも、変数をいろいろと入れ替えることもできるから、手作業では絶対にできない様々なケースについての想定が可能になる。
粗利率の相乗積は、粗利率×売上構成比だから、例えば、列(縦)ごとにA商品名、B売上、C売上構成比、D粗利高、E粗利率、F相乗積とする。
使用する商品や分類(相乗積を計算する要素)の分、行(横)をとって、最後に合計欄(オートサムΣを使う)をとる。

C売上構成比は、B売上合計Σで、それぞれの商品Bi(iはそれぞれの商品など)売上を割ればよいから、B売上/B売上合計Σ(小数点のままで%にはしない)で求める(例えば$B$15というようにB売上には必ず$をつける カーソルを式のB15に置いてF4を押す)。

Ei粗利率は、Di粗利高/Bi売上(×100で%にする)、Fi相乗積は、Ei粗利率×Ci売上構成比 で求められる。(最終的な粗利率はFi相乗積の合計Σ D粗利高合計Σ/B売上合計Σで求めた値とほぼ一致する 誤差は四捨五入による)
これらの式を一行入れれば、あとはコピーすることで必要に応じて何行でも作ることができる。
この場合は、売上と粗利高さえ入れれば、あとは式が入っているので自動計算する。瞬時に計算結果が出るから、いくらでも数値を入れ替えてシミュレーションすることができる。

各種相乗積の計算パターンは「Excelでの相乗積計算例」に示すとおりである。

このような同じ計算を繰り返す場合には、1行の式からコピーして計算表ができ、このようなシートを一つ作れば、あとはシートのコピー、ファイルのコピーで多くの人が同じように使うことができる。
Excelフォーマットは、まず誰かが一つ使いやすいものを作ればよいが、できれば使いながら使いやすいように修正していくとよいだろう。

ポイントは、ふだん手作業では絶対にできないし、やらないようなシミュレーションを、エクセルシートを使うことで瞬時に数多くこなし、ふだん考えないようないろいろなバリエーションを想定することである。そうすることを繰り返すことで見える世界が大きく変わり、判断も早くなる。

見える世界が変わることが重要である。

 

売場を科学する② 発想を変えてデジタルを使いこなす

デジタル化がものすごいスピードで進んでいる。様々な形でデータが取れるから分析の技術次第で様々なことを知ることができるし、あらゆる物事の本質が抜本的に変わってしまう。
ただし、「売場を科学する」には、デジタル化とは別に我々の思考=これまでの常識や経験にとらわれない柔軟な発想と問題意識、そして想像力が必要になる。
データがたくさんあれば何でも分かるかと言えば、全くそんなことはない。POSが普及して何十年もたつがPOSデータをまともに使いこなしていると言える企業は数えるほどしかない。
理由は簡単である。POSデータは販売数量しかわからないから、在庫数量やフェイス数、競合する商品の価格、チラシ掲載、競合他社のチラシ、販促など、販売数量に影響を与えると思われる周辺の状況までは分からない。単純に販売数量だけ見ても、その理由までは分からない。単に販売数量の多いか少ないかという限られた範囲の中で判断するしかない。
言い換えると、データの解釈には実態としての売場状況を経験的に知っている、あるいはある程度周辺の状況をイメージできる人が何らかの形で補完するしかないということになる。
そのような意味では、いろいろな法則が普遍化されるということが非常に重要になる。
まさに「売場を科学する」ことの意味がそこにあることになる。
ただし、残念なことに「売場を科学する」ための方法論が確立されていないし、そのような機関もない。これまでのように、現場で問題意識を持つ人が個人的に試行錯誤し、「個人の経験」として蓄積していくのでは、いくらデジタル技術が進歩しても、個人の経験・ノウハウを普遍的な法則としてデジタルの世界に生かすことはできない。
現在、デジタル技術だけがどんどん進化しているが、逆に小売の現場からは経験的に売場を知る人がどんどんいなくなっている。要するにデジタルとリアルの間に大きな溝ができていることになる。
デジタルは、現状はまだ道具でしかないから、本来であればデジタルを活用するコンテンツ(デジタル活用の対象・目的物・様々な法則など)が必要になる。ただし、この2つが上手くつながらないまま行けば、いずれAI(人工知能)をはじめとするデジタル技術がコンテンツ(デジタル活用の対象・目的物・様々な法則など)を自ら整理するなどして内包し、リアル(実態としての小売・売場)は、それにただそれに従属する、あるいは消滅することになるだろう。(主体がデジタルに変わり、デジタルがつくり出した枠組みに従ってリアルが動く)
商品構成、フェイシング、陳列・演出、POP、売り方…等々、すべてがAI(人工知能)などのデジタル技術によって組み立てられ、それを実現するために人が作業する、あるいはすべてをデジタルが行う、...あまり考えたくない状況だが、現在のまま進んでいけば、考えられない状況ではない。
できれば、売場の様々な法則を見出し、同時にデジタル技術の特性も理解した上で、上手く活用することができれば、精度の高い売場運用も可能になるだろう。
人口が減少すれば、売上のつくり方、売場づくり、売場作業など様々な意味で精度を上げ、生産性を高めることが必要になる。すでにPOSでも分かるようにいくら投資をしても機械化・デジタル化だけでは精度も生産性も上げることはできない。
デジタル技術をどう活用するのか、デジタルの進化が著しい今こそ非常に重要なテーマである。答えのヒントは、一部ではあるかもしれないが、昔、多くの先人達が試行錯誤して蓄積してきた経験・ノウハウにあると考えている。それらをデジタルの時代に合わせて如何に取捨選択し、将来に生かせるようにアレンジ、補完するか、...知恵が必要になる。
リアルなしにデジタルだけで全てが成り立つことは考えられないから、いずれデジタルの世界でもリアルとどう上手く一体化していくかが、意識されてくるはずである。
両方の特性を理解し、結び付けていくことが重要なテーマであれば、少なくとも「小売とは何か」「売場とは何か」ということを改めて小売側が整理しておくことが必要になる。

定番コーナー、持ち出し、エンド、平台、多ヶ所陳列、…商品特性に応じた陳列を‼

業界の中には古くからの勘違いが定着し、間違った考え方・方法のまま、21世紀の今でも行われていることがある。
例えば、ドラッグストアでは花粉症関連商品、水虫薬など、季節商品を持ち出して展開することが行われているが、商品によっては定番コーナーから持ち出して特設コーナーを作っても定番コーナーの売上の方が大きいというケースもある。実際に実験を行ってデータをとり、検証している企業の話を聞くと、定番コーナーの印象が強いために、買う時には知らず知らずのうちに定番コーナーへ行ってしまうということである。
このようなケースでは、特設コーナーへ持ち出すよりは定番コーナーでフェイスを広げた方が有効である。
多ヶ所展開が向くといわれる商品も、少しずつ分散して置くよりも、1ヶ所にまとめた方がよく目立ち、補充も楽で欠品しにくい。さらに場所が印象的に刷り込まれることもあって、こちらの方がはるかに販売数量が伸びるというケースも多い。確かに5~10個ずつ、5ヶ所、10ヶ所といろいろな場所に商品展開すれば、補充の手間もかかるし、1ヶ所ずつ見れば目立たない。それを考えれば1ヶ所に50~100個を目立つように大量陳列した方がはるかに印象に残るし、補充も楽で欠品しにくい。
特に他社が多ヶ所展開して目立っていない商品でやる場合には、より印象に残るから効果も高い場合が多い。過去に乾電池、自治体指定のゴミ袋などで試したことがあるが、確実に大量陳列の方が売上が伸びている。
レジ前や後ろエンドなど、エンドと平台などの山積みの使い分けも重要である。単品大量販売をするから同じようにとらえているケースもあるが、明らかに商品のタイプによってエンドと平台では販売量が変わる。
いろいろな商品を用いて、どのような陳列形態が向いているかという向き不向きの実証実験をやったことがあるが、山積みに向いている商品はエンドでは売上が伸びない。特にパッケージの大きい商品の場合、エンドでは陳列できる数量が限られるため、すぐにボリューム感がなくなってしまう。もちろん商品特性による違いはあるが、多くの商品が大量陳列によってほぼ確実に売上が伸びることが分かっているから、大量に販売したい場合には思い切った陳列をすることも必要である。
エンドが本来のプロモーション的な使い方ではなく、多くのアイテムによって定番的に細かくフェイスが分かれていることもあるが、エンドでアクセントをうまくつけている売場があまり見られなくなっている。
エンドについては諸説あり、考え方によって50アイテム以上置かないとだめだと言い切るコンサルタントもいるようだが、商品特性と売場全体の構成から単品大量で面を構成し、定番コーナーの細かなフェイシングとは見ためを変えて売場のアクセントとするのか、定番の本数が足りない分をエンドでカバーするのか、季節定番のコーナーとするのか、…等、売場の状況に応じて使い分けるべきだろう。
また、レジ前の第1エンドが非常に目立つから良い場所という認識もあるようだが、食品スーパーやドラッグストアのように壁面に主通路がある場合には、入口から主通路に沿って店内を回り、最後にレジ前に来るため、直接レジに向かえば全く目立たないのが第1、第2エンドということになる。
中島什器の並びが8列以上ある場合には、エンドをフラットにせずに多少前後にずらして3列に一つくらいの割で大きなエンドをつくるとアクセントになる。全部を同じように作ると目立たないし、全部が同じように売れるわけではないから、変化をつけることは有効である。
いずれにせよ、商品はお客の買い方、商品のイメージや販売数量、価格、購買頻度などにより、定番コーナーで展開した方がよい商品、持ち出しで展開した方がよい商品、エンドで展開した方がよい商品、平台で展開した方がよい商品などがある。
多ヶ所陳列した方がよい商品もあるのかもしれないが、実験結果からは必ずしも従来から言われているような効果はないような気がしている。特に分散することのデメリット=全体としては多くの在庫を持っていても1ヶ所当たりの在庫が少なく、ボリューム感がなくて目立たない、補充の手間がかかる、場合によっては手が回らずに商品が薄く、売場の鮮度が落ちる・欠品を起こす、…等を考えると、現在のスタッフが少ない売場には合った方法ではないのだろう。
小売業に携わって40年以上経つが、けっこう昔から言われていることには嘘も多いし、時代とともに昔の常識では全く通用しないことも増えている。
経験的(実証実験)には、お客の買い方、商品の特性を考慮して適した陳列方法、売り方をすれば、販売実績が上がることは確認できている。
昔から言われている古い考え、言い伝え(もちろん全てが間違っているわけではないが...)よりも、実際に売場で試し、自分の目で確認してみることが重要だろう。

 

 

2025年 急激な人口減少にリアル店舗をたくさん抱えるチェーンストアはどう対応する?

平成27年国勢調査 人口速報集計結果を見ると、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に3,612.6万人、全国の28.4%(東京都10.6%)が集中し、この5年間で鳥取県(57.4万人)に匹敵する50. 8万人(東京都だけで+35.4万人、うち特別区+32.7万人)が増加している。 東京(特に特別区)一極集中はさらに進むと考えられる。  市町村単位では、1,719のうち1,416(82.4%)で人口が減少し、5%以上減少が828(48.2%)、うち10%以上減少も227(13.2%)ある。全国的に人口減少が深刻である。    このような人口減少を前提に、あるリージョナルチェーン(100店舗弱)について調べてみた。  詳細は省くが、経常利益を大きさ順に並べ、その累計を折れ線グラフ(経常利益構成比%)てみると、3分の1の店舗の赤字を埋めるために3分の1の店舗の経常利益を使い、企業としての経常利益は残る3分の1の店舗分でしかなかった。 固定費は店舗数に比例して増加するが、利益は必ずしもそうならない。  これだけでも問題だが、経常利益の大きい約10店舗で全社合計の約3分の2に相当する経常利益を稼ぎ出しているから、これらの店舗が企業業績を左右するとも考えられる。  さらにこの企業の経常赤字店、経常黒字店、それぞれについて立地する市町村の将来総推計人口をみると、2025年には経常黒字店のうち、実に半分強の店で総人口が2010年比で90を割り込む。しかも経常赤字店よりも経常黒字店が立地する市町村で人口の減り方が大きい。 その時にどうするのかではなく、その時までにどうするのかが重要になる。  また、全国に約300店を展開するナショナルチェーンについても同様に店舗配置の状況を分析してみた。  問題は単純であり、40都道府県に分散しているために半分の県で5店舗未満しかなく、ドミナント形成ができていないからチェーンとしてはぜい弱な構成になっている。  しかも、南関東にある程度店舗を集中しているが、人口の多い都市部(東京都を除く)の店舗の1店舗当たり売上が全店平均を下回り、さらに数値も悪化している。  あとは、全国に占めるこのような効率上問題がある店舗の比率と売上比率を見れば、チェーンストアとしての店舗構成の状況が評価できるが、この企業では、東京都を中心に約3割の店舗数で4割弱の売り上げを稼ぎ出しているが、残りの7割の店舗、しかも地方の人口減少に直面する店舗はかなり難しい状況にある。  重要なことは、固定費はほぼ店舗数に比例するから多少都市部のコストが高いといっても7割の店舗数の固定費を残りの3割の店舗だけでカバーすることはどう考えても難しい。  すでに今の時点で、店舗戦略的(配置、ドミナント形成)には難しい状況にあるのに、さらに地方に分散する圧倒的多数の店舗が一様に人口減少に直面した時には、企業全体に与えるインパクトは非常に大きくなる。  小売業は、損益分岐点が高く、経費も固定費的に発生するから、既存店が低迷した時には、CGP(チェーンストア・グローイング・パラドックス)で説明しているように身動きが取れなくなる。  できるだけ早いうちに対処する必要がある。  繰り返すが、人口減少、高齢化は凄まじいスピードで進行し、周囲の風景を様変わりさせる。  その時にどうするかではなく、その時までにどう対処するかが重要である。

地方創生 すべては生産性を高めるのが一番 ‼

◆地方の企業はどうビジネスをつくり直すか
 「地方創生」の動きが盛んであるが、「独自性」にこだわるあまり、どうも取り組み方が基本から外れているような気がしてならない。
 地方の企業の課題=強くなることを考えれば、生産性を高め、規模を拡大する必要がある。
 中小零細規模が、限られた原材料、限られた設備、限られた人材(発想・アイデア)で商品開発するから、類似する素材を用いて、似たような加工をした、似たような商品がアチコチの地方に溢れてしまう。
 現在の規模であれば損益分岐点が低いため、小さな売上規模でも十分事業が成り立つかもしれないが、このような状況を長く続けていては将来的な展望が描けない。
◆いかに生産性を高めるか
 生産性を高めるには、ある程度の規模拡大が必要である。資本も大きい方が投資もしやすく、安定する。
 それには水平、垂直統合が必要だが、「地域」にこだわれば、よほどの大きなシェアを持つ産地でない限り、水平統合は難しく、どうしても選択肢は垂直統合に限られる。ところが垂直統合は原材料供給、生産能力、販売能力などいずれかの規模に制約されてしまうから、多少大きな企業が加わってもボトルネック(最も規模が小さい)となる企業に制約されてしまう。
 ここをクリアしない限り、垂直統合は上手く機能しないから、規模を拡大して生産性を高めることは難しくなる。多くの地方が行き詰まる構造的問題である。
◆地方を超えて水平統合する 業種を超えて機能統合する
 ある意味、グローバル化を前提として考えた場合、規模を拡大することができれば、素材の生産、商品開発、製造、販売などを強化することが可能になる。
 そのためには、①地域を超えた水平展開が有効である。類似する素材を持つ産地が競合するのではなく、共同することで、より強力な素材の生産、商品開発、製造、販売をするように変われば、対外的な競争力は明らかに増す。知識、技術、経験、ノウハウ、人材など、様々な点で、国内で競合し合うよりも協力・分担し合う方が有効である。
 また、②多品種少量生産で機能別工程が有効であることを考えれば、地域内で素材別に細かく分かれている企業を機能別に集約することも一つの方法として考える必要がある。
 機能別工程は、素材の生産、製造、商品企画・開発、販売促進、販売、物流など、従来の業種別に細かく分かれていたものを機能別にまとめ直すことで、部分的に大量を実現し、生産性を高める。
 どんな業種でも全てを機能別にまとめればよいというわけではないが、少なくとも小規模のままバラバラに運営するよりは、部分的にでもまとめていく方が、メリットがあると考えられる。
これまでがどうであったか、ということにこだわるのではなく、どのようにしたらより生産性を高め、競争力を高めて発展できるかを考えるべきである。
 「地方」には様々な可能性のある「シーズ(種)」が埋もれている。重要なことは、その活かし方が理解されていない、あるいは活かす方向、方法が違っていることである。
 もう一度、基本的なところから見直してみる必要がある。