◆ GMSの衣料品を考える上で、重要な意味を持つと考えられるのが以下の3点である。
①現在の状況に至ったプロセス
GMSの衣料品では、ヤング向けのカジュアル商品が成長してきた際にそれらを平場から外し、事業部化、別会社化して本体の衣料品売場から切り離した。その結果、平場はシニア、ミセスを中心としたベーシックな単品商品中心に構成するようになった。
その後、バブル時代にプチ百貨店を目指してブランド品や高額品を扱い、売場を広げたことで、ファッション衣料を接客して売っていくのか、日常的な実用衣料をセルフで単品大量販売していくのか、という方向性、MD、売場づくり、運用の仕組などさまざまな点でブレており、整合性が取れていない。
②歴史的に採用してきたMD手法
かつては、百貨店や専門店が扱う商品の内、成長期から成熟期にある商品をコピーして低単価で大量販売するのが量販店の手法と説明されてきた。
前述のようにバブルをきっかけとして、GMSが提供するのはファッション性の高いトレンド商品なのか、それともベーシックな実用衣料なのか、業態としてのポジションに対する解釈がさまざまにブレている。コピー中心のMDから開発中心のMDにシフトする試みも見られるが、コンビニエンスストアにおける惣菜やスイーツ開発のような本当の意味での企画・開発型MDにはなっていない。やはり、ヒートテックのようなコピー対応のMDが得意と言わざるを得ない。
近年、高齢化への対応で重要になるのは、表面的なデザインやディティールだけではなく、加齢に伴う体型変化や運動能力低下に伴う着やすさと考えられるが、型紙、構造、素材など機能的な対応の遅れは否めない。
③バブル期に拡大した広過ぎる売場とMD
GMSでは、バブル崩壊後も広がった衣料品売場を埋めるためにかなり多くのアイテムを投入している。しかし、競合する業態・チャネルが増え、商圏・購買するオケージョンが狭まったことで広すぎる売場の運営、MDにムリが生じている。
図表1は、商品の取扱い方から「アイテム売場(接客販売に向く商業型商品)と品種売場(フェイス管理によるセルフ販売に向く工業型商品)(筆者が命名)」について定義したものである。
以前、ユニクロ、他の専門量販店1社、大手GMS2社について、品揃えと在庫状況からMDを比較したことがある。その結果、ユニクロだけが品種を構成するアイテム数を絞り込む一方で、SKU数(色×サイズ)を増やして豊富感を演出し、さらに1SKU当り在庫数を多く持つことで欠品を予防するというセルフ販売の仕組を確立していた。
GMS2社は、一見するといろいろな商品があるように見えるが、いざ買おうとして個別に色×サイズを見ていくと、かなりの確率で欠品していた。品種を構成するアイテム数は多いが、アイテム別に在庫数をSKU数で割った1SKU当り在庫数を見ていくと1.0を切る商品が結構目立つ。
MDが定番商品の継続よりも、短いサイクルでの商品切り替え、スポット投入中心になっていることが原因である。
このように商品構成と在庫状況を見ると、GMSの売場は結果的にSKUを限定して数多くのアイテムで構成するブティックのような売場(接客販売に向く商業型商品の扱い方。ただし、はじめからそのようにMDを設定したのではなく、結果として在庫が歯抜け状態になったアイテムが増えている。)であり、セルフ販売、単品量販に向くようような運用になっていない。
広すぎる売場を埋めるためにアイテム数を増やしたこと、および取扱商品の特性(短いサイクルで回すファッション衣料なのか、定番的に継続発注するベーシック商品なのか)が整理できていないことが原因であり、やろうとしていることと、実際の売場運営、MDなど仕組との間にミスマッチがある。
◆ MD概念の変化
前述の構造的問題に追い打ちをかけているのが、マーケットの構造変化である。
従来、アパレル業界では、オン=ビジネス、オフ=プライベートという概念でマーケットを見ることが多い。ところが、クールビィズ、ウォームビィズなどノーネクタイ、カジュアルな服装がビジネスシーンに定着するとオン/オフ概念は曖昧になる。さらに高齢化によって、リタイアする人が増えてくると、年中オフという人の比率が高まる。
すでに従来のオン/オフ概念、ファッションをテイストだけで分類して構成するMDでは対応が難しくなっている。
例えば、ただ決まりだからと毎日会社に着ていくスーツと休日にオシャレに決めて出かける際のカジュアルウエアを比べたら、どちらがファッション的に気を使うだろうか?
毎日会社に着ていく制服のようなスーツは、定番的普段着のビジネスシーンバージョン、それに対し、休日にオシャレに決めるカジュアルウエアは、気持ちの入り方、こだわり方などから考えても、個人のアイデンティティ、その時の気分を表現する重要なアイテムとしての意味合いが強い。
ハレ(祭)とケ(日常)というとらえ方をすれば、明らかに毎日着るスーツがケ(平日)、カジュアルウエアがハレ(祭)ということになるだろう。
ビジネスシーンがカジュアル化し、高齢化によってビジネスシーンを持たない人が増えてくれば、オン=ビジネス、オフ=プライベートではなく、オン(ハレ)=本気度・こだわり、オフ(ケ)=定番・日常というようにとらえた方が消費者の価値観、マーケットの実態により近い。
そう考えれば、ビジネス/プライベートに関係なく、消費者が持つさまざまなオケージョン=服を着るシーンへの気持ちの入り方、本気度をベースにとらえるべきだろう。
銀座に買物に行く時の服がオン、近くのGMSに買物に行く時の服がオフというように、同じプライベートのショッピングでもオケージョン(行く場所、店、一緒に行く人など)によってオン/オフがあると理解すれば、いろいろな状況に応じた服装も見えてくる。
セオリー通りの定番的着こなしやオーソドックスなドレスアップ、遊び心のドレスダウンなどファッションに関する考え方を深耕し、オケージョン別に細分化して考えれば、ファッション=オケージョン、結果的に機能やテイスト、グレード、....等々、というように変わるだろう。
マーケットの状況を考えれば、MD概念の修正が重要なテーマになる。
◆ オケージョンをMDに活かす
すでに商圏やマーケットの状況を考えても売上を以前のように大きく伸ばすことは難しい。業績改善を考える上でも、まずは、さまざまなミスマッチを修正することで効率的な売場運用を実現することが優先になる。
そう考えると、オケージョンをMDに活かすことで得られるメリットは多い。特にGMSが抱える広すぎる売場をアイテム数を増やすことで埋めるにはムリがあるから、全体をビジネスユニットによって一定のスペースに切り分け、それぞれの特性に応じたMD、運用システムに整理し直す必要がある。
紳士、婦人、子供といった分類や、ビジネス/カジュアルといったオン/オフ概念はすでに粗すぎるし、GMSが抱えるさまざまな問題を解決することにつながらない。
例えば、家計調査の結果から、高齢者世帯では「国内旅行」の支出が全年齢平均よりも高いということが指摘(経済産業省 産業活動分析(平成24年1~3月期)「高齢者世帯の消費について」)されており、「トラベル」関連商品を強化する企業が確実に増えている。
東京駅などで定期的に行っているストリート調査(ココベイ株式会社シニアストリートリサーチ)などを見ても、シニア世代の国内旅行における服装や持ち物(服飾雑貨)の傾向はある程度見えているが、それらはアチコチ探し回って買い集めなければ揃わない。
夏以外のシーズンにハワイに行こうと思っても水着を売っている売場は限られるし、ゴールデンウィークにヨーロッパに行こうとしても、長袖のインナーを手に入れることは難しい。
クルージングがシニアの間で注目されているが、くつろげる服装からディナー、パーティと幅広いオケージョンに対応できる服装が必要になる。しかも、ペアでの行動が基本である。
同じフォーマルでも、遊び感覚の強いドレスダウンしたフォーマルもあれば、クラシックなフォーマルもあるし、自己主張したい時のクセの強いフォーマル、目立ちたくない時のベーシックなフォーマル、...等々、オケージョンや気分によっていろいろなバリエーションが考えられる。
同じゴルフでも近所の打ちっぱなしとコースでは違うし、同じコースでもメンバーやコースのグレードでもまた変わる。ランニングも近所をちょっと走るのと、ホノルルマラソンや東京マラソンに出るのでは気合いの入り方、走る意味が全く違う。
単に旅行やスポーツという粗いとらえ方では、現在のマーケットに対応することは難しい。
さらに視点を広げると、オケージョンの中には、結婚式に招待された若い女性のように、似たようなメンバー(特に学校時代の友達や会社の同僚など)が繰り返し違う結婚式で顔を合わせるようなケースもある。
このようなケースでは、毎回同じ服装ということにもいかず、バッグ、靴、アクセサリーなどを購入して使い回すより、その都度レンタルで切り替えていく方がより実態に合っている。
消費者が持つさまざまなオケージョンを考えれば、物販だけが唯一の選択肢ではなく、レンタルも中古買い入れ・販売も有効なMDの選択肢の一つと考える必要があるだろう。
オケージョン売場と言いながら、ただ旅行用品やスポーツ用品のコーナーをつくって終わるのか、それとも消費者のニーズ、ソリューションを念頭において(例えば旅行代理店・添乗員、旅行のベテランなどのアドバイス)、新たなビジネスモデルへと舵を切ることができるのか、というビジネスの進化が今後のGMSにとって重要な意味を持つ。
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