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SM実店舗とEC(電子商取引)、単品管理と群管理

■実店舗とEC(電子商取引)
実店舗とECではフィールドの構造、購買プロセス、メカニズムなどが異なるため、目的は同じ商品購入でも手法や表現方法が違う。
 消費者のニーズ・感覚との合致度合い、精度は買い物の利便性やストレス、結果としての買上率に大きく影響する。                 
 実店舗では売場に現品を並べるため、一定の分類基軸に基づきグルーピングがなされる。
フロア、エリア、什器列、什器、棚など売場の物理的な管理単位に対し、衣食住、生鮮食品/一般食品/ノンフーズ、青果/精肉/鮮魚、ソース/醤油、中濃ソース/とんかつソース/ウスターソース、中濃ソース500ml/300mlなど、一定の法則に従ってまとめてられた商品群を陳列(現品として在庫)し、管理する。
 ある意味、現品を並べる売場は長年かけて出来上がった分類概念の集積によって成り立っていると言ってもよい。
 消費者は長年の買物経験の中で刷り込まれたこの分類概念を頼りに商品を探し、買い物をする。
 かつて、イオンが機能別売場の実験として、洗剤から洗濯機まで「洗濯関連」ということで部門を超えて商品を集めたことがある。結果的に店のスタッフもお客も混乱し、元の売場分類に戻している。
長年の間に形成された売場の分類法則が崩れれば、商品が売場のどこかにあったとしてもお客は混乱し、探すことができない。訊かれた売場スタッフも対応に窮することになる。
 一方、ECでは、はじめに消費者が主体的に操作しないと商品は表示されないが、価格、レビュー、メーカー、ブランド、機能、サイズ、配送料など様々な基軸でソート、スクリーニングができる。また実店舗のような陳列の分類や場所的制約もないから、分類概念については比較的自由であるが、その反面規則性が曖昧ともいえる。
面白いのは、たとえば実店舗のソース売場であれば、メーカー別に同サイズ(多くの場合500ml)でとんかつ/中濃/ウスターと並ぶが、ECのサイトで「ソース500ml」と検索してみると各社各様、全く法則性なく表示される。 
 Amazonでは、いきなりブルドッグ中濃ソース500mlが表示され、同時によく一緒に買物されている商品としてカゴメトマトケチャップ500gとキューピーマヨネーズ450gが表示された。ポピュラーな商品の特定と関連販売が意識された構成である。
 ヤフーショッピングでは、ポン酢、キャニスター、炭酸水など「ソース500ml」とは全く関係ない商品が先に表示され、やっと7番目に大黒屋 激辛 スパイスソース 500mlと馴染みのないソースが表示され、ブルドック中濃ソース 500mlは14番目の表示であった。
 また、楽天市場では、いちじく ソース 500ml ツヅミ食品、ポールスタア RS とんかつソース 500mlが表示され、その後にブルドッグとんかつソース500mlというように提供企業違いで3アイテム、価格はマチマチで表示された。出品企業は複数あり、しかも価格や配送条件はマチマチであるから、それらが一度に表示されるとその中から選択するという手間が加わるのが、これらサイトの特徴でもある。
 
 実店舗では、売場を歩き回るだけで意識せずとも商品が目に入る。また、目的とする商品の周辺を見れば一度に多くの商品がまとまって見えるから、比較的容易に探すことができる。それに対し、ECでは意図的に操作をしない限り何も起こらない。また、適正に操作したとしても全ての商品を一覧することはできず、スクロール、もしくはページ移動という手間がかかる。
 検索ワードがサイトの商品名やキーワードとマッチし、検索が上手くいけば求める商品に容易にたどり着けるが、それを外すと多くの手間と時間をかけても求める商品にたどり着けない場合がある。また、同じ言葉を使って検索しても場合によって結果が違うこともあるから難しい。
 
 これらのことは、実店舗とECの違いとしては非常に重要な意味を持つ。
 実店舗では、消費者との間に商品がどのような法則に従って置かれているかという共通認識ができあがっており、しかも商品を一覧できるのに対し、ECではソース500mlの例のように、サイト設計の思想、AIやアルゴリズムの精度によって検索キーワード、分類概念、スクリーニング、およびその結果がマチマチである。しかも一覧性が確保されていないから必ずしも費やす手間に対して成果は保証されていない。それが偶然に良い商品に出会うなど新しい発見に結びつけばよいが、ストレスになれば目的を達成せずにサイトから離脱する。ある意味、実店舗より便利な反面、消費者はシビアでドライに反応する。

■実店舗とEC 管理上の違い
 データのとり方、使い方、管理の仕方は、ビジネスモデルの特性・精度などを見定める上で役に立つ。
 たとえば、実店舗に現品陳列された商品の販売状況を知るために用いられてきたPOS、あるいはPOSに購入者の情報を紐づけたID‐POSはSKUをベースにして管理するが、陳列場所・フェイス数・在庫数など販売時点の条件や周辺にある商品との什器内での位置関係、販促を含む価格的競争関係など周辺環境については全く分からない。
 現品販売する実店舗の特徴でもある商品のグルーピングなど管理の仕方とデータのとり方、使い方がマッチしていないことは大きな問題である。
 元々、POS(JANコードも)そのものが商品構成を改善するなどのマネジメント目的ではなく、レジ精算(あるいは発注、伝票発行など)の効率化などオペレーション目的で出来上がっているから、たとえPOSデータに消費者IDを紐づけしたとしても使い勝手は悪い。POSデータはその結果に至るまでの周辺状況が全く分からない結果だけの抜け殻のようなデータであり、ECのデータ管理と比べて大きく見劣りする。また、ID‐POSのデータを分析しようとしても、たとえば購入者を性別(男女の2種類)、年齢(18歳未満、18-24歳、25-34歳、35-44歳、45-54歳、55-64歳、65-74歳、75歳以上の8種類)、職業(学生、会社員、主婦、自営業、農林水産業、その他の5種類)、家族構成(単身、夫婦のみ、夫婦と18歳未満の子、親と18歳以上の子、3世代の5種類)4要素に分けて把握するだけでも 2×8×5×5=400通りもの組合せを精査しなければならない。さらに商品側にもメーカー、サイズ・用量、素材、加工方法など複数要素があるから、それぞれの組合せを掛け合わせた数が商品と消費者の組合せになり、そこから商品の購入状況を読み取る必要がある。
 概念的には成立しても、現実的には手間をかけたほどの成果を得ることは難しい。(★グルーピングして要約するための手間とノウハウが必要になる)
 一方、ECでは商品や消費者をグルーピングするのではなく、消費者個々人の履歴を管理するワン・ツー・ワン・マーケティングであるから、一見データ量が多そうに見えても、個々人の範囲内でそれぞれで完結するからいたってシンプルである。
 実店舗が商品をグルーピングして管理しようとするのに対し、ECは個々人の履歴(検索、購入、お気に入り、離脱などの行動)や商品単体をベースに管理する。
 実店舗とインターネットを使ったECの違いはいろいろあるが、管理の仕方の違いを見ると、その本質的な違いがあらためて確認できる。
 実店舗が「不特定多数」の消費者に対し、「特定分野」における「購買頻度の高い商品」を中心に販売し、地域内シェアを高めようとしているのに対し、ECは「特定した個々人」に対し、まず志向(嗜好)や癖を把握・精度を高めることで幅広く、いろいろな商品を販売=「個々人の消費支出のシェア」を高めようとしようとしている。そのため、店舗や他のサイトに行く前段階で消費者の行動を抑えようとする。
 実店舗は、どんな商品が、いつ売れたのかという売れた商品と売れ方から売場の精度を高めようとしているが、ECは個々人の様々な履歴から志向(嗜好)や癖を読み取り、提案する精度=購入率を高めようとしている。
 実店舗の売場は不特定多数のお客が来るのを待つしかないが、ECでは特定できているお客に様々な手法で提案できる。

◆SM実店舗とEC(電子商取引) 特徴・機能の整理
 SM実店舗に限らず、様々な業態の実店舗とECとの違いを整理して理解することは、それぞれの棲み分けや補完的なコラボ業態の形成をスムーズに行う上で重要なテーマである。
 これまでSM実店舗とEC(電子商取引)の特性について検討してきた内容を整理したのが図表1 SM 実店舗とEC(電子商取引)の特性である。(もちろん、これらの項目には他業態の実店舗にも共通する項目が多い。)
 実際には、このような細々としたことをいちいち考え、あるいは意識して行動することはなく、これらの条件を背景として経験的に形成された感覚によって単純に実店舗かECかという選択がなされるのが一般的だろう。したがって、これらの特性は、消費者が状況に応じてチャネルを使い分ける上での重要な条件、またチャネル側が消費者の購買行動をコントロールする上で影響を与えると考えられる重要なファクターということもできる。
図表1では、大きく6つに分けて整理してみた。
①ビジネスモデルの特性 ; 店舗施設の規模、商圏、交通インフラなど物理的制約による商圏(来店可能)人口、営業時間/購入可能時間、品揃え(取扱商品)/購入可能商品などの範囲・制約は、実店舗とECで大きく異なる。
直接消費者とつながるか、インターネットで間接的につながるかというビジネスモデルの違いによって生じる買物(=商品売買、持ち帰り/配送・受け取りまでの過程にある時間、空間=距離、手間、コストなど様々な要素)の自由度の違いは、消費者がチャネルを選択する上で重要なファクターである。
すぐに必要だが店は営業していない/すぐに必要だが届くのは明日の夕方になる、あるいはとりあえずSM実店舗に行ってみてから考える/アチコチの店を探し回る時間がないないからネットで、…等々、消費者の状況、ニーズがチャネル選定には大きく影響する。

②消費者との関係性 ; マス・マーケティングとワン・ツー・ワン・マーケティングの違いとも言える。
SM実店舗では、商圏内の不特定多数の消費者に対し、個々人のニーズ・嗜好などとは関係なしに、様々な商品を品揃え・在庫し、販売促進を行って販売する。設定する商品や売り方の精度を高めるためマーケット(=顧客ターゲット×オケージョン)をセグメントし(多くの場合、足元客のうち、直接食事の準備を担当する主婦・独身者の日常的・定型的な「食」)、またPOSなど過去の販売データを参考にして販売予測をする。
それに対し、ECでは特定された個人に対し、検索・お気に入り登録・購買などの履歴、および類似する履歴の会員データに基づいて絞り込んだ商品(多くの場合、単品SKU)を中心に提案、販売促進を行い、買上率アップを狙う。個々人の履歴データに基づく特性・志向(嗜好)をベースにしたワン・ツー・ワン・マーケティングであり、マス・マーケティングをベースとするSM実店舗とは基本的に異なる。

③ビジネスモデルの特性による戦略、ネライ ; SM実店舗は、商圏内の特定商品分野(消費支出総額)についてシェアを高めようとする。
商圏・取扱商品ともほぼ一定であるため、改めてマーケットは考慮せず、商品の売れ行きだけに着目して運用するケースは多い。マーケットに対し、どのような商品を、どのように当てはめるのかはMD(マーチャンダイザー)・バイヤー、店舗スタッフ、取引先営業マンなど「人」の勘や経験によるところが大きく、消費者と商品・売り方の間にある関連を確認する術も持たないため、結果として商品が売れたか/売れなかったかだけで判断することになる。
それに対しECでは、特定する個人会員の数を増やす場合の施策(強烈な販促により個人情報を登録する会員数を増やす)は実店舗と類似するが、特定できた個人に対しては検索・お気に入り登録・購買などの履歴、および類似する履歴を持つ他の会員データに基づき(AIを活用)、商品を随時提案(メルマガ等)、さらにポイントアップなどの販売促進を併用して個々人の買上率=個々人の消費支出のシェアを高めることを狙う。SM実店舗が広く商圏を対象としているのに対し、ECは個々人の買物行動を対象とした活動が中心になる。
また、ECが、マス・マーケティングとワン・ツー・ワン・マーケティング両方の手法を活用して有効なのに対し、チェーン展開するSM実店舗では、自社他店と商圏の棲み分け(=商圏が固定)があるため、商圏内シェアアップ以外は難しい。隣接する自社他店との競合を避けるには、商品ライン、顧客ターゲット、オケージョンなどの棲み分けなどが必要だが、現状のSM業態(店づくり、商品構成)、チェーンストアというシステム(どの店も基本的に同じ)を維持したままでは難しい。

④消費者にとっての買物の意味 ; 店に来てから買う商品を決める割合が8割(出所、根拠とも不明だが納得できる)とも言われるように、SM実店舗における買物は、実際に売場に来て、生鮮食品や総菜などの品揃え・お買い得品などを確認してから夕食や弁当のおかずを決め、購入するというケースが多い。周辺商品のついで買いを含め、全てが売場に来て商品を確認するところからスタートするから、全体としては不確定要素の連続(場合によっては何も明確に決まっていない)によって成り立っているとも言える。SM実店舗における日常的(高頻度で定型的)、かつ習慣的な買物行動の特徴である。
一方、ECの買物は、あらかじめ目的である商品を検索ワードとして入力(あるいは一覧から絞り込む)しない限り何もはじまらない。また、取り扱いアイテム数が多いため、スクリーニングなどの絞り込みをしないと検索は延々と続く。送料の関係から買物金額が一定以上になるよう考えながら買物をする必要もある。ECではSM実店舗よりはるかに計画的な買物行動・スキルが必要になる。
このようにECでは送料に制約された買物、あるいはロングテールの法則で指摘されたC・Z商品など特殊・専門的商品の取り扱いが多いため、どうしても高単価な非日常的買物(低頻度、その都度必要に応じて)のウエイトが高くなる。
また、「楽天経済圏」などという言葉も生まれているように、IT系企業をはじめとする多くの企業グループが連携してプラットフォームとなり、消費者の生活全般にわたる消費を囲い込むことを目指している。Amazonが生鮮食品を強化したり、楽天市場がウォルマート(西友)と提携して食品を強化したりと、SM実店舗のような日常的、習慣的買物のEC化を強化する動きがみられる。
ただし、SM実店舗の営業時間内には買物できないなど生活時間の関係からECを利用せざるを得ないような場合、受取も難しいと考えられる(生協の宅配も同様)から、このようなケースでは、むしろ一般の人とは外れた食生活の仕方=購買行動に変わっていると考えられる。また、現在、買物難民が問題とされる地域では、ECではなく、NPO法人による定期的な販売会や移動販売車が対応していることを考えると、必ずしもSM実店舗の代わりがECになるとも考えられない。
2017年、食品・飲料・酒類のEC化比率は3%にも満たない(2.41%、昨比+7.4%「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る 基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」調査結果要旨;経済産業省)が、その理由が上記のような消費者のライフスタイル、生活時間、オケージョンなどによるものだとすれば、多くの企業が志向する(SM実店舗のような)日常的(高頻度で定型的)、かつ習慣的な買物のEC化率を高めることはそう簡単ではないのだろう。
また、高齢者・単身世帯の増加、朝食を取らない人の増加、朝食提供ビジネスの増加、企業・大学食堂の朝食提供など、「食」を取り巻く様々な状況・環境与件を考えると、多くの企業が前提とする「素材を購入して自宅で調理して食べる」という従来の食習慣がどの程度維持されるのかという疑問も残る。消費者が従来の食習慣そのままに、SM実店舗からECにシフトするのと、調理することを止め(あるいは減らし)、中食、イートイン、給食、外食と中食の中間的形態へ変わるのと、どちらが早いかという問題もある。
いずれにせよ、日常生活に定着し、習慣となるには、本来的な目的である「食」がライフスタイル、生活時間にマッチしたものである必要がある。購入/配送・受取/コスト/消費者にとっての価値などトータルな使い勝手を追求した進化が必要だろう。

⑤買物における主体性 ; 任せたい・面倒な買物/自分で選びたい買物 ; 本誌5月号でも触れた博報堂調査レポート「『選ばない買物』へと向かう生活者(2018年1月31日)」の中から「食」に関するカテゴリーだけを抜き出すと、任せたい・面倒な買物は15カテゴリーのうち外食、加工食品の2カテゴリーだけだが、自分で選びたい買物は12カテゴリーのうち、生鮮食品、菓子・デザート、アルコール飲料、調味料、清涼飲料の5カテゴリーある。
このことから何となく見えてくるのは、情報量・情報の鮮度(専用アプリ/専門サイト)と購入シーン(様々な商品・チャネル)の関係である。専用アプリ/専門サイトが多くの情報を発信し、消費への興味・好奇心を掻き立てるようなカテゴリーか、日常的、定型的で情報源・情報量とも限られる地味なカテゴリーかの違いが消費者の対応を分けている。
そう考えると、SM実店舗は自分で選びたい買物に該当するカテゴリーを中心にしており、日常的、定型的で情報も限られる。さらに言うと、改めて「自分で選びたい買物の場」ということすら意識されないほど日常の中に埋もれているから、買物する時間・空間、行為も改めてその価値が認識されることがないように思える。
ECで盛んに言われる「買物体験」を、提供する側・される側共に明確に認識できるようにすることが大きな課題だと思うが、何故か日常的、あるいはローコストであることを追求すると無機質で魅力のないものになって(して?) しまう。「変なホテル」のようなローコスト化、合理化の方法によって日常の価値を変えることも必要なのだろう。

⑥買物の特性/商品の特性 ; SM実店舗の場合、明確に目的と認識されている商品は比較的少なく、それ以外はついで買い、関連買いなどの形で買われるケースが多い。場合によっては、何のイメージもないまま、とりあえず店に行き、売場を見て何かを買って帰るということもある。さらに肉を買う予定で店に行き、美味しそうな刺身が安く売っていたからと肉を買わずに刺身を買って帰るということも珍しくない。ある意味、その場の状況次第で結果がコロコロと変わる、売場次第の買物ということができる。
それに対し、ECでは基本的に検索からスタートするから主体的、能動的でないと買物ができない。中には関連買い商品、ついで買い商品、送料が無料になるための不足金額を補う商品、貯まったポイントで買える商品などが表示されることもあるが、サイトによって大きく変わる。
商品の特性としては、SM実店舗の場合、主目的として購入する商品より、とりあえず安かったから買っておく、目についたから買ってみる、試食して美味しかったから買うといったついで買いや衝動買い商品の比率が高いのに対し、ECの場合は基本的にどのような商品でも目的買いが中心になる(SM実店舗ではついで買い商品でもECでは検索から始まるから目的買いとして買われる)。
このように見ていくと、実店舗の場合、たとえば夕食のおかずように、具体的でなくとも何かが必要で来店すれば、よほどのことがない限り何かを買って帰ることができるが、ECではそのようにアバウトなニーズ、アバウトな買い方は成り立たず、入手までの時間、商品の検索ワードなど、買物が具体的、計画的であることが要求される。

現在、マーケットサイズが大きく、EC化率も低いため、大きな成長が見込めることから食品(SM実店舗で扱うような商品)のEC化率を高める動きが顕著である。
ただし、これまで見てきたように様々な状況から判断すると、一定の伸び率を示すことは確かだとしてもECが食品流通の中心になることはなかなか難しいだろう。
そう考えると、如何に両方の特徴をうまく生かしたミックス業態を確立するかが重要なテーマになる。また、④でも触れたように、材料を買って帰り、自宅で調理して食べるという従来の食習慣の比率がどう変化するのか、その場合にその受け皿となるビジネスモデルはどのようなものかという点も重要なテーマである。
SM実店舗が、今後とも発展していくポイントはこの辺にあるだろう。

いじめ、不登校、教育という名の村社会、…どうする⁇

「学年とクラスをなくせば不登校は激減する」苫野一徳氏(熊本大学教育学部准教授)という記事があった。(President Online 2019.7.9)
 そもそも市民社会は、生まれも育ちもモラルも価値観も国籍も宗教も異なった、きわめて多様な人々からなる社会だから、学校も本来であれば、できるだけ多様な人びとが出合い、知り合い、多様性を「相互承認」する機会をもっと豊かに整える必要があるはずだ、という。
 なぜ、「学校には学年、学級があるのか」「学校を『ごちゃまぜのラーニングセンターにしたい』」という問題意識も、現在の状況を見ればよく分かる。
 あとは、そこから先の方法論なのかもしれないが、これらのことを実現しようとすれば、現在の6・3・3制や義務教育の形をどこかで根底から崩す必要がある。
 その場合は、これまで出来上がった体制、インフラの後始末、学校という建物、膨大な数の教職員(組合も)、教科書・教材メーカーなど、様々なモノ・コトにどう対処すればよいのかというとてつもない課題に対処しなければならない。
 そう考えれば、別項でも書いているように「義務教育を拒否する権利」というものと同時並行に進めていくのもよいだろう。

 学校、教育委員会の対応にどうしようもなく、いじめの具体的な状況を父親がSNSに投稿した、あるいは小学生が10万円超、ひどいケースでは100万円超の金をせびる・たかる・恐喝するいじめが明らかになった、教師が生徒に対していじめ行為を行う・扇動する・暴力をふるう、教員同士の悪質ないじめまでが明らかになるなど、信じられないような陰湿ないじめがアチコチで起きている。
 誰が見ても明らかな犯罪行為が、学校という閉鎖社会・村社会の中で起きると、何故か「いじめ」という言葉でオブラートに包まれ、さらに隠蔽されてしまうから被害者は報われないし、加害者側も管理する学校・教育委員会も罪悪感が少なくなる。
 
 日本の出生数を見ると、1984年に150万人を割り込み、10年後の1993年には120万人を割り込んだ。その後増減を繰り返しながら2005年110万人を割り込むまでに12年、2016年100万人を割り込むまでは11年かかっていた。
 ところが、2016年に100万人を割り込むと2019年にはわずか3年で90万人を割り込むことが確実になっている。出産年齢にある女性の減少、晩婚化、非婚化など、様々な原因が考えられるが、いずれにせよ、多少、合計特殊出生率が上がっても、すでに出生数が増えることはない状況にまで陥っている。
 一方、団塊の世代が70歳代に入り、死亡数は今後高止まりすることは確実であるから、人口は放物線を描くように急激に減少する。
 
 そんな状況にあるのに、乳幼児が親に殺され、学校に入るといじめで自殺する子供が後を絶たない。
 子供の数が減り、一学級の人数も減って、よりよい環境で教育が行われているかといえば、むしろ逆の方向に向かっているとしか思えない。
 そもそも錦の御旗のように「教育」と言ってはいるが、いったい何をもって「教育」とするのか。子供たちをどうしたいのか、実際に現場で起こっていることもブラックボックス化していて一般からは見えずらくなっている。
 すでに知識、情報はインターネットからいくらでも得ることができるから、重要になるのはそれらをどのように組み立てて目標とするものを創り上げればよいかという問題意識、目的意識、モチベーション、視野の広さ、思考、論理の組み立て方、協働の仕方などであるが、このような環境の中で本当にそんなことが可能なのか甚だ疑問である。
 情操教育など人間として….云々とアルベキ論も聞かれるが、それが今の学校のような制度疲労を起こした枠組みの中で本当にできるとは思えない。仮にできるのであれば、陰湿ないじめや不登校は起こらないはずである。
 何か起こるたびに教師が、…、学校が、…、教育委員会が…、第3者委員会が….、といって、隠ぺい体質が糾弾され、マスコミの前で謝る姿が報道される。
 教師による生徒へのいじめや教師同士の悪質ないじめまでが明らかになれば、現状での限界がわかる。
 せめて、動物園の折の中に無防備な子供を押し込めるような制度を拒絶できる仕組み、権利が必要である。
 全く社会経験がなく、しかも外界と隔絶した村社会・閉鎖社会よりは、社会経験が豊富な人達の中で、全く違う次元、システムで知識、経験を学ぶ方がよほど有効だろう。
 テレビで離島に留学する子供たちの姿を見たが、自然に恵まれた環境の中でのびのびと様々なモノ・コトを五感で学んでいる。
 学校・学習要綱という枠組みに縛られなくとも学べることはたくさんある。というよりは、むしろ陳腐化し、制度疲労を起こした村社会・閉鎖社会の折の中に閉じ込めることなく、自由に学べる環境を与えた方が子供たちのポテンシャルを引き出すことができると考えるべきだろう。
 現在のような状況をリセットしない限り、情操教育ばかりでなく、グローバル化したデジタル社会でも通用できない子供たちをたくさんつくり出してしまう。 
 少子高齢化だけでも大変な状況にあるのに、将来を支える子供たちまでキチンと育てることができないのでは、この先が思いやられる。
 先人の言葉ではないが、「こうしちゃおられん」状況に対処する必要がある。
 

2019年度芝浦工業大学授業資料

◆用語の確認 2019 ver.5 .20190928更新
◆思考法・論理パターン 2019 20190928更新

■レポートの書き方について2019 
■マーケットの変化  いま、マーケットで何が起こっているのか 2019
■商品の意味(機能)・価値 消費者の購買行動 2019
◆商品の購入実験 商品の干渉 データ入り・解説
◆マズロー欲求階層、オズボーンのチェックリスト 20191026
◆進化、変化の仕方から見る予測、シミュレーションのバリエーション(オズボーンのチェックリストと対比) 20191026
◆芝浦2019 1回目R 確認フォーマット 20191026
■問題解決能力20161116
■レポートテーマ確認フォーマット20191116
■第2回レポート作成計画20191116

売場を観察して売上を上げよう!

◆ なぜ売上が上がらない?
多くの店舗に共通する「売上が上がらない理由」は、ある程度限られている。特に現在の状況を考えると、人口は減少し、高齢化によってマーケットのボリュームは相乗的に縮小する傾向にある。さらにコンビニエンスストアのドミナント戦略がカニバリゼーション(cannibalization;自社競合、共食い)を起こしていると問題になっているように、同質化するチェーンストアの集中出店によって売上の奪い合いが激化している。
チェーンストアがドミナント戦略をとり、他社とのシェア競争のために過剰に出店すれば、個店レベルの売上ばかりでなく労働力の確保にも大きく影響する。
同じ商品を扱う、同じような店を特定エリアに配置し、面を構成するからお客も確実に分散する。ネット通販をはじめとした他チャネルへのシフトなどを考えると、単店、ドミナントどちらをとらえても購買力が低下する難しい状況にある。
問題は購買力が低下する固定的な商圏の中で、固定された客層の、固定されたニーズに対応しながらシェアを高めようとしているが(減少傾向にあるパイの奪い合い)、商圏を広げる、客層を広げる、対応するニーズのバリエーションを広げるという戦略の転換を志向しないことだろう。

1.売上をどうつくるのか
店舗の売上を伸ばすには、①積極的に攻めて売上を拡大する、②マネジメントを強化して売上のモレ、ロスをなくす、という2つの方法がある。さらに①は、ⓐ固定された商圏、マーケットでシェアを上げる、ⓑ商圏、マーケットを広げるという2つに分かれるから、選択肢は3つということになる。
いずれの場合も原理原則を理解した上で、知識・技術・経験・ノウハウなどを駆使し、基本に忠実であることが求められる。
②を実現するには、マネジメントレベル、販売技術の精度を上げるために手間と時間がかかるため、多くの企業は改装・増床、イベント、価格訴求など比較的簡単で取り組みやすい①-ⓐに走る。①-ⓑは、店舗形態、商品構成、販促手法、業態などを変える必要があるから簡単には手を出しにくい。
ほとんどの企業が取り組みやすい方向に向かうことで結果的に勝ち組なしの疲弊戦状態をつくり出す。
また、現在はデジタル技術の進化によって様々なデータが取れるが、データを用いてマネジメント、実施の精度を高めるには、データを読み取り使いこなし、なおかつその結果を売場に反映できるだけの知識・技術・経験・ノウハウなどが必要になる。
いろいろな意味で、広範囲にわたる知識・技術・経験・ノウハウなどブレインワークと実施能力を高める必要がある。

単なる思い込み、過去の成功体験ばかりに頼っていては、本来のポテンシャルが生かされないばかりでなく、その後の店舗運営を難しくするリスクもある。
例えば、一般的に商品の陳列スーペース・陳列量を大きくすれば売上が伸びることはよく知られている。価格を安くする場合も同様である。
ただし、すべての商品が同じように売上が伸びるわけではない。場合によっては売上が伸びないばかりか、在庫が増えて商品回転率が落ち、値下げによって粗利率が下がる、あるいは販売数量が多少伸びても販売金額・粗利率が落ちるといったことも珍しくはない。
商品それぞれが持つ特性、お客の購買心理・商品による買い方(売れ方)の違いなどを考慮し、適した手段を選ばないと思わぬ結果になる。
よくあるのが、実需の先取りである。昔、会員セールを多用していたS社、J社などでは、会員セールで売上を上げても、その前の買い控えと売上の先取りによるセール後の落ち込みによって、前後を含めた期間トータルをならしてみると、売上は何もやらないのと変わらず、むしろ粗利率が下がった分がマイナスであったということも珍しくはなかった。
瞬間的な売上という甘美な魅力にとりつかれると、止めることができずにどんどん事態は悪化する。重要なことは原理原則を理解し、確実に成果を上げることができる王道(間違いが少ない、精度が高い、軌道修正しやすい)によって成果を得ることである。
そのためには商品特性、購買心理・購買行動のバリエーションなどについての科学的な知識が必要になる。

2. 商品特性、購買心理・購買行動などに関する原理原則
  いろいろな実験や経験から商品のタイプや商品の売れ方(消費者はどう反応し、どう行動するか)については、ある程度分かっている。
重要なことは、このような法則を日常の商品の品揃え、売場づくり、販促などにどう生かすかである。
行動経済学などでも指摘されている法則と同様に、身近にある商品選択の法則性などチョットした実験で調べることができるものは多い。

2-1. 商品が売れるメカニズム 購買心理と購買行動 ~~我々の身近にある消費者の商品選択態度~~    
■ 商品の購買実験(商品の干渉) 図表1 商品の購買実験(商品の干渉)
NB商品とPB商品について、NB商品の価格を固定し、PB商品の価格を変えながら、どちらを選択するかを調べてみる。実際に自分たちでやってみると、改めて人間の商品選択の仕方を再認識することができる。
水やお茶は価格が同じであればNB商品だが、10円、20円とPB商品の価格を下げていくと、すぐにNB商品からPB商品を選択する人数が増加する。一方、コーラは30円、40円、50円とPB商品の価格を下げていってもPB商品を選ぶという人はあまり増えない。
経験的にNB商品とPB商品の違いがあまりないと分かっている(リスクが小さい)水・お茶に対し、あまり馴染みがなく、万が一失敗した時のダメージ(最悪の場合、飲まずに捨てる?リスク)が大きいと思われるコーラは価格よりもNB商品の信頼性を選択する。

①スーツ
 1万円から10万円まで1万円刻みでスーツがあったと仮定し、いくらのスーツを買うか選択してもらう。
多くの場合Aでは7万円以上を買うという人は少なく5~4万円前後に集中する。平均単価は4.4万円である。
次にBではAで少なかった7万円以上をカットし、1万円から6万円とする。中心は4~3万円に移り、5万円、6万円を買うという人は減る。平均単価は3.4万円に下がる。
Cでは同様にして、買う人が少ない6万円をカットし、1万円から5万円とする。中心は4~3万円であるが、Bより全体的に低い価格が増える。平均単価は3.2万円と最も低くなる。
全体を見ると、売れないからと言って高価格帯の商品をカットしていくと、平均単価は下がる。「買わない」という選択肢を加えた実験では「買わない」という人数が増える。
これまでPOS分析による品揃えの改善とされてきた「売れない商品をカットする」ということをそのまま忠実に実行すると、平均単価は下がり、買上点数も減る。客離れも起こるから簡単ではない。

②弁当
コロッケ、メンチカツ、チキンカツ、とんかつ、ビーフカツという5種類の弁当の価格を色々と変えて、どれを選択するかという実験である。
Aでは、全て500円の均一価格、Bではビーフカツから20円ずつ価格を下げていく。同様にCではビーフカツから50円ずつ価格を下げ、Dでは全てをCのままとし、ビーフカツだけ日替わりで298円とする。
 Aでは、とんかつ、ビーフカツに集中する。素材の序列を考えてとんかつ、ビーフカツは割安、コロッケ、メンチカツは割高という意識が働いたと考えられる。
Bでは、まだ価格差が小さいのか、Aと大きな違いは見られない。
Cは、商品格差と価格差とが上手い具合にバランスし、払ってもよいと思う価格とおかずの好みが一致した結果、それぞれにバラけた結果になっている。商品それぞれの値頃感、価格のバランスがうまく取れた商品構成ということができるだろう。
Dでは、ほぼすべての人がビーフカツに集中する。おかずの好き嫌いというよりは損得だけで選択していると考えられる。
このように商品は周辺にある他の商品に影響されながら売れ方が変わる。このように相互に影響しあうことを「商品の干渉」と呼ぶことにする。
重要なことは、同じ品揃えでありながらA、B、Cで売れ筋だったとんかつがDでは死筋、同様にA、Bで売れ筋、Cでは死筋のビーフカツがDでは断トツの1位になってしまうことである。
** POSデータでは、このような周辺にある他の商品の影響を知ることはできず、ただSKU(Stock Keeping Unit;絶対単品)ごとの販売数量だけで判断せざるを得ない。POSという情報システムの限界である。

③ポロシャツ
ポロシャツの購入実験は、A赤と白2色から徐々に色を足していき、Fでアクセントカラーの赤、ピンク、クリーム、パープル、ベーシックカラーの白、グリーン、紺、グレー、黒の全9色まで増やしていき、それぞれの条件でどの色を選択するかという実験である。選択肢には購入しないという選択肢も加えてある。
アクセントカラーは別にして、ベーシックカラーは色を追加するたびにその中で色の移動=競合が起こる。
G、HはFのフルカラーから誰も選択をしない0人、あるいは選択数が少なかった色をカットして再度どの色を選択するかを聞いていったものである。
ここでのポイントは、色の増減に伴って変化する「購入しない」人数である。色数が増えるにしたがって「購入しない」人数は減少し、フルカラーのFでは0人になる。
しかし、誰も購入するという意思表示がないアクセントカラーの赤、ピンク、クリーム、パープルをカットしたGでは購入しないという人が3人に増えている。
「購入しない」と答えた3人に確認すると、自分が買うことがなくても、より多くの品揃えがある中から選びたい、そうでなければその店では買わないという。
**消費者にとっては販売データには表れない、売れない商品の効用も重要である。POSデータで売れないからと言って商品カットすることで品揃えが悪化すれば、お客は買うのをやめて他の品揃えの良い店へと移ってしまう場合もある。
品揃え、商品構成の本質を理解せず、機械的にPOSデータだけで判断すると間違えることになる。

2-2.購買動機による商品のタイプ
購入動機別に商品のタイプを整理すると、大きく次の3つに分けることができる。
①価格が重要な意味を持つ商品
洗剤や紙類など、ある程度品質が安定し、メーカー間、ブランド間の差があまり感じられないような場合、商品の購入決定に重要な意味を持つのは「価格」である。
②機能・性能が重要な意味を持つ商品
使う際の機能、性能、使い勝手などが重要な意味を持つような商品で、明らかに商品間に機能、性能の差が認められる場合には、購入に際してデザインや価格よりも機能、性能が重要な意味を持つ。
③CMのタレントや憧れのスポーツ選手などイメージが重要な意味を持つ商品
著名人が身に着けているのと同じブランドの服、バッグ、アクセサリー類、憧れの有名スポーツ選手が使っているのと同じタイプのスパイク・用具類、…のように憧れや共感など情緒的要素が購入決定に重要な意味を持つ商品は、価格や機能・性能とは異なる情緒的要素が重要になる。
①、②が価格や機能、性能といった比較的分かりやすい尺度であるのに対し、情緒的商品は感じ方という分かりにくい尺度が基準になる。
一見同じに見える同一品種の商品であっても、消費者にとっての意味が異なれば、購買動機、購入を意思決定する際重視する要素は変わる。
例えば、子供がサッカーのスパイクを買う際、憧れの有名選手が履いているのと同じモデル=その選手とイメージを重ねて履くことが重要であれば、多少価格が高くても「憧れの有名選手と同じモデル」であることが重要な意味を持つ。
履きやすさ、走りやすさ、蹴りやすさなどを重視する場合なら、自分の足型に合い、機能的、性能的にも走る、蹴るなど使用場面を考慮した合理的な設計になっていることが重要である。
一方、育ち盛りでどうせすぐ小さくなり、履き方も荒いからすぐに買い替えなければならないというのであれば、そんなに高価なものはいらないということになり「価格」が重要な要素になるだろう。
このように同じ子供用のサッカースパイクであっても消費者にとっての意味が異なれば、それぞれの価値観に応じて異なるマーケットが形成される。
商品特性による購買動機、買い方(売れ方)などについてキチンと理解をしないと、ファッション性など良いイメージが購買動機となる商品を大量に陳列し、大きなPOPで価格訴求するようなミスマッチを引き起こすことになる。
購買動機の違いに応じて、商品そのもの、価格設定、商品構成、陳列・演出方法、販促、…など、取り扱い方も変えた方がお客にも分かりやすく、購買につながる確率は確実に高まる。
★機能という考え方については、別項でも触れているが、同じ品種として分類される商品であっても、消費者にとっての商品の意味が変われば様々なモノ・コトが変わる。
◆図表 商品の機能(意味)=購入を決定するキーワード

2-3.商品の使い方、買い方による分類
(1) 購入者の状態 知識・経験  ◆図表 商品に関する知識と使用経験
 昔から、消費者の8割が店に来てから買うものを決めると言われている(出所、根拠とも不明)。主婦がする夕食の買物では、実際に購入した商品が当初思い描いていたものと大きく違うなど決して珍しくない。売場の品揃え、価格設定、陳列・演出、試食などの売り方が商品購入に大きく影響するということだが、残念ながらその法則は未だ解明され、一般化されるには至っていない。
購入商品に関する消費者の知識、経験(購入・使用・消費)の有無が買物行動には大きく影響する。
それらは        のように整理することができる。
①知識、経験(購入・使用・消費)ともある場合、商品の特徴、使い方のコツなどいろいろなことが分かっており、値頃や買い方についても一定の基準をもっている。②知識はあるが、経験がない場合、興味を持てばトライユースへと向かう可能性は高い。そこまででない場合は単に知っているというだけで終わる。③知識がないのに経験があるというのは、もともと商品に関心がないと考えられ、その都度態度が変わる。④知識も経験もないのは、その商品との接点がなく、関心もないということになる。
これらは同じ人間でもある分野は①だが別の分野は④というように、商品ジャンルによって異なり、またレビューや口コミなどの影響を受けることによって変わる可能性があるので常に変化する。
重要なことは販売する側が消費者を①~④のどのポジションにあるとして商品の提供方法を設定しているかである。ポジションによってアプローチの仕方は変わり、ミスマッチであれば本来得られるはずの成果は得られない。

(2) 任せたい・面倒な買物、自分で選びたい買物  
  博報堂の調査レポート「『選ばない買物』へと向かう生活者(2018年1月31日)」では、消費者の購買行動と商品カテゴリーの関係を次のような切り口から整理している。
『過去における買物は、高度経済成長期における「揃える買物」、安定成長期における「憧れる買物」、失われた15年における「賢い買物」など状況も性格も異なるが、それぞれの時代において買物には「楽しさ」があった。それに対し、現在は情報、商品、買い方とも大量、複雑で我々の処理能力をはるかに超えており、買物そのものが楽しみではなく「ストレス」になっている。もはやすべての分野で「賢い買物」は不可能と割り切り、そこでストレスを回避するために「手間を掛けたい買物」と「効率を重視する買物」を意図的に分けている人が7割を超える』という。
消費者が「選べない」「選ばない」という状況は、すでにジャムの試食販売(試食の種類が多すぎると返って買上率が下がる)、ベビーカー(多すぎると選べずに買うのを止める)など、選択の科学、決定回避の法則などとして知られている。
どの商品が・どのように優れているのか・お買い得なのか・自分にとってよい選択なのか、…など、情報量・選択肢が多すぎて処理能力を超えた場合、消費者は思考を停止し、一連の買物行動を放棄してしまう。
「任せたい・面倒な買物」に分類されたのは、生活家電、娯楽家電、情報機器、有料スマホアプリ、金融商品、教育・学習教材、旅行・交通、有料定期配信サービス、ファッション系定額サービス、外食、医薬品・サプリ、洗剤、ボディ・ヘアケア品、化粧品、加工食品の15カテゴリー、一方、「自分で選びたい買物」は、生鮮食品、菓子・デザート、アルコール飲料、調味料、清涼飲料、オーラルケア品、家具・雑貨、ファッション、書籍・音楽・動画、映画・ライブ・スポーツ観戦、自動車、住宅の12カテゴリーである。
  前者は商品の種類が多く、複雑で、しかも入れ替わりが激しい。商品を理解するには専門知識・経験が必要であり、素人が独自に取り組むにはハードルが高い。
一方、後者は、身近にあって比較的安価、かつ消費して無くなり、失敗してもリスクが小さいなど気軽にトライユースできるものが多い。嗜好性の高い商品が多く、自分の感覚で判断したい商品である。自動車、住宅など異質と思えるものもあるが、これこそ他人に任せられない重要な買物ということだろう。
「任せたい・面倒な買物」については、プロやAIに託すことで手間をかけずに一定のクオリティ、コストパフォーマンスを担保する。その分の時間・エネルギーを直感的、感覚的に楽しめる分野にまわすことで、全体のバランスをとり、消費生活を楽しむというのが情報過多時代を生きる消費者の知恵・工夫ということになる。
これらのことから何となく見えてくるのは、情報量・鮮度と消費者にとっての商品・買物の意味・価値である。
専用アプリから常に興味・好奇心を掻き立てるような多くの情報が提供されるカテゴリーか、日常的、定型的で情報源・情報量とも限られる地味なカテゴリーか、自分にとって重要な意味を持つ商品・買物か、それとも単なる補充作業的な商品・買物かによって消費者は大きく態度を変える。
例えば、同じワインでも家族とふだん飲む場合であれば、あまり気にすることなく買う店(サイト)、価格などから商品を決めるが、大切な人に贈るのであれば、クオリティを考えて買う店(サイト)を選び、専門知識・経験のある人に選択を任せる、アドバイスを受けるなどしてクオリティを担保する。
 一定のクオリティで消費を実現したい、ギフト(商品)を通して自分のアイデンティティを表現したいなどの意図が働く場合、買物(購入商品)のクオリティが担保できる方法を選択する。また、そのような場合の選択肢も増えつつある。
改めて認識する必要があるのは、このような分野が確実に増えていることである。当然、買い方・基準も変わるから、品揃え・売場づくり・売り方なども変える必要がある。
商品流通における一つのポイントは、商品という「物」をベースにした品種分類とは別に、商品の意味、消費者にとっての価値による分類という概念を加えることができるか否かということになる。

(3) 商品購入時の状況 理由、制約条件  ◆図表 商品購入のシチュエーション 状況、理由、制約条件など
 我々が商品を買う時の状況は様々である。例えば、①何か今晩のおかずを買わなくては、…、②そろそろ醤油がなくなるから買わなければ…、③何か良い器があったら買いたい、④バレンタインデー用のチョコレートを買わなければ…、 ⑤お歳暮に何か送らなければ…、⑥日替わりで安いから買っておきたい…、⑦ポイントの期限までに使わなければ…、など、大きくは「必要」な場合と「欲しい」という場合である。
①は、商品、価格、数量とも決まっていないが、購入する店(サイト)、購入期限は決まっている。②醤油という品種(銘柄までは分からない)、どこで買うかという店、価格、数量、購入日のそれぞれ目安がある程度決まっている。③は、漠然と器が欲しいという願望であり、具体的な店(サイト)、商品、価格、数量、購入日のいずれも曖昧である。④はチョコレートという品種(具体的アイテムは決まっていない)、大枠の価格、数量、購入日は決まっているが、店(サイト)は定かではない。⑤は、店(サイト)、商品は決まっていないが、大枠の価格と数量、購入日は決まっている。⑥は、店(サイト)、商品、価格、数量、購入日のいずれも明確だが買うかどうかという最も重要な点が決まっていない。⑦は、ポイントの使い方が定型化していれば別だが、そうでなければ期限と金額(ポイント数)以外は決まっていない。
このように買物で重要になるのは、購入する店(サイト)、商品、価格、数量、購入日(期限)の5要素であり、それぞれが●明確に決まっている、●大枠で決まっている、●決まっていない、という3つのパターンがある。
あらかじめ店(サイト)、商品・価格と数量、購入日が明確な場合、買物が大きくブレることはないが、各要素が流動的な場合には買物そのものが大きく変動する可能性が高い。
特に重要と考えられるのは、購入商品があらかじめ決まっているか、それともその場で決まるかという購入商品の決定、いつまでに必要かという期限、商品によって購入する店(サイト)が決まるのか、店(サイト)によって商品が決まるのかという要素間の順位、主菜を買うついでに調味料も買うというように買物の主目的となる商品とついで買い商品という商品間の主従関係、コメのように単独で成り立つ商品かカレーや鍋のように関連する複数の商品で成り立つ商品かという商品特性、そしてこれら項目間の順位などである。
商品を販売する立場から見て、商品の売れ方は実に単純と思える場合と、まったく理解できない場合があるが、一つ一つ要素に分解して整理していくと、ある程度は何らかの法則に従っていることが多い。この法則を見つけるために、いずれビッグデータ、AIが活躍して精度を高めるのかもしれないが、現状でも仮説と検証によってある程度のことは整理できるはずである。

(4) 商品タイプと買い方のバリエーション ◆ 図表 買い方の違いによる様々なバリエーション 
商品のタイプは色々な切り口から分けることができる。前述の主目的となる商品/付随的な商品の他に、常備する商品(用途が広い、頻繁に使う)/一定間隔で買う商品/必要に応じて買う商品、繰り返し継続して買い商品/その都度代わる商品(一度買うと2度と同じ商品を買わない)、頻繁に買う商品/一定間隔で買う商品/一度買うとしばらく買わない商品、安くすると売れる商品/高くないと売れない商品・安くしても売れない商品、その他日常的な商品/誕生日やクリスマスなどイベント用商品、..など、様々である。
その他にも、来店するお客の多くが購入する商品と特殊な客層・特殊なオケージョンで必要になる販売数量・購入頻度の低い商品というとらえ方もあるし、汎用性の高い商品/限定目的にしか使われない商品、常備する商品/必要に応じて買う商品、小さな子供がいる家庭で必要な商品/成人家庭で使う商品/高齢者が使う商品/単身者が使う商品など客層による違いなどもあるから、「商品のタイプ」といっても切り口は様々である。
このように、商品は様々な要因によって買い方、購入先の選び方はなどが変わる。これらの関係をある程度整理することができれば、店舗における品揃えの仕方、売場づくり、売り方などを消費者にとってよりストレスのない自然なものにすることができ、自然と売上も上がる。

★問題は、これらの商品が客層、用途・機能、頻度、汎用性/特殊性、その他前述のような様々な商品特性・購買動機などとは全く関係なく、売場で扱われていることである。
商品と購買動機の関係をよく理解し、的確に対応することができれば、消費者にとってストレスのない買い物が実現でき、客数も売上も自然と伸びることが考えられる。
★参考 ◆図表 さまざまな調査からみる女性の特性

テーマパーク型SM、アミューズメント型SMをつくろう!-2

■Stew Leonard`sに見るテーマパーク型SM、アミューズメント型SMのイメージ
すでに店内でレタスの水耕栽培を行い、販売するということはずいぶん前から行われていたが、販売する商品をつくるというだけで、店舗そのものは従来通りの食品スーパーと何ら変わることはなかった。
実際に食品スーパーが持つ加工・製造機能は多いが、それらはお客からは見えないバックヤードに追いやられ、商品を売る売場とは一線を画している。保健所の指導もあり、バックヤードは厳密に分けられているから現在のままでは難しいかもしれないが、発想を変えてテーマパークと割り切れば、動物園がやっているようなバックヤードを見せ、日ごろ表から見えない世界を体験できる全く別形態の商業施設として成立することも可能だろう。
すでに、いろいろなところにアイデアはあるから、新しい形態はそう難しいこととは思わない。
例えば、マスコミなどにもよく取り上げられるハローディ(本社福岡県北九州市)の売場コンセプトは「アミューズメント フードホール」、売場には様々な人形や工夫を凝らしたディスプレーが溢れている。さながら食品スーパーのおとぎの国とでもいったところであり、これらのディスプレーを維持発展させるため、通常の食品スーパーとは異なる仕組みを確立している。
 しかし、何といっても「テーマパーク型ストア」の本家本元はスーパーマーケットのディズニーランドといわれたStew Leonard`sだろう。見るだけでも十分楽ししいが、売っている商品の多くが目の前で作られていることで、より一層新鮮さを感じることができる。
 Stew Leonard`s in Farmingdale, Long Island, NY Tour (https://www.youtube.com/watch?v=OlEODkk1FfI)、Stew Leonard’s Norwalk Store Tour with Will(https://www.youtube.com/watch?v=OlEODkk1FfI)では店内の様子、取り扱う商品などがよく分かる。
 消費者が動画や写真を撮ってYouTubeなどSNSにアップするにはそれなりの理由がある。自分がいつも買い物をしている店を誇りに思い、自慢したい、多くの人に知ってもらいたいという意識であり、消費者が自分の目を通してその店の魅力をPRする。お客目線の究極の販売促進である。
 
 動画を見ればある程度のイメージは伝わると思うが、売場のアチコチに置かれた人形たちが、ディズニーランドのイッツ・ア・スモールワールドのように音楽を演奏し、歌い、踊っている。
 「WORLD LARGEST DAILY STORE」「FARM FRESH FOODS」と看板に大書しているように、店の内装は木を多用し、昔ながらの農場やマーケットのイメージを演出している。レイアウトは日本の一般的な食品スーパーのように無機質な直線レイアウトとは違い、IKEAのような商品のコーナーを強調したつくりになっている。インショップのようにコーナー化された売場のバックヤードでは多くの専門職スタッフが商品を作る様子も見られるようになっており、お客は商品ができる様子を見ながら売場を回り、「出来たて」「新鮮」を肌で感じながら買い物をする。牛乳も同様であり、牛の人形が愛想を振りまくバックには牛乳プラントがあり、牛乳がパックされる様子をガラス越しに見ることができる。
 様々な商品が作られ、つくりたての状態で提供されていることで、店全体が理屈抜きに新鮮さを主張している。お客は商品それぞれに応じたストーリーによって演出された売場をワンウェイで歩きまわりレジへと向かう。はじめて訪れた人は、次は何が出てくるのか、ワクワクしながら歩き回ることだろう。
 筆者が提案するテーマパーク型ストア、アミューズメント型ストアの一つの典型的なモデルと考えている。
 HPやSNSからも読み取れるが、テーマパーク型ストアは、ただ店内で商品をつくり、売っているだけではなく、お客を虜にするような様々な企画が必要である。
 Stew Leonard`sもバレンタインデー、ハロウィン、サンクスギビングデー、クリスマスなど大きなイベントはもちろん、日常的に子供を対象とした様々な料理教室やダンスパーティなど地域のコミュニティともいえる様々なイベントが行われる。
 日本でこのような店舗を志向する際に不可欠になるのは、企画・プロデュースを行う組織、人だろう。形をつくっただけではすぐに飽きられる。テーマパーク型ストアは、すでにただの物売りとは違い、テーマパークであるということを認識する必要がある。

■変化の時
多くのSMが人件費をコスト削減の中心に置いたことで、結果として管理レベル・売場レベルは著しく低下している。量販と安売りにこだわるあまり、取扱商品を限定し、さらにレジ精算までを消費者に依存するセルフレジになれば、そこはすでに「物」を入手することだけを目的とした無人倉庫のような存在になる。
全体がそのような方向に向かえば、テーマパーク型ストア、アミューズメントパーク型ストアの相対的価値(楽しめるという店としての価値ばかりでなく、希少価値も)は確実に高まるだろう。消費者の変化を理解し、すべての要素が上手く噛み合えば、マーケットにおける価値の向上とともに、経営効率も高まり、戦略的には一石何鳥もの相乗効果が得られる。
例えば、Stew Leonard`s では、多くの商品を店内で加工・製造することで、店全体がSPA(製造小売)型ディビジョンの集合体のような構造になっている。原価率は抑えられ、お客の目の前で製造することでリードタイムは短縮して需給調整もしやすい(もちろん製造ロットという制約はついて回る)。その結果、チャンスロス、値下げ・廃棄ロスへの対応が柔軟にできるというメリットがある。
さらに多くの製造工場を店内に持つ構造は、物流工程(工場から店に運ぶ横持)を省くことができ、物流コスト削減という大きなメリットもある。しかも、加工・製造スペースが工場見学のような役割も果たしているから、常に「出来立て=鮮度」をアピールしながら、テーマパークやアミューズメントパークのようにパフォーマンスを見せる演出も可能になる。
多くのSMがコストダウンのために(もちろん、衛生管理など安全上の要素も大きいが...)プロセスセンターや協力工場、バックヤードなどで加工・製造を行い、商品ができる様子をお客から見えなくしているのに対し、一方では工場見学、あるいはパフォーマンスとしてモノができる様子を見せ、試食を提供すること(出来立てでなければ本当の意味でのおいしさを味わえない商品も数多くある)で様々なメリットを実現している。
あらためて国内の「食」関連店舗を見直してみると、作る場面を見せることで、付加価値を高めている店舗は実に多い。
例えば、大丸東京店のねんりん家は、わざわざバームクーヘンを作る様子を見せるためにガラス張りにしているし、パパブブレ東京大丸店は、周囲3方から飴づくりのパフォーマンスが見えるようガラス張りのブースが作られている。様々な色の飴を組み合わせ、伸ばし、リズムに合わせて素早くカットするパフォーマンスは、企業のアイデンティティであり、商品価値そのものである。
また、カフェコムサはその日提供するフルーツケーキのデコレーション作業を客席に面したブース内で行うことでお客に作り立てであることを印象付けているし、シュークリームにカスタードクリームを注入する様子をお客から見えるようにしたシュークリーム専門店、焼き立てのパン、クロワッサンなどをお客から見えるように提供する焼き立てパンの店、麺の湯切りをパフォーマンスとして見せるラーメン店など、「つくる」シーンをパフォーマンス、企業のアイデンティティ、付加価値として見せる企業は多い。
それに対し、我国のSMでは、店舗設計段階で作業場の中が見えるように計画していても、実際に運用がはじまると、ほとんどの店舗で前面のガラスを商品で覆い隠し、中を見えなくしてしまう。
効率を優先するというよりは、ところせましとどこへでも商品を並べてしまう、整理整頓できない作業場を外から見えないようにするというのが主な理由であるから残念である。
Stew Leonard`s と日本のSMを見比べて、そこに感じる大きな違いは、Stew Leonard`s では、ディズニーキャストのようにスタッフが楽しそうに商品を作り、それを買うお客も買い物を楽しんでいるように思える。それに対し、日本のSMは、あくまでも作る所はお客に見せない、従業員も黒子だから顔が見えない、店頭に並ぶ商品も仕様通りに作られた既成品だから作る人の顔が見えず、人が感じられない。当然、お客も機械的に買い物をこなすだけになるから、一言も会話をせずに買い物が終わることも珍しくない。楽しさとは程遠い機械的な補充作業のようになる。
テレビで商品づくりの裏側を紹介する企画があると、その翌日にはとり上げられた商品の売上が大きく伸びる。ふだん知ることのない業界の裏話は消費者の興味、購買意欲を掻き立て、トライユースへと向かわせる。
このような消費者心理を理解すれば、SMの裏側も有効な販促手段となるはずだが、なぜかそうする企業は見当たらない。

「つくる」ことに「見せる意味・価値を付加する」のと、あくまでも「お客に見せてはいけない裏の作業として隠す」のでは大きな違いがある。
例えば、スポーツビジネスとして大きく変貌を遂げる大リーグ(MLB)をみると、ヤンキース球場のグランド整備はYMCAの音楽に合わせてグランドキーパーが踊り、グランド整備をパフォーマンスとして見せる(別にグランド整備だけを専門に行うもスタッフもいる)。
グランドキーパーはあくまでも黒子、目立ってはいけないという考え方から、どうせお客の目につくなら、いっそのこと観客も楽しませながら、本来のグランド整備もこなせばよいというように変わると、いつしかお客も一緒にYMCAを口ずさむようになり、やがて一つのイベントとして定着する。
いまでは、様々なデジタル技術によって、お客は手元のスマホを通していろいろなモノ・コトを楽しむことができるようになっている。今後、ますます興味の範囲を広げていくことだろう。
純粋スポーツとしてストイックに野球を追い求めるだけではなく、スポーツの持つ様々な側面をエンターテイメントとして掘り起こし、ボールパークと呼ばれるように家族連れで一日中楽しめる、あるいはビジネスの商談場所としても使えるというように、その対象・オケージョンを大きく広げることでマーケットの意味を根底から変え、ビジネスとしての可能性を大きく広げている。
同じベースボール、野球でも、観客の目を楽しませる、興味を引く切り口をたくさん持つのと、ただ黙々と勝敗を競うのでは、ビジネスとしての質、レベル、可能性が大きく違う。人がたくさん集まり、ビジネスの規模が大きくなることでプレーヤー、ゲームの質も高まるから相乗効果によってビジネスは大きく成長する。
筆者は、いま、まさにこれと同様な変化への対応が、小売業には求められていると考えている。

店の意味を変えよう! 

■店が変わる必要性
すでにマーケット環境を考えれば、固定的な客層(足元商圏)の、固定的マーケット(日常の食事)を対象としている限り、店舗を維持することが難しいことは明白である。
 このような状況に対応するには、従来の固定的な客層・オケージョンに新たな客層・オケージョンを加え、従来のマーケットとは異なる新たなマーケットを開拓する必要がある。
そう考えれば、野球場をボールパークに変え、ベースボールをスポーツビジネスに変えるのと同様な修正がSMにも必要なことは十分理解できるだろう。
様々な要素を科学的に分析し、デジタル技術を駆使して、お客に従来見えなかった様々なモノ・コトを見せる、参加させる、体験させる、結果として様々な欲求を満たし、QOL(Quality of Life)を高めることで現在のSMも大きく変わることが可能になる。
昔、あるホームセンターの役員がリタイヤする直前に「長年、『効率』を追求してきたが、結局、効率の向こうに効率はなかった」とつくづく言っていたことがある。敗者の弁と言えなくもないが、一つの時代の結論とも言える。
コスト削減のために、販売に手間のかかる商品をカットし、売場作業を減らして人員削減を実現し、効率化を図ろうとしてきた。しかし、そうすると、それ以上に売上は低下し、粗利も下がるから、結局、いつまで経っても追い求めた「効率」を得ることはできなかった。業績はもちろん、売場、商品、人(知識・技術・モチベーション)など、すべてが取り返しのつかないほどに疲弊し、悪化してしまった。
特に大きかったのは、客離れである。ローコストを優先し、お客にとっての売場の魅力、買い物の楽しさが失われれば、どんなにコストが下がってもお客は店から離れていく。
そういえば業務改革で高収益を誇ったイトーヨーカ堂も、いまでは話題になることもなくなってしまった。科学的に問題解決を行い、乾いた雑巾をさらに絞るといわれたメーカーのように利益を生み出したイトーヨーカ堂も、残念ながらマーケットの変化にまでは科学的な対応ができなかったということなのかもしれない。
上手の手から水をこぼれないようにと技術を磨いてきたが、いつの間にか水を湛える泉は他所に移っていた。上手に水をすくう術も大切だが、それとともに水が豊富に湧き出る泉を見つけ出す術もそれ以上に重要になる。
現在はAIなどデジタル化の進展、ECの台頭、人口減少・高齢化など、売上を左右するマーケット環境が急激に変化している。それに対応することができなければ、いくらコストを削減し、日常業務を改善しても経営を維持することはできない。
科学的に問題解決することは重要であるが、その対象は従来のコスト偏重から売上・利益を上げるためのマーケット分析、ビジネスモデル(仕組み・仕掛け)開発へとウエイトが移っている。

筆者が提唱するテーマパーク型ストア、アミューズメント型ストアも、全ての店舗を同じように変えようという単純なものではない。立地や経営環境によって、いくつものタイプに分化する必要がある。
最も基本的なこと、ビジネスの本質は、消費者が「なぜ、その商品を欲しいと思うのか」「なぜ、その商品を買おうとするのか、買ってしまうのか」であり、それが理解できなければ、いまの時代に商品を売りこなすことはできない。
すでに生活にどうしても欠かせない必需品を売る時代ではなく(基本機能的商品だけではマーケットはシュリンクするから店舗が維持できない、経営が成り立たない)、なければなくて済む、ある意味不要な商品(二次機能・三次機能的商品)を、いかにして喜んで買ってもらうのかという時代になっている。
そのためには、消費者の生活、興味、価値観、欲求など購買心理の大元にある様々な要素を理解し、消費者に響く(共感を得る)アプローチ、売り方をすることが必要になる。
今後、ますますそのような商品を売ることが重要になると考えれば、根本的に発想、仕組みを変えていく必要がある。
SMも野菜、肉、魚など「物単体を売る」時代から、「健康に良い食生活」や「いつまでも若々しく美しくいられる食生活(アンチエイジング、セルフメディケーション)」など、「ライフスタイルとしての食」「カルチャー(食文化)としての食」「二次機能、三次機能としての食」を提供する店舗に変わる必要がある。
 テレビで何かが良いといえば、次の日にはその商品がいつもの何倍も売れることは、誰もが経験的に知っているが、その本質を理解し、ビジネスモデルとして確立することはできていない。
いつまでも、「物単体」を売るのではなく、お客と商品の意味、価値を共有しながらQOL(quality of life)を高めるための時間・空間として売場を創り上げることが求められている。

テーマパーク型SM、アミューズメント型SMをつくろう!

■新しいニーズを創造する新しい形態の店を創ろう
足元商圏に住む固定的な客層の、日常の食事という固定的なニーズだけを対象としたままでは、人口減少・高齢化する、固定された商圏内で店舗を維持することは難しい。
お客にとっての店舗の意味・評価・来店理由は、自宅から近い・アクセスが良い、商品が安い、品質・鮮度が良い・美味しい、店がきれい・清潔・感じが良い、サービスが良い・接客が良い・スタッフが親切・感じが良い、品揃えが良い・何でも揃う、他店にはない商品・変わった商品がある、見ているだけでも面白い・楽しめる、…等々、色々と考えられる。
全ての商品が安ければよいというわけではないし、メーカーのショールームと見まがうばかりにたくさんの種類があればよいということでもない。
我々が直面する状況を冷静に判断すれば、従来の発想から転換し、「商圏を広げる」「対象とする客層・ニーズを広げる」というように戦略、ビジネスモデルの転換が必要になることは言うまでもない。
ここではテーマパーク型SM、あるいはアミューズメント型SMを提案したい。

■テーマパーク型SM、アミューズメント型SM
経済産業省の定義では、テーマパークとは、入場料をとり、特定の非日常的なテーマのもとに施設全体の環境づくりを行い、テーマに関連する常設かつ有料のアトラクション施設を有し、パレードやイベントなどを組み込んで、空間全体を演出する事業所 とある。
SMの常識からすれば、入場料や会費など何らかの形で料金徴収することには抵抗があるだろう。しかし、それに見合うだけの価値、クオリティが実現できれば別に問題があるとは思わないし、むしろその方が競合他社との大きな違い、優位性になるとさえ考えられる。
ユザワヤは会員価格という形で会費の意味を明確に示したし、かつての赤ちゃん本舗も卸と会員という名目で会費を徴収していた。コストコは4400円という高額な年会費にもかかわらず多くの消費者に支持されているし、それよりも高額なアマゾンは様々なサービスを提供することで、全世界1億人ともいわれるようにプライム会員を増やし続けている。
これらの例を見ても、入場料や年会費、施設・イベントへのチャージも、その価値、メリットさえ消費者が納得できるものであれば、返って有効な仕組みとなる。
問題はそれに見合った価値・クオリティを提供できるか=本当の意味での真剣勝負ができるかという一点につきるだろう。
これまで「食」に関する様々なテーマパークやメーカーのアンテナショップが作られているが、取り扱う商品、表現形態は違っても、それらの施設はほぼ同様な構成になっている。
大きくは、①白い恋人パーク、埼玉種畜牧場 サイボクガーデン緑のひろば、犬山市のお菓子の城のような複数の施設から構成される総合的なテーマパーク(小売で考えるとショッピングセンター)、②カップヌードルミュージアム、新潟せんべい王国、群馬県のこんにゃくパークのような単独テーマのテーマパーク(小売で考えると大型専門店)、③広島お好み村、ラーメン博物館、ナムコ・ナンジャタウン(ビルインで餃子・アイスクリームなど複合)、大阪たこ焼きミュージアムなどのような同一業種店舗を集めた形態(小売で考えると専門店ビルやカテゴリーキラー)、④地域の特産面・名産品の販売、…などであり、基本的にそこで行われている内容は次のようである。
 入場料やチャージは施設の性格によって有料・無料のどちらもあるが、ほぼ共通しているのが、同一業種の有名店舗の集約、工場見学・体験教室・オリジナル商品製作、商品に関する知識・歴史などの資料展示・解説、一般商品・限定商品販売、試食試飲・飲食、その他ゲーム・アトラクション・実演などである。

これらの施設は中・広域商圏を前提としているから、小商圏で成り立つ普通のSMからの転換は難しいようにも思えるが、重要なことは「商圏を広げる」「店のポジションを変える」という本来的目的と「現在の商圏を前提にすると成り立たない」というジレンマをどう克服するかである。
 多くの場合、「現状」が勝ってしまい一歩を踏み出せないから、いつまで経ってもほとんどの店が変われずに終わる。その分、変われる店は少なく、ブルーオーシャンへと進むことができる。
いずれにせよ、何のためにやるのかという目的からスタートしない限り、現状から抜け出すことはできない。
 最も簡単に現在のSMから転換できる形態を考えると、直営・コンセ・テナントなどによって畜産品だけを集めた店、海産物だけを集めた店、生花を含む農産品だけを集めた店、...というように、特定分野に特化したカテゴリーキラーを確立することだろう。
 例えば、畜産品のカテゴリーキラーであれば、豚肉専門店、牛肉専門店、鶏肉専門店、焼き肉用肉専門店、ステーキ用肉専門店、焼き鳥用肉専門店、ラム肉専門店などの他、ジビエ専門店(シカ・猪・クマなど)、ダチョウ・ワニ・ラクダ・ヤギ・カンガルー肉などの専門店、加工肉専門店、乳製品専門店、玉子専門店、昆虫食専門店、それに半調理品・調理済み品(惣菜)、調味料など周辺商品とイートインを加えて一つの建物の中にまとめ上げれば、日本に一軒しかないカテゴリーキラーが誕生する。
 もちろん、単に商品を集めただけの専門店の集合体では集客が限られるし、いずれ飽きられる。イベント・体験などSNSを用いたプロモーション・顧客の組織化、マスコミ対応など継続的に進化し続けることと発信し続けることが必要になる。従来のように、小ぢんまりとした世界で地味に商売をしているのと違い、お客にその良さ、楽しさ、珍しさなどを訴求し続けるプロデュース機能が必要になる。単なるカテゴリーキラーではなく、テーマパーク型SM、アミューズメント型SMである必要がある。
 商圏が広くとれ、しかも各店が畜産品、海産品、農産品、...というように専門特化し、棲み分けができれば、自社競合は起こらず、物流網を共有しながらECにも取り組める。しかも従来と比べてはるかに専門性が増すから、他社との差別化はもちろん、B2Bにも取り組みやすい。競争力のないSMを継続するよりは、いろいろな技術・ノウハウの蓄積も見込まれるから、将来を考えてもはるかにメリットは大きい。
 方向性が分かっていながら、なかなか一歩を踏み出そうとしないことは業界全体としての大きなリスクである。パイオニアの出現が望まれる。

ワクワクする店 食品ブティックを創ろう!

■ ワクワクする店「食品ブティック」を創ろう!
筆者が初めて「食品ブティック」を提案してから30年近く経つ。拙著「業務革新とクラシフィケーション」(株式会社商業界平成9年7月)追補「21世紀への提案」の中でも触れているが、バブルが崩壊した90年頃、ノンフーズの実験的な店舗を創り上げ、その後、食品スーパーでも新しいフォーマットをつくろうとアイデアを温めていた。
結果的にはバブルが崩壊したこともあり、アイデアは実現できずにお蔵入りになったが、現在のような状況を考えると、改めて提案するにはちょうど良い環境、タイミングと思っている。
消費を経済活動ととらえれば、売場は激しい競争の場であるが、「消費は文化」ととらえれば、そこは新たな文化を産み出す創造の場に変わる。
バブル崩壊後、売場はローコストと価格競争ですっかり荒廃してしまった。その結果、皆が疲弊し、日本中からワクワクする面白い売場が消えていった。どんなに表面を取り繕っても、本質は無機質な倉庫のような売場、お決まりの商品・値付け・価格訴求の販促、補充作業のような買物、…では、「店」「売場」「買物」の本来的意味は失せている。
ただ物理的に「物」を入手するだけなら、わざわざ手間暇かけて店まで行く必要はない。お客がネット通販・テレビ通販にシフトする一つの大きな理由と言ってよいだろう。
物が溢れる時代の買物は、物が充足していく時代のそれとは明らかに違う。そろそろローコストと価格競争で荒廃した無機質な売場ではなく、買物の楽しさ、面白さ、ワクワク感が得られる売場ができてもよい頃だろう。

◆「食」を改めて見直すことができる空間を創ろう!
日本では、壁面に生鮮食品、中島にグロサリーという古典的な食品スーパーの売場が昔から頑なに守られている。しかし、20~30年ほど前、本家本元のアメリカでは「食品スーパーは業種(業種の中に業態がある)」と言われ、食品スーパーはさらに様々なタイプの業態に別れていた。
入口付近の青果は本格的なシェフが作るテイクアウトデリやイートインに変わり、敷き詰めた氷の上に並べられた魚や彩鮮やかな青果売場はマグネットとして店の一番奥に配置された。
赤い絨毯にシャンデリアという高級スーパー、マーケットのようなつくりの自然食品スーパー、重量ラックに高く商品を積み上げ、パレットに山積みにした商品で安さを演出したウエアハウス型食品スーパー、そしてブティッキングという手法で商品をインショップ(ブティック)にまとめた食品スーパー、...等々、店の主張を表現する手法は様々であり、個性的な店舗が数多く出現した。
日本でも高級スーパーを標榜する店が現われたが、実態は内装や什器の色、スタッフの制服、商品の価格帯など表面的な装いを変えただけで、本質は何一つ変わっていなかった。結局、高い商品を売っているだけでは長続きせず、売上が落ちれば売場も商品もただの食品スーパーに戻っていった。
もし、高い商品を集めたのが高級スーパーというのであれば、筆者が提案する「食品ブティック」は高級スーパーではない。かつての東急ハンズやジョイフル本田のような店を現代風にアレンジし、発展させた「食品ブティック」という全く異なる専門業態である。
単に「物」を売るのではなく、ホームセンターのBIY(Buy it Yourself ; 材料は自分で買うが加工は専門業者に有料で委託する)のように、様々な機能的サービスを提供する。
お客が見たこともない食材は調理方法、食べ方を提示し、メニューのアイデアを提案するだけではなく、産地・生産者と情報交換できるネットワークの設定、お客が買った生鮮食品の下ごしらえ、要望に応じた調理、店内のイートインで食べられる料理提供(消費増税次第でイートインもどうなるか分からないが…)なども行う。
シェアキッチンや地方の郷土料理(おふくろの味)を教え・提供するスタジオ(インターネットライブ配信)などを備え、「食に関するソリューション、エンターテイメント、エデュケーション」といったサービスを幅広く提供する。
テレビで話題の「伝説の家政婦志麻さん」のように、誰からも支持される革新的な食の新業態である。
子供の誕生パーティー、還暦・喜寿・米寿のお祝いなどに対しては、単に料理を提供するだけでなく、楽しく時間が過ごせるように企画提案・コーディネイトも行う。会場の他、様々なサービスの手配も行い多様なニーズに対応する。
会員に対しては、カルテに基づき管理栄養士が食事指導をし、調理サービス時にはカロリー、塩分、糖質、脂質などをコントロールする。さらに管理栄養士、理学療法士、作業療法士などによるアドバイス・レシピ提案、カルテ(データベース)・IoTデバイスで収集したデータに基づく生活管理まで行えば、医食同源を実践する地域の健康デポとしての機能も果たす。
「食品ブティック」に必要な商品はこだわって品揃えするが、取り扱う意味のない商品は扱わない。立地、売場面積、お客のニーズに合わせて物販を絞り込み、専門的な商品構成、サービスと売場創りに特化する。
価格競争から解き放たれた自由な空間は、お客の興味を掻き立て、好奇心、探求心、知識欲を満たすことで知らず知らずのうちにQOL(Quality of Life)を高める働きをする。売場を創るスタッフも、そこで過ごすお客も、心から楽しむことができる密度の高い空間である。
当たり前の日常(ケ)に意味を持たせ、ハレ(祭り)に変える空間を提供することが「食品ブティック」の重要テーマである。売場の意味も、消費する意味も、そこで過ごす時間の意味も、従来の小売店・飲食店とは全く違うから、競合する店は存在しない。最強の業態である。
そこに行けば、見たこともないような商品やサービスがあるから、遠くからでもお客は来店する。日本では単店で100億円を売り上げる「食」の店は見当たらないが、食品ブティックならそれが可能になる。アパレル比率が低下するショッピングセンターの次世代の核としても期待できる業態と言えるだろう。
現在は、「既存業態ではマーケット環境の変化・進化に対応できない」という点でバブル当時とどことなく似た状況にある。しかも、店が進化する方向性は大きく変わっていないのに、デジタル技術の進展によって使える道具は飛躍的に増えている。
まさに、「食品ブティック」を誕生させるには絶好のタイミングである。

◆食品ブティックの売場イメージ
主通路の外周壁面にはIKEAのようなシーン別コーナー、あるいは品種中心に構成したショップ(ブティック)を配置する。主通路の内側、売場中央には、生鮮食品を中心にマーケットのような売場をつくる。場所がまとまることで人との距離感が縮まり、賑わいを演出しやすくなる。
外周は物販、飲食、教室、キッチン、カウンターなど物販、サービスをミックスした様々な要素のショップで構成する。消費者と生産者・メーカーをつなぐ、来店する消費者同士をつなぐ、リアルプラットホームとしての機能を併せ持つ空間は、見るだけでも十分楽しめる複合機能の空間である。
かつてカーマ21岐南店が個人事業主など地元事業者を取り込み、様々な教室・サービス業を施設内で営業させる代わりにカーマにはない専門商品(取引先チャネル)を紹介してもらい販売するというコラボレーションに取り組んだことがある。食品ブティックにも取り入れたいアイデア、手法である。
現在であれば、AI(人工知能)、AR(Augumented Reality拡張現実)、VR(virtual reality仮想現実)、MR(Mixed Reality複合現実)など、様々なデジタル技術も活用できるから、限られた空間であってもテーマパークやアミューズメントパークのような要素を加えて機能拡張することが可能である。
すでに、野菜・果物の生育状況・収穫作業、あるいは魚の養殖場・漁の場面などをWebカメラで見るだけの時代から、(デジタル技術によって)その場面に自分が入り込み、疑似体験ができる時代に変わっている。
近い将来、リアル店舗もデジタル装備が充実し、様々に機能拡張するようになれば、店は単なる「物売りの場」から、消費に関するあらゆるシーンを「疑似体験する場」に変わる。

◆食品ブティックのアイデア  「食」をテーマに様々なシーンを再発見する、疑似体験する空間
消費者に直接商品を提供する「食」ビジネスは、「食材」「加工食品」「調理食品」を売る小売業と「料理」を提供する飲食業が中心である。小売業のメインである食品スーパーは、生鮮食品や調理食品に注力し、一通りのものが揃うワンストップショッピングにこだわるから、どこも同じ特徴のないフルライン構成になる。その結果、NB商品を扱わない成城石井が特別視されるように、一般から外れて専門特化した方が店の存在感が強調されることになる。ただし、取扱商品が違っても小売店であることに変わりはない。
一方、飲食店はその経営形態からも種々雑多な形態があり、個性的ではあるが、やはりどこも一様に料理を提供しているにすぎないから限界がある。最近では、料理アプリを提供する企業が、使う食材をネットで販売するというビジネスモデルも現れているが、別段物珍しさは感じられない。
そうであれば、商品を絞り、「未開のマーケット」である知識・技術・ノウハウ中心のビジネス、機能支援・機能代行ビジネス、情報・ビジネスのマッチング・プラットホーム、情報交換・参加・体験・交流・交換の「場」を提供するビジネスなど取り入れた店=人が集える物販とサービスの複合機能を持つ食品ブティックの方が人が動く分、商品も動かしやすいだろう。
食品ブティックを形づくるアイデア、ヒントは様々である。
例えば、バブル当時、生きた魚を扱い、丸のまま、三枚おろし、下ごしらえ、半調理、刺身、煮魚、焼き魚、…等々、客の求めに応じて加工・調理し、持ち帰りも、店内での飲食もできるという店があった。
食品スーパーと飲食店とでは仕入れルートが違うから当然取り扱う商品も違う。魚に限らず、肉や野菜も同様である。季節に関係なく、どんな状況下でも定番商品をかき集めて販売する食品スーパーと、その日仕入れられる良い商品だけを取り扱い、可能な限り良い状態で提供する店とでは根本的な違いがある。
また、日本は世界的に見ても多様な食文化=郷土料理を持つ数少ない国だという。東京をはじめとした都市部には数多くの地方出身者が集まっており、郷土料理、おふくろの味は「食」の重要なテーマでもある。外国人観光客にとっても日本の文化に触れることができる有用な空間になる。仮に全国47都道府県にある郷土料理を週替わりで扱ったら52週ではとても足りない。同様に考えると、増え続ける外国人観光客・ビジネス客・国内居住者の郷土料理も一つのテーマになる。
スペース、商品・サービス、スタッフ、…等々、全てを固定的に考えなければ、いつ行っても飽きが来ない魅力的な空間、「食」を通じて人が集う交歓・交流の「場」が出来上がる。

現在、重要なのはアイデア、企画力、情報力、技術力、マーケティング力を前提としたプロデュース力である。
人口が減少し、マーケットがシュリンクしていくことを考えると、店・売場を「食」に関するテーマパーク、アミューズメントパークのような空間に進化させるのか、それとも頑なに従来通りの物販にこだわり続けるのか、判断が分かれるところだろう。
筆者は、人口動態などマーケットの環境与件を考えると、かなりの確率で前者だと考えているが、どうだろうか。

二次機能型SM(ストア)をつくろう!

機能(働き、役割)という考え方がある。
基本機能はモノがモノとして成り立つ必要最低限の条件、食に関して言えば、安全に食べられて空腹を満たし、生体を維持するうえで必要となるエネルギー・栄養素が摂取できるということになる。
それに対し、二次機能は、①食品が持つ特定成分の働きにより健康や美容に役立つような働き、②友達とくつろぐ際のお茶やスイーツ、パーティ・懇親会での料理やお酒が果たす交流・交歓・親睦を促進する触媒としての働き、③インスタ映えという言葉に象徴されるようなSNS投稿の演出道具としての働き、④知識や技術を高めるといった自分を成長させるための題材、…など、食本来の機能=基本機能とは異なる様々な役割、働きである。
三次機能は三ツ星レストラン、有名シェフ・パティシエの店というように「提供される商品・料理」とは分離し、食とは直接的に関係のない独自の意味を持ちだしたものである。
消費者は基本機能が満たされると次には欲求が二次機能、三次機能へと向かう傾向にあることが経験的に分かっている。メーカーも差別化のために二次機能、三次機能を意識したマーケティング戦略、商品開発を強化するため、マーケットは自ずとそのような方向へと向かう。
マズローの欲求階層とも似ているが、機能間における順位はさほど明確ではなく、その時々のはやりなど状況によって様々に変化する。
すでに、食が「単に空腹を満たすだけの時代」は終わり、たとえデカ盛り、メガ盛りであっても、大辛メニューなどと同様、珍しさ(希少性)やゲーム性(早食い競争、我慢比べ、罰ゲーム、チャレンジなど)によって、「場」の雰囲気を盛り上げるための演出道具として用いられるケースが増えている。
最近の傾向として、身近にある「食」の意味、役割は他の商品分野と比べ物にならないくらい大きく広がっている。
人口減少・高齢化が進む現状では、すでに従来のように食品をただ「物」として売っているだけで店舗を維持することは難しい。
まして、同質化するチェーン店が縮小するマーケットの中でお客を取り合うのでは勝ち組なしの疲弊戦に突入することは明らかである。
根本的に変化する必要がある。

食品を対象に、基本機能、二次機能、三次機能について整理すると次のようになる。
例えば、ニンジンを例にとると、基本機能は煮物やカレーに用いる食材であり、安全に食べられて空腹が満たせ、一定のエネルギー・栄養成分が摂取できる。
また、ニンジンの三次機能はあまり思い浮かばないが、地域ブランドの雪下ニンジンなどがそれに近い。分かりやすいのは青森県田子町のニンニクなど、明らかに地域ブランドとして確立されたものであり、田子町というだけで独自の意味を持ち出している。
*いずれの場合も機能という考え方、意味を理解するうえでは比較的わかりやすいが、三次機能の場合、ブランドとしての認知度が高まり、そのポジションが確立できるまで(モノと分離してブランドが独自の意味を持ち出すまで)は、二次機能的要素が重要になる。

それに対し、二次機能では、①有機JAS(日本農林規格等に関する法律)に認定されており、「環境にやさしい」「安全・安心」といえるニンジン、②インスタ映えする赤、紫、黄色など様々な色の人参を用いたパーニャカウダ(いろいろな種類・色の生、あるいは温野菜をパーニャカウダソースで食べる見た目にもきれいな料理)といった「雰囲気を演出するための道具」としてのニンジン、あるいは③ニンジンの色によってβカロテン、リコピン、アントシアニンなどを多く含むことから「健康にやさしい食材」としてのニンジン、...などというようにフォーカスの仕方によってその意味、働きは様々に変わる。
二次機能は、モノをベースにして基本機能とは異なる副次的機能で、なおかつ三次機能のようにモノと分離して独自の意味を持つようになったものではないものすべてが対象となる。その範囲は広く、様々である。
また、前述のように、場合によっては三次機能との境目が曖昧な場合もあり、明確に線引きすることが難しいケースもある。
二次機能について、大きくいくつかのパターンに分けてとらえると次のようになる。
一つ目は、食としての本来的機能を超え、特定成分の持つ特性をコントロール(強化、減少、バランス化)することで健康、美容、ダイエットなどへの効用を期待する分野である。
例えば、リコピンを通常より多く含む加熱用トマト、トマトジュースなどである。リコピンの持つ抗酸化作用はβカロテンの約2倍以上、ビタミンEの100倍以上といわれている。脂溶性があり、加熱すると吸収率が高まるため、油と一緒に加熱調理して摂るとよいとされる。
同様に、低カロリーで食物繊維、特に水溶性食物繊維を多く含む食材であれば、腸内環境にもやさしく、ダイエットをはじめとした様々な効果が期待できる。寒天、キノコ類などがよく知られているが、茶葉や焼き海苔なども食物繊維、ビタミンCなどを多く含む。
地域の食性と寿命・特定の病気の罹患率の関係などから、健康に良いと考えられる食品と食べ方などが提言されることがある。医食同源といわれるように、日々の食事によって健康をコントロールするという役割である。
2つ目は、ティータイムのスイーツや酒席の酒・つまみ・肴、パーティ・宴会の酒・料理といった催し物、あるいは交流・交歓に際しての演出道具的役割、あるいはインスタ映えという言葉に象徴されるように、一つのシーンを演出する道具といった役割である。
インスタ映えでは、色やデザイン、意外性、話題性など、Web上で特定シーン、ストーリーを演出する道具としての役割であり、いわゆる「盛る(様々に加工して強調するなどし、演出する)」ことによって、現実とは異なる世界をつくり出す役割を果たす。
一方、ティータイムのスイーツや酒席・パーティ・宴会の酒・肴・料理などは、リアルの世界で、しかも一定時間、複数の人間が、同じ空間で時間を共有するため、同じ演出道具であっても、果たす役割ははるかに多く、複雑である。参加する人数やメンバーの距離感にもよるが、場合によっては、そこで提供される酒や肴、料理の産地、作り方、味、食べ方など様々なうんちくが会話の導入として重要な役割を果たすことも必要になる。美味しさや食べることでの満足感ばかりでなく、「場」を和ませ、また交流・交換を促進させるなど、多様で幅の広い役割が求められる。
 3つ目は、共通の体験を通して交流・交歓・親睦を図るといった場合の題材としての役割である。キャンプでの料理、バーベキュー、タコパーティなどが典型的な例であり、一緒に準備し、調理するなど共同作業を行うことで、ふだん見ることのできないお互いの異なった側面を知ることができ、親近感が増すなどの効果が得られる。
 4つ目は、知識・技術を高め、成長するための題材としての役割である。「食」「料理」は身近にあって馴染みやすく、自分の成長、自己実現のための題材としても取り組みやすい。
 キャラ弁をはじめ、魚の三枚おろしや珍しい外国料理など、あまり馴染みがない、あるいは技術的に難しいと思えるものであれば、できた時の達成感、充実感も大きく、周囲からの評価も高い。
 
★イートイン、グロサラントなど飲食業と小売業の境目がなくなりつつある状況を考えると、まだまだ多くの機能が分化して専門特化し、それらをミックスした業態が生まれても不思議はない。
 これまで、食品ブティック、テーマパーク型ストア(SM)、アミューズメントパーク型ストア(SM)を提案してきたが、一つの可能性として二次機能をベースに専門特化した食品スーパー、Sp.SM(Specialty Supermarket)を提案したい。
 物を物としてしか売っていない現状は、商品の本来的価値を引き出しているとはいえず、生産者、流通業者、消費者のすべてが損をしているとしか思えない。
マーケット環境を考えてもWIN- WIN- WINの関係ができる業態を創り上げることが必要だろう。

データ分析に使えないデータ設定、システム???

データ分析をしようとしても、使えない情報システムを、膨大な金額を投資して使っている企業は多い。
昔、ベテランのシステムエンジニアに、どの業態も商品を仕入れて、在庫し、販売するだけであるし、もとになる情報も商品の売価、原価、数量だけだから、まったく同じ標準的なシステムさえあれば、すべての業態、すべての企業が同じシステムを使うことができるのでは?と疑問を投げかけたことがある。
その時の彼の答えは、そんなことをしたら各企業からのカスタマイズがなくなるから、この業界の規模、膨大な数のシステムエンジニアなどの人材を維持することができなくなる、というものだった。
「業界を支えるためのカスタマイズ」という彼の説明がどこまで本当かは分からないがシステムに合わせて業務を標準化すると考えるよりは、自社の業務の仕組み・やり方に合わせて情報システムをカスタマイズしたがる企業は多い(というより、そういう企業ばかりである)。
小売業にとって必要なデータ、情報処理はある程度限られる。
情報システムもアレコレいじらずに基本をベースに設定すれば、必要なことは確実にできるし、その方が開発もメンテナンスも早く、安く、楽にできる。しかも使いやすい。しかし、なぜかどの企業もカスタマイズしたがるから不思議である。複雑なものほど高度で優れているという錯覚でもあるのだろう。ある意味、鞭の極みともいえる。
しかも、多くの時間と費用をかけて作ってしまった重たく、使いにくい、あるいは使えない情報システムは、簡単に捨てるわけにはいかないから、何年も付き合うことになる。悲惨である。
情報システムを更新するには、投資金額に見合った期間使う必要がある。その間、必要なデータ、欲しいデータが取れないから、企業のマネジメントやオペレーションのレベルは信じられないほどの低レベルから抜け出すことができない。
業務システムとは何か、情報システムとは何か、データ分析とは何か、という最も基本的なことが理解できていないまま意思決定をしたツケは少なくとも10年単位で影響する。

■数値の基本
数値は項目、単位、期間という3項目からなる。
項目は、売上、在庫、仕入の数量、金額が基本である。それに売価、原価、売価変更(値上・値下)・値入・粗利などの金額と率。客数(精算件数)・客単価・買上単価・買上点数、商品回転率や交叉比率、粗利率相乗積など、数値はいろいろあるがそれらは、売上、在庫、仕入、客数(精算件数)、買上点数など基本的な数値から算出することができるから、基となる数値は限られている。
知りたい情報も時系列変化、部門・ライン・クラスなど単位の系列で分解、統合して内訳や構成を見ることが中心だから、そんなに複雑で難しい処理も必要はない。
むしろ重要なのは商品構成であるが、残念なことにPOSのコード設計が元々事務処理であるため、単品の識別にしか使えない。
商品名、商品コード、JANコード、どれをとっても類似する商品を識別することは難しいから、商品が持つ特性のうち、どの特性が支持されて商品がよく売れているのか分からない。
例えば、チョコレートをタイプ別や成分別に売上(金額・数量・構成比)/在庫/仕入/値入/粗利/商品回転率などを見ようと思っても商品マスターを一つ一つチェックして集計しないと分からないから、そんなことに手間をかけて分析をすることはほとんど不可能といってもよい。
ビッグデータの時代でも、単品の識別は可能でも集計するためのフラッグがなければ肝心な集計ができない。ABC分析はできても様々な切り口での集計ができないデータでは、1つ1つ見るか、数百アイテムをまとめて合計として見ることしかできない。
例えば、週別に時系列でサイズ比率、色比率が変化することは分かるかもしれないが、色×サイズ別比率がどう変わるかはわからない、素材×デザイン、素材×デザイン×色×サイズなど、商品によって知りたい内容は異なるが、商品構成における最も重要な要素間の比率が分からない。

情報時代、データが重要と言いながら技術ばかり進歩しても肝心のデータ分析とは何か、データ分析のためにデータをどのように持てばよいかという最も基本的なことの理解がなければ、技術もシステムも生かせない。
そのことすら気づいていないとなると手のつけようがない。
本当の意味でデジタル化時代と言えるようになるには、実態を本質的に見直して変えていかなければならない。
データ分析からプログラミングまで一人でこなせるデータサイエンティストが必要とされるのも分かるような気がする。専門的なスーパーマンを養成するしかないが、まずは体制を整えることから始めるしかないのだろう。
対応が急がれる。