ワクワクする店 食品ブティックを創ろう!

■ ワクワクする店「食品ブティック」を創ろう!
筆者が初めて「食品ブティック」を提案してから30年近く経つ。拙著「業務革新とクラシフィケーション」(株式会社商業界平成9年7月)追補「21世紀への提案」の中でも触れているが、バブルが崩壊した90年頃、ノンフーズの実験的な店舗を創り上げ、その後、食品スーパーでも新しいフォーマットをつくろうとアイデアを温めていた。
結果的にはバブルが崩壊したこともあり、アイデアは実現できずにお蔵入りになったが、現在のような状況を考えると、改めて提案するにはちょうど良い環境、タイミングと思っている。
消費を経済活動ととらえれば、売場は激しい競争の場であるが、「消費は文化」ととらえれば、そこは新たな文化を産み出す創造の場に変わる。
バブル崩壊後、売場はローコストと価格競争ですっかり荒廃してしまった。その結果、皆が疲弊し、日本中からワクワクする面白い売場が消えていった。どんなに表面を取り繕っても、本質は無機質な倉庫のような売場、お決まりの商品・値付け・価格訴求の販促、補充作業のような買物、…では、「店」「売場」「買物」の本来的意味は失せている。
ただ物理的に「物」を入手するだけなら、わざわざ手間暇かけて店まで行く必要はない。お客がネット通販・テレビ通販にシフトする一つの大きな理由と言ってよいだろう。
物が溢れる時代の買物は、物が充足していく時代のそれとは明らかに違う。そろそろローコストと価格競争で荒廃した無機質な売場ではなく、買物の楽しさ、面白さ、ワクワク感が得られる売場ができてもよい頃だろう。

◆「食」を改めて見直すことができる空間を創ろう!
日本では、壁面に生鮮食品、中島にグロサリーという古典的な食品スーパーの売場が昔から頑なに守られている。しかし、20~30年ほど前、本家本元のアメリカでは「食品スーパーは業種(業種の中に業態がある)」と言われ、食品スーパーはさらに様々なタイプの業態に別れていた。
入口付近の青果は本格的なシェフが作るテイクアウトデリやイートインに変わり、敷き詰めた氷の上に並べられた魚や彩鮮やかな青果売場はマグネットとして店の一番奥に配置された。
赤い絨毯にシャンデリアという高級スーパー、マーケットのようなつくりの自然食品スーパー、重量ラックに高く商品を積み上げ、パレットに山積みにした商品で安さを演出したウエアハウス型食品スーパー、そしてブティッキングという手法で商品をインショップ(ブティック)にまとめた食品スーパー、...等々、店の主張を表現する手法は様々であり、個性的な店舗が数多く出現した。
日本でも高級スーパーを標榜する店が現われたが、実態は内装や什器の色、スタッフの制服、商品の価格帯など表面的な装いを変えただけで、本質は何一つ変わっていなかった。結局、高い商品を売っているだけでは長続きせず、売上が落ちれば売場も商品もただの食品スーパーに戻っていった。
もし、高い商品を集めたのが高級スーパーというのであれば、筆者が提案する「食品ブティック」は高級スーパーではない。かつての東急ハンズやジョイフル本田のような店を現代風にアレンジし、発展させた「食品ブティック」という全く異なる専門業態である。
単に「物」を売るのではなく、ホームセンターのBIY(Buy it Yourself ; 材料は自分で買うが加工は専門業者に有料で委託する)のように、様々な機能的サービスを提供する。
お客が見たこともない食材は調理方法、食べ方を提示し、メニューのアイデアを提案するだけではなく、産地・生産者と情報交換できるネットワークの設定、お客が買った生鮮食品の下ごしらえ、要望に応じた調理、店内のイートインで食べられる料理提供(消費増税次第でイートインもどうなるか分からないが…)なども行う。
シェアキッチンや地方の郷土料理(おふくろの味)を教え・提供するスタジオ(インターネットライブ配信)などを備え、「食に関するソリューション、エンターテイメント、エデュケーション」といったサービスを幅広く提供する。
テレビで話題の「伝説の家政婦志麻さん」のように、誰からも支持される革新的な食の新業態である。
子供の誕生パーティー、還暦・喜寿・米寿のお祝いなどに対しては、単に料理を提供するだけでなく、楽しく時間が過ごせるように企画提案・コーディネイトも行う。会場の他、様々なサービスの手配も行い多様なニーズに対応する。
会員に対しては、カルテに基づき管理栄養士が食事指導をし、調理サービス時にはカロリー、塩分、糖質、脂質などをコントロールする。さらに管理栄養士、理学療法士、作業療法士などによるアドバイス・レシピ提案、カルテ(データベース)・IoTデバイスで収集したデータに基づく生活管理まで行えば、医食同源を実践する地域の健康デポとしての機能も果たす。
「食品ブティック」に必要な商品はこだわって品揃えするが、取り扱う意味のない商品は扱わない。立地、売場面積、お客のニーズに合わせて物販を絞り込み、専門的な商品構成、サービスと売場創りに特化する。
価格競争から解き放たれた自由な空間は、お客の興味を掻き立て、好奇心、探求心、知識欲を満たすことで知らず知らずのうちにQOL(Quality of Life)を高める働きをする。売場を創るスタッフも、そこで過ごすお客も、心から楽しむことができる密度の高い空間である。
当たり前の日常(ケ)に意味を持たせ、ハレ(祭り)に変える空間を提供することが「食品ブティック」の重要テーマである。売場の意味も、消費する意味も、そこで過ごす時間の意味も、従来の小売店・飲食店とは全く違うから、競合する店は存在しない。最強の業態である。
そこに行けば、見たこともないような商品やサービスがあるから、遠くからでもお客は来店する。日本では単店で100億円を売り上げる「食」の店は見当たらないが、食品ブティックならそれが可能になる。アパレル比率が低下するショッピングセンターの次世代の核としても期待できる業態と言えるだろう。
現在は、「既存業態ではマーケット環境の変化・進化に対応できない」という点でバブル当時とどことなく似た状況にある。しかも、店が進化する方向性は大きく変わっていないのに、デジタル技術の進展によって使える道具は飛躍的に増えている。
まさに、「食品ブティック」を誕生させるには絶好のタイミングである。

◆食品ブティックの売場イメージ
主通路の外周壁面にはIKEAのようなシーン別コーナー、あるいは品種中心に構成したショップ(ブティック)を配置する。主通路の内側、売場中央には、生鮮食品を中心にマーケットのような売場をつくる。場所がまとまることで人との距離感が縮まり、賑わいを演出しやすくなる。
外周は物販、飲食、教室、キッチン、カウンターなど物販、サービスをミックスした様々な要素のショップで構成する。消費者と生産者・メーカーをつなぐ、来店する消費者同士をつなぐ、リアルプラットホームとしての機能を併せ持つ空間は、見るだけでも十分楽しめる複合機能の空間である。
かつてカーマ21岐南店が個人事業主など地元事業者を取り込み、様々な教室・サービス業を施設内で営業させる代わりにカーマにはない専門商品(取引先チャネル)を紹介してもらい販売するというコラボレーションに取り組んだことがある。食品ブティックにも取り入れたいアイデア、手法である。
現在であれば、AI(人工知能)、AR(Augumented Reality拡張現実)、VR(virtual reality仮想現実)、MR(Mixed Reality複合現実)など、様々なデジタル技術も活用できるから、限られた空間であってもテーマパークやアミューズメントパークのような要素を加えて機能拡張することが可能である。
すでに、野菜・果物の生育状況・収穫作業、あるいは魚の養殖場・漁の場面などをWebカメラで見るだけの時代から、(デジタル技術によって)その場面に自分が入り込み、疑似体験ができる時代に変わっている。
近い将来、リアル店舗もデジタル装備が充実し、様々に機能拡張するようになれば、店は単なる「物売りの場」から、消費に関するあらゆるシーンを「疑似体験する場」に変わる。

◆食品ブティックのアイデア  「食」をテーマに様々なシーンを再発見する、疑似体験する空間
消費者に直接商品を提供する「食」ビジネスは、「食材」「加工食品」「調理食品」を売る小売業と「料理」を提供する飲食業が中心である。小売業のメインである食品スーパーは、生鮮食品や調理食品に注力し、一通りのものが揃うワンストップショッピングにこだわるから、どこも同じ特徴のないフルライン構成になる。その結果、NB商品を扱わない成城石井が特別視されるように、一般から外れて専門特化した方が店の存在感が強調されることになる。ただし、取扱商品が違っても小売店であることに変わりはない。
一方、飲食店はその経営形態からも種々雑多な形態があり、個性的ではあるが、やはりどこも一様に料理を提供しているにすぎないから限界がある。最近では、料理アプリを提供する企業が、使う食材をネットで販売するというビジネスモデルも現れているが、別段物珍しさは感じられない。
そうであれば、商品を絞り、「未開のマーケット」である知識・技術・ノウハウ中心のビジネス、機能支援・機能代行ビジネス、情報・ビジネスのマッチング・プラットホーム、情報交換・参加・体験・交流・交換の「場」を提供するビジネスなど取り入れた店=人が集える物販とサービスの複合機能を持つ食品ブティックの方が人が動く分、商品も動かしやすいだろう。
食品ブティックを形づくるアイデア、ヒントは様々である。
例えば、バブル当時、生きた魚を扱い、丸のまま、三枚おろし、下ごしらえ、半調理、刺身、煮魚、焼き魚、…等々、客の求めに応じて加工・調理し、持ち帰りも、店内での飲食もできるという店があった。
食品スーパーと飲食店とでは仕入れルートが違うから当然取り扱う商品も違う。魚に限らず、肉や野菜も同様である。季節に関係なく、どんな状況下でも定番商品をかき集めて販売する食品スーパーと、その日仕入れられる良い商品だけを取り扱い、可能な限り良い状態で提供する店とでは根本的な違いがある。
また、日本は世界的に見ても多様な食文化=郷土料理を持つ数少ない国だという。東京をはじめとした都市部には数多くの地方出身者が集まっており、郷土料理、おふくろの味は「食」の重要なテーマでもある。外国人観光客にとっても日本の文化に触れることができる有用な空間になる。仮に全国47都道府県にある郷土料理を週替わりで扱ったら52週ではとても足りない。同様に考えると、増え続ける外国人観光客・ビジネス客・国内居住者の郷土料理も一つのテーマになる。
スペース、商品・サービス、スタッフ、…等々、全てを固定的に考えなければ、いつ行っても飽きが来ない魅力的な空間、「食」を通じて人が集う交歓・交流の「場」が出来上がる。

現在、重要なのはアイデア、企画力、情報力、技術力、マーケティング力を前提としたプロデュース力である。
人口が減少し、マーケットがシュリンクしていくことを考えると、店・売場を「食」に関するテーマパーク、アミューズメントパークのような空間に進化させるのか、それとも頑なに従来通りの物販にこだわり続けるのか、判断が分かれるところだろう。
筆者は、人口動態などマーケットの環境与件を考えると、かなりの確率で前者だと考えているが、どうだろうか。

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