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データ分析は地図を見るのと同じ。

データ分析は複雑で難しいというイメージが強く、数字アレルギーというように数字を見ただけで拒絶反応を示す人は多い。
一方、なんでも細かければ細かい方が良い、高度だと錯覚を起こしている人もいるから、データ分析に時間ばかりをとられてしまうことも多い。
重要なことは、デー分析の目的である。
「分析は目的にならない」「分析からは何も生まれない」というのは古くから言われてきたことであるが、流通関係の有名なコンサルタントから「POSデータは細かく見ているのだが、なかなか成果が上がらない」と相談を受けたことがある。
人はたくさんのデータを長い時間かけていじくりまわすと多くの場合、達成感、満足感を得ることができるが、それで成果が得られることはない。
分析の目的は、問題点・問題構造を見出し、修正の精度を高めることであるから、いくらたくさんの細かなデータに時間をかけて目を通しても、あるいはたくさんの表やグラフに表すなどしても、実態が変わらない限り、成果が得られることはない。
目的までのプロセスを考えれば、データ収集、分析はほんの前準備の一部に過ぎず、そこから得られた問題点・問題構造など認識できた問題に対して仮説を立て、適切な修正行動をとることが必要になる。
さらに修正行動は仮説にすぎないから、修正後の実績データを確認し、必要に応じて修正するというところまでが本来の分析のサイクルと考えるべきだろう。

そこでデータと分析の問題である。
データ分析は地図づくりと地図を使う行為とよく似ている。
地図は精度を要求するから、データは正確である必要はあるが、地図を見るときは大枠でしか見ることはない。それと同じでデータ分析も、もとになるデータは正確である必要はあるが、それと同じレベルで細かくデータなどを見ていたら、データ全体から見えるはずの問題点も見えなくなってしまう。
データ分析には一定のパターンがあるから、目的に応じて見方も変える必要がある。
全く状況がわからない時には、目的に関係する部分を絞り込みたいから、ウエイトの高い重点分野を確認する、あるいはとりあえず仮説によってデータを整理し関係ない部分を外していく。
関係のある部分がわかれば、データの変化に影響する要因や変化の仕方のクセを見出す。
地図でいえば、例えば主要道路、幹線など行くのに関係する大枠を絞り込み、その道路の状況や万が一の時の代替案などをあらかじめ用意することになる。

目的によって地図も見方は変わるが、目的地へ行く道を見るだけであれば細かく見ることはしない。同様にデータ分析も仮説を立て修正案の精度を高めるのが目的であれば、問題のポイントと修正点を絞り込むのに必要なところだけがわかればよい。
データそのものの精度は必要だが、データが細かい、多い、分析時間が長いことが必ずしも成果に結びつくわけではない。
重要なことは、いかに簡潔に問題点を絞り込み、迅速、かつ精度の高い修正が行えるかである。
地図を使いこなすのには実際の道路事情が分かっていることが大切であるように、商品・売場のデータ分析も商品・売場の実態を知っていると見え方が変わってくる。
データ分析も机上だけでは見えないことが多い。
もともとのデータが現場にあることを考えれば、帰納法的な視点が重要である。

データを使えば科学的か?

データを使えば科学的という錯覚がある。デジタルかが進み、様々なモノ・コトがデータ化されるビッグデータの時代にデータの意味を理解せず、鵜呑みにすることは危険である。
古くからブルーバックス(講談社)の「統計でウソをつく法」(ダレル・ハフ著 高木秀玄訳)のように統計によるウソを指摘する著書は多い。
データ、データ加工の前提を知っているか、知らないかが問題なのだが、正しく知れば便利なデータも分からないからとすべてを信用してしまえば騙される、勘違いして間違える危険性は高い。
学生に「カラスの話」をすることがある。カラスが飛ぶ高さ地上30mが高いか低いかと訊けばほとんどの学生が高い、あるいは低いと答える。
この時点ですべて間違えなのだが、数値で表示されるとなぜか正しいことのような錯覚を起こす。まして、これがGDPなど自分の知識を超えた経済の話や複雑な話になると「自分が分からいこと=すごいこと、それを話す人はすごい人」というような錯覚を起こす。
数値を使って人々を煙に巻き、自分の思うように扱うこともできてしまうから怖い。
前述のカラスの話の結論は、地上30mは事実であっても基準がないから高い、低いという判断が成り立たないというのが正解だが、誰もそのような訓練をされていないと事実データがあったとしても自分の感覚だけで判断してしまう。測定は科学的でも判断は実に旧態依然としており感覚に頼から、これでは高い精度の測定などいくらしても意味がない。

また、よくある間違いが平均に対する誤解である。
様々なデータを見るとき、そのデータがどのようにして求められたものなのかを省略してあるケースがある。
たとえば平均年齢50歳というと皆、あるいは多くの人が50歳(前後)であるような錯覚を起こす。しかし、100歳と0歳の平均は50歳だから実際には50歳の人が一人もいなくても平均年齢50歳がそのグループを代表する値となってしまう。
特定グループの年齢を代表して表す数値には、その他にも各人を年齢順に並べて真ん中の人の年齢を代表とする、あるいは最も人数の多い年齢をそのグループの年齢の代表とするなどがある。
また、どのような人たちのグループの平均をとっているのか、何人の平均をとっているのかなども重要になる。特定地域で住民の平均年齢を調べるのと、企業の社員、あるいは大学の学生寮で調べるのでは違って当たり前だし、人数によっても変わってくる。

平均だけでも、これだけあるわけだから、様々なデータが数値化されてくると、よほど数値の前提がわかっていないと判断を間違える。
POSデータなども、これしかないから仕方なく使っているが、単純に販売数量合計だけで見ていると取扱店舗数や取扱期間が違っていたり、初めから投入数量(売場在庫)が違っていたりなど、販売データに直接関係するような条件が全く違っていたなどということもある。

データが科学的かどうかというよりは、データをとる人、加工する人、見る人が科学的かどうかが問題になるということだろう。

小売業 データ活用のキモ、商品分類表は何のためにある⁉️

■使えない商品分類表
小売業に限らず、商品を取り扱う企業であれば、必ず商品分類表なるものをもっているはずである。
筆者もバイヤー時代に商品分類表の修正をやったことがあるが、商品分類という言葉から、どうしても商品を細かく分けていってしまう。
素材、デザイン、色、ブランド、….等々。素材も綿、ウール、ポリエステル、ナイロンなど素材成分もあれば、糸の種類、生地の織り方、表面加工、染め方・プリントの仕方など細かく見ていけばきりがない。
デザイン、色に関しても同様であり、正確に分類しようとすればするほど細かくなっていく。
一方、商品分類には情報システム上、必ず単位とコードがある。
部門、ライン、クラス、あるいは大分類、中分類、小分類などであるが、単位の数の桁数に合わせて、それぞれ0~9の数値が割り当てられるために、通常、最大で1つの単位は10まで、2桁使える場合には100までの分類が可能になる。

すべての間違いは、細かく分ける、10、あるいは100まで分けられるというこの2つの条件を前提に商品分類表を作ることによって引き起こされる。

商品分類表は、仕入から販売までのデータをまとめる入れ物の役割を果たす。
売上、仕入、在庫、値入、値下、粗利、…..等々、様々な項目について数量、金額、率などを集計する際の単位となるから、現実問題として、データを分析する際の単位、言い換えると計画する際の単位がどのようなものであることが最も実態をよく表し、また作業しやすいか、データを扱いやすいかという「使い方=目的」を重要視する必要がある。
かつて、ある企業は2,3年ごとに商品分類を変えていたため、長い間、昨年比を正確にとらえることができなかった。
また、別のケースでは、あまりにも細かく分けすぎたために、それぞれの分類単位の占める比率が細かすぎ、また作業も煩雑なために、まともにデータを分析することができなかった。
商品分類表を見れば、ある程度その企業のデータ活用のレベル、さらには情報システム(活用)に関する理解度のレベル、情報システムの完成度(業務とのマッチング)を知ることができる。
重要なことは、どれだけ多額の投資をしたかという情報システムの金額ではなく、実際に業務の精度を高めるためにどれだけ使いやすいか、有効活用できるかという効率や貢献度合いである。
データばかりたくさん取れてしまう時代になったが、その割にはデータとは何か、どう使うのがよいのかという最も基本的なことに関する理解は今一つ進んでいないように思える。
デジタル分野は急激に進化したが、現実とデジタルが持つ能力をつなぐ人間の頭、思考技術はまだ周回遅れにある。20世紀の遺物である情報システムや思考回路が残って幅を利かせていることを考えれば、進化は当分の間、遅々として進まないのだろう。
上野陽一先生ではないが「こうしちゃおられん」という気分である。

勉強って何?

テレビで中学受験を追いかけた番組企画を見る機会があった。また、勉強ができる子はどのような勉強の仕方をしているかなどの記事を目にすることも増えたような気がする。
勉強は教えるが、勉強の仕方は教えていないなどという記述を見ると、それでは、そもそも「勉強とは、いったい何だと解釈しているのだかろか?」と疑問に思ってしまう。
「勉強しろ」といっても「勉強の仕方」は教えない。「勉強の仕方を教えてないじゃないか」と疑問を呈している人が、実は「勉強とは何か」については触れずに、算数はこうして、英語はこうしてという標準作業の提案をしている。
これでは、いつまでたってもクリエイティブな子供など育つはずがない。
もし、テストの点を取りたければ、AIを用いている塾の方が合理的だろう。
テストの点は問題の範囲、傾向、解き方のテクニックなど、いくつかの要素に分けて分析し、取り組めば確実に上がることは分かっている。それを合理的に行うAIのプログラムも開発されて効果を上げている。
問題は、テストの点数が悪いとダメという決めつけ、勘違い、それ以前に「勉強とは何か」という最も基本的なことを明確にしない教育の構造とそれに気づかずにテストの点数、標準偏差値ばかりを追いかけている大人たちといったところだろうか。
どう考えても、もっとも重要な幼児期から小学校、中学校で「勉強とは何か?」ということが理解できていないから、教え方も教えている内容も違っているのだろう。
「勉強」は「いろいろなことに興味が持てるよう好奇心や観察力を養うこと」であるし、「モノ・コトを分かりやすくするための工夫」であるはずだが、どうも知識やテストの点を取ることと勘違いされる。
別に知識を否定しているのではなく、知識ならWeb上にたくさんあるから、それをコンピュータと競争しても始まらないことに早く気付くべきだと考えているだけである。
いわゆる賢い子は、知識の得方、記憶の仕方、論理の組み立て方などを工夫して、自分なりのパターン、法則を見出して使っている。
テストの点数の取り方=あるパターンの問題の解き方を覚えても使わなければすぐに忘れる。そんなことに大切な成長期の時間を費やすことなどもったいなくてしょうがない。
以前も別項に書いたが、義務教育、今の間違った教育体制を拒否する権利が必要である。
重要なことは、いろいろなモノ・コトに興味を持ち、観察して情報を得、それを工夫して理解しやすく整理する(法則性を見出す)能力=実技を身につけることである。
この能力は、状況が変わっても、表面的な知識が陳腐化しても活用できる。一定の範囲に限定されるが、よほどのことがない限り高い普遍性を持つ。
そのような能力を身につけるために、決して答えを与えず(質問によってヒントは与える)、自ら工夫して能力を開花する手伝いをすることが本来の「教育」のはずだが、今はそれを大きく外れて考える、工夫するというチャンスを奪ってしまっている。
少なくとも文盲率が高く、「読み・書き・そろばん」が重要だった時代のままが現在の教育というのでは、子供の可能性をはじめから否定しているのと同じである。

強い商品部組織をつくるための業務デザイン

◆強い商品部組織をつくるための業務デザイン
商品部組識のあり方、果たすべき機能について定説はなく、各企業の生い立ち、考え方、業態、企業規模、企業の成熟度合、仕入形態など、様々な条件により異なっている。
歴史的に見ても、人の移動に伴って様々な企業・業態のやり方が、人に付随する形で他の企業・業態に移植され、そこでまた独自の進化をするというように様々な考え方、手法、形態が交雑する形で出来上がっている。時として、MR(市場調査)、差益など、使う用語で出身企業が分かったように、それぞれの企業が独自の歴史、企業文化を持っており、それらが交雑すれば組織として一つのまとまったものが出来上がることは難しい。
したがって、多くの場合、業務/組識は、業務設計などの理論に基づいてアルベキ業務/組識が設計されたのではなく、 実践の中で交雑と修正を繰り返しながら現在の形に収束してきた。
組織を作ってきた人、組織の歴史、風土など様々な要因によって、様々な組識形態をとりながら流動的な運用が行われて来たというのが小売業の歴史である。
それらの状況が特に集約されて、顕著に表れているのが、商品部、販売部、店舗運営部などの営業部隊であり、部門構成や商品分類体系などの管理体系である。
しかし、様々なレベルにおける交雑の結果は、一つの思想、理論に基づく理路整然とした体系にはならない。いつの時代も課題としてあげられるのは、商品部と販売部の機能(役割)/責任分担、特に重要な役割を果たすと考えられる商品部の機能、業務の仕組み、手法、人材育成などである。
多くのチェーンストアにおいて商品部組識は、業界( メーカー、卸など )出身者によって形成されてきたという歴史がある。既にほとんどのチェーンストアでプロパー社員に入れ替わっているが、商品部組識にはこのような人達によって職人的、ブラックボックス的に運用されてきた名残がある。組織的、科学的なシステム(仕組)、技術・ノウハウではなく、個人の経験・ノウハウに依存している点である。したがって、いつになっても人材育成ができず、個人の人脈、センス・能力、モチベーションなどに頼る状況から抜け出せないでいる。
「販売技術」「商品構成技術」など、現場で行われてきたことを製造業のように「技術」として認識し、体系的にまとめてこなかった結果である。

一方、POSの導入によって商品登録・マスターメンテナンス、データ分析という煩雑な作業が加わり、さらに輸入商品などアイテム数の増加に伴い間接作業的業務は著しく増加している。さらにデータ分析が標準化されていないこともあって、個々人のスキルによってデータ活用のレベル、データ加工に要する時間も大きくばらついている。
既に、個人の能力だけで全てを処理できる状況にはなく、組織として、どのような機能を果たすべきか、そのためにデジタル技術をどのように活用し、どのような業務(仕組)/組織/システムによって対応すべきかが非常に重要になっている。
当然、これだけデータが増えた状況を考えれば、商品部/販売部組織内(あるいは外)にデータを一元管理し、意思決定を含む様々なレベルのマネジメントの精度を高めるためのサポート機能/専門部署が必要なことは言うまでもない。
ここでは、商品部組織に重点を絞っているが、MD(merchandising)全体を統括することを考えれば、商品部、販売部など組織を問わず、営業面を一元管理する全社の共通言語ともいうべき情報システムの構築は不可欠である。
*単にデータをストック、排出するだけの情報システムではなく、個別に2次加工、3次加工を施さなくても、意思決定にそのまま使えるように加工された帳票、グラフをアウトプットできる情報システムが必要である。
しかし、多くの企業でデータ量の多さ、情報量の多さこそが業務の精度を高めるという錯覚、勘違いがある。業務プロセスのそれぞれの段階で意思決定に必要な情報は限られるが、その区別なく、ソースデータに近い状態で全てをプールし、干し草の山から針を探すような作業を強いれば、時間などいくらあっても足りなくなる。しかも、データ活用については組織として明確な標準も定義も無く、業務は個々人のやり方に任せていれば、データのとり方、加工方法、活用方法もマチマチになるから組織としてのレベルは維持できない。
現実問題として、辞令が出ればその日からバイヤーとして業務に当たらなければならないが、標準化されない業務実態が商品部、バイヤーを混乱させているのは多くの企業に共通する事実である。
以前であれば、「仕事は自分で作るもの」「技術は盗むもの」などと言って済ませることもできたが、今はそのような時代ではない。
ディストリビューターもまた同様である。バイヤーとの棲み分け、補完関係など、役割分担は実に曖昧であり、ディストリビューターしての業務機能が明確に定義されているケースは少ない。
スーパーバイザーにいたっては、バイヤーやディストリビューターのような商品に関する権限もなく、店舖に関する権限も持たないケースがほとんどである。組織的にどう位置付けるかという問題がクリアできない限り、権限が曖昧な状態で各部署を回って頼みごとをするしかない。業務設計がなされていないと形骸化した非常に中途半端なポジションになってしまう。
いずれも、共通するのは組識・役職としてどのような機能を果たすのか・業務を行うのか、ということが曖昧なまま組織を作ってしまった結果である。
このような場合、結果として「任に当たる人」に仕事の組立てを依存するため,人によって業務内容、果たす機能、手法、ネゴシエーションなどが異なり組織的にも安定しないし、人が変われば継続できない。
◆業務設計
業務/組識設計の手法に業務機能分析、T(Task:課業、仕事)/R( Responsibility:責任部署 )マトリックスという手法がある。T/Rマトリックスは、業務機能分析により明らかになった業務機能をモレ、重複、偏りが無いように組識に割り付けるための手法である。
業務機能分析では、業務を目的的にとらえ、業務機能という観点から全体を体系化していく。必要となる業務機能を設計的にとらえるため、モレや重複がないように設定することができる。この業務機能の体系を基に機能的なモレ、弱体、重複などの問題点を発見し、改善していく。
このような考え方、手法を参考にして商品部組識の問題点とアルベキ姿を検討してみる。
規模にもよるが、組識的に未成熟・未分化な状況では必要と考えられる機能が曖昧であり、明確に業務/組識の中で位置づけられることは少ない。
図表-1 業務機能と役割分担では業務機能を大きく取引先関連、商品関連、新店・改装関連、販促・チラシ・POP関連、コンピュータ関連、データ分析関連、他部署関連、店舗指導関連というように8つのブロックに分け、さらに主要な業務機能60をリストアップしている。
責任部署・役職としては、商品部=マネージャー・バイヤー・業務担当、ディストリビューター部=マネージャー・ディストリビューター、スーパーバイザー部=マネージャー・スーパーバイザー、販売部=マネージャー・スタッフ、店舗=店長・マネージャーを設定している。
①このマトリックスを用いて業務機能を各部署・役職に割り付け、また実際の運用状況を確認する。
自社の考える業務、あるいは実態として行われている業務の中にモレや弱体(機能の達成レベルが低い)、重複(複数の部署が同じように行っている)、偏りなどがあるかどうかを確認する。
図表-1をヒナ型にして自社版を作成し、確認すると良いだろう。
②次に、自社の現状組識を考慮してどのような役割分担になっているのかを確認する。
もしも明確な業務の記述ができない(明確な業務機能を持っていない)部署があれば検討し、修正する。また、業務機能との対応が極端に少ない(漠然とした業務しかやっていない)、あるいは極端に多い(業務機能が一ヶ所に集まり過ぎているため実際には達成レベルが低いことが多い)部署があれば組織的な役割分担に問題があると考えられる。

◆組織のパターンとポイント
図表-2 組織的な組合せのパターンは商品部に関する基本的な組み合わせのパターンを示したものである。通常は、バイヤー(以下BY)、ディストリビューター(以下DB)、スーパーバイザー(以下SV)が一般的であるが商品部の事務的な業務の処理を考えて業務担当を加えている。
BYの担当範囲に定説はなく、ホームセンターなどでは一人で10,000SKU近くも持っているBYもいる。実際には取引先に依存せざるを得ないので、BYが独自の戦略に基づいてどこまで商品構成を行っているのかは定かではない。ただし、多ければ多いなりに商品を層別してグルーピングするクラシフィケーション(classification;商品特性の類似性によってまとめられた群管理)のような手法が有効であり、状況に応じた手法を使い分ける知恵が必要になる。
また、あまり細かく担当を分け過ぎても商品群間でスペース、在庫枠、仕入枠などを調整する自由度が小さくなり、バイイングがしづらくなる。
また、一人のバイヤーが複数の業態にまたがるバイイングを行うことも避けた方が望ましい。業態の違いを表現するための簡単なやり方として取引先をかえるという手法もあるが、同一バイヤーが同じ商品群について業態の違いによって複数の取引先を使い分けることは物理的に言っても難しい。
また、SVについてもコンビニエンスストアが一人のSVが担当する店舗が8から10店であることを考えると、ある程度商品の範囲を絞ったとしても同じぐらいの店舗数が望ましいだろう。1週間に5日、1日に2店舗ずつまわると必ず1週間に一回は全店をまわれることになる。
(1)パターン1;BYのみ
一番シンプルなパターンである。小規模な企業で機能的にも未分化な企業に向く。店舗数が少なく、本部コストをあまりかけられない場合、このような形態を取る。BYの人数も少なく、一人のBYが担当する商品の範囲は広い。
BYが果たす役割は大きく、全てを一部の人が動かしている。商品的には取引先に依存する部分が大きい。
(2)パターン2; BY+ 業務担当
パターン1のBY業務が煩雑になり、対応が難しくなってきた時に向く。業務担当がBYの秘書的な立場で商品登録などの事務処理を担当することでBYの負荷を軽減し、本来業務のウェイトを高めることが可能となる。ただし、パターン1とは本質的には変わらない。
(3)パターン3; BY+ DB
パターン2とは明らかに思想が異なる。パターン2が事務処理のために業務を置いたのに対し、DBを置く場合は、明確な機能を持たせることを前提としている。DBはあらゆる段階( 取引先から店舗 )での商品コントロール機能を前提とする。
従来、BYだけではできなかったような数値による客観的商品コントロールや投入パターンの設定などをDBが行うことで業務の精度が高まる。
(4)パターン4;BY + 業務担当 + DB
かなり組織的には機能分担が進んだ状況である。業務担当が事務的な処理を集中して行い、DBが店舗との対応を含めた商品コントロールに当たる。そうすることでBYは、取引先との対応、商品企画・開発など、より戦略的に動くことが可能になる。
(5)パターン5;BY + SV
パターン2,3と同じようであるが思想としては全く異なる。BYが商品の仕入、投入を担当し、SVが店舗の指導に当たる。ただし、対BY、対店舗という点で SV の権限の設定が難しい。SVの権限が無い状況ではパターン1のBYのみの状況と本質的に変わらない。
(6)パターン6;BY + 業務担当 + SV
この場合、店舗指導としてSVがいるためその分BYは業務担当に対してDB的な機能を要求しやすくなる。パターン4がどちらかと言えばBY,DBによる本部主導型であるのに対し、パターン6はより店舗に近い形であると考えられる。
(7)パターン7;BY + DB + SV
現在ある一番オーソドックスなパターンである。しかし、組識だけ分かれていて実際の運用では業務機能が曖昧であることが多く、BY,DB,SV間の機能分担は難しい。BYについては、商品の仕入を行うということで比較的業務機能としても明確であるが、DB,SVの果たす役割となると設定次第で変わってしまう。特にDB,SVに関しては業務機能が明確になっていないために失敗するケースが多い。やはり、組織図から入るのではなく、業務機能を明確にした上で組識に割り当てる必要がある。
(8)パターン8;BY + 業務担当 + DB + SV
通常はパターン7までであり、ここまで分化するケースは珍しい。ただし、BYの業務分析を行うと、POSの商品マスター登録・メンテナンス、チラシ原稿の作成、新店・改装に伴う陳列・販売応援など本来業務とは関係ない「作業」に費やされている時間が50%を超える場合すらある。このような場合、その分の人時を人数に換算して別の役職を作り、機能分担
をすることでより本来業務に集中できるので効率は上がる。ただし、組織的には細かく分かれれば分かれるほど調整が必要になり効率は落ちる。したがって、本来業務に集中できるメリットと機能分化したために発生する調整というデメリットのバランスをどこで見極めるかが重要になる。

◆まとめ
商品部組識は、個々のバイヤーやマネージャーが果たさなければならない業務機能が曖昧であることが多く、実際には個々の能力の範囲、自分流の考え方、やり方で業務が行われることが多い。チームMDも言われるようになっているが、それはプロジェクトを組むような大型の案件に限定される。
重要なことは、組識の形ではなく、そこで設定された業務機能が明確であり、モレや弱体、重複、偏りが無いことである。
また、意思決定プロセスにおけるデータ、情報活用など、共通言語としての手法の標準化も重要である。
現在のようにデータが溢れ、しかも変化の速い時代には、本来業務を的確に行える組織の方が強い。単なる思い付きのバイイングや機械的な作業の繰り返しではパフォーマンスのクオリティが低く、業務機能を確実に果たすことは難しい。
業務機能とそれを達成するための具体的な業務(仕組)/組識のバランスが取れた組織を実現することが必要である。

売場の数値分析-2 分析した後どうするのか⁉

◆なぜ、分析をするのか?、分析した後に、何を、どうするのか?

1.何故、分析をするのか、分析の目的によって使用するデータ、分析の仕方は変わる

分析の目的によって用いるデータ、加工の仕方=検討の仕方が変わるから、分析を行う際には、目的を明らかにしてスタートする必要がある

たとえば、来週以降の売上を予測することが目的であれば、過去数週間、および昨年、あるいは過去3年の同時期前後数週間の売上・客数・客単価、仕入、在庫など数値の推移、売上に影響を与えたと考えられる天候、自社・競合他社の販促などの周辺情報、売場のつくりや売場体制、在庫・仕入・粗利率など様々な情報を検討することで、売上変化の仕方(法則性)、売上に影響を与える要因と影響の仕方などを把握することができる。多くの情報は「モレがない」という意味では有効であるが、その中から特に重要と考えられる要因を特定することで予測の精度を高めることができるから、イタズラに多ければよいということにはならない。

もう少し、的を絞り、たとえば来週の発注をどうするのかについてアウトラインを整理するのであれば、過去数週間の商品構成・在庫構成、主要商品群の売上・在庫・仕入の状況(特に数量)、および過去の同時期における同様の情報、あるいは主要アイテムに関する同様の情報について整理する。
この場合、いずれも知りたいことは、対象となる商品やトータル売上の時系列推移であるから、商品の数量、および、部門、ライン、クラス、主要商品群などの売上金額を対象として、過去にはどのような時系列変化をしているのか、そのデータに影響を与えた要因、影響の仕方について確認できるような情報が必要になる。
一般的には折れ線グラフに結果のデータを整理した時間軸をベースにして、結果に影響を与えると考えられる要因を時間軸に関連付けて整理する。結果と要因との間に一定の因果関係が確認できれば、それを利用し、要因をコントロールすることで結果をコントロールすることが可能になる。
時間軸には、時点、期間、時系列があるが、この場合は時系列を用いる。

2.データがあるから分析をするという本末転倒なアプローチは難しい

たとえば、POSシステムのような元々システムの目的が様々な業務の効率化であり、商品構成の分析・改善を前提としていないシステムの場合には、データが取れるから、何かうまい具合に分析に活用できないかという発想で取り組むことになる。
しかし、POSシステムのベースにあるJANコードのコード構成を見ればわかるように、本来の目的は商品のSKU識別が目的であるから、一般的な商品構成の分析・改善に活用しようとしてもかなり無理がある。
JANコード標準タイプ(13桁)は、①GS1事業者コード(JAN企業コード 9桁または7桁)、②商品アイテムコード(3桁または5桁)、③チェックデジット(1桁)で構成されている。
何と言ってもJANコードを用いることで得られる最大のメリットは、納品伝票、送り状などの手書き、レジ精算における手入力が不要になったことである。
当初、アメリカではレジの不正防止が重要な目的とも言われていたが、人の手を介することなく自動入力する事務作業などの効率化が目的であるから、MD(マーチャンダイジング)は当初から重要な目的として考慮されていない。(日本ではOA:Office AutomationやFA;Factory Automationと語呂合わせでSA;Store Automationなどという言葉が使われたことで、POSによって自動で商品改善ができるような大きな勘違いが生じている。)

POSでは販売するたびにたくさんのデータが取れてしまうので、何か途轍もなく精度の高く高度な商品分析ができるような錯覚を起こしているが、データが多くてもデータが目的に合致となければ何の役にも立たない。たくさん取れるデータ活用として苦肉の策が、売れ筋把握や死に筋把握というものであるが、販売情報だけで在庫数やフェイス数、販促などについては分からないから、単純に各商品がパラレルな状態(相互に影響しあうことなど考慮できない)で売上の大小を比較してもあまり意味があるとは言えない。
実際にある食品スーパーで昼前後に鮮魚の売上点数が極端に減少し、その後夕方になって回復したことから買物が昼に途絶え、夕方に集中すると解釈していたが、客数や在庫がなくならない冷凍魚などのデータでは昼もそれほど売り上げは減少しておらず、よく調べてみたら、昼は売り上げが少ないからと補充されず、単に売場在庫がなかっただけといったこともあった。
欠品で売上ゼロなのか、在庫をたくさん抱えて売上がゼロなのかの違いは在庫を確認しない限り分からない。POSデータを鵜呑みにしたことによる勘違いは改善効果ではなく、間違った行動をつくり出してしまう。

また、商品アイテムに振られた3-5桁の通し番号では商品の識別はできるが、コードに意味を持たせることができなければただの数値の羅列であり、コーディングによるデータ活用を全て放棄してしまうことになる。大昔にあった3連タグでさえ、コードに意味を持たせることでどのような商品特性のグループが売れているのかという売れ方の特性を知ることができた。そのことを考えれば機械化し、データがたくさん取れるというだけで、マネジメントツールとしての機能は大きく後退している
3-5桁あれば、アパレルであればデザインやモチーフ、素材、ブランド、シリーズなど様々な分類情報を設定することができる。つまり、単品情報だけでは分からない様々な商品特性の情報を商品に持たせることができ、それによって売上のデザイン比率、素材比率などが曜日・時間帯など時系列でどのように変化しているかも知ることができる。しかし、POSのような単品識別コードによって何らかの商品特性による分類をしようとすれば、商品マスターに新たなコードを付加するなり、何らかの形でフラッグをつける必要がある。残念ながら、現在のJANコードの構成ではそれができないから、別枠で分類コードを持たせる必要がある。

結局、目的から入れば、データの持たせ方や集計の仕方、分析の仕方など全てが一貫して設計された状態にあり、分析後の対応もスムースに行くが、ただ単に商品に機械的に通しNO.でコードを振り、何らかのデータが取れたから、何かできないかというのでは、せっかくのデジタル技術の進歩も活かすことはできない。
とりあえず、データを取っておけばどうにかなる、データがあるから分析するという現在の情報システムの在り方では使えないものに多額の費用と労力を投入しているだけで終わる。
長年に渡るPOS、JANコードの歴史からはMDのマネジメントに有効な仕組みが何も生まれなかったことを考えれば、システムの設計思想(事務手続きなどオペレーション改善目的か商品構成・売り場づくりなどマネジメント目的か)とその活用に対する期待のミスマッチがどれほどのものかがよく分かる。
目的を明確にし、そのために必要な情報を整理することがなければ、ただいたずらに意味のないデータ、情報をたくさん垂れ流しているだけである。

3.分析後に状況をどう修正するのか
図表1は、ある企業の売場マネジャー用マニュアルに掲載されていたものをベースに筆者が修正を加えたものである。
売上、在庫、粗利に関して数値ではなく、単純化して〇、✖の8パターンに要約してある。これら8パータンについて想定される状況と検討内容、対応策さえ整理すれば、細かな数値にこだわることなく、基本的に売場で起こり数る状況の把握と対処がスムースに行われるようになる。

特に売場における数値分析では、その特性からポイントとなる注意点がある。
売場は常に変化しており、精度を求めて分析に時間をかけすぎると、その間に状況が変化してしまうことがあるから、迅速であることが求められる。
方向性さえ正しければ、精度よりもスピードが重要ということになる。

データが溢れるようになると、分析の精度をとやかく言う人もいるが、重要なことは、もともとあるデータが果たして目的に対応した適正なものであるか否かであり、そのような意味では前述のように売場にたくさんあるデータが必ずしも有効なデータとは言い切れない点を考慮する必要がある。
分析のための分析よりは、現状改善のための分析が適切に行えるようになるまでにはまだまだ時間がかかるのだろうが、デジタル化が進めば進むほど、本当の意味を理解しないままデータを振りかざす人、データに振り回される人が増えるのかもしれない。

攻めの発注、攻めの在庫管理

◆攻めの発注,攻めの在庫管理
技術が進歩し,さまざまなシステムが開発されることによって,売場の業務は便利になっている。これらの便利な道具を使いこなすことができれば,従来と比べてはるかに少ない投資で精度の高い業務が行えるはずである。しかし,一方では売場の人員が減り,パート・アルバイト化が進んだことで,売場における常識,基本項目の徹底が難しくなっているのも事実である。
ここでは,店舗における最も基本となる発注・在庫管理について,基本項目,および重点ポイントを改めて確認していく。(*すでに自動発注によって売場では発注しない、あるいはPOSデータや気象データなどのビッグデータ、AIを用いて発注を自動化することも技術的には難しくない時代になっている。しかし、発注をブラックボックスとしてその構造、メカニズムを現場の人間が全く知らないというのも困ったものである。)

1. 発注と在庫管理の基本の確認
1-1.在庫の意味・目的と在庫管理
(1)在庫の意味・目的
メーカーと違い,昔から小売業では『なぜ在庫が必要か?』ということを余り真剣に考えることはない。店を開くには店舗と商品が必要であり,『商品経営』という言葉があるように,どんな時でも商品在庫があることは当たり前であったからだろう。
しかし,EC(電子商取引)が普及し、個別店舗に在庫を持つことなく、商品販売を行う業態が一般化する今,改めて『なぜ在庫が必要か?』ということを見直すことで、発注や在庫管理を再考することも必要である。
在庫ゼロの生産システムとしては,トヨタのカンバン方式がジャスト・イン・タイムとしてよく知られている。
カンバン方式は,原材料・部品から完成品に至る総ての製造(社内外)を完全に同期化(タイミングを合わせる)することで中間にある仕掛かり在庫をなくす。しかし,製造途中で機械故障や不良品が発生し,計画通りに運営できなければ,複数の企業にまたがる製造ラインは止まり,多大な損害が生じる。少しでも,そのような可能性がある限り,損害を最小限に止めるために『トラブルが解消するまでの時間を凌げるだけの在庫』を各工程の中間に持つ必要がある(複数企業のまたがる場合は前工程にあたる企業が負担)。
通常,在庫の持つ機能(役割)は『欠品というトラブル=衝撃』に対する『クッションの役割=緩衝機能』というように説明される。
(2)小売業にとっての在庫・在庫管理
一方,小売業では『欠品』によって生じる衝撃はメーカーと違って目に見えにくい。多くの商品を扱い,しかも商品は時間と共に変化していく。例え商品の一部が一時的に欠品したとしても,そのうちに商品が入れ替わってしまったり,補充されたりするので,改めてお客に訊かれるまで誰も気が付かないということも珍しくない。

小売業における在庫と欠品の意味を整理すると,次のようになる。
メーカーが商品をつくるのには時間がかかるし,それを店舗に運ぶのにも時間がかかる。お客が『必要な商品』を『必要な時』に『必要な量』『適正な価格』で入手できるようにするためには,トヨタのカンバン方式のように,予めお客の要求を正確に予測して商品を手配するか,そうでなければ製造や輸送に要する時間,お客を待たせないだけの『在庫』を持つ必要がある。『お客が必要な商品を,必要な時,必要な量だけ,適正な価格で入手できるようにする』ことは,お店に買物に来るお客の要求を満足するために最低限必要となる条件である。
お客に対して満足感を与える度合いをお客に対するサービス・レベルという。サービス・レベルの中には,店舗がキレイであるとか,駐車場が何時でも待たずに入れる・停めやすい,あるいは,販売員が丁寧に応対する、…などということも含まれる。
もしも,お客が要求する商品がいつも欠品していれば,お客の得る満足度は低く,サービス・レベルは著しく低いということになる。このようなことが続けば,お客は他の店に行ってしまい,チャンス・ロス=売り逃しが発生するから,競合他社との差別化を図る上で重要な要件となる。
一方,いつ,どのような商品を,どのくらいの量,買いにくるか分からないお客に満足してもらうためには,たくさんの商品を仕入れ、在庫しておく必要がある。そのためには,たくさんの商品を置く広いスペースが必要であるし,商品を購入し,在庫するための莫大な資金も必要になる。しかし,広い売場にどんなにたくさんの商品を並べてみても,お客が必ずくるとは限らないし,商品も変化していくからお客の要求に100%応えることは不可能である。
したがって,お客に対するサービス・レベルを一定以上に保ちながら,なおかつ売場スペースや資金の効率(在庫という投資とそれによって得られる売上や利益のバランス)を考えた在庫の設定=在庫管理を的確に行っていく必要がある。

在庫管理では,一見相反するサービス・レベルと効率を上手くバランスさせる(トレード・オフ 取捨選択)ことが重要であり,そのためには,お客にとっての『必要な商品』『必要な時』『必要な量』『適正な価格』という『商品の売れ方(裏を返せばお客の買い方)』についてよく理解しておく必要がある。

1-2.発注の目的と発注手順
(1)発注の目的
発注は,商品の売れ行きに応じて,在庫する商品の入荷を決めるものであり,在庫管理を行う上でひじょうに重要な意味をもつ。
また、在庫と密接に関係する『発注』の意味・目的を考えると『発注とは,売場に必要な商品を,必要な時,必要な量,適正な価格で陳列・補充するための手続き』であり,『発注することによって,売上と在庫のバランスを一定に保つ』ことが目的である。したがって,発注商品,発注数量を決め,入力,送信することはあくまでも『発注』業務の手続きでしかなく,発注された商品が納品されたことを確認し,売場へ陳列・補充することで,はじめて発注の目的が達成される。
発注は,商品の売れ行きに応じて行う必要があり,発注の精度が悪いと売上と在庫のバランスが崩れて『欠品』や『過剰在庫』を引き起こす。
『欠品』や『過剰在庫』は,現象的には個々の商品の売上と在庫のバランスが崩れた状況を意味するが,それらが積み重なることで売場全体にさまざまな悪影響を及ぼす。

①欠品
欠品は,商品が『ない』状態を意味するが,『ない』状態にもさまざまなケースがある。
例えば,ⓐ商品は売場にないが,バックヤードにあり,品出しされていないケース,ⓑ商品が売場にもバックヤードにも全くないケース,ⓒ売場に商品はあるが,一定の基準量(最低在庫数量,あるいは最低陳列数量)を割り込んでいるケースなどである。
ⓐは,作業指示,作業スケジュールなどの問題が大きく,ⓑは売上予測や在庫設定,結果としての発注数量設定の問題によって発生する。いずれの場合も売場に商品がないということでは同じであり,チャンス・ロス(商品がないことで売上を上げる機会を逃す)が発生している。個々の商品で見れば,本来得られるはずの売上を逃しただけであるが,このような状況が繰返されることで,お客に対するサービス・レベルが低下し,店全体の客離れにつながる。
ⓒの場合は,次のような理由から欠品と見なす。
基本的に,たくさん商品があった方が売場で目立ち,購買意欲を刺激してよく売れる。売場に多少商品が残っていても最低陳列(在庫)数量を割り込んでしまうとボリューム感がなく,在庫がたくさんある状況よりも販売数量が減少する。販売数量が減少した分(実際には,実験などでデータを採り,そこから推測するしかない)をチャンス・ロスとみなせば,このような状況も欠品の一つのパターンということになる。
たとえば、刺身を買おうとした時、売場に2~3パックしか残っていないと、いかにも売れ残りのようであり、買うのを止めてしまう場合がある。このようなケースである
②過剰在庫
過剰在庫は,欠品とは逆に売上と在庫のバランスが崩れ,在庫が多すぎる状況である。
過剰在庫は,構造的に深刻な問題を数多く引き起こすことがよく知られている。
在庫が増えることで,売場に出ない商品がバックヤードに置かれ,商品鮮度が低下する。これらの商品が値下げにつながれば,荒利率の低下を招く。さらに,在庫が増えることで仕入が抑えられると,持っている在庫の内,よく売れる商品から在庫が減り,売れない商品ばかりがいつまでも残る。その結果、相対的に売れる商品の在庫比率が下がり,売れない商品の在庫比率が高まる。結局,全体的な在庫内容はさらに悪化し,売上、粗利まで低下する。
また,バックヤードに不良在庫が増えることで,ムダなハンドリング(物の取扱い)が増える。作業効率が低下するばかりでなく,商品在庫を確認する手間も増え,在庫を数え違えて余分に発注したり,逆に発注をもらすなど,発注の精度まで悪化する。
発注精度の悪さから生じた過剰在庫が,売上,荒利,作業効率の低下を招き,さらにめぐりめぐって,また発注精度を悪化させるという悪循環になると,抜け出すことが難しくなる。

(2)商品のタイプによる発注方法の違い
図表-1に示すように,商品にはさまざまなタイプがあり,タイプによって発注方法も異なる。ここでは,大きく定番商品(フェイス管理されている,フェイス管理しづらい),特売商品,チラシ商品,季節商品,日配商品,生鮮食品というように7つに分けて説明しているが,全体としては上の表のように,日配商品・生鮮食品のように日持ちせず,基本的にその日の内に売り切っていくような商品(在庫はゼロから2日分くらい)/在庫を持って販売していく商品というような在庫の持ち方,フェイス管理をして販売していく商品/大量陳列をして大量販売していく商品という販売方法,販売数量の変動が少ない商品/大きい商品という商品の売れ方の3つの切り口でパターンを分けることができる。
在庫の持ち方は,販売数量の変動の仕方,定番商品(フェイス管理)としての継続性,日持ち(D+α)≒在庫日数などの要素によって決まるので,その点に注意してパターン分けすると,それぞれの商品のもつ特徴が明確になり,発注,在庫管理上のポイントも分かりやすい。

(3)発注手順
上記の商品パターンの内,一般的な発注の流れを知る上で最も基本となるフェイス管理されている定番商品について,発注手順を整理すると図表-2のようになる。

① 販売数量の予測

発注する商品は,将来販売する商品であり,発注時点では,どの商品がいくつ売れるかということは分かっていない。したがって,発注数量を決めるためには,将来の販売数量を予測する必要がある。
発注の精度が欠品や過剰在庫を引き起こすので,販売数量を予測する際には,地域のイベント,過去の売上,発注実績,関連商品の販売動向などを参考にし,予測の精度を高めるように工夫する。
② 在庫数量の確認
発注数量を決めるためには,販売数量の予測と共に発注時点での在庫数量を確認する必要がある。特に,在庫が売場とバックヤードなど2ヶ所以上に分散している場合,在庫数量を数え違う場合が考えられるので,あらかじめ商品整理をし,売場に出る商品についてはなるべく品出しすることで商品をまとめ,在庫数量を確認しやすくする。

③ 発注数量の決定
基本的に発注数量は,販売数量予測と現在ある在庫数量,リードタイム(発注から納品までに要する時間)期間中の販売数量予測から算出する。
ただし,商品のタイプにより,発注の仕方が異なるため,詳細は,別項で説明する。
④ 納品確認と品出し
発注は,売場に商品が陳列されてはじめて目的が達成される。したがって,発注業務は,発注後の納品確認,売場への品出しまでの一連のサイクルとしてとらえる必要がある。

1-3.補充発注とOTB( Open To Buy )
前項に示したように,発注には大きく分けて2つのタイプある。
フェイス管理されている定番商品を対象とした補充発注,販売数量の変動が大きく,フェイス管理しづらい定番商品や季節商品などを対象としたOTB( Open To Buy )である。

(1)補充発注
補充発注の対象となる商品は,比較的販売数量の変動が小さな商品が多く,図表-3に示すように欠品を予防するための安全在庫数量(これが最低在庫数量)と最大在庫数量を設定した上で運営する。
この範囲内で在庫をコントロールすることで欠品と過剰在庫を予防する。
基本的に,発注数量の算出は,発注時点の在庫数量からリードタイム期間中に売れると予測される販売数量を引き,納品時点の在庫数量を算出する。この在庫数量と最大在庫数量との差が発注数量となる。
したがって,発注時点での販売予測と販売実績の差が生じれば,そのまま納品時点での在庫数量と最大在庫数量の差となって現れる。
在庫水準を下げ,発注時点における販売予測の精度を高めるために,リードタイムを短縮する仕組みづくりが盛んに行われている。しかし,一方では,年間で見ると,どんなに販売数量の変動が少ない商品でも週販数量で上下2倍以上の差があり,厳密に見た場合,現在用いている安全在庫数量,最大在庫数量という在庫基準自体が適正なものであるか否かという問題が残る。長年放置されている難しい問題であり,できる限り単純化して対応しているのが現状である。

(2) OTB( Open To Buy )
①OTB
OTBは,一般に仕入枠(発注)を管理することで,在庫をコントロールするための手法と説明されている。しかし,実際に使ってみると,仕入(発注)を増減する目的は『売上と在庫の関係をバランスよく維持する』ためであり,必ずしも在庫だけをコントロールしているわけではない。売上と在庫の関係が調和して変化していくように,売上の増減を在庫がうまくリードする。そのような状況を陰で演出すのが,仕入ということになる。
OTBは,金額をベースにして行う場合と数量をベースにして行う場合がある。
店,部門,大分類など単位が大きな場合には金額ベースで行い,中分類,小分類,アイテム・SKUというように対象とする単位が小さい場合には数量ベースを用いるなど単位の大きさによって使い分けるとよい。
ここでは,発注を前提としているので数量をベースにして説明をする。
②OTBのやり方
OTBは,季節商品など販売数量の変動が大きい商品で,在庫をある程度持つ商品を対象として用いる。売上ピーク時の欠品防止やピーク後の在庫の切り上げを上手く行うために用いると有効である。
OTBでは,商品を仕入れて販売し,残ったのが在庫というように,在庫を結果として捉えることはしない。
まず,はじめに売上計画ありきであり,在庫は商品を売るためにどれだけ商品を持つ必要があるか,という観点から設定する。仕入計画は,あくまでも売上計画と在庫計画から算出される結果でしかない。
OTB計画の作成手順は,図表-4(a)に示すように,売上計画の立案,売上を達成するために必要となる在庫計画の立案,仕入計画(仕入枠)の算出,という手順で行なう。
実際には,図表-4(b)に示すように売上実績が計画とずれてくるので,それに伴って仕入計画や在庫計画も修正しないと在庫は売上計画/実績の差異に応じて増減する。
この差異は,計画を修正しない限り,事例のように累積して膨らみ,最後には取り返しがつかなくなる。
事例では,売上実績が計画を大きく超えているにもかかわらず,仕入は計画通りに行っている。結果として在庫実績は減り続け,最後には売上の低下を招くことが予測される。逆に,売上実績が計画を割り続けている場合には,仕入を計画通りに行えば,在庫は増え続けていくことになる。
このように売上実績が当初の計画と大きくずれ込んだ場合,単に仕入計画を増減させることで在庫実績だけを当初の計画と合わせてみても,売上と在庫のバランス=商品回転率は当初の設定とは変わってしまう。したがって,単に仕入を修正するだけではなく,必要に応じて在庫計画も売上とバランスがとれるように修正する必要がある。
修正は,売上が変化したのと同じ比率で在庫計画を増減するようにすれば,商品回転率が当初計画と同じになる。あとは,このようにして計算上求めた在庫計画が売場スペースや売場作業から考えて実際的であるか否かを判断し,必要に応じて修正していく。売上が計画以上に好調であれば,商品回転率をより高めるように手を加えたり,逆の場合には,多少効率は落ちるが在庫の減らし方を押さえたりする。
これらの関係を整理したのが図表-4(c)である。
OTBを行う上で重要なことは, OTBの計画を立て,計画表に実績を埋め込んでいくことではなく,売上と在庫のバランスが時間と共に変化していく様子を計画という基準と照らし合わせて確認し,実際の売場運営の中で売上と在庫のバランスを維持し続けるように絶えず調整していくことである。
③売上/在庫/仕入の関係とOTBによるバランスの調整
図表-4(d)は,時系列で変化する売上/在庫/仕入の関係を整理したものである。
当月(週)と翌月(週)の売上を比べた場合,当月(週)よりも翌月(週)の方が,売上が高い(↗),同じ(→),低い(↘)の3つのケースが考えられる。
それぞれの場合について在庫の持ち方を考えると,もしも売上が伸びるのであれば当月(週)初在庫よりも当月(週)末在庫を増やし,売上が変わらないのであれば当月(週)初在庫と当月(週)末在庫を同じに,売上が減るのであれば当月(週)初在庫よりも当月(週)末在庫を減らせばよい。
その時の売上と仕入の関係は,当月(週)初在庫よりも当月(週)末在庫を増やすのであれば,売上よりも仕入を増やし,当月(週)初在庫と当月(週)末在庫が同じであれば,売上と仕入を同じにし,当月(週)初在庫よりも当月(週)末在庫を減らすのであれば,売上より仕入を減らせばよい。
このように,売上の変化に応じて在庫を設定していけば自ずと仕入は決まってくる。
重要なことは,売上の変化をどのように想定するかであり,その時の在庫の持ち方をどのように設定するかである。

1-4.在庫数量の決め方と発注数量の決め方
在庫数量の決め方には,いろいろなやり方があり,絶対的な方法はない。先に述べたようにどんなに厳密な計算式を用いて算出したとしても,時間と共に変化する多種多様な商品総てについて検証することは不可能である。したがって,通常は,平均販売数量とリードタイム期間中の販売予測数量に単純な係数をかけて安全在庫数量と最大在庫数量を算出する場合が多い。
ここでは,比較的販売数量の変動が少ない,フェイス管理された定番商品を中心に説明する。
(1) 平均販売数量の算出
① 平均値とバラツキ
安全在庫数量と最大在庫数量を算出するためには,平均日販数量,あるいは平均週販数量を算出する。ただし,場合によっては単純に平均値を求めただけでは難しいケースもある。
例えば,図表-5(a)に示すように商品A,B,C,Dの販売数量が推移した場合,総ての商品の平均値は同じ15である。しかし,図表-5(b)のグラフのように整理してみると,平均値は同じでも,販売数量のバラツキ方に大きな違いがあることがよく分かる。
商品Aは一番バラツキが小さく,13から19と総ての値が平均値15の近くに集中している。バラツキの大きい商品Cは2から50,商品Dは0から42と販売数量の分布する幅(差=最大値-最小値)が広く,しかも計算上の平均値が15であるにもかかわらず,実際に15近辺の販売数量を示すことはほとんどない。
このように,平均値だけでは商品が売れている様子を正確に捉えることは難しい。
したがって,在庫基準を設定する際には,図表-5(a)に示すように販売数量の平均値だけではなく,最大値,最小値,幅(差)を捉えておくとよい。さらに正確に状況を捉えようとすれば,図表-5(b)のようなグラフを作成する(実際に総ての商品についてやることは不可能であるので,代表的な商品だけでも,そのような形で捉えておくとよい)。
バラツキの大きい商品の場合,単純に販売数量の平均値を算出し,それに係数を掛けて安全在庫数量や最大在庫数量を算出しても欠品を起こす可能性がある。
曜日による特性などを捉え,より実態にあった在庫の設定をする必要がある。

② 平均日販数量/平均週販数量
平均日販数量を求めるのは,発注,納品が毎日,あるいは隔日(月水金,火木土)の場合である。平均値を算出するには,算出した数値が図表-5の事例のように無意味な数値にならないよう,土日やチラシの立ち上がりの曜日などは別に集計する必要がある。
平均週販数量を算出して用いるのは,発注が週1から2回の場合である。この場合には曜日による変動を見る必要がないが,月の上旬/中旬/下旬,あるいは第1週,第2週,…という変化を見ておく必要がある。また,祭日が入る場合,地域の行事が入る場合など通常とは異なる場合には,その分を考慮して取り扱う必要がある。

(2) 安全在庫数量と最大在庫数量の算出
隔日発注(例えば月水金),隔日納品(例えば火木土)の場合で考えると,リードタイムは1日,週3回発注のため1回の発注は2日分の売上をカバーする。
金曜発注は,土日月(+火;納品時間が開店前なら不要,夕方の場合は火曜分まで)分の発注が必要になる。
図表-5に示した商品Aは,土日やチラシの初日でもバラツキが少なく,平均値15に対して13から19の間でしか変化していない。このようにバラツキが少ない場合,販売数量の平均値をそのまま用いても問題はなく,安全在庫数量と最大在庫数量はもっとも単純な形で算出することができる。
販売数量が安定している事を前提とすると,2日に1回の発注,リードタイムが1日であるから,通常であれば平均日販数量の1日分15を安全在庫数量,最大在庫数量は3日分(安全在庫数量1日分+1回の発注2日分),45と設定することができる。
ただし,土曜納品時点では,前述のように土日月(+火;納品時間が開店前なら不要,夕方の場合は火曜分まで)までの分が加わり,瞬間的に80から90まで増加する。
難しいのは,商品Cや商品Dである。平日は全く売れていないが,チラシの初日や土日に集中して販売数量が増えており,平均日販数量15は全く意味を持たない。
厳密には,月火水金と木土日を分けて考え,別々に安全在庫数量と最大在庫数量を設定することが必要であるが,作業の手間を考えれば大きい方の値を基準にする方が実際的である。商品Cでは,安全在庫数量を木土の販売数量の25,最大在庫数量は多少多めに感じるかもしれないが,土日の最大販売数量(25+50)+月火の販売数量(土日は発注がなく,月曜発注,火曜納品)10+安全在庫数量25の110という値になる。
ただし,週の内,土曜納品時点の値であり,土日月火の販売数量25+50+5+5=85を引くと火曜納品時点では25と(安全在庫数量)という数値になる。

(3) 発注数量の算出
発注数量は,最大在庫数量-発注時点在庫数量+リードタイム期間中販売予測数量で求めることができる。
図表-5の商品Aの場合であれば,45-15(ここでは安全在庫数量と設定した数値)+15=30(ほぼ2日分の販売数量)が発注数量となる。販売数量が安定しているため,安全在庫数量をベースとして売れた数量だけ発注するという形になる。
商品Cでは,110-25(ここでは安全在庫数量と設定した数値)+5(平日の販売数量)
=90(月曜発注,火曜納品)となるが,実際には週の前半は木曜の売上に備えて30ぐらい在庫を持てば十分である。在庫を積み込むのは水曜発注,木曜納品からであり,金曜発注,土曜納品と合わせて土日分の在庫を積み増していけばよい。

2. 発注と在庫管理の実際 年末年始の状況とモレなく販売するためのポイント
年末年始に向け,発注・在庫管理のポイントを整理していくと次のようになる。
(1)売れ方による商品のタイプと特徴
商品の売れ方を見ていくと,いろいろなタイプがある。
季節的に売れる商品,地域行事や生活歳時によって売れる商品,気候に敏感に反応する商品,年間を通して安定して売れる商品,平日に売れる商品,土日祭日によく売れる商品,チラシに掲載するとよく売れる商品,エンドや平台で大量陳列するとよく売れる商品,客数に比例して売上が増減する商品,….などである。
また,フェイスが固定されず,売場づくりや売り方を工夫することで売上を伸ばせる『売り込み型の商品』,定番的に扱い,売場づくりや売り方を変えられない『待ち型の商品』というような分け方もできる。(図表-6 売れ方による商品のパターン ) *PDF表示

通常,年末年始になると重点商品の設定を行い,特定の商品について集中的に販売する。ギフト関連商品,大掃除関連商品,クリスマス関連商品,正月関連商品などである。難しいのは,特定の商品を大量に山積みすることはできても,それ以外の商品については逆に対応がおろそかになる点である。
年末年始に設定する重点商品は,季節や生活歳時によって売れる商品ばかりであり,『売り込み型の商品』が中心である。以前と比べれば集中して売れることが少なくなってはいるが,売場づくりの中では,いまだに圧倒的なウエイトを占めている。
モレやすいのは,客数に比例して売上が増減する商品の内,フェイス管理されている定番商品=待ち型の商品である。住居関連商品では日用品・家庭用品,食品では,生鮮食品,日配商品,菓子,調味料などにそのような商品がある。
フェイス管理されている定番商品=待ち型の商品は,客数が増えることで確実に売上が増すが,フェイスを拡大し,在庫数量を増やすことは難しい。通常時と同じ最大在庫数量であるケースがほとんどである。
年末年始という時期にどうしても避けたいのは,『売り込み型の商品』と『待ち型の商品』の特徴をよく理解せずに『売り込み型の商品』であるにもかかわらず,『待ち型の商品』のような対応をしてしまうことである。ただ商品を売場に積み上げてPOPを付けるだけで,お客に対して何も働きかけをしないのでは,大きな販売チャンスを逃してしまう。
『売り込み型の商品』は,商品構成,価格設定,販促,売場づくり,売り方などを工夫することで売上数量は変化し,状況次第では前年実績など全く参考にならないほど大きな変化を示すこともある。自分たちの工夫次第で如何様にも攻めることができる商品である。一方,『待ち型の商品』は,欠品を予防し,売上のモレを防ぐ守り型の対応になる。
それぞれの特徴をよく知り,的確な対応を採ることが重要である。
(2)OTBによる販売計画の立案と商品在庫の積み込み
①『売り込み型の商品』
生鮮食品,惣菜,日配商品,グロサリー,日用品・家庭用品,家電消耗品など大量陳列をし,集中販売をする商品は,商品構成,価格設定,販促,売場づくり,売り方などによって売上が大きく変わる『売り込み型の商品』である。
これらの商品は,発注も在庫管理も総てが販売計画次第で変わってしまう。
OTBで説明した売上計画とその計画を実現するためにどのような商品構成,価格設定,販促,売場づくり,売り方,人員体制を採るかという具体化案である。
例え,昨年の実績が100しかない商品があったとしても,それは昨年の商品構成,価格設定,販促,売場づくり,売り方,人員体制などの結果であり,今年500という目標を設定し,そのための商品構成,価格設定,販促,売場づくり,売り方,人員体制が設定できれば実現する可能性がゼロというわけではない。
過去の経験からいっても,商品に対する対応を変えることで前年実績の数倍の売上を実現しているケースは珍しくはない。問題があるとすれば,選定する商品の適否(適しているのはマーケットサイズが大きい商品で,それまで自店では本格的に取り組んだことがないような商品,難しいのはマーケットサイズが小さい商品・買う人が限定されている商品)と商品構成,価格設定,販促,売場づくり,売り方,人員体制,売上の内容に応じた売場づくりや売り方,在庫内容の修正など技術的・管理的な問題,そしてどこまで本気になって取り組めるかという意欲の問題である。
もちろん,前年実績を大きく上回る目標を設定するのであれば,予め悲観値(売れなかった場合)・普通値(計画通り)・楽観値(売れすぎた場合)という3点見積もりをしておくことは必要である。目標を達成するための具体策を厳密に検討することはもちろんであるが,売れなかった場合の在庫の処理方法,売れ過ぎた場合の商品手配方法についても綿密にシミュレーションをし,あらかじめ対応策の検討と関連部署・取引先などの了解を取りつけておくことは欠かせない。
年が開ければ,持ち越した在庫は大きな負担となる。しかし,リスクを恐れて何もしなければ前年実績などクリアーできるはずはない。以前,『去年と同じことをしていれば前年比90%』と言われていた時期があるが,現状は,その時よりも確実に悪化している。
したがって,在庫設定や発注をするにも,まずは『売上計画ありき』であり,『売り込み型の商品』について言えば,総ては『売上計画』とそれを実現するための具体化案次第と言うことができる。
②『待ち型の商品』
待ち型の商品については,客数の増加に伴う販売数量の変化をOTBによってシミュレーションすることで,通常に比べてどのくらい多くの在庫を持つ必要があるかを知ることができる。
難しいのは,補充発注に慣れているために,売場のフェイスが満杯である商品を,さらに追加して発注するということが感覚的になじめないことである。誰でも計算してみればすぐに分かることであるが,売場で商品だけを見て発注することに慣れてしまっているとなかなか難しい。
以前と比べれば物流もだいぶ改善されているが,それでも年末年始を考えると,商品によっては通常の2倍から3倍,中には5倍もの発注をしなければならないケースが出てくる。
以前,あるホームセンターで年末年始の発注とそれに伴う作業量の増加をOTBによってシミュレーションしたことがある。それまでの売上推移で12月も売上が推移すると設定して計算すると,12月の最終発注には,通常発注の5から6倍の発注が必要になるという計算結果が出た。発注,荷受,検品,倉庫への格納,品だしなど,どれを採ってもそのような対応は物理的にも不可能という結論になり,11月中旬から定番商品を中心に在庫の積み増しを行っていった。
その時にも問題になったのが,フェイスが満杯である商品の追加発注である。心理的な問題だけではなく,物理的にも置く場所がないという問題が出てくる。
現状で,最も簡単と考えられる対応策は,販売数量が極端に少ない商品,他の商品で代替が利く商品,もともと類似商品が多く定番として不要な商品などを定番からカットし,その分を重点商品のフェイス拡大に当てることである。フェイスを拡大することで最大在庫量を増やすことができ,発注や補充の手間も少なくなるので忙しい年末年始には適した方法である。しかも,よく売れる商品ばかりであるから多少残ったとしても在庫に関するリスクは少なく,年が明けても十分対応が利く。
ここで問題があるとすれば,カット商品の処理,および手間と時間をかけてまでフェイス変更をするというように踏み切れるかどうかという点である。
いずれにせよ,小売業は人と同じことをしていたのでは,それ以上の結果を出すことは難しい。ある有名企業の取締役が,『うちも水鳥と一緒で見えないところでは一生懸命に足で水かいているのですよ』としみじみ語っていたことを思い出す。
何事も楽をしてよい結果を得ることは難しい。このような時期であるからこそ,本来やるべきことでできていないことがあれば真剣に取り組むべきであろう。

販売計画&商品計画の立て方と在庫管理

◆営業計画&商品計画の立て方と在庫管理技術
1. 基本的な理解
1-1. 売上とは何か?粗利とは何か?
多くの場合,結果としての売上・粗利を重要視するが,それらをコントロールするまでにはなかなか行きつけない。売上・粗利はあくまでも結果であり,結果を確実なものにするためには,技術やノウハウと同時にそれを使いこなす知恵と地道な努力が必要である。
現在は,昨年実績を維持することが一つの目標になっている。中には,はじめから昨年実績割れの目標を設定するケースも珍しくない。しかし,はじめから低い目標を設定したのでは,それ以上の実績を挙げることは難しい。
そもそも『売上とは何か?』という明確な認識がなければ,売上をコントロールするという発想は持てないだろう。
売上は一つ一つの商品が売れた結果であるから,欠品すれば下がるし,売れない商品ばかりでも下がる。買上単価が下がっても下がるし,買上数量が減っても下がる。
売上が下がる理由は分かっても,さまざまな状況に応じて売上を上げる方法を探すことは意外と難しい。我々の仕事は,発注作業や補充作業ではなく,売上,利益を上げることである。売上低下を予防し,売上を上げる仕組みや方策を持つためには,まず売上がどのようにしてつくられるのか,という構造を理解する必要がある。
図表-1は,売上,粗利を目的として,どのような数値が関連しているのかを3つの側面から整理したものである。

(1)単位の分解と合成   店-部門-大分類―中分類-…
売上,粗利,在庫,…,何にでも使える方法である。もともと売上,粗利,在庫などの数値は一つ一つの商品が集まったものであるから,状況を詳しく知るには,逆に単位を細かく分けていけばよい。ある程度細かな単位まで販売計画をつくっておけば,計画とのズレが生じたとしても問題の発生個所を特定することは容易である。
ただし,何の工夫も戦略的発想もない,単純な昨年実績発想には問題がある。

図表-2は,筆者が開発したMPM(Merchandising Portfolio Management)と呼ぶ手法である。縦軸に売上伸び率,横軸に粗利率をとり,円は個々の部門の売上規模を表している。中央の太い線は,縦が店計の粗利率,横が店計の売上伸び率であり,全体を4つのエリアに区切っている。右上第Ⅰ象限は,売上伸び率,粗利率ともに店計よりも高い部門である。左上第Ⅱ象限は,店計よりも売上伸び率が高く,粗利率の低い部門。左下第Ⅲ象限は,売上伸び率,粗利率ともに店計よりも低い部門。右下第Ⅳ象限は,店計よりも売上伸び率が低く,粗利率の高い部門である。
MPMを見ると,売上規模,売上伸び率,粗利率のバラバラな部門が集まって店計の売上,粗利率ができ上がっていることがよくわかる。単位を一つ下げ,部門と中分類で作成してもまったく同様である。これが店計の売上や粗利率の構造である。
これだけ数値的にバラバラで,しかもそれぞれの状況や特性が異なる部門が一律に売上,粗利率を伸ばすことなどありえないということは容易に理解できるだろう。
もし,図表-2の店舗がこのまま推移すれば,粗利率の低い部門の(伸び率が高いために)売上構成比が上昇し,店計の粗利率を引き下げることは容易に想像できる。
個々の部門の状況を踏まえ,売上構成比を意図的に変える以外に店計の売上,粗利率を改善することはできない。売上,粗利率を変えることは売上構成比を変えること,と言い換えてもよいだろう。

(2)客数×客単価  客単価=買上単価×買上数量
客数はレジの清算件数,客単価は清算件数1件当りの平均買上金額である。客単価はさらに買上単価と一人当たりの買上点数に分けてとらえることができる。
図表-3は,買上単価や買上点数を上げるための具体的な方策を展開したものである。
この下のレベルまで落とし込むと具体的な業務が見えてくる。例えば,『バンドル販売を強化する』ためには,対象とする商品,価格,バンドル販売を始める時期などを決めることが必要になる。もしも,現在の業務がこれらの数値と関連なく行われていたとすれば,どんなに忙しい思いをしても数値に反映されることはない。
『買上単価』に影響するのは『商品構成』,『買上点数』に影響するのは『売り方』であるから,客単価は『商品構成』と『売り方』に関する工夫と努力の結果と見ることができる。
一方,客数は『絶対客数を増やす』ことと『リピート率を上げる』ことによって増やすことができる。『絶対客数』とは,店に買い物に来てレジを通過する人である。1万人の商圏人口のうち,自店で買い物をする人が2000人いれば,『絶対客数』は2000人である。
同じ人が繰り返し自店に来るのがリピート率である。例えば,2000人が1週間に1回自店で買い物をし,その内の1000人は週2回自店で買い物をする。さらに500人は週3回自店で買い物をし,100人は週4回自店で買い物をしたとする。1週間の客数は2000人+1000人+500人+100人=3600人となり,2000人の絶対客数が1週間に平均して1.8回買い物をしたことになる。これが『リピート率』である。
『絶対客数』は,立地条件,商圏人口,競合状況,店舗施設,駐車台数など企業・店舗ではコントロールしづらい要素とチラシ・販売促進など企業・店舗である程度コントロール可能な要素の組合せで決まる。
『リピート率』は,『また来たい』と思えるかどうかで決まるから,交通のアクセス,併設する施設,駐車場のとめやすさなど店舗施設としての利便性と店の雰囲気,商品構成・価格,買いやすさ,サービスなど『買い物する場』としての店の快適性,有用性などによって決まる。絶対客数よりもリピート率の方が店の工夫と努力で決まる要素が多いと考えてよいだろう。いずれにせよ,自店でコントロールできる項目とできない項目を明確にした上で,優先順位をつけて取り組む必要がある。

(3)売上,在庫,仕入れの関係
最も重要な項目であるが,残念なことにあまり馴染みがないのが『売上』『在庫』『仕入』の関係である。ここでは,売上とは何か,在庫とは何か,仕入とは何か,という最も基本的なことを中心に確認する。
『売上』『在庫』『仕入』に関する考え方には,大きく分けて2つある。
一つは,仕入れて売った結果,残ったのが在庫という考え方であり,もう一つは,売上をつくるために必要となる在庫を設定し,不足する商品を仕入れるという考え方である。
ここでは後者の考え方を採る。したがって,在庫は売上を上げるための手段であり,仕入は売上と在庫のバランスをとる調整機能を果たす。
例えば,100万円の売上を粗利率30%でつくるのと300万円の売上を粗利率15%でつくるのでは在庫の持ち方が変わる。目的である売上,粗利率が変われば手段である在庫が変わることになる。100万円の売上をつくるために300万円の在庫を持つ必要があったと仮定して,売上が計画よりも30万円低かった場合,計画通りに仕入を起こせば在庫は30万円オーバーする。逆に売上が30万円計画をオーバーした場合,計画通りに仕入を起こせば在庫は30万円不足する。このような売上の変化を『仕入を増減する』ことで吸収し,売上と在庫のバランスをとるのが仕入の役割である。

1-2. OTB(Open To Buy)  仕入による売上/在庫のバランス調整
(1) OTB(Open To Buy)
OTBは,通常仕入れ枠管理によって在庫管理をする手法として説明されることが多い。
しかし,実際に使ってみると仕入枠によって在庫管理をすると言うよりは,前項で説明したように『売上』『在庫』のバランスを『仕入』によって調整すると言った方が適している。OTBは,状況に応じて数量ベース,金額ベース,あるいはその両方で行う場合がある。
季節商品など販売数量の変動が大きく,販売数量に合わせて在庫数量をコントロールする必要があるような場合には数量ベースでとらえるとよい。売上ピーク時の欠品防止やピーク後の在庫の切り上げを上手く行うことができる。合わせて金額ベースでも押さえることができれば,さらに状況変化をとらえやすくなるだろう。
一方,店や部門など大きな単位を対象とする場合には,種々雑多な商品が混在するために数量ベースでとらえる意味はあまりない。予算管理と連動して数値を把握しやすいこともあり,金額ベースで行う。予算達成のため,売場運営がスムーズに行くように売上,在庫のバランスを仕入によってコントロールする。
図表-4(a)は, OTBの手順を示したものである。
『まず,はじめに売上計画ありき』である。在庫計画は売上計画を達成するためにどれだけの商品を持つ必要があるか,という観点から設定する。仕入計画は,あくまでも売上計画と在庫計画から算出される結果でしかない。
OTB計画の作成手順は,売上計画の立案,売上を達成するために必要となる在庫計画の立案,仕入計画(仕入枠)の算出,という手順で行なう。
実際には,図表-4(b)のように売上計画と実績がずれるので,それに合わせて仕入計画,在庫計画を修正する必要がある。仕入を計画通りに進めてしまうと在庫実績は売上計画と実績の差異に応じて増減する。
この差異は,計画を修正しない限り,事例のように累積して膨らみ,最後には取り返しがつかなくなる。事例では,売上実績が計画を大きく上回っているにもかかわらず,計画通りに仕入を行っている。結果として在庫実績は減り続け,最後には売上の低下を招くまでに減ってしまう。逆に,売上実績が計画を割り続けている場合には,仕入を計画通りに行えば,在庫は増え続けていくことになる。
売上実績が当初の計画と大きくずれ込んだ場合,単に仕入を増減させて在庫実績だけを計画と合わせてみても,売上と在庫のバランス=商品回転率を維持することはできない。仕入計画を修正するだけではなく,必要に応じて売上計画,在庫計画も売上実績を基にして修正する必要がある。
売上の計画/実績と同じ比率で在庫計画を増減すれば,商品回転率は当初計画と同じになる。算出した数値が売場スペースや売場作業などから考えて実際的であるか否かを判断し,実情に合うように修正して新たな在庫計画とする。
売上が計画以上に好調であれば在庫を増やすのは当然であるが,その場合商品回転率を当初より高めるように手を加えたり,逆の場合には,多少商品回転率は落ちるが在庫の減らし方を押さえたりする。これらの関係を整理したのが図表-4(c)である。
OTBを行う上で最も重要なことは, OTBの計画表をつくり,計画表に実績を記録していくことではない。売上と在庫のバランスが時間と共に変化していく様子を計画という基準と照らし合わせて確認し,実際の売場運営の中で売上と在庫のバランスを維持し続けるように絶えず調整していくことである。

 

 

(2)売上/在庫/仕入の関係とOTBによるバランスの調整
図表-4(d)は,時系列で変化する売上/在庫/仕入の関係を整理したものである。
当月(週)と翌月(週)の売上を比べた場合,当月(週)よりも翌月(週)の売上が➀高い(↗),➁同じ(→),➂低い(↘)の3つケースが考えられる。
それぞれのケースについて在庫の持ち方を考えると,➀売上が伸びるのであれば当月(週)初在庫よりも当月(週)末在庫を増やし,➁売上が変わらないのであれば当月(週)初在庫と当月(週)末在庫を同じに,➂売上が減るのであれば当月(週)初在庫よりも当月(週)末在庫を減らせばよい。
その時の売上と仕入の関係は,➀当月(週)初在庫よりも当月(週)末在庫を増やすのであれば,売上よりも仕入を増やし,➁当月(週)初在庫と当月(週)末在庫が同じであれば,売上と仕入を同じにし,➂当月(週)初在庫よりも当月(週)末在庫を減らすのであれば,売上よりも仕入を減らせばよい。
このように,売上の変化に応じて在庫を設定していけば自ずと仕入は決まってくる。
重要なことは,売上の変化をどのように想定するかであり,売上の変化に応じた在庫の持ち方をどのように設定するかである。

2. 営業計画/商品計画/売上管理・在庫管理・発注管理
図表-5は,営業計画(数値目標の設定)から商品計画,売場展開計画,作業計画という一連の計画手順を整理したものである。

2-1.営業計画(数値目標の設定)/商品計画
(1)営業計画(数値目標の設定)
基本的には,売上,粗利率をどのように設定するか,ということが最も重要な問題である。
図表-5では,一般的な方法として販売予算と直近の販売実績推移を参考にして決めていくように表示してあるが,必ずしも現状では適した方法とは言えないかも知れない。 昨年実績をベースにするのが,比較的オーソドックスな方法とも考えられるが,この方法も右肩上りの時代には有効であるが,現状のように昨年実績の維持が難しい時代には必ずしも適した方法とは言えないだろう。
昨年実績は,あくまでも昨年の商品構成,売場づくり,販促,売り方,競合状況などの結果であり,どれか一つでも条件が変わっていれば,その数値は違うものになっていたかも知れない。つまり,昨年実績は絶対的なものではなく,あくまでも一つの目安にしか過ぎない。売上目標の設定は,ある意味では決意表明であり,50%アップ,100%アップというように高い目標を設定することで従来とは全く違った発想で取り組むように切り替える必要があるだろう。実際に50%アップと言ってもそれによって在庫ばかりが増えてしまったのでは意味がない。きちんと企画・計画をつくることによって結果的に10~20%売上が伸びれば十分である。従来の目標設定であれば,決してそんな伸びを示すことは考えられないのだから,最終的な着地点を想定した上で目標を設定し,運営すればよい。

(2)営業計画(数値目標の設定)の細分化   商品計画へ
営業計画を細分化していくと具体的にいろいろなことが見えてくる。例えば,月次から週次へと落とし込むことで,どのくらいの金額をそれぞれの週につくらなければならないのか,という週ごとのウェイトが具体的に見えてくる。商品に落とし込むことで,どの商品をいつ,いくつ売らなければならないかということも見えてくる。商品と売らなければならない数量が見えてくれば,その為に必要となる展開場所や売場スペース,什器・備品,売場づくりや補充に要する作業量なども見えてくる。場合によっては,現在の企画で目標とするだけの販売数量を売ることができるかどうかという実現の可能性も具体的にイメージできるようになる。また,週単位で9~13週(2~3ヶ月)販売目標を並べてみると,週ごとに何をすればよいか,どのように仕掛けていったらよいか,という週ごとの役割,流れを掴むこともできるようになる。

(3)商品計画
商品計画については,具体的な定義もなく,企業や人によってとらえ方はマチマチである。ここでは①商品の売上構成が時系列でどのように変化するか,を計画したもの(売上だけではなく,在庫,仕入も加えOTBとする),②期間中の商品構成を計画したもの,の2つをもって商品計画と定義する。
① OTBを用いた時系列の商品販売計画
OTBの詳細については,1-2で説明しているのでここでは省くが,基本的な内容は,自店・自部門の売上構成を時系列で計画し,売上計画に応じて在庫計画,仕入計画を作成することである。商品計画の場合, OTBを行うベースは数量,あるいは数量,金額の両方である。少なくとも金額ベースでの商品計画は難しい。
重要なことは,売上の柱とする商品の取り扱いである。近年,柱とする商品のウェイトが徐々に低下しており,全体に与える影響が大きくなってきている。状況によっても異なるが,再度柱とすべき商品を組み立て直すか,第2,第3の商品を育成するしかない。
計画の中に次のステップにつながる実験的な要素を組み込んでいく必要があるだろう。

② C-Cマトリックス,C-Pマトリックスによる商品構成計画
C-Cマトリックス,C-PマトリックスのCはClassification(クラシフィケーション;商品特性),PはPrice-line(プライスライン;価格) の意味である。したがって,C-Cマトリックスは,素材×デザイン,デザイン×色のような商品特性同士のマトリックスであり,C-Pマトリックスは,価格と商品特性のマトリックスのことである。C-Cマトリックスは,主に価格要素の影響が少ない商品やC-Pマトリックスで検討する前に商品特性間のバランスを検討する場合に用いる。C-Pマトリックスは,商品特性の違いによるグレードと価格のバランスや同じ商品特性を持つ商品間の価格のバランスを見るのに用いる。
商品構成の『構成』という言葉には,もともと『いくつかの要素を組立てて全体を一つのまとまりあるものにつくり上げる』という意味があり, C-C, C-Pの2つのマトリックスを用いることで商品をバランスよくマトリックスの中に配置し,一つのまとまりあるものにつくり上げていく。その際に用いるのも売上比率である。
図表-6は,収納用品について作成したC-Cマトリックスである。表頭(横軸),表側(縦軸)のみ記入してあるので,商品構成の分析用,計画用,チェックリストとして使うことができる。チェックするポイントは,素材別の比率,機能別の比率,用いる場所別の比率などである。実際の売上データと配置するアイテム数,フェイス数などを比較してみることで,収納用品という商品群全体として適切な商品配置になっているかどうかを確認することができる。C-Cマトリックス,C-Pマトリックスの2つのマトリックスにより,商品構成計画を作成する。

2-2. 売上管理・在庫管理・発注管理
売上管理と在庫管理はこれまで説明してきたようにOTBを用いることで行うことが可能である。広い意味での発注管理=仕入管理もOTBで同時に行うことができる。
ここでは,まず発注全体について整理し,その中から固定フェイスで管理される定番商品の補充発注について簡単に説明する。
図表-7は,商品のさまざまなタイプと発注方法について整理したものである。
基本的には,売上の変動が少なく定番商品としてフェイス管理される商品と,売上の変動が比較的大きい商品とに分けて考えることができる。
前者がここで説明する補充発注型の商品であり,後者はOTBに向く商品である。
図表-8は,補充発注(ここで紹介するのは,一定間隔で必要な数量を発注する定期発注方式である。その他に在庫が一定数量まで減ったら発注するという発注点を決め,不定期に一定数量を発注する定量発注方式,常に一定間隔で一定数量を発注する定期定量発注などがある。)の基本的なパターンを整理したものである。
発注日から納品日までの期間をリードタイムと呼び,発注時点の在庫数量からリードタイム期間中の販売数量を予測し,納品時点に予測される在庫数量を算出する。
最大在庫数量と納品日時点の予測在庫数量の差が発注数量である。実際には,リードタイム期間中の販売数量は予測に対して上下にぶれることがある。予測よりも販売数量が少ない場合には,納品時点の在庫数量が最大在庫数量を超えるので次回の発注で調整する。一方,予測よりも多く売れた場合には,欠品を起こす可能性があるので,そのために安全在庫数量を設定する。安全在庫数量は余り多すぎると恒常的な在庫過剰となるため,商品売上のバラツキと商品の重要度合いを考慮して設定する。
商品売上のバラツキは,安全在庫数量を設定する上で重要な意味を持つ。例えば,過去20回のリードタイム期間中の販売数量が9~11個の間でバラつき,平均が10個の商品と1~20個までバラつき平均が10個の商品では平均が同じ10個であってもバラつき方が大きく異なるため,安全在庫数量の設定も全く異なる。厳密には別の計算式によって算出するが,単純にバラツキだけから考えると,前者は販売数量が安定しているため,発注時点で12個以上の在庫を持っていれば欠品することはほとんど考えられないが,後者では少なくとも21個以上の在庫が必要と考えられる。ただし,後者の場合のバラツキは1~20個であり,20個はいつ現れるか分からない。1個かも知れないし,20個かも知れないものを常に20個に合わせて準備するのでは在庫の持ち方にムダが出る。したがって,図表-9に示すような度数分布(いくつ売れたのが何回というように整理する)をとらえた上で,商品の重要度合いによって欠品させてもよい確率を設定し,安全在庫数量を算出する。20個が20回に1回の割合であれば,20個売れた時に欠品したとしても確率は5%である。

3.まとめ
消費者の加齢に伴うライフステージ(年齢による人生における位置づけ,社会的な地位,世帯構成など)の変化は消費構造(支出する費目の優先順位や金額)を大きく変えている。
一方,小売業は近代化,ローコストオペレーションの名のもとに『プロの商売人』であることを切り捨ててきた。売場は発注作業,補充作業,接客作業,レジ作業の場ではなく,お客と販売員が創り出す生きた商売の場=交感の場であることが本来の姿であろう。
『原点回帰』の重要性を再認識するとともに,商売をより確実なものにするためには,今回紹介したような基礎的な知識をはじめ,現状では必須となったIT(Information Technology情報技術)などさまざまな知識・技術・ノウハウを身につける必要がある。
さまざまな知識・技術・ノウハウを身につけ,計算もできるが計算以上のこともできる21世紀型の商売人がこれからの時代には必要である。

 

 

2018年度 芝浦工業大学授業資料

◆用語の確認 2018 ver.2 20180507更新

◆思考法・論理パターン 2018 20180414

◆商品の意味(機能)・価値 消費者の購買行動 2018

◆人口減少・高齢化から 読み解くマーケット変化と生き残りのヒント

◆レポートの書き方について 2018

◆商品購入実験ブランク2018

◆商品購入実験データ入2018

◆レポート構成確認用シート 2018

◆マズロー欲求階層、オズボーンのチェックリスト 2018

◆進化、変化の仕方から見る予測、シミュレーションのバリエーション 2018

◆授業まとめ レポート作成の全体イメージと意味 20180728

 

 

 

 

売場の数値分析

◆数値は代用特性( alternative characteristic )

データばかりが級数的に増えているが、データが増えたからと言って全てをうまく使いこなせているわけではない。場合によってはデータの多さが煩雑さと混乱を招き、生産性と精度を著しく低下させることも考えられる。
どのような目的に対して、どのようなデータが必要なのか、どのようにデータを組み合わせ、あるいは加工して使いこなせば有効なのか、….等々、最も基本的なこと=目的と手段の関係が分からなければ試行錯誤するしかない。
データ加工は元データよりもはるかに多くのデータを生み出すから、むやみに取り組むだけでは手間ばかりかかり何も得られないという可能性もある。
データと目的との間にある関係性を理解しない限り、どんなにデジタル化が進んでもその対応は典型的なアナログ的作業ということになる。
結局、技術ばかりが先行しても、人の頭=思考回路やユーズウエアがついてこられなければ意味がない。

我々が日常的に目にし、また使っている「数値は状況を表わす代用特性」である。したがって、数値の持つ意味に関する定義が重要になる。
QC用語で代用特性( alternative characteristic )は「要求される品質特性を直接測定することが困難なため、その代用として用いる品質特性」と説明される。
例えば「男の人」について知ろうとしても直接「男の人」というものを測定することはできない。そこで男の人を知る上で測定可能な項目を設定し、その項目について数値でとらえていく。
例えば外観であれば年齢、身長、体重、BMI、..など、、運動能力であれば50m走、1500m走などのタイム、反復横跳びや垂直ジャンプ、遠投の距離、...など、また、健康状態であれば血圧やコレステロール値、中性脂肪、血糖値、尿酸値、..など、測定可能な意味ある項目である
「男の人」という漠然としたとらえ方では分からなかったことが、このような項目に整理することで要素ごとに把握できるようになる。これが代用特性という意味である。

このように「知りたい内容=目的」に応じて、関連する意味ある数値を抽出し、組合わせていくことで知りたい内容をより具体的にとらえていくことができる。

◆売場の代用特性
そこでこのようなことを前提にして「売場」について考えてみる。
売場の健康状態を判定するには、どのような数値を、どのように組合わせていけば良いのだろうか。これが分からなければ、どんなに高価なコンピュータを導入し、どんなに多くのデータを蓄積しても、使えない。
いろいろな企業で日常的に管理に使う帳票を見る機会があるが、ほぼすべての企業がシーズ発想で作られた帳票しかアウトプットできないでいる。
理由は簡単である。コンピュータメーカー、ソフトウエアハウスのの「これだけ多くの帳票が出せます」「こんなに細かなデータが出せます」という売り文句に乗っているだけだからである。
いくら高額な費用を払ってメーカーの「シーズ」を買っても、業務上どのようなデータをどう使えばよいのかという「ノウハウ」がなければ、ただの数字の羅列、意味のない数字の組合せがたくさん並んでいるだけでしかない。
ほとんどのケースでノウハウがないから、何でもできる、たくさん出せるという形を取らざるを得ない。
これだけ見ていれば大丈夫ということにはならないから、使う方もどうしてよいか分からない。しかし、売場が健康であるかどうかを判定するために必要な数値はある程度限られる。
基本は、売上/荒利/在庫の3つである。我々が目標としているのは基本的に売上と荒利である。
売上は量を、荒利は質を表わしていると考えてよいだろう。売上と在庫の関係は販売や売場運営のバランスや効率を見る上で重要になる。この3つの数字が基本である。
他にもいくつかの数値があるが、これらは、売上/荒利/在庫のバランスを見る上でその過程、内訳など原因分析のために必要となる。
例えば、売上に対して在庫が多めだとする。その原因を探すには、仕入を見れば良い。売上を超えた仕入が行われれば在庫は増え、その逆であれば在庫は減る。
仕入は売上と在庫のバランスをコントロールするための手段であり、そのコントロールがうまくいっていないと売上と在庫のバランスが崩れる。
また、予定の荒利率よりも実績が低く出た場合は、一定期間内の値入率(仕入の内容)と値下金額を見れば良い。更に2,3ヶ月前の仕入やその後の在庫推移を見れば値下の原因を知ることができる。
つまり、あらゆる「結果」は売上/荒利/在庫という数値へ集約されており、他の数値はこれら3つの数値が「なぜ」そのようになったのかというプロセスや内訳、原因などということができる。
したがって、売場が健康であるかどうかを見るためには売上/荒利/在庫の3つの数値をキチンと押さえた上で、そこから遡っていけば良いことになる。

◆関連する数値
(1)売上に関連する数値
売上が予定通りにいっているかどうかを見るためには2つの系列で見る必要がある。
一つは、単位をそのまま細分化するという方法である。全社、店、事業部、部門、ライン、クラス、..アイテム、SKUという具合である。全体はあくまでも合計でしかないから、単位を細分化し、その内訳を見ていくことで原因、重点を探すというやり方である。
もう一つは、売上を客単価×客数、客単価を買上単価×一人当たり買上げ点数というように分解する方法である。このように分解することで、お客の購買状況をとらえることができるし、客数や一人当たり買上げ点数によってお客が支持している状況を知ることができる。
通常、客数は店に対するお客の支持を表わし、客単価=買上単価×一人当たり買上げ点数は店の工夫(商品構成や売り方)を表わしている。商品構成が買上単価を決定し、売り方の工夫が一人当たり買上げ点数として現われてくる。
(2)荒利に関連する数値
荒利率についても売上と同様に2つの系列で見ることができる。一つは、売上と同様に単位を細分化していくものであり、もう一つは値入率と値下率である。
一般的に値入率は特売商品やチラシ商品などの仕入が増えれば低くなるので、定番比率、特売比率( チラシの回数、チラシ商品の設定の仕方 )という見方も同時に必要となる。
値下は在庫の内訳( 商品別の売上比率/在庫比率から在庫過多、不良在庫の有無などを見る )や2,3ヶ月前の仕入( 仕入過ぎなど )を見ていくことで原因を特定することが可能である。
ただし、値下がぜんぜん計上されていないという場合、不良在庫が売場の中に放置されている可能性もあるので注意する必要がある。
(3)在庫に関連する数値
在庫についても売上と同様に単位をそのまま細分化してみていく方法と、売上と仕入のバランスを見ていく方法がある。(Cf.OTB)
基本は、売上と在庫のバランスであり、そのバランスを維持するための手段として仕入がうまく機能しているか否かが重要になる。

このように、様々な数値、あるいは数値間の関係にはそれぞれ意味があり、それを理解することが重要になる。したがって、目的が明確であれば、そのために必要となる数値も限定される。
いたずらに多くの数値を並べるのではなく、目的に応じて必要な数値を関連付けてみられる帳票に整理することがノウハウである。

◆3つの分析
小売業では、通常、3つの分析方法があれば十分である。
①時系列での変化を見る ( 目的は、将来を予測するため )
売上推移、在庫推移などなど時間と共にどのように変化しているかをとらえ、今後どのように変化していくかを予測する。
②内訳を見る ( 目的は、重点を知ったり、他との比較から問題を発見するため )
売上構成、在庫構成など内訳を知ることで管理する重点を知ったり、売上構成と在庫構成の比較からバランスの良否を調べ問題発見に用いたりする。
③ ①×② 内訳の時系列変化を見る ( 目的は①と②の組合せである )
売上構成の時系列変化を見ることで今後重点がどのように推移していくのかを知る。さらに在庫構成の時系列変化を組合わせて見ることで売場の拡縮や在庫の持ち方の設定をし、発注に活かしていく。
このように分析は3つのパターンがあるが③がキチンとできていれば他の2つは包括していることになる。したがって、代用特性として設定した数値についてこれらの分析ができれば、基本的に売場の状況は把握できることになる。