総合スーパー(GMS)の立て直しに関する「イオンとセブン&アイの、戦略の違いどちらに軍配?」という視点はマーケットを見ていない?

 総合スーパー(GMS)の立て直しに関する「イオンとセブン&アイの、戦略の違いどちらに軍配?」という記事をヤフーニュースで見かけた。
 目を引くタイトルではあるが、残念なことに、このタイトルにはマーケティングの概念がすっぽり抜けているように思えてならない。
 そもそも総合スーパー(GMS)と一口に言っても、出店時期によって立地も違えば、規模も違うし、商圏構造、経費構造なども違う。要するに商圏人口だけを想定してできているから必ずしもマーケット、商圏に共通性があるわけではない。したがって、業績が不振だからと言って、全てを同じ手法で対処することには、どう考えても無理がある。
 イオンリテールが「イオンスタイル」に切り替えて上手くいっている店があるというが、条件が違う店がそれで全て同じように解決するとも思えない。
 イトーヨーカ堂が「ザ・プライス」への業態転換を図った時には、あえて条件の異なる店ばかりを業態転換するということをやっていた。結果的には上手くいく店・部門とそうでない店・部門があったから、一つの手法だけでは対応が難しかったようだが、いずれにせよ、マーケットの状況に応じて多くの引き出しを用意する必要があることだけは確かだろう。
 地元とのこともあるが、少なくとも20年以上いろいろなことに取り組んできたこと、今後10年の間に起こる急激な高齢化と人口減少が地域によっては状況を様変わりさせてしまう場合があること、アジア、世界のハブシティ(国策)としての東京への一極集中がますます加速すること、....などを考えれば、地方都市で大規模な総合スーパー(GMS)が残ることはかなり難しいと考えるべきだろう。
 現在、都市部に小型店舗が集中しているのは、大型物件の入手が難しいこともあるが、業績のことを含めて短期間にシェア・規模を確保したいこと、高齢化によって移動距離が短くなり、商圏が縮小していることなどが大きな理由であるが、結果としてコモディティニーズは高密度の閉鎖型小商圏を形成し、その中で完結するような方向に向かっていると考えてよいだろう。
 一方、地方は広域のまま商圏密度が薄まる傾向にあるから、鹿児島県のA-Zスーパーセンターのように超大型店舗で超広域商圏を確保するか、中小規模で損益分岐点を極端に低く抑え、生産と一体化するなどして高利益率、高生産性を確保するなどしか生き延びる方法は考えられない。
 最も難しいのが、コモディティニーズを対象とした大型店であり、経費構造が大きく変わらない限り、地域一番店でありながら経費負担に耐えられずに撤退ということもないとは言えない。ホームセンターのような専門性、特殊性とローコスト体質を持ち合わせていれば別だが、特徴のないことが特徴とも言える総合スーパー(GMS)では、固定費がネックになり、維持することが難しい。まさにこのような条件にあてはまるのが、総合スーパー(GMS)ということになる。
 きれいな店舗、オシャレな商品も一時的には目先を変える意味でよいかもしれないが、いずれ飽きられることになるだろう。
 インターネットやスマートフォンにはSNSや多くのプラットフォームが次々と生まれているから、さまざまな切り口で買い物ができるし、飽きることもない。また、交通機関の乗り入れや新線の開通で東京までの時間的距離が著しく短縮されているから、地元で我慢しなくても簡単に銀座や渋谷、青山、表参道などの「本物」へ行って買い物することができる。
 重要なことは、イオンとセブン&アイのどちらに軍配が上がるかではなく、マーケットに対する読みと損益計算を考えた上で、条件ごとにどのような対応が有効かということだろう。
 いずれ総合スーパー(GMS)単独店だけではなく、地方に数多く立地する総合スーパー(GMS)ベースのショッピングセンター、NSC(近隣型ショッピングセンター)なども似たような状況に陥る可能性がある。
 アジア各国が、急激な高齢化と人口減少に直面する日本がどのようにこの状況を乗り切るのか、熱い視線で見守っているのと同様に、総合スーパー(GMS)が、この状況を如何に切り抜けるのかで、その後の中大型商業施設の方向は大きく変わると考えてよいだろう。
 日本全国の市区町村についてもかなり詳細な分析をしているつもりだが、これからの10年を考えると地方の主要都市で、現在65歳以上の人口が20%代後半以上にある都市は、現在の人口規模に関係なく、総人口、生産年齢人口とも大きく減少することが分かっている。この傾向は政令指定都市といえども例外なく起こるから人口規模だけで安心することは禁物である。
 場合によっては、人口が多い方がむしろインパクトが大きいかもしれない。また、大都市周辺にある衛星都市も大きな影響を受ける。東京都の求人倍率が直近で1.8台で推移しているのに対し、埼玉県と神奈川県は1.0未満である。他に1.0を切るのが北海道、青森県、鹿児島県、沖縄県だけであることを考えても大都市近郊にある衛星都市が受ける影響がどのようなものであるか分かるだろう。これと同じような縮図が市区町村レベルでも起こっているから、状況を冷静に把握しておく必要がある。
 いずれにせよ、基本的な情報をベースにしてマーケットをシミュレーションした上で対応を考えていくことが重要である。

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