第6回  小さな企業のメリット、デメリット-1

1. 小さな企業に見られる共通点
(1)小さな企業に見られる共通点     
 大きな企業に共通点があるのと同様に、小さな企業にもいくつかの共通点がある。
特に長い歴史を持ちながら大きくならなかった(なれなかった)企業には、創業以来極端な拡大を志向してこなかったという企業が多い。
 拡大を志向しないことによる違いはさまざまな面に現れている。
①人で動く
 基本的に社員数は少ない。長い間固定されたメンバーで運営されており、人の入れ替わりは少ない。組織や肩書きが変わっても、メンバーはいつも同じだから、全体的に大きく変わることはない。
 人の要素が強く、人だけで動いているようなところがある。チームワークがよく、上手く動いている場合はよいのだが、組織内が変にバランスして動きにくくなっているケースでは状況を打開することがなかなか難しい。
 多様な知識、経験、価値観などに触れる機会が限られるから、ものの見方、考え方もそのような限られた環境の中で形成される。
 ある意味では『のんびりしている』と言えるが、多分に好き嫌いだけで動いているような面もある。現在のような難しい時代には無防備な組織である。

②シビアさの欠如
 拡大を志向しなかったことであまり経験的に持ち合わせていないのが、仕事に対するシビアさ(確実に結果を出す)、人に対するシビアさ(結果を要求し続ける)、競争に対するシビアさ(戦略的に展開し、ある程度の犠牲を払っても確実に相手に勝つ)だろう。
 どれも実行力、徹底力と通じるものであるが、ベースにあるのは何が何でも結果を出すという精神的なタフネス、厳しさである。
大企業組織では、結果を求めるあまり自分の好き嫌い(自分の信条に合っているか否か)、道徳、世間の常識、物事の道理など『一人の人間』としての価値基準と関係ない ところで無人格に動いているようなところもある。法に反することまでは別としても、結果を出すためには時として信条的にやりたくないこと、決して褒められないようなこともやらざるを得ない。
 自分の意志とは関係なく、会社(無人格で責任の所在が見えない)の命令、上司の命令で半強制的な返品や値引き、リベートなどの交渉(一方的だから交渉にはならないが…)などもやらざるを得ない。
 『仕事のため』という理由で高圧的、威圧的な態度を取ることが必要な場合もある(分かって演じている内はよいのだが....)。
 本音だけでなく、あえて建前を押し通すことも組織としての規律を守り、確実に目標が達成できる土壌をつくりあげる上では重要となる。
よい意味でも悪い意味でも『仕事だから…』『会社のために…』という理由によって、ある程度のことが抵抗なくできる組織でないとなかなか大きくなれないのだろう。
 この一線を超えられるか否かが、企業が大きくなれるかどうかの境目であるような気がする。
 逆な言い方をすれば、さまざまな関係において、ある意味では『人間的に』、ある意味では『ルーズな状況を放置して』いては大きくなることが難しいということだろう。
 どちらも一長一短あるから、ケース・バイ・ケースで使い分けるバランス感覚が必要だと思うが、いずれにせよ、曖昧さ、シビアさの欠如が実行力、徹底力の弱さにつながっていることだけは確かである。

③重要な経営者
 小さな企業では、社会的に見ても経営者=企業と言ってもよいから、資金調達も、人材集めも、さまざまなコネクションもすべて経営者次第と言ってよいだろう。
言い変えると、経営者を超える社員、あるいは経営者を超える組織が出現しない限り、経営者自身がその企業の壁となり、その企業の限界となってしまうことになる。
 経営者が自分独りでやっている内は、組織が大きく発展することは難しい。
重要なことは、周囲にいる人達を存分に動かすことで自分独りでは成し遂げることのできないことを実現していくことである。
 存在意義のある特徴的な企業を創りあげてきたのは経営者であるが、逆にその企業が更なる発展をする上で大きな障壁となるのもまた経営者自身である。
 多くの企業に見られる共通点である。
 資金調達もたくさんの担保を持つ大企業と比べたらはるかに難しい。会社の担保=社長と考え、それだけで大金を貸してくれる銀行も少なくなっている。
 人材集めも企業の知名度、安定性、成長性がなければなかなかよい人材は集まらない。小さな企業であればあるほど『人』が重要な意味を持つから、人を集めることができるだけの魅力を『会社の顔である社長』、そしてその会社の『事業そのもの』が持つ必要がある。

(2)小さな企業の構造的特長
 小さな企業のメリットを認識し、活かしていくためには、小さな企業の持つ構造的特長をよく知っておく必要がある。
常識的に考えれば、小さな企業が大企業よりも人、物、金が集めにくいのは当然である。しかし、それ以上に小さいことと共通して、経営を難しくしている要素は多い。
①実行力、徹底力が発揮できない構造
 小さな企業に共通して認められる弱点は、実行力、徹底力の弱さである。これは先に述べたように『人』だけで動いているということに起因する。
先に『微妙にバランスして....』という表現を用いたが、長い間一緒にやっている限られた人達で動いているから、決め事が徹底されなくてもどこかそれを認めてしまう、あるいは諦めているようなところが組織の中にある。
 組織上の役職とは関係なく、ある人の言うことであれば従うが、別の人の言うことだと聞き流して実行に移さない。事実上の組織(インフォーマル組織)が組織図(フォーマル組織)とは別に存在しているから、組織としての規律(指示命令系統)が守られない。
 したがって、組織的なルールに従って指示を出しても簡単なことがなかなか実行できないし、徹底することも難しい。
 当然、仕事もそれぞれの考え方、やり方で行っているから、組織内で統制を取ることは難しい。個々に行われる仕事に整合性がないから、その狭間でさまざまな問題がランダムに発生する。
 組織が出来上がっていない、業務が安定していないから、何かあると一部の限られた人間が動き回って処理をする。いつでも後始末をしてしまうから原因が放置され、改善されることはない。
 特定の人が皆の知らないところでどうにかしてしまうから、いつまで経っても問題が明らかにならない。どんなに不都合なことが起こっても内々に処理されるから一部の人にしか深刻な状況は認識されない。
 特に小売業の場合、タイミングを逸したらやっても意味のないことが多いから、やらなければやらないで済んでしまうケースが多い。忙しければ、いちいち細かなことにこだわってもいられないから、いつも中途半端な状態が放置され、常態化する。
 組織ではなく、個々の人がそれぞれで動いているから起こることである。
 このような組織の特性を活かしながらどうにか動いていこうとすれば、何時でも目を光らせ、怒ったり、宥め賺したりすることができる『番頭』や『鬼軍曹』が必要である。

②組織の意識  
 経営者がいつしか自社を大きくしたいと考えるのは経営者として当然の夢である。
その原動力としてさまざまな企業、経営者との触れ合いやマス媒体などを通じた情報=刺激との触れ合いがある。
 しかし、経営者が社外に出てさまざまな情報を得、刺激を受けるのと比べると従業員が日常的に触れることができる情報=刺激の量ははるかに少ない。
 したがって、経営者が夢を膨らませたからといって、従業員が同様な意識を持っているかというと必ずしもそうではない。
 情報=刺激が少ないということもあるだろうが、現在自分が置かれている環境に大きな疑問を抱くこともなく、一定の範囲内で安定的に仕事を続けたいという意識は強い。
 テレビや新聞で報道されるような企業の出来事は、自分とは別世界、無関係の出来事であり、現在の自分、現在の仕事、現在の職場、現在の会社が大きく変化することなど想像もできない、というのが実情だろう。
 この意識のギャップは、さまざまな面で障害となる。
 重要なことは、日本には例え小さくても、世界的レベルの技術を持った企業や職人、中にはパート社員もいるということを知ることであり、自分たちにもその可能性があるということを組織全体が共通認識として持つことだろう。
 そのような共通認識を前提として、企業としての共通目標を持つことができれば、現状に甘んじることなく、どんどん進化することは可能である。
 自分たちの強み、弱み、他社との違い=特徴を正しく認識してこそ、次のステップを踏み出すことが可能になる。
 大きな企業、特に上場企業は常に外部から業績を評価され、限られた時間の中で結果を出すことが求められている。だからこそ多少乱暴なやり方でも実行に移し、結果を出さざるを得ない。
 従業員もそのような対応に慣れているから、割り切って動くことに何の疑問も持たない。要求されることが多く、かつ厳しくても、それが自分たちの仕事だと思えるから、実行できる。
 環境が違うと言ってしまえばそれまでだが、組織としてそこで行われている仕事の質、意識の違いは明らかである。

 小さな企業が自分たちの特長を活かすためには、まず自分たちの意識を変えるところからスタートする必要がある。
 『自分たちにもできる』という意識の上に長所、短所をよく認識し、どこに勝機があるのか知恵を使うこができれば、大企業を超えるようなことも可能になるだろう。

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