第3回  なぜ、大きな企業がダメになっていったか-2

■なぜ、大きな企業がダメになっていったか-2
チェーンストアが生まれるまでの間、我国の小売業を形成していたのは個人商店と百貨店である。チェーンストアが生まれたことで、それまでの小売業とは全く異なる商品流通・消費形態が誕生した。
チェーンストアは物凄い勢いで成長し、短期間の内に流通・小売業の主流を成すまでになっている。
しかし、これまで我々が経験してきたのは誕生(導入期)から成長期までのバラ色のシナリオであり、その後にどのようなことが起こるのか、本当の意味ではあまりよく分かっていない。これまで手本としてきたアメリカの事例がないわけではないが、法的規制、都市形成など店舗形成の歴史的背景が全く異なり、参考になるようでならないことがあまりにも多すぎる。また、我国にも破綻した企業は数多くあるが、バブル期に本業以外へ過剰投資したことが大きな原因となった場合が多いので、チェーンストアという構造的要因によるものとは言い切れないケースがほとんどである。
企業は、業績悪化とともに情報を公開せず、詳細な研究も行われていない。
『チェーンストアが抱える構造的問題』を整理し、『何故、チェーンストアが大きくなるとダメになっていくのか』ということを知ることは、今後の小売業の方向を知る上でいろいろと意味があることだろう。

1. チェーンストアのアキレス腱  成長のメカニズム、店舗年齢と商圏、競争状況の変化
(1)チェーンストア成長のメカニズムから見た構造的問題点
①チェーンストア成長のメカニズム
チェーンストアは『拡大再生産』の論理に基づいた経営形態の典型である。
既存店が上げた利益を再投資し、同様な規格の店舗を次から次へと出店していく。
既存店があげた利益→新店への再投資→新店を加えた全店の利益→新店への再投資→・・・、という形で出店を繰り返し、規模を拡大し続ける。
永久機関のようなメカニズムをもつ経営形態である。
この経営形態は小売業の経費・利益構造と実によくマッチする。
チェーンストアが小売業においてひじょうに有効な経営形態として取り入れられたのも、小売業がもつ経費・利益構造によるところが大きいだろう。
小売業は損益分岐点が高く、ほとんどの経費が固定費的に発生する。売上が下がるとすぐに赤字に転落する脆弱な特徴を持つ反面、売上が上がると利益は飛躍的に増加する。
いくつかの店舗で試算してみたが、売上を2~3割上げると(経費は固定費的に発生するため売上が伸びても大きく増えない)経常利益は2~3倍にも増えてしまう。
したがって、売上を伸ばしやすい条件がそろっている企業にはひじょうに有利な経営形態である。
このような条件に当てはまる典型的な例は、店舗数が少なく、売上規模のまだ小さな企業が出店攻勢をかけた場合である。売上は何割という単位で急速に伸び、利益も何倍というように飛躍的に拡大する。資金的なゆとりができるため、このようなサイクルにはまると何年かの間は利益(質)を伴った規模(量)の拡大が可能になる。
もしも既存店30店舗の企業が1年間に10店舗の新店を出店すれば、単純に新店の寄与分だけで売上は3~4割伸びる計算になる。まして、新店が既存店よりもいろいろな面で改善され、面積も大きくなっていれば5割以上の売上増加も可能である。
その時に経常利益がどのくらい増加するか、信じられないほどの増益である。
もちろん、出店コストはかかるが、資金が回転している限り、永久機関としての構造はチェーンストアが最強の経営形態であることを証明することだろう。
まさにチェーンストアのよい面が象徴的に表れる場面である。
問題は、この状況がいつまで続くかということである。
既存店が前年実績を維持している限り、新店売上は企業の売上増加に寄与し、資金は順調に回転する。仮に、既存店が前年実績を多少割り込んだとしても、新店売上がそれを埋めて余りあるほどの寄与をしている限り、大きな問題は起こらない。
チェーンストアの経営メカニズムは順調に機能する。
しかし、一度既存店が前年実績を大きく割り込みだすと、新店の売上は既存店売上の穴埋めとしての役割に変わってしまう。もしも既存店の売上減が新店売上によって埋められない規模にまで拡大したら、新たに新店に投資する資金を捻出することもできなくなる。永久機関の破綻である。
チェーンストアが永久機関であり続けるための必要条件は、既存店売上の維持と新店売上の寄与である。
この必要条件が最も強調される、チェーンストアにとって最もよい時期は、既存店の売上規模がまだ小さく、新店売上が既存店売上に対して大きく影響する規模(企業にとっての成長期)である。逆に企業全体が大きくなって新店売上が既存店売上に対して与える影響が小さくなった時、あるいは既存店の前年割れが拡大し、新店売上では穴埋めできなくなった時、チェーンストア本来のメカニズムは機能しなくなる。
このようにチェーンストアは企業の成長期、あるいは経済成長期に適した経営形態である。現状では成熟期から衰退期に対する答えは持っていない。そう考えれば、これからの時代にはあまり適した経営形態とは言えない。

②店舗年齢と商圏の変化
チェーンストアがスケールメリットを発揮できるほど多くの店舗を擁するまでには、長い年月を必要とする。例え毎年10店舗ずつ出店したとしても200店舗の店舗網をつくり上げるには計算上20年もの歳月が必要となる。
現在100店以上の店舗を持つ企業であれば、多かれ少なかれ20年以上経つ店舗を抱えていることだろう。
店舗ができてから20年経つとその店舗を利用する周辺の人達も同じだけ年を重ねる。30~40歳代中心の消費が旺盛な商圏も、いつしか50~60歳代中心の成熟した商圏へと変わってしまう。年を重ねることで消費者のライフステージ(人生の中でもポジション)、世帯構成が大きく変わるため、消費構造は質的・量的に様変わりする。
商圏全体が年を重ね、高齢者が増えると行動範囲は狭まり(特に店舗までの交通手段が重要な意味を持つようになる)、商圏は確実に縮小する(このような状況に対処するにはインターネットなどによる通信販売の併用しか考えられない)。
子供が成人して独立すれば世帯人数は減り、世帯支出は減少する。一般的な住宅街で高齢化が進んだ場合、商圏内の世帯数が変わらなくでも消費は減少する。
「商圏全体が年をとる」という構造がある限り、店舗の売上がいつまでも成長し続けると考えることは難しい。むしろ、売上は減少すると考えるべきだろう。

どんなに新店をつくり続けても、ある程度の店舗数、売上規模を超えてくると新店の売上増加分だけで既存店の業績悪化をカバーすることが難しくなるのがチェーンストアのもう一つの構造である。
GMSなどさまざまな業態で見られる現象であるが、10~20年前に2店舗でつくっていた売上を今では1店舗加えた3店舗でやっとカバーしているエリアがたくさんある。
商圏の成熟に競争の激化が加わることで、新店の役割も売上増加への寄与ではなく、売上減少の穴埋めへと変わる。
既存店が増えれば増えるほど古くなった店舗をケアする仕組み(スクラップ、改装・増床、業態転換など)を持たない企業は立ち行かなくなる。
さまざまな業態について主要企業の業績推移を調べてみると、どの業態でも必ずといってよいほど先駆した企業が衰退している。
多くの既存店を持たない新興企業は、最も競争力が発揮できる形態の店舗を条件のよい立地に次々とつくることができる。一方、既に多くの既存店を持つ企業にはその自由度は残されていない。かくして業界内で順位の入れ替えが起こる。
店舗年齢と商圏の高齢化は、多店舗化を志向する企業のアキレス腱であり、避けては通れない難問である。
多くの店を持つことはできても、たくさんある店舗全体を維持発展させるにはこのメカニズムを克服する必要がある。
そろそろ多くの店舗を擁しないでも成り立つ経営形態を模索する時期に入ったのではないだろうか。

(2)オーバーストア、激しい競争と商圏の縮小
小売業における年間商品販売額は1997年147.7兆円でピークを迎え、その後減少に転じて2002年には135.1兆円にまで低下している。商品販売額が低下する一方で売場面積は逆に増加し、1997年128.1百万㎡から2002年には140.6百万㎡へと増えている。経済産業省経済産業政策局調査統計部産業統計室「商業統計表(産業編総括表)「商業統計速報(卸売・小売業)
売上が1割低下しているのに対し、逆に売場面積は1割増加しているのだから、単純に計算しても単位面積当たりの販売額は8割近くにまで低下していることになる。
また、これまでは大型化することで商圏は拡大すると誰もが信じてきた。しかし、類似する商業施設が林立するようになると、どんなに大きな商業施設をつくってもそれだけで簡単に商圏が拡大することはなくなっている。
既に競争の激しいエリアでは、3万㎡を超えるGMS(総合スーパー)でも第一次商圏が2~3kmとSM(食品スーパー)並みにまで低下している。
『近い』『安い』『大きい=取りあえずの物が揃う』以外の来店理由を持たない店舗、商業施設は生き残ることが難しいだろう。
規模の論理にはNo.1以外、No.2も No.3もない。全ての企業が多大な設備投資を維持できるだけの売上・利益を上げられる時代ではなくなっている。
重要なことは、競争関係にあるさまざまな商業施設が施設、設備、テナントなどさまざまな面で同質化している点である。
真の競争力を持たない大型化は、回収見込みのない無謀な投資と言ってもよいだろう。大型化だけが競争力と信じて無謀な規模拡大を志向し、敗退していく企業は後を絶たない。
先行業態に学べば、少なくとも戦略的選択肢は他にあるはずである。
規模の論理で勝ち残れない企業は、早く違う選択肢を模索する時期に来ている。

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