20世紀型産業と21世紀型産業の二層構造

 20世紀型産業と21世紀型産業の二層構造が顕著になりつつある。
 長い時間をかけ、物をベースにして出来上がった20世紀型産業は、いまでも産業の基礎を成しており、多くのインフラとしての物を所有し、企業活動を行っている。全ての基本が物であるから、何かをやるための物を設計し、つくり、販売・購入し、メンテナンス、管理することで事業が成り立つ。当然、そこに必要となる技術、人員もすべては物ベースであるから、あくまでも物が前提となる。
 一方、デジタルとネットワークによって物凄いスピードで成長、進化している21世紀型産業は、全く異なるビジネスモデルで進化、発展しようとしている。
 新しい時代を象徴する事例としてよく挙げられるのがUBER(https://www.uber.com/about)だろう。日本ではまだ六本木周辺だけということだが、既に世界67ケ国に普及しているという。
 アプリを介し、ドライバーとして登録した人の中から時間に空きのある人が、お客のニーズに合わせ、タクシーとしてお客に対応する。支払いはクレジットカードだから直接金銭のやり取りは発生しない。
 タイム24(駐車場)、ラクスル(チラシ印刷)などと同様、シェアビジネスの典型的な事例である。不特定多数の人に、不規則に、少しずつ発生し、しかも位置的にもアチコチに分散する能力の「空き」は、そのままでは何の意味もなく、「手待ち時間=アイドルタイム」として消えていく。生産性が上がらない重要な要因である。
 しかし、一つずつは小く、発生箇所では解消できない「空き」も、ニーズある人・組織とマッチングさせると一つの大きなビジネスとなる。
 「空き」が有効活用でき、小さなニーズをロットに関係なく解消し、そのシステムを提案・運用する側の3者が揃って初めて成り立つビジネスモデルであり、しかも3者ともWIN-WIN-WINという関係が出来上がる。
 彼らは、自ら所有することをしないから、機器を購入することも、オペレーター、ドライバーを雇うことも、機器の管理やメンテナンスもすることなく、ビジネスを創り上げる。
 実体は「物をベースにした20世紀型産業」だが、多くのモノ・コトを効率よく動かし、利益を上げるのは「デジタルとネットワークによる21世紀型産業」である。 だからこそ、物凄いスピードで成長し、売上・利益も拡大している
 時価総額、収益力、成長性などを比べてみても、全ての面で圧倒するのは短機関で急拡大してきたIT系企業ばかりが目立つ。
 すでに先進国は経済がサービス化していることから次なる成長はサービス産業にかかっていると言っても過言ではない。(昔から多くの人がそういっているが、実態はなかなかそうなっていないケースも多い)
 安倍首相が「生産性運動60周年記念パーティー(主催;日本生産性本部)」の席上で「日本再興戦略の中で、経済成長の切り札としてサービス産業の生産性向上を位置づけた」とし、サービス生産性革命の必要性を訴えている。目指すべき方向性として①Google、Amazonに代表されるようなイノベーティブなサービス産業、②「おもてなし」に代表されるような質が高くリスペクトされるサービス産業(ふさわしい評価と対価が得られるためにサービス大賞の創設とサービスの質の見える化)、③言語、金融(クレジットカード、ATM)など様々な面で、シームレスでストレスのないグローバルなサービス産業の3つを提示している。
 しかし、そんな先進国のベースを支えているのは、他でもない物をベースにした20世紀型産業だから、ややこしい。
 問題があるとすれば、物ベースの時代に長い時間かけて出来上がってきた秩序や規制、所有することで作り上げてきたインフラと新しいビジネスモデルの仕組みが相互に矛盾する場合である。
 多くの場合、規制などは非効率を生み出しているから、サービスの生産性向上には規制を廃止する必要がある。長年かけて出来上がった秩序や規制を取り払うことで、大きな生産性向上が実現できるが、そのためには大きな犠牲が必要になるから反発も多い。(例えば、1000円ヘアカットを政府が新しいビジネスモデルの事例としてとり上げたにもかかわらず、一方では、明らかにそれを規制するような条例が多くの県で制定されている)
 それでも前に進むのか、それとも躊躇して進化を止めるのか、選択の仕方一つで将来は大きく左右される。
 重要なことは、ユニコーン企業も革新的な世界的規模のIT系企業も日本からは出ていないこと=ほとんどのプラットフォームは海外の企業によって占められているから、収益の多くは海外の企業に集中しているという事実、現状をどうとらえるかである。
 先日、ある雑誌の原稿で「通販業界の明暗 好調アスクルと不調ニッセン」なるテーマがあった。
 ポータル、あるいはプラットフォームとしての機能も備えるYahoo!とアスクルは何らかの化学反応を起こしたが、セブン-イレブン・ジャパンというリアルネットワークと通販名簿を持つニッセンの組合せでは化学反応は起きなかったということだろう。
 いろいろと状況を観察して分かることは、物をベースにした20世紀型産業の時代には「売上、利益」は店舗が大きい、店舗数が多いなど物の量に左右されたが、デジタルとネットワークの時代にはプラットフォームをおさえた企業に「売上、利益」は集中する。

 世の中、有料道路が圧倒的有利ということになれば、みな有料道路を通るしかないから、黙っていても有料道路を所有している企業に収益は集まってくる。
 Microsoft、Google、Yahoo!、Facebook、...。
 この理屈さえ分かれば、経営そのものは大きく変わるはずだが、未だに物としてのインフラをベースにしてしか発想しない20世紀型企業は、有料道路以外の活路を探し続けるしかないのだろう。
 現在、そして将来をどう読むかの違いは大きく、企業の勢力図は短期間で大きく塗り替わる可能性が高い。


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