リテイル・エンジニアリング-1 いま流行のデジタルマーケティングは販売技術の焼き直し⁉

 以前は、販売にも技術があるという考え方が浸透していたから、リテイル・エンジニアリングなどという言葉も存在していたが、バブル崩壊後、ローコスト一辺倒になってからは、手間暇かかるものは消えていってしまった。
 問題は、売場も本部も現場での技術・ノウハウの伝承がなくなったことで、組織、あるいは業界に蓄積していた技術やノウハウが時間の経過とともに消えていってしまったことである。
 面白いのは、いまIT関係の企業やITコンサルタントたちが一生懸命試行錯誤しながら、小売からなくなってしまったノウハウと全く同じようなものを探そうとしている点である。
 たとえば、インターネット通販などで用いるABテストでは、AとBの比較を繰り返しながら、より消費者に支持される表現の仕方を見つけ出し、販売精度=確率を高めようとしている。ところが、AとBを比較する際、どのようなものを比較対象としたらよいかという理論的な裏付けを持ち合わせていないから、この部分は勘、経験、感性など個人に帰属する職人的能力に頼ることになる。
 デジタルの世界は最先端を行っているようなイメージもあるが、あくまでのベースにある技術の部分だけであり、そこの上に乗せるコンテンツとなると一昔前と同じ非常にアナログな方法で行っていることになる。したがって、アルゴリズムが上手くいかないと、PCモニターのような耐久消費財を買った後に、もう数年は買うはずのない同様なモニターの案内が集中して提示されるようなことが起こる。
 HDDを買えばHDD、バッグを買えばバッグ、リンゴを買えばリンゴ、チアシードを買えばチアシード、...というのは、購入前か(商品を探しているのか)、購入後かという識別ができていないし、また、一度購入した後、同期間に類似商品を買う可能性がある商品なのか否か、定期的な買い替えが起こる商品なのか否か、一度買えばしばらくはその品種は買わない商品なのか否かという商品特性についての識別ができいないことが理由である。
 一般的に考えれば、ITの世界では随分細かなことをやっていると思いがちだが、実際に商品販売の経験がなければ、小売業が近代化し始めた半世紀前と同じことを繰り返していることになる。
 リアル店舗では、実際に売場に商品を並べる際、目的とする商品の売上を伸ばすには、●価格をいくらに設定した時に売上・利益が最大になるのか、●どんな商品(デザイン・色・機能・性能・価格など)と比較すると効果的なのか(商品仕様が比較しやすい商品構成)、●どんな位置関係、どのようなフェイス比率で陳列をした時に目的とする商品の売上が伸びるのか、●お客の導線に対して、どの位置、どの高さに、どのくらいの規模で商品を陳列した時に目につきやすいのか、●どんなPOP表現をした時に消費者は反応するのか、....等々、様々な形で工夫をし、法則性を見出していたはずである。
 何よりも結果が速く目の前で確認できるから、修正も早くでき、一定の最適解に収束させた法則を数多く見出すことが可能である。しかも歴史が長い分、多くの売場で、実に多くの人達が、たくさんの試行錯誤、実験を行ってきている。(ただし、個人に帰属する経験・ノウハウのため、それをまとめて整理した形で残っているものはない)
 チラシ作成についても同様である。
 一般的に、消費者がチラシを見る際にはZのように目を動かして見ると言われている。実際にやってみると、筆者はそのように見ていないので、違う方法をとるが、少なくとも左上、あるいは上(チラシの縦か横かという向き、サイズなどで変わる)が最も初めに目につく場所であるから、そこには目立たせたい商品を持ってくるようにする。
 おそらく、食品スーパーのベテラン店長、ベテランバイヤーに詳細を聞けば、価格設定など細々とした点についても色々な実績、経験、ノウハウを持っているはずであるし、特にチラシについては一家言持っている人も多い(多かった)だろう。
 改めてそのような法則性を収集し、仮説としてサイト作成に応用すれば、無駄もなく、いままで気づかなかったような方法が見つかるかもしれない。
 IT系のコンベンションなどでセミナーをやっているのを聞く機会があると、そのような話をして見るが、どうも初めから違う世界の出来事と思っているようで反応がいま一つである。いろいろな業界の発展を考えればもったいないと言わざるを得ないが、業界的にも、年代的にも交流がないので仕方ないのだろう。
 
 そのような状況を考えれば、売場をどのように作ればよいのか、商品構成はどのようにして組み立てたらよいのか、...といったことについても、残念なことに半世紀以上経つ小売業界には、まともに整理した形ではセオリーがない。
 先人が、いろいろな試行錯誤をしてきた集積もあったはずであるが、人とともに消え去ってしまったことは非常に残念である。
 もちろん、これが正解というような絶対的なものがあるわけではないが、それでも目的に応じていくつかのバリエーションはある。
 科学的とまで言えるかどうかは別にしても、論理的には正しい、理にあった考え方、方法、実験によって検証された考え方、方法がある。
 IT・デジタルの時代であることを考えれば、リアルがもう一度その価値を高めるためには、コンテンツとしての売場づくりや商品構成の技術を整理して蓄積していくことが必要だろう。

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