なぜ、ヒット1本しか打たれておらず、しかも85球しか投げていなかった大谷を替えたのか? なぜ、ホームのシンガポール戦では23本ものシュートを打ちながら、スコアレスドローに終わったのか? いろいろな解説や批判があったが、また、別の角度から見てみると「エキスパートエラー」なるものの存在が考えられる。 「エキスパートエラー」は、一言でいうと専門家ゆえの間違えである。正常性バイアスや多数派(集団)同調バイアスなどと同様、災害時に被害を大きくしてしまう一つの原因と考えられている。 詳細は省くが、9.11の際も専門家と電話で相談した結果、避難せずに貿易センタービル上階に留まった方がよいという判断があったというし、セウォール号でも船室に留まることを指示する船内放送があった。 咄嗟の判断ではあるが、過去の経験や知識を基にしたプロの判断が結果的に被害を大きくしてしまったことになる。 同様なことは、3.11東日本大震災の時も起こっている。 津波の規模を読み間違えて結果的に避難しなかった。あるいは、震災後、多くの地震学者が「想定外」という言葉を使っていたように、自身の研究範囲からその規模を除外して判断していた。原発で電源が確保できなかったことなども同様と考えてよいだろう。発想の原点を「安全」に置いたか「危険」に置いたかで、あとの発想、準備、意思決定はすべて変わる。 多くの専門家が、専門家ゆえに間違いを起こす。そのような判断に疑問を呈していた学者も少なからずいたことは、事が起こった後になって分かるから難しい。少数派、非主流派の意見はなかなか表に出てくることはないし、それを基に物事が動くことも少ない。 そこで野球の話に戻ると、なぜ、ヒット1本の完投ペースで投げていた大谷投手が降板したのかである。以前「勝利の方程式」なる言葉で表現されていたが、先発がある程度順調に投げてリードしていると、途中から決まった中継ぎ、ストッパーが出てきて試合を閉める勝ちパターンの投手リレーがあった。 そのような必要性があったかどうかは別にして、今回もそのような決まったパターンに当てはめようとしたのではないだろうか。(もちろん、年内最後の先発だから、その後に投球予定がない大谷投手が余裕を残して降板する必要はなかった訳だが...)キチンと決まれば、きれいな終わり方であるから、選択肢としては否定できない。 ちょっと視点は変わるが、サッカーも似たような感じがしている。 サッカーは知恵比べだから、スペインがワールドカップで優勝した次には、スペインのパスサッカーを破るフォーメーション、戦術を開発するチームが出てくる。フォーメーション、戦術は相手によって変わるから、「絶対」というものはなく、連覇は非常に難しい。 当然、引いて守るサッカーが良いか悪いかの議論は意味がなく、引いて守るサッカーを敗れなければ、それは知恵がないということにもなる。(そもそも何年か前には逆に日本が守りに守ってフランスを1-0で破っているから、逆の立場も十分すぎるくらいに知っているはずであるが...) ここでのエキスパートエラーは、サッカーのフォーメーション、それぞれのポジションの役割や戦術、なかなか点が入らなかった過去の試合の記憶、残り時間など試合中の心理状態...等々、いろいろと考えられるが、何よりも経験豊富な人たちがプロとして緻密なサッカーをやろうとし過ぎたからではないだろうか。 ホームのカンボジア戦では3点のうち、2点までがミドルシュートであった。人数をたくさん割いて相手のゴール前で必死に攻撃しても入らなかった点が、距離をおいて遠目から打ったら入っている(入ってしまった)。
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