強い商品部組織をつくるための業務デザイン

◆強い商品部組織をつくるための業務デザイン
商品部組識のあり方、果たすべき機能について定説はなく、各企業の生い立ち、考え方、業態、企業規模、企業の成熟度合、仕入形態など、様々な条件により異なっている。
歴史的に見ても、人の移動に伴って様々な企業・業態のやり方が、人に付随する形で他の企業・業態に移植され、そこでまた独自の進化をするというように様々な考え方、手法、形態が交雑する形で出来上がっている。時として、MR(市場調査)、差益など、使う用語で出身企業が分かったように、それぞれの企業が独自の歴史、企業文化を持っており、それらが交雑すれば組織として一つのまとまったものが出来上がることは難しい。
したがって、多くの場合、業務/組識は、業務設計などの理論に基づいてアルベキ業務/組識が設計されたのではなく、 実践の中で交雑と修正を繰り返しながら現在の形に収束してきた。
組織を作ってきた人、組織の歴史、風土など様々な要因によって、様々な組識形態をとりながら流動的な運用が行われて来たというのが小売業の歴史である。
それらの状況が特に集約されて、顕著に表れているのが、商品部、販売部、店舗運営部などの営業部隊であり、部門構成や商品分類体系などの管理体系である。
しかし、様々なレベルにおける交雑の結果は、一つの思想、理論に基づく理路整然とした体系にはならない。いつの時代も課題としてあげられるのは、商品部と販売部の機能(役割)/責任分担、特に重要な役割を果たすと考えられる商品部の機能、業務の仕組み、手法、人材育成などである。
多くのチェーンストアにおいて商品部組識は、業界( メーカー、卸など )出身者によって形成されてきたという歴史がある。既にほとんどのチェーンストアでプロパー社員に入れ替わっているが、商品部組識にはこのような人達によって職人的、ブラックボックス的に運用されてきた名残がある。組織的、科学的なシステム(仕組)、技術・ノウハウではなく、個人の経験・ノウハウに依存している点である。したがって、いつになっても人材育成ができず、個人の人脈、センス・能力、モチベーションなどに頼る状況から抜け出せないでいる。
「販売技術」「商品構成技術」など、現場で行われてきたことを製造業のように「技術」として認識し、体系的にまとめてこなかった結果である。

一方、POSの導入によって商品登録・マスターメンテナンス、データ分析という煩雑な作業が加わり、さらに輸入商品などアイテム数の増加に伴い間接作業的業務は著しく増加している。さらにデータ分析が標準化されていないこともあって、個々人のスキルによってデータ活用のレベル、データ加工に要する時間も大きくばらついている。
既に、個人の能力だけで全てを処理できる状況にはなく、組織として、どのような機能を果たすべきか、そのためにデジタル技術をどのように活用し、どのような業務(仕組)/組織/システムによって対応すべきかが非常に重要になっている。
当然、これだけデータが増えた状況を考えれば、商品部/販売部組織内(あるいは外)にデータを一元管理し、意思決定を含む様々なレベルのマネジメントの精度を高めるためのサポート機能/専門部署が必要なことは言うまでもない。
ここでは、商品部組織に重点を絞っているが、MD(merchandising)全体を統括することを考えれば、商品部、販売部など組織を問わず、営業面を一元管理する全社の共通言語ともいうべき情報システムの構築は不可欠である。
*単にデータをストック、排出するだけの情報システムではなく、個別に2次加工、3次加工を施さなくても、意思決定にそのまま使えるように加工された帳票、グラフをアウトプットできる情報システムが必要である。
しかし、多くの企業でデータ量の多さ、情報量の多さこそが業務の精度を高めるという錯覚、勘違いがある。業務プロセスのそれぞれの段階で意思決定に必要な情報は限られるが、その区別なく、ソースデータに近い状態で全てをプールし、干し草の山から針を探すような作業を強いれば、時間などいくらあっても足りなくなる。しかも、データ活用については組織として明確な標準も定義も無く、業務は個々人のやり方に任せていれば、データのとり方、加工方法、活用方法もマチマチになるから組織としてのレベルは維持できない。
現実問題として、辞令が出ればその日からバイヤーとして業務に当たらなければならないが、標準化されない業務実態が商品部、バイヤーを混乱させているのは多くの企業に共通する事実である。
以前であれば、「仕事は自分で作るもの」「技術は盗むもの」などと言って済ませることもできたが、今はそのような時代ではない。
ディストリビューターもまた同様である。バイヤーとの棲み分け、補完関係など、役割分担は実に曖昧であり、ディストリビューターしての業務機能が明確に定義されているケースは少ない。
スーパーバイザーにいたっては、バイヤーやディストリビューターのような商品に関する権限もなく、店舖に関する権限も持たないケースがほとんどである。組織的にどう位置付けるかという問題がクリアできない限り、権限が曖昧な状態で各部署を回って頼みごとをするしかない。業務設計がなされていないと形骸化した非常に中途半端なポジションになってしまう。
いずれも、共通するのは組識・役職としてどのような機能を果たすのか・業務を行うのか、ということが曖昧なまま組織を作ってしまった結果である。
このような場合、結果として「任に当たる人」に仕事の組立てを依存するため,人によって業務内容、果たす機能、手法、ネゴシエーションなどが異なり組織的にも安定しないし、人が変われば継続できない。
◆業務設計
業務/組識設計の手法に業務機能分析、T(Task:課業、仕事)/R( Responsibility:責任部署 )マトリックスという手法がある。T/Rマトリックスは、業務機能分析により明らかになった業務機能をモレ、重複、偏りが無いように組識に割り付けるための手法である。
業務機能分析では、業務を目的的にとらえ、業務機能という観点から全体を体系化していく。必要となる業務機能を設計的にとらえるため、モレや重複がないように設定することができる。この業務機能の体系を基に機能的なモレ、弱体、重複などの問題点を発見し、改善していく。
このような考え方、手法を参考にして商品部組識の問題点とアルベキ姿を検討してみる。
規模にもよるが、組識的に未成熟・未分化な状況では必要と考えられる機能が曖昧であり、明確に業務/組識の中で位置づけられることは少ない。
図表-1 業務機能と役割分担では業務機能を大きく取引先関連、商品関連、新店・改装関連、販促・チラシ・POP関連、コンピュータ関連、データ分析関連、他部署関連、店舗指導関連というように8つのブロックに分け、さらに主要な業務機能60をリストアップしている。
責任部署・役職としては、商品部=マネージャー・バイヤー・業務担当、ディストリビューター部=マネージャー・ディストリビューター、スーパーバイザー部=マネージャー・スーパーバイザー、販売部=マネージャー・スタッフ、店舗=店長・マネージャーを設定している。
①このマトリックスを用いて業務機能を各部署・役職に割り付け、また実際の運用状況を確認する。
自社の考える業務、あるいは実態として行われている業務の中にモレや弱体(機能の達成レベルが低い)、重複(複数の部署が同じように行っている)、偏りなどがあるかどうかを確認する。
図表-1をヒナ型にして自社版を作成し、確認すると良いだろう。
②次に、自社の現状組識を考慮してどのような役割分担になっているのかを確認する。
もしも明確な業務の記述ができない(明確な業務機能を持っていない)部署があれば検討し、修正する。また、業務機能との対応が極端に少ない(漠然とした業務しかやっていない)、あるいは極端に多い(業務機能が一ヶ所に集まり過ぎているため実際には達成レベルが低いことが多い)部署があれば組織的な役割分担に問題があると考えられる。

◆組織のパターンとポイント
図表-2 組織的な組合せのパターンは商品部に関する基本的な組み合わせのパターンを示したものである。通常は、バイヤー(以下BY)、ディストリビューター(以下DB)、スーパーバイザー(以下SV)が一般的であるが商品部の事務的な業務の処理を考えて業務担当を加えている。
BYの担当範囲に定説はなく、ホームセンターなどでは一人で10,000SKU近くも持っているBYもいる。実際には取引先に依存せざるを得ないので、BYが独自の戦略に基づいてどこまで商品構成を行っているのかは定かではない。ただし、多ければ多いなりに商品を層別してグルーピングするクラシフィケーション(classification;商品特性の類似性によってまとめられた群管理)のような手法が有効であり、状況に応じた手法を使い分ける知恵が必要になる。
また、あまり細かく担当を分け過ぎても商品群間でスペース、在庫枠、仕入枠などを調整する自由度が小さくなり、バイイングがしづらくなる。
また、一人のバイヤーが複数の業態にまたがるバイイングを行うことも避けた方が望ましい。業態の違いを表現するための簡単なやり方として取引先をかえるという手法もあるが、同一バイヤーが同じ商品群について業態の違いによって複数の取引先を使い分けることは物理的に言っても難しい。
また、SVについてもコンビニエンスストアが一人のSVが担当する店舗が8から10店であることを考えると、ある程度商品の範囲を絞ったとしても同じぐらいの店舗数が望ましいだろう。1週間に5日、1日に2店舗ずつまわると必ず1週間に一回は全店をまわれることになる。
(1)パターン1;BYのみ
一番シンプルなパターンである。小規模な企業で機能的にも未分化な企業に向く。店舗数が少なく、本部コストをあまりかけられない場合、このような形態を取る。BYの人数も少なく、一人のBYが担当する商品の範囲は広い。
BYが果たす役割は大きく、全てを一部の人が動かしている。商品的には取引先に依存する部分が大きい。
(2)パターン2; BY+ 業務担当
パターン1のBY業務が煩雑になり、対応が難しくなってきた時に向く。業務担当がBYの秘書的な立場で商品登録などの事務処理を担当することでBYの負荷を軽減し、本来業務のウェイトを高めることが可能となる。ただし、パターン1とは本質的には変わらない。
(3)パターン3; BY+ DB
パターン2とは明らかに思想が異なる。パターン2が事務処理のために業務を置いたのに対し、DBを置く場合は、明確な機能を持たせることを前提としている。DBはあらゆる段階( 取引先から店舗 )での商品コントロール機能を前提とする。
従来、BYだけではできなかったような数値による客観的商品コントロールや投入パターンの設定などをDBが行うことで業務の精度が高まる。
(4)パターン4;BY + 業務担当 + DB
かなり組織的には機能分担が進んだ状況である。業務担当が事務的な処理を集中して行い、DBが店舗との対応を含めた商品コントロールに当たる。そうすることでBYは、取引先との対応、商品企画・開発など、より戦略的に動くことが可能になる。
(5)パターン5;BY + SV
パターン2,3と同じようであるが思想としては全く異なる。BYが商品の仕入、投入を担当し、SVが店舗の指導に当たる。ただし、対BY、対店舗という点で SV の権限の設定が難しい。SVの権限が無い状況ではパターン1のBYのみの状況と本質的に変わらない。
(6)パターン6;BY + 業務担当 + SV
この場合、店舗指導としてSVがいるためその分BYは業務担当に対してDB的な機能を要求しやすくなる。パターン4がどちらかと言えばBY,DBによる本部主導型であるのに対し、パターン6はより店舗に近い形であると考えられる。
(7)パターン7;BY + DB + SV
現在ある一番オーソドックスなパターンである。しかし、組識だけ分かれていて実際の運用では業務機能が曖昧であることが多く、BY,DB,SV間の機能分担は難しい。BYについては、商品の仕入を行うということで比較的業務機能としても明確であるが、DB,SVの果たす役割となると設定次第で変わってしまう。特にDB,SVに関しては業務機能が明確になっていないために失敗するケースが多い。やはり、組織図から入るのではなく、業務機能を明確にした上で組識に割り当てる必要がある。
(8)パターン8;BY + 業務担当 + DB + SV
通常はパターン7までであり、ここまで分化するケースは珍しい。ただし、BYの業務分析を行うと、POSの商品マスター登録・メンテナンス、チラシ原稿の作成、新店・改装に伴う陳列・販売応援など本来業務とは関係ない「作業」に費やされている時間が50%を超える場合すらある。このような場合、その分の人時を人数に換算して別の役職を作り、機能分担
をすることでより本来業務に集中できるので効率は上がる。ただし、組織的には細かく分かれれば分かれるほど調整が必要になり効率は落ちる。したがって、本来業務に集中できるメリットと機能分化したために発生する調整というデメリットのバランスをどこで見極めるかが重要になる。

◆まとめ
商品部組識は、個々のバイヤーやマネージャーが果たさなければならない業務機能が曖昧であることが多く、実際には個々の能力の範囲、自分流の考え方、やり方で業務が行われることが多い。チームMDも言われるようになっているが、それはプロジェクトを組むような大型の案件に限定される。
重要なことは、組識の形ではなく、そこで設定された業務機能が明確であり、モレや弱体、重複、偏りが無いことである。
また、意思決定プロセスにおけるデータ、情報活用など、共通言語としての手法の標準化も重要である。
現在のようにデータが溢れ、しかも変化の速い時代には、本来業務を的確に行える組織の方が強い。単なる思い付きのバイイングや機械的な作業の繰り返しではパフォーマンスのクオリティが低く、業務機能を確実に果たすことは難しい。
業務機能とそれを達成するための具体的な業務(仕組)/組識のバランスが取れた組織を実現することが必要である。

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