イオンスタイル碑文谷に見る総合スーパー(GMS)再生の道程と課題

総合スーパー(GMS)の新しい形として業界が注目するイオンスタイル碑文谷を見る機会があった。
4月初めの平日昼間、春休みということもあり、子供が走り回っていたのが印象的だった。
色々な見方があるだろうが、新しいコンセプトの店ということもあり、
①フロア構成、売場づくり、商品構成など建物全体として思想、そして現実問題として売上が取れるか否か
②オープン時の売場がその後も維持可能か、さらに発展させることができるか否か
③次の時代のプロトタイプに成り得るか否か などにウエイトを置いて見ることにした。

多層階の既存建物への出店はいろいろと制約条件が多く、使い方がとても難しい。フロア別に顧客対象、商品分野を分けるのが一般的だが、現在の基準からすると、それではワンフロアの面積が狭すぎて満足な品揃え、使い方ができない。実際に食品は1、2階の2フロアを割くことで、ワインなど酒類の思い切った品揃えとイートインなど飲食スペースの確保を可能にしているが、紳士・婦人衣料はかなり難しいつくり方をしている。
( http://shop.aeon.jp/store/15/7947260/shop_info/floor_guid/7099/ )
店内を一巡してみると、商圏、消費者の店の使い方などを熟考した結果と思われるが、街のホットステーション、日常的な用件が、ここ一箇所ですますことができるコンビニエンスストア(ワンストップショッピング=物販+サービス)に徹しようという割り切りが感じられる。
喫茶・イートインなどの飲食、銀行ATM(1階)、美容室・ヘアカット、書店、洋服のお直し、写真スタジオ、幼児教室・こども英語教室、クリニック、旅行代理店、銀行・保険・証券、画廊、ヨガスタジオ、…等、個々の規模は小さいが機能的には盛沢山である。
売場面積は約16000㎡弱というが、バブル期の総合スーパーのように巨大迷路といった感はなく、総合スーパーの本質=現代風ワンストップショッピング(物販+サービス)としたことに好感が持てる。
おそらく、かつての総合スーパーと同様なポジションを現代に再現したら、こうなったということだろう。
問題があるとすれば、紳士・婦人衣料だろう。ここだけは極端に狭い売場にもかかわらず、バブル時代に拡大した物販の思想から抜け出せていない。
売場面積の制約もあり、通路が狭く、品揃え、商品量も限られている。混み合えば、人がすれ違うことも難しいし、商品量が少ないから商品を選ぶこと(いろいろな商品の中から選ぶというだけでなく、限られた商品量だから多くの人が一度に見ることもできない)も難しくなる。
また、商品が売れれば補充が間に合わない、あるいは売上以前に売場の維持・管理で行き詰まる可能性もあるだろう。

総合スーパーの変遷を改めて考えると、商圏のライフステージ変化のサイクルが大きく影響していることは明らかである。
総合スーパーが急成長した1970~80年代、70年の日本人の平均年齢は31歳、団塊の世代を中心にしたニューファミリーが消費を牽引しながら台頭してきた時代である。
結婚、子供の誕生、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、就職...と、子供の成長に合わせて必要な「物」は3~5年サイクルで変化する。それに合わせてさまざまな商品の買い替えが起こるから、総合スーパーも大きく成長できた。「物」の需要が旺盛な時代である。
現在、日本の平均年齢は46歳を超える。子供が成長し、独立した後に残る高齢夫婦のライフステージは大きく変わることはなく、改めて必要になる「物」も限られる。
また、住関連商品の需要は入学、卒業、入社、転勤など、転居を伴うような転入/転出に伴って発生するから、高齢化した商圏では住関連商品の需要も限定的なものになる。
さらに、商品購入チャネルの多様化によって、限られた商圏内で営業する総合スーパーの役割は大幅に限定される。
商品だけを見れば、食品や日用品のウエイトが高まったということになるのかも知れないが、視点を変えてみると、現品販売商品と注文後の配達、引き取りでよい商品のうち、現品販売商品のウエイトが高まったと言うことができるだろう。
そう考えれば、せっかく食品などの現品販売商品や日常的に必要なサービスを充実させたのだから、通信販売で十分対応可能な紳士・婦人衣料などを現品販売しようとはせずに、サテライト店舗のような形で端末を使って注文できる通信販売にしてしまえば、建物全体としては新しい総合スーパーの形、あり方がハッキリ打ち出せたのではないだろうか。
通信販売で幅広い品揃えの中から選んでも十分成り立つ商品まで、狭い売場に現品を押し込み、十分に商品管理できない売場環境の中で扱うことは、誰が考えてもムリがある。
現品が必要な商品中心に品揃えし、銀行などのサービスもすぐその場で必要になるサービス中心にして、急がないモノについてはデジタル技術を使って窓口・手続きだけと割り切れば、ずいぶんと売場もスッキリする。
そう割り切ってしまえば、紳士・婦人などのファッション衣料を如何にストレスなく通信販売するのか、というマン・マシンインターフェイスの技術・ノウハウの問題に絞ることができる。まさに現在のデジタル技術、AIの得意とする分野だろう。うまくデジタル技術を応用すれば、昔の西友能見台店ではないが、それ自体が話題となり、販促ツールとしても有効に働くことが考えられる。
この点が改善できれば、オペレーション、商品ロスによる売上・利益・坪効率などの改善余地も大いに見込めるから、総合スーパー再生の道程もある程度は見えるようになるかもしれない。
一つ問題があるとすれば、約16000㎡の売場で、どれだけの売上を実現するかだろう。数多くのテナントを入れているから、建物としての損益分岐点は確実に下がっている。あとは、物販、特に現品販売よりは通信販売のような売場面積、商品在庫と関係のない売上をどれだけ稼げるかによって決まる。まさに、総合スーパー再生の道程が見えるか否かの重要なポイントといえるだろう。

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