10年後 小売業はどうなるのか 、 というよりはどうするのか?

◆10年後の小売業はどうなるのか 、 と考えるよりは、どうするのかを考えるべきだろう。
2025年推計人口は1億2000万人、2008-2010年のピーク時より800万人減少する。
リスク要因は、いろいろある。
人口減少、高齢化、単独世帯の増加、生産年齢人口の減少、少子化、地方の過疎化、東京への一極集中、2020年東京オリンピック後に訪れる反動、….等々。
数え上げればキリがないが、直接消費に結びつくと考えられることは、経済と人口問題だろう。特に人口問題は、GDPの6割を占める消費と直接関係するから、人口問題を無視しては考えられない。
平成25年(2013年)の年間商品販売額は127兆8949億円、自動車14兆8921億円、燃料13兆2144億円を除くいた99兆7884億円が一般的な小売店での販売額と見てよいだろう。
同年10月1日現在の人口が1億2729万8千人、うち日本人1億2570万4千人である。日本の人口は外国人の増加によって減り方が少なく見えている。

総人口をベースにして、仮に1人当たり年間商品販売額が現在と同じと考えると、人口▲5.73%は年間商品販売額の5兆7221億円に相当する。
実際には、これに年齢や世帯構成の変化が加わるから、マイナスはさらに大きくなると考えるべきである。
過去の家計調査を見ると、世帯主が50歳台から60歳台、70歳以上と10歳上がるごとに1か月の消費支出は約5万円減少するから年間に直すと約60万円の減少となる。
また、2人以上世帯と単独世帯の差は1か月あたり12~13万円であるから年間150万円前後減少する。
2015年~2025年の変化を見ると、50歳台+250万人、60歳台▲350万人、70歳以上+530万人である。
一方、2015年~2025年の世帯構成変化は、総数としては5290万世帯から5240万世帯と大きく変わらないが、年齢別でみると、49歳以下が▲310万世帯、60~74歳で▲210万世帯、50~59歳が+170万世帯、75歳以上が+305万世帯、単独世帯は総数で100万世帯増加だが、44歳以下では▲95万世帯、50~59歳が+90万世帯、60~74歳で▲10万世帯、75歳以上が+130万世帯、同様に2人以上世帯は総数では▲45万世帯、49歳以下が▲180万世帯、60~74歳で▲140万世帯であるのに対し、50~59歳が+110万世帯、75歳以上が+170万世帯となっている。
49歳以下の世帯が減るのは少子化の影響、50歳代が増えるのは団塊ジュニア、60~74歳が減り、75歳以上が増えるのは団塊の世代が高齢化するためであり、増加する50~59歳、75歳以上世帯での単独世帯の増加が目立つ。また、高齢の単独世帯は圧倒的に女性が多いことも特徴の一つであるが、男性の単独世帯よりも消費支出は少ない。
家計支出の変化を単純計算で求めるのは難しいが、このような年齢構成、世帯構成の変化がいろいろな意味で消費に影響を与えることは確かだろうう。

◆また、東京をはじめとした都市部への人口集中と、人口集中後の急激な高齢化という現象も消費を考える上での重要なポイントである。
すでに平成27年国勢調査(全国▲94.7万人)では、東京都(+35.4万人うち特別区+32.7万人)に人口が多く集中していることが明らかになっている。ただし、それはあくまでも5年間の数字であり、平成28年1月1日住民基本台帳の値では1年間(平成27年1月1日~12月31日)に東京都+11.8万人(うち特別区+10.3万人)も増えている。社会増が東京都+11.44万人(うち特別区+9.7万人)と増加のほとんどを占めているが、増加が多いことから自然増も東京都0.33万人(うち特別区+0.63万人)とプラスに転じている。5年間に直せば50~60万人の増加であり、ほぼ鳥取県(57.9万人)に相当する人口が増えることになる。千葉県、埼玉県、神奈川県も平成28年住民基本台帳では1~2万人増加しているが、自然減を社会増で補ってのプラスであり、人口増加は頭打ちになっている。
問題は、人口が増加した後の急激な高齢化が地域にどのように影響を及ぼすかである。
数多くのショッピングセンターが林立する港北ニュータウンがある横浜市都筑区は、2040年65歳以上人口指数(2010年=100)は274.3、同75歳以上指数は321.3で全国でもトップクラスである。都筑区に隣接する青葉区65歳以上指数230.7,75歳以上指数308.6、同港北区65歳以上指数203.6、237.7。話題の武蔵小杉がある川崎市中原区65歳以上指数202.9、75歳以上指数199.9。千葉ニュータウンがある印西市65歳以上指数207.1、75歳以上指数266.0、白井市65歳以上指数184.1、75歳以上指数279.1、ディズニーランドがある浦安市65歳以上指数212.5、75歳以上指数280.2、….。
東京周辺のベッドタウンとして発展している都市は、ほぼ同じような状況にあり、若い人が移住した後で一気に高齢化する。特別区の人口増加はこれらのニュータウンよりも遅れて始まっているから、急激な高齢化も遅れてやってくる。
街の発展とともに多くの商業施設ができているが、「宴の後」をどうするのか、重要な意思決定をしなければならない時が必ず来ることは、過去のニュータウンを見れば明らかである。

◆人口減少、高齢化に小売業はどう対処するのか
チェーンストアは別項CGP(チェーンストア・グローイング・パラドックス)のような構造的特性を持つ。成長・拡大期には非常に有効な経営形態であるが、停滞期、低迷期に有効な対処法は全く持ち合わせていない。
人口が減少し、高齢化した時に現在と同じ消費額=年間商品販売額を維持できるとは思えない。可能性があるのは、成長するマーケットを求めて海外に出ていくこと、他社から市場を奪いとることで売上を維持、成長させるしかない。奪い取る市場は、小売に限らず、製造・生産、物流、サービスなど業種業態に関わらず全ての可能性のあるマーケットが対象となる。その時には事業定義が小売から全く違うものへと様変わりする必要がある。
特にシェアリング・エコノミーのような経済形態が一般的になれば、商品は売るものではなく、使用する権利を提供するように変わるから、物販のマーケットはサービスに取って代わられる。
アパレルもエアークローゼットなど様々なビジネスモデルが生まれているから、いつまでも物を売ることにこだわっていると自ら限界をつくって身動きが取れなくなる。
CCC(カルチャー・コンビニエンス・クラブ)がメーカーから大量にDVDの提供を受け、消費者ニーズの高いホットな時期に稼働率を高めてチャンスロスをなくしたようなビジネスモデル(後に収益を分配)はファッションアパレルでも有効になる。そうなると、売るよりはホットな期間に集中してシェアし、あとは中古市場で再度価値を生むような形ができあがる。結婚式のウエディングドレス、パーティ用ドレス、周辺の服飾雑貨、ブランド商品などのマーケット同様、ファッション性の高い商品、幼稚園、学校の制服マーケットなども流通経路を変えるようになるだろう。
短期、中期、長期で対応が変わる、日常か、非日常かでも対応は変わる。
アキッパのように自宅の駐車場やちょっとした空きスペースの時間貸しが有効となれば、ビジネスになるバリエーションは我々の周りに無限にある。
新しいビジネスが「隙間」「空き時間」などであることを考えれば、実店舗を構えて現品在庫を抱える小売ビジネスのどの商品分野、ビジネスモデルのどの部分に限界が来るのか、シミュレーションしてみれば、ある程度想定はつく。
Web上でSNSを介したコミュニティが形成され、特定の感性、価値観、志向の人達が集まれば、志向性の強い商品・サービスのマーケットは閉鎖空間の中で完結しブラックボックス化する可能性が高い。
大量生産、大量販売の形で実店舗に残る商品は利益の薄い商品しか残らないだろうから、損益分岐点の競争になる。いずれ自社以外のすべてを駆逐するまでは勝者なしの疲弊戦になるのだろう。
そうならないためにも、早く事業定義を変えて現品販売、物販のみの小売から衣替えすることである。ボーダレスという言葉が言われて久しいが、スキマを狙うか、スキマを漏らすことなく全てを埋めるかどちらかである。物からサービス化へ向かっていることは確かだから大きな潮流を前提に考えるか、他人の逆へ向かうか、いずれにせよ戦略的に対応することが求められる。マーケティング戦略と洞察力が重要な意味を持つようになっている。

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