進化の仕方がどこかおかしい‼ 逆戻りしている?

◆製造業の進化の仕方
生物だけでなく、様々なモノ・コトについて進化のプロセスを見ると、一定の法則に従っていることが分かる。
例えば、製造業の進化プロセスを見ると、人間の進化のプロセスを象徴するような進化の仕方をしている。
① 道具・工具の利用;手の延長としての道具・工具は、作用点・保持部の形状、構造、サイズ、素材などの進化によって、作業性、出来栄えなどを飛躍的に高めることができた。
② 治具の利用;測定、位置決め、調整などに用いる治具の開発は、道具・工具とはまた違った意味で作業精度の向上、作業工数の低減を実現した。
③ 負荷の軽減;浮力、コロ、カウンターウエイトなどを利用することで負荷を軽減し、より少ない力で目的物を取扱うことを可能にした。負荷の軽減は、実質的に能力の増加と同じ意味を持つから重要な視点である。
④ 力のコントロール;テコ、滑車、歯車など力のモーメントを利用することで、力の増幅・減衰を可能にし、さらに方向の変更をも可能にした。目的に応じて力をコントロールし、さまざまな形で使えるようにしたことで、できる仕事の範囲が大幅に広がった。
⑤ エネルギー活用、機械化;位置・運動・熱・電気・化学・光など各種エネルギー活用による機械化は、人や馬などの生物的エネルギーとは比較にならないほどの持続性と量的増大、そしてエネルギーの蓄積を可能にした。
⑥ 自動化、ロボット化;センサー、制御、アタッチメント、コンピュータ、プログラミング、人工知能などを統合することで実現した自動化、ロボット化によって、人間が直接関与せずに、マネジメント機能までを包括した製造のシステム的運用を可能にした。
今後、AIの進化、AIを搭載した人型ロボットの進化など、どこまで進んでいくのか分からないが、一定の法則の従っているようにして、進化してきていることは確かである。
また、進化のプロセスは、このようなハード面の進化ばかりでなく、知識・技術・ノウハウ、マネジメント、システム、教育、運用組織、プログラミングなどソフト面での進化も重要な役割を果たしている。
① フロントヤード(製造に直接的に関与するソフト); 運営組織、業務処理・業務管理システム、工程管理・負荷計画・スケジューリング、作業・動作方法、職場編成、作業管理システム、道具・工具・ジグ、機械・設備類、教育(OJT)、IT技術、…など、現場における業務遂行を直接的に支援・マネジメントする経験・知識・技術・ノウハウなどにより、製造のレベルは進化、向上している。
② バックヤード(製造に間接的に関与するソフト);経営組織、研究開発、コンピュータ・情報システム、マネジメント、各種システム、IT、教育・トレーニングプログラム(OJT、Off JT)、…など、間接的に品質や生産性などの維持、向上を保証することで製造のレベルは支えられ、進化することが可能になった
…..などである。
ハード面とソフト面の進化は、必ずしも連動して同時に起こっているわけではないが、長い進化の歴史の中では、試行錯誤や偶発的な発見、計画的な開発などさまざまな形が混在しながら、結果として相互に刺激し合い、補完するようにして起こっている。
◆先進国と新興国の進化の仕方
20世紀が「物の充足の時代」だとすれば、21世紀はデジタル化とネットワーク化によって「物、場所、時間から解放された情報化時代」、しかも「グローバル化した情報化時代」ということができる。
ポイントは以下の2点である。
①デジタル化によって物(媒体)と機能が分離したことで、物に関する制約から解放され、同時にネットワーク化によって時間と場所に関係なく、いつでも自由にデジタル情報のやり取りが可能になった。タイムフリー(時間)、ロケーションフリー(場所)、セクションフリー(分野)、コストフリー(費用)など、画期的とも言える数多くのメリットを得たことになる。
②物(媒体)と機能が分離したことで、物を「つくり」「在庫し」「運び」「売る」ことが必要なくなった。物をつくるための設備、配送のための物流センター、トラック、販売するための店、商品在庫、…等々である。
「物」中心の20世紀型産業構造にとって最も基本的な要素である「物」と物に関わるさまざまな設備、場所、在庫、手間、人手、コスト、それらに対するマネジメントなど、多くのものから解放され、全く次元の異なる世界に入ったことになる。

先進国と新興国では物の充足と情報化という進化の仕方がまるで逆である。
筆者は、逆というよりは、先進国が経験した商品(物)の充足・進化過程など先進国が経験した物の時代で得た成果だけを新興国に移植する形で、いきなり完成度の高いデジタルとネットワーク環境を、しかも低価格で提供したと考えている。
それは先進国が新興国に対し、生産基地としての近代化を求め、提供したものであって、歴史的に見ればいつの時代も同様のことが繰り返されている。大きな違いがあるとすれば、これまでは物という同軸上で起こっていたことが、今回は物からデジタル・ネットワーク・情報という異質なものへ移行するタイミングで起こっているという点である。
物の時代を長年経験し、その枠組み・秩序の中でしか物事を発想してこなかった場合と、いきなりゼロの状態からデジタルとネットワークの世界に入る違いは大きい。
例えば、いろいろと工夫をし、長年技術を磨いてコツコツと物づくりをしてきた人が、全く同じものを3Dスキャナーで計測し、3Dプリンターで作る様子を見たら、どのようなリアクションを取ることができるだろうか。その状況を理解し、納得するまでには多くの時間を要することだろう。しかし、この変化に適応できなければ、そのスピード、量、コストに圧倒され、一瞬にして飲みこまれてしまう。
日本の製造業にありがちな「良い商品さえつくっていれば….」という考え方は、物に帰属する基本機能の性能を高めたり、二次機能を付加したり、というように物をベースに置いた物時代の発想の延長でしかない。
デジタルカメラがスマートフォンに押されて売れなくなったから高性能な機種、ミラーレスへとシフトする…、液晶テレビの巻き返しにより4Kテレビを…という発想も同様である。
基本機能の性能アップは「使い勝手」「利便性」などの二次機能、ブランドなど物から離れて独自の意味を持ちだした三次機能とは本質的に異なる。マーケットの受け止め方次第では、性能を高めることは逆にマーケットを狭めることにもなりかねない。
マーケットのニーズが、高価格でも高性能な商品を求めてるのか、一定の性能・利便性さえ満たせば低価格の方がよいとするのか、あるいはアップルのように個々の製品だけではなく、ソフト、全体システム、ブランドなどトータルな三次機能=ライフスタイルやカルチャーの価値を高めることを求めているのか、…。
また、マーケットは先進国を狙うのか/新興国を狙うのか、ターゲットはイノベーター(革新者)か/アーリーマジョリティ(前期追随者)か/レイトマジョリティ(後期追随者)なのか、これから普及する新しい商品を使うのか/ある程度普及した商品の買い替え需要を喚起するのか、一般消費者を狙うのか、初級者・中級者・上級者のどこを狙うのか、…。
そのような意味では、先進国と新興国という全く異なる進化過程、異なるニーズを持つマーケット、その中のさまざまなセグメントに対して、どのようなポジションをとり、どのようなターゲットを、どのように攻略しようとするのか、冷静に状況を整理しないと戦略を見誤ることになる。それによって競争の意味自体が大きく変わる。
進化の方向を見れば、物の時代からデジタル化・ネットワーク化・情報化と進んだ現在は、デジタル化されたトータルシステムへと向かう過渡期にあると考えられる。
新興国のパワー、ボリューム、スピード、価格に圧倒されている現状に対し、同じ土俵で巻き返しを図ろうとするのか、それとも次のステージへ土俵を移し、次世代技術で優位な競争をしかけるのか、いずれにせよ、大きなマーケットでリードしようとすれば、物づくり以上にマーケット戦略が重要になる。
特に三次機能が重要な意味を持ちだした時代ということを考えれば、基本機能の性能アップ、二次機能の付加に活路を見出そうとする手法は、現在多く見られるミスマッチの構図を象徴するものである。
我国が得意とする技術や物づくりを活かす意味でも、現在の環境変化やマーケット、ビジネスの構造変化を考え、何処に活路を見出すのかという戦略的視点が重要になる。

「クールジャパン」というキャンペーンは、日本のモノづくりやサブカルチャーなど日本特有の文化を言っているはずであるが、世界にPRし、マーケットの掘り起こしをしても、本当の意味でビジネスとしてつくり上げることができていない。
シーズ(日本のモノづくりやサブカルチャーなど日本特有の文化)はあるが、それを広めてビジネスとして回収するためのビジネス組織、戦略が一体化して動いていないからだろう。
ある意味、家電メーカーと同じで先駆していたはずなのに、物づくりや販売という具体的なビジネスの段階になると、マーケティングや戦略がなく、大きな収穫を得ることができない。
進化のパターンや全体をリードする明確なビジネスモデルがないまま、走り出したことが原因だろう。

◆現状 何処か歪に感じる進化の仕方
小売業、飲食業、サービス業、そして数多く生まれ、物凄いスピードで進化・成長しているIT系企業、いずれもメーカーのように明確な進化のパターンを見出すことができない。
大手の小売業、飲食業、サービス業などで、システム化し、効率を高めている企業もあるが、圧倒的に数が多い中小零細規模の企業では、IE(Industrial Engineering)やQC(Quality Control)・QM(Quality Management)など管理技術とは無縁といったところも多い。
IT系企業も扱っている対象が対象だけに最先端を行っているようなイメージがあるが、企業組織として見た時にはマネジメント関連が決して強いとは言えないケースも多い。
これまでのアナログ的な現場に様々なIT機器やシステムが加わったことで、どことなく近代化したようなイメージはあるが、よく見てみると、製造業にあったようなアナログ時代の進化プロセスをとび越えて、いきなり様々なデジタル技術を受け入れた、あるいは置き換えたという新興国に似た進化の仕方をしている。
それ自体がよいか否かの判断は難しいが、何処か歪な感じがする。
現在、デジタル・マーケティングなど個々のデバイスを通した様々な測定から個別にアプローチをしていく方法、技術が盛んに開発され、普及している。
しかし、個々に見ていけば扱っているのはデジタルデバイスを媒体とした様々な技術やアプリであるが、測定データをどのように解釈し、どのような仮説を立ててマーケテイングの精度を高めていくのか、ということになると、「個人の勘」に基づく「試行錯誤」というのが実態である。
何らかの理論、法則性があって、それに基づいているわけではないから、多くの物事がブラックボックスの中で進んでいく。
結局、ビッグデータと言ってもデータサイエンティストに現場(リアル)の経験・知識があるわけではないから、あくまでも最後は個人の勘や推理、アイデアなどに頼ることになる。
そう考えれば、「進化のプロセス」を客観的に整理することは、マクロでは「サービス産業=第三次産業」の生産性を高める上で重要になるだろうし、ミクロでは個々の現場の改善効率を高める上でも重要になるはずである。
進化・変化の速度が速いから、そんなことはやっている時間がないということなのかもしれないが、普遍性のある進化プロセスが設定できれば精度が上がるから、さらに早い速度で進化することも可能になるはずである。

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