生産性を上げるには粗利率を相乗積で見てみよう。いかに無駄が多いかわかる。

人手不足が深刻化している。生産年齢人口が減少し、なかなか採用が進まないというのが実情である。
ロボットなどIT、デジタル技術の活用で対応しようとする流れもあるが、それだけではとても間に合わない。
基本は、負荷と能力の関係である。
負荷は売場の作業量、能力は売場の人間の処理能力(質×量)である。
現状を見ると、負荷を減らす努力をせずに、働き方改革なるものを強引に推し進めようとするから、そこに大きな矛盾が生じる。
結果的に必要なことでもやらずに済ますか、家に仕事を持ち帰る、記録に残せないというような目に見えない残業、労働強化が社会構造として進んでいく。

売場を見てわかることは、アイテム数が非常に増えていることである。大きな理由として考えられることは、メーカーが棚確保のためにアイテム数を増やしていることである。1SKU(絶対単品)で済むものをフレイバーなどを増やして5SKUにすれば、自ずとフェイスは広がり、初回の納品数、納品金額も増える。
一方、売場の作業は取り扱うアイテム数(SKU数)に比例することが確認されているから、無駄にアイテム数(SKU数)を増やせば、発注、補充など直接商品に関係する作業量は確実に増える。売上分析、在庫管理など管理機業務も複雑になるから、その分業務は複雑になり、作業量も増える。
しかも、商品構成を様々に分析して分かることは、取り扱いアイテム数(SKU数)と売上の間に明確な相関関係は認められず、アイテム数(SKU数を増やすことに明確な根拠があるとは思えはない。
総合スーパー、食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなど、様々な業態で実際に分析してみれば分かるが、重要なことはアイテム数(SKU数ではなく、商品構成のバランスであり、数多くの類似アイテムが集中した場合などには意味のない在庫が売場に溢れ、かえって売場の生産性を落とすことにつながってしまう。
お客にとっても、日常的に高頻度で使う商品を、たくさんの、しかも類似した商品の中から選ぶことに買い物の楽しさを覚えるとは思えず、むしろストレスと言ってもよいだろう。
これらの状況を簡単に知ることができるのは、売上数量、売上金額、粗利率などをABC分析や商品構成マトリックス(C-Cマトリックス、C-Pマトリックスなど)で見直してみることである。
これらの分析を行ってみれば、いかに無駄に扱っている商品が多いのか、一目で確認することができる。
食品スーパーのパンやグロサリーなどアイテム数の多いものを見ると、上位10%位のアイテムで粗利率の5-8割を稼いでおり、特に重要になるのは、上位の5-10アイテムである。
一方、ロスリーダーになる5-10アイテムの商品がマイナスに大きく働くから、そのアイテムが全体の粗利率を大きく引き下げる働きをしていることが分かる。
言い換えれば、上位10アイテム、下位10アイテムさえ管理していれば十分粗利率はコントロールでき、その間にある非常に多くのアイテムは粗利を構成する上ではあまり重要な働きをしていないことになる。メーカーが次々に発売する新商品に踊らされ、むきになってたくさんのアイテムを扱う必要はない。
キーを握る上位、下位のアイテムが特定できれば、あとはそれらを中心にして全体のバランスがとれるように商品構成を組めばよい。
商品構成のバランスを考えるにはクラシフィケーション(商品特性)に基づいたC-Cマトリックス(商品特性同士)、C-Pマトリックス(商品特性と価格)を用いればよい。
重要なことは、売上を作る商品、粗利率を確保する商品、売りたい商品を引き立てるための無理に売らなくてもよい商品、見せて専門性や店としての特徴、イメージを打ち出すための商品など、商品それぞれの役割を明確にしてバランスよく組み合わせることである。
アイテム数を減らしてバランスを整えれば、作業量は減り、売上も粗利も上げることができる。
科学的に取り組めば、売上を上げることも、粗利を上げることも決して難しくはない。

さらに、これらのことを売場で具体的に表現することも重要である。
アイテム数が多くなれば、個々の商品のフェイス数(最大陳列量)も必然的に少なくなるから、売場で視認しにくいばかりでなく、売場在庫が少ないために発注、補充、前出しなど様々な管理業務が大幅に増え、欠品もしやすくなる。

売場の作り方なおける優先順位が明らかに違っている。
限られたスペースを効果的に使うには、優先順位の高い商品に優先的に必要なスペースを与え、残りの余ったスペースで他の商品を置くようにするべきである。
売上、粗利に大きく貢献する商品に十分なフェイス数、スペース与えれば、自ずと残るスペースは限られるからアイテム数は減る。そこにどんな商品を並べるかが商品構成上重要なノウハウになる。
目指すのは、限られたスペースの生産性を限られた人時で最大限に高めることである。
横並び意識で、競合店が扱っているからという単純な理由だけで商品を取り込み、売場を作っていれば、どの店も同じレベルから抜け出すことはできない。
重要なことは、知恵を使うことであり、科学的な思考と技術を使いこなすことである。
生産性を高めることが長年の課題であり続けることに疑問を持つ必要がある。(実現しないからいつまでたっても目標が変わらない)
やるべきことをきちんとやれば、生産性は確実に上がる。
売上を上げることも粗利を上げることも、科学的に取り組めば決して難しくはない。

店の意味を変えよう! 

■店が変わる必要性
すでにマーケット環境を考えれば、固定的な客層(足元商圏)の、固定的マーケット(日常の食事)を対象としている限り、店舗を維持することが難しいことは明白である。
 このような状況に対応するには、従来の固定的な客層・オケージョンに新たな客層・オケージョンを加え、従来のマーケットとは異なる新たなマーケットを開拓する必要がある。
そう考えれば、野球場をボールパークに変え、ベースボールをスポーツビジネスに変えるのと同様な修正がSMにも必要なことは十分理解できるだろう。
様々な要素を科学的に分析し、デジタル技術を駆使して、お客に従来見えなかった様々なモノ・コトを見せる、参加させる、体験させる、結果として様々な欲求を満たし、QOL(Quality of Life)を高めることで現在のSMも大きく変わることが可能になる。
昔、あるホームセンターの役員がリタイヤする直前に「長年、『効率』を追求してきたが、結局、効率の向こうに効率はなかった」とつくづく言っていたことがある。敗者の弁と言えなくもないが、一つの時代の結論とも言える。
コスト削減のために、販売に手間のかかる商品をカットし、売場作業を減らして人員削減を実現し、効率化を図ろうとしてきた。しかし、そうすると、それ以上に売上は低下し、粗利も下がるから、結局、いつまで経っても追い求めた「効率」を得ることはできなかった。業績はもちろん、売場、商品、人(知識・技術・モチベーション)など、すべてが取り返しのつかないほどに疲弊し、悪化してしまった。
特に大きかったのは、客離れである。ローコストを優先し、お客にとっての売場の魅力、買い物の楽しさが失われれば、どんなにコストが下がってもお客は店から離れていく。
そういえば業務改革で高収益を誇ったイトーヨーカ堂も、いまでは話題になることもなくなってしまった。科学的に問題解決を行い、乾いた雑巾をさらに絞るといわれたメーカーのように利益を生み出したイトーヨーカ堂も、残念ながらマーケットの変化にまでは科学的な対応ができなかったということなのかもしれない。
上手の手から水をこぼれないようにと技術を磨いてきたが、いつの間にか水を湛える泉は他所に移っていた。上手に水をすくう術も大切だが、それとともに水が豊富に湧き出る泉を見つけ出す術もそれ以上に重要になる。
現在はAIなどデジタル化の進展、ECの台頭、人口減少・高齢化など、売上を左右するマーケット環境が急激に変化している。それに対応することができなければ、いくらコストを削減し、日常業務を改善しても経営を維持することはできない。
科学的に問題解決することは重要であるが、その対象は従来のコスト偏重から売上・利益を上げるためのマーケット分析、ビジネスモデル(仕組み・仕掛け)開発へとウエイトが移っている。

筆者が提唱するテーマパーク型ストア、アミューズメント型ストアも、全ての店舗を同じように変えようという単純なものではない。立地や経営環境によって、いくつものタイプに分化する必要がある。
最も基本的なこと、ビジネスの本質は、消費者が「なぜ、その商品を欲しいと思うのか」「なぜ、その商品を買おうとするのか、買ってしまうのか」であり、それが理解できなければ、いまの時代に商品を売りこなすことはできない。
すでに生活にどうしても欠かせない必需品を売る時代ではなく(基本機能的商品だけではマーケットはシュリンクするから店舗が維持できない、経営が成り立たない)、なければなくて済む、ある意味不要な商品(二次機能・三次機能的商品)を、いかにして喜んで買ってもらうのかという時代になっている。
そのためには、消費者の生活、興味、価値観、欲求など購買心理の大元にある様々な要素を理解し、消費者に響く(共感を得る)アプローチ、売り方をすることが必要になる。
今後、ますますそのような商品を売ることが重要になると考えれば、根本的に発想、仕組みを変えていく必要がある。
SMも野菜、肉、魚など「物単体を売る」時代から、「健康に良い食生活」や「いつまでも若々しく美しくいられる食生活(アンチエイジング、セルフメディケーション)」など、「ライフスタイルとしての食」「カルチャー(食文化)としての食」「二次機能、三次機能としての食」を提供する店舗に変わる必要がある。
 テレビで何かが良いといえば、次の日にはその商品がいつもの何倍も売れることは、誰もが経験的に知っているが、その本質を理解し、ビジネスモデルとして確立することはできていない。
いつまでも、「物単体」を売るのではなく、お客と商品の意味、価値を共有しながらQOL(quality of life)を高めるための時間・空間として売場を創り上げることが求められている。

成長曲線(ロジスティック曲線やゴンペルッ曲線など)をはじめとした売れ方の法則など小売業の法則を見つけよう。

 これまで小売業を経験してきて、最もすごいと思ったことは、理屈から言えば明らかに間違っていると思えることでも、徹底してやり通してしまうと現状よりもよい結果が得られることが多いということである。
 勝てば官軍という言葉があるように、全ては結果次第であるから、さまざまな考え方、さまざまな方法が成立していてもおかしくはない。例え、それが「たまたまの結果」だとしても、結果さえ伴えば、それが正しいことと理解することは否定できない。
 例えば、多くの小売業が、商品が売れないとすぐに商品の価格を下げて販売しようとする。中には、仕入原価を割り込んで赤字になるような価格をつけて販売することも当たり前のように行われる。
 しかし、筆者が学生の時にアルバイトで経験したことは全く逆である。輸入品のインテリア雑貨を扱う卸売業であるが、催事用の商品が足りなくなると百貨店に置いてある商品を引き下げてきて催事に回す。19,800円で売れ残っていた象嵌のワゴンに39,800円の値札をつけて催事場に並べると、その場で商品が飛ぶようにして売れてしまう。1本100円でも売れない七宝焼きのスプーンを、ビロード張りのハードケースに入れて見栄えをよくした途端、5本セット5,000円でも売れていってしまう。バブル時代には、別に珍しいことではなかったはずである。
 輸入品の原価と売価の関係を知る人が見れば、常識的な値付けかも知れないが、知らない人が聞いたらビックリするような価格設定である。そのような価格設定の商品を喜んで買うお客がいるし、そのような商売もあるから、何でも同じ理屈で説明しようとすると無理がある。
 問題は、その結果に至ったシチュエーション、商品の特性、お客の購買心理、…等々、その結果に到達したさまざまな条件を無視して「商品は安くすれば売れる」「商品は高くした方が売れる」といった結論だけが独り歩きすることである。しかも、さまざまな条件の組合せによって、たまたま起こった一つの結果が、あたかも全ての事柄に当てはまる唯一絶対の真理のように理解するからアチコチでおかしなことが起こってしまう。
 たまたま起こったある一つの結果に対して、前提となる全ての条件を無視して、結果だけをあらゆる事柄に当てはめようとすることは無謀である。
 いまから10年以上前になるが、ユニクロのフリースが異常に売れたことがある。当時、まだ小学生だった子供のクラスでは4人に一人がユニクロのフリースを着ているという話を聞いた覚えがある。
 その時、ユニクロのフリースが売れた理由は「みんながユニクロのフリースを着ているから」であったが、その後しばらくしてフリースが売れなくなった際の理由も「みんながユニクロのフリースを着ているから」であった。
 全く同じ理由で真逆の結果が出ることは、小売業を長年経験していれば、よくあることである。所詮、お客は気まぐれだし、過熱すれば飽きもくるから、人間の心理はなかなかとらえきれない。これが長年さまざまな法則を研究することなく、放置してきた理由だろう。このようなことは日常的に起こるし、商品もスタッフも年中入れ替わるから、いちいち細かなことまで気にしてはいられない、というのが小売業の体質なのかも知れない。
 しかし、見方によっては、このような状況も「全く違ったもの」としてとらえることができたかも知れない。
 例えば、生体の個体数の増加や新製品の販売数、普及状況などを見る成長曲線というものがある。はじめは緩やかに成長し、一定の値を超えると急激に上昇し、飽和点に近付くと、また増加が緩やかになってS字のようなカーブを描く。
 新しく市場に普及し始めた家電製品などの普及状況を説明する際によく使われる。一定の普及率(例えば25%)までは緩やかに成長し、それを超えると急速に普及率が上がる。そしてまた90%を超えてくるとその先はなかなか普及率が上がらなくなって横這いに近くなるのでS字のようなカーブになる。
 ユニクロのフリースもそのような法則に従って成長曲線を描いたと考えれば、客観的に理解することができたかも知れない。そうしないと、同じ状況、同じ理由で180度異なる結果が出るのが小売というもので、お客は気紛れだからしょうがない、という一言で物事全てが済んでしまう。いつまで経っても科学的な視点に立って物事を論じることができなくなる。
 いろいろな企業で、いろいろな売場を見る機会がある。売場で問題意識を持ち、少しでも自分の周りを良くしようとしている人達は、いろいろなところで、実にさまざまな工夫をしている。 周りの状況を細かく観察し、いろいろな仮説を立てては実験を繰り返し、自分なりに法則を見出そうとしている。漠然と問題意識をもっているが、どうしてよいかわからずに悶々としている人達は、考え方や方法など、ちょっとしたヒントを与えただけで見違えるように大変身する。 以前、取材で山形に行った際、出会った食品スーパーの店長は、バイヤー経験もあり、商品についていろいろなことを教えてくれた。昔の食品スーパーではよく見られた、職人肌の、まさにスーパー店長である。
 競合他社の総菜を買ってきては、それを細かくバラして素材別に重量を量り、自社の惣菜と比較して改善するという、まさに職人技ともいえる競合対策のやり方には、ただただ感心させられた。青果ではいろいろな価格で売ってみた結果、1点78円という価格が数量、売上金額とも一番とれる価格だとも教えてくれた。そこに行き着くまでに、10円刻みで何回も特売を打って試したからこそ言える内容である。
 筆者も青果商品の時間帯別売上から売れ方のパターンを調べたことがある。午前中の販売数量と昼から閉店までの販売数量の関係を見ると、午前中に全く売れなかった商品はその後もほとんど売れなかった。午前中によく売れた商品の中にも、午後の売れ方が、午前中の2倍の商品、3倍の商品というようにいくつかのパターンがあることも分かった。
 午前中の販売実績を基準にして一日の販売数量を予測することができれば、ムダな加工をする必要もないし、つくり過ぎてロスを出すこともなくなる。
 このように見ていくと、小売業には、チェーンストアの経営に影響を与えるような大きな観点での法則から、品出しが早く済むコツというような日常的な作業レベルまで、さまざまなレベルで原理原則、法則があることが分かる。
 これらの原理原則、法則を多くの人達の財産として小売業が蓄積し、定着させていけば、ムダな試行錯誤が省け、生産性もはるかに高まることだろう。
 いろいろと難しい状況に直面しているからこそ、このような原理原則、法則を改めて確認し、より確率の高い方法を取り入れていくことが重要である。