成長曲線(ロジスティック曲線やゴンペルッ曲線など)をはじめとした売れ方の法則など小売業の法則を見つけよう。

 これまで小売業を経験してきて、最もすごいと思ったことは、理屈から言えば明らかに間違っていると思えることでも、徹底してやり通してしまうと現状よりもよい結果が得られることが多いということである。
 勝てば官軍という言葉があるように、全ては結果次第であるから、さまざまな考え方、さまざまな方法が成立していてもおかしくはない。例え、それが「たまたまの結果」だとしても、結果さえ伴えば、それが正しいことと理解することは否定できない。
 例えば、多くの小売業が、商品が売れないとすぐに商品の価格を下げて販売しようとする。中には、仕入原価を割り込んで赤字になるような価格をつけて販売することも当たり前のように行われる。
 しかし、筆者が学生の時にアルバイトで経験したことは全く逆である。輸入品のインテリア雑貨を扱う卸売業であるが、催事用の商品が足りなくなると百貨店に置いてある商品を引き下げてきて催事に回す。19,800円で売れ残っていた象嵌のワゴンに39,800円の値札をつけて催事場に並べると、その場で商品が飛ぶようにして売れてしまう。1本100円でも売れない七宝焼きのスプーンを、ビロード張りのハードケースに入れて見栄えをよくした途端、5本セット5,000円でも売れていってしまう。バブル時代には、別に珍しいことではなかったはずである。
 輸入品の原価と売価の関係を知る人が見れば、常識的な値付けかも知れないが、知らない人が聞いたらビックリするような価格設定である。そのような価格設定の商品を喜んで買うお客がいるし、そのような商売もあるから、何でも同じ理屈で説明しようとすると無理がある。
 問題は、その結果に至ったシチュエーション、商品の特性、お客の購買心理、…等々、その結果に到達したさまざまな条件を無視して「商品は安くすれば売れる」「商品は高くした方が売れる」といった結論だけが独り歩きすることである。しかも、さまざまな条件の組合せによって、たまたま起こった一つの結果が、あたかも全ての事柄に当てはまる唯一絶対の真理のように理解するからアチコチでおかしなことが起こってしまう。
 たまたま起こったある一つの結果に対して、前提となる全ての条件を無視して、結果だけをあらゆる事柄に当てはめようとすることは無謀である。
 いまから10年以上前になるが、ユニクロのフリースが異常に売れたことがある。当時、まだ小学生だった子供のクラスでは4人に一人がユニクロのフリースを着ているという話を聞いた覚えがある。
 その時、ユニクロのフリースが売れた理由は「みんながユニクロのフリースを着ているから」であったが、その後しばらくしてフリースが売れなくなった際の理由も「みんながユニクロのフリースを着ているから」であった。
 全く同じ理由で真逆の結果が出ることは、小売業を長年経験していれば、よくあることである。所詮、お客は気まぐれだし、過熱すれば飽きもくるから、人間の心理はなかなかとらえきれない。これが長年さまざまな法則を研究することなく、放置してきた理由だろう。このようなことは日常的に起こるし、商品もスタッフも年中入れ替わるから、いちいち細かなことまで気にしてはいられない、というのが小売業の体質なのかも知れない。
 しかし、見方によっては、このような状況も「全く違ったもの」としてとらえることができたかも知れない。
 例えば、生体の個体数の増加や新製品の販売数、普及状況などを見る成長曲線というものがある。はじめは緩やかに成長し、一定の値を超えると急激に上昇し、飽和点に近付くと、また増加が緩やかになってS字のようなカーブを描く。
 新しく市場に普及し始めた家電製品などの普及状況を説明する際によく使われる。一定の普及率(例えば25%)までは緩やかに成長し、それを超えると急速に普及率が上がる。そしてまた90%を超えてくるとその先はなかなか普及率が上がらなくなって横這いに近くなるのでS字のようなカーブになる。
 ユニクロのフリースもそのような法則に従って成長曲線を描いたと考えれば、客観的に理解することができたかも知れない。そうしないと、同じ状況、同じ理由で180度異なる結果が出るのが小売というもので、お客は気紛れだからしょうがない、という一言で物事全てが済んでしまう。いつまで経っても科学的な視点に立って物事を論じることができなくなる。
 いろいろな企業で、いろいろな売場を見る機会がある。売場で問題意識を持ち、少しでも自分の周りを良くしようとしている人達は、いろいろなところで、実にさまざまな工夫をしている。 周りの状況を細かく観察し、いろいろな仮説を立てては実験を繰り返し、自分なりに法則を見出そうとしている。漠然と問題意識をもっているが、どうしてよいかわからずに悶々としている人達は、考え方や方法など、ちょっとしたヒントを与えただけで見違えるように大変身する。 以前、取材で山形に行った際、出会った食品スーパーの店長は、バイヤー経験もあり、商品についていろいろなことを教えてくれた。昔の食品スーパーではよく見られた、職人肌の、まさにスーパー店長である。
 競合他社の総菜を買ってきては、それを細かくバラして素材別に重量を量り、自社の惣菜と比較して改善するという、まさに職人技ともいえる競合対策のやり方には、ただただ感心させられた。青果ではいろいろな価格で売ってみた結果、1点78円という価格が数量、売上金額とも一番とれる価格だとも教えてくれた。そこに行き着くまでに、10円刻みで何回も特売を打って試したからこそ言える内容である。
 筆者も青果商品の時間帯別売上から売れ方のパターンを調べたことがある。午前中の販売数量と昼から閉店までの販売数量の関係を見ると、午前中に全く売れなかった商品はその後もほとんど売れなかった。午前中によく売れた商品の中にも、午後の売れ方が、午前中の2倍の商品、3倍の商品というようにいくつかのパターンがあることも分かった。
 午前中の販売実績を基準にして一日の販売数量を予測することができれば、ムダな加工をする必要もないし、つくり過ぎてロスを出すこともなくなる。
 このように見ていくと、小売業には、チェーンストアの経営に影響を与えるような大きな観点での法則から、品出しが早く済むコツというような日常的な作業レベルまで、さまざまなレベルで原理原則、法則があることが分かる。
 これらの原理原則、法則を多くの人達の財産として小売業が蓄積し、定着させていけば、ムダな試行錯誤が省け、生産性もはるかに高まることだろう。
 いろいろと難しい状況に直面しているからこそ、このような原理原則、法則を改めて確認し、より確率の高い方法を取り入れていくことが重要である。

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