機能(働き、役割)という考え方がある。
基本機能はモノがモノとして成り立つ必要最低限の条件、食に関して言えば、安全に食べられて空腹を満たし、生体を維持するうえで必要となるエネルギー・栄養素が摂取できるということになる。
それに対し、二次機能は、①食品が持つ特定成分の働きにより健康や美容に役立つような働き、②友達とくつろぐ際のお茶やスイーツ、パーティ・懇親会での料理やお酒が果たす交流・交歓・親睦を促進する触媒としての働き、③インスタ映えという言葉に象徴されるようなSNS投稿の演出道具としての働き、④知識や技術を高めるといった自分を成長させるための題材、…など、食本来の機能=基本機能とは異なる様々な役割、働きである。
三次機能は三ツ星レストラン、有名シェフ・パティシエの店というように「提供される商品・料理」とは分離し、食とは直接的に関係のない独自の意味を持ちだしたものである。
消費者は基本機能が満たされると次には欲求が二次機能、三次機能へと向かう傾向にあることが経験的に分かっている。メーカーも差別化のために二次機能、三次機能を意識したマーケティング戦略、商品開発を強化するため、マーケットは自ずとそのような方向へと向かう。
マズローの欲求階層とも似ているが、機能間における順位はさほど明確ではなく、その時々のはやりなど状況によって様々に変化する。
すでに、食が「単に空腹を満たすだけの時代」は終わり、たとえデカ盛り、メガ盛りであっても、大辛メニューなどと同様、珍しさ(希少性)やゲーム性(早食い競争、我慢比べ、罰ゲーム、チャレンジなど)によって、「場」の雰囲気を盛り上げるための演出道具として用いられるケースが増えている。
最近の傾向として、身近にある「食」の意味、役割は他の商品分野と比べ物にならないくらい大きく広がっている。
人口減少・高齢化が進む現状では、すでに従来のように食品をただ「物」として売っているだけで店舗を維持することは難しい。
まして、同質化するチェーン店が縮小するマーケットの中でお客を取り合うのでは勝ち組なしの疲弊戦に突入することは明らかである。
根本的に変化する必要がある。
食品を対象に、基本機能、二次機能、三次機能について整理すると次のようになる。
例えば、ニンジンを例にとると、基本機能は煮物やカレーに用いる食材であり、安全に食べられて空腹が満たせ、一定のエネルギー・栄養成分が摂取できる。
また、ニンジンの三次機能はあまり思い浮かばないが、地域ブランドの雪下ニンジンなどがそれに近い。分かりやすいのは青森県田子町のニンニクなど、明らかに地域ブランドとして確立されたものであり、田子町というだけで独自の意味を持ち出している。
*いずれの場合も機能という考え方、意味を理解するうえでは比較的わかりやすいが、三次機能の場合、ブランドとしての認知度が高まり、そのポジションが確立できるまで(モノと分離してブランドが独自の意味を持ち出すまで)は、二次機能的要素が重要になる。
それに対し、二次機能では、①有機JAS(日本農林規格等に関する法律)に認定されており、「環境にやさしい」「安全・安心」といえるニンジン、②インスタ映えする赤、紫、黄色など様々な色の人参を用いたパーニャカウダ(いろいろな種類・色の生、あるいは温野菜をパーニャカウダソースで食べる見た目にもきれいな料理)といった「雰囲気を演出するための道具」としてのニンジン、あるいは③ニンジンの色によってβカロテン、リコピン、アントシアニンなどを多く含むことから「健康にやさしい食材」としてのニンジン、...などというようにフォーカスの仕方によってその意味、働きは様々に変わる。
二次機能は、モノをベースにして基本機能とは異なる副次的機能で、なおかつ三次機能のようにモノと分離して独自の意味を持つようになったものではないものすべてが対象となる。その範囲は広く、様々である。
また、前述のように、場合によっては三次機能との境目が曖昧な場合もあり、明確に線引きすることが難しいケースもある。
二次機能について、大きくいくつかのパターンに分けてとらえると次のようになる。
一つ目は、食としての本来的機能を超え、特定成分の持つ特性をコントロール(強化、減少、バランス化)することで健康、美容、ダイエットなどへの効用を期待する分野である。
例えば、リコピンを通常より多く含む加熱用トマト、トマトジュースなどである。リコピンの持つ抗酸化作用はβカロテンの約2倍以上、ビタミンEの100倍以上といわれている。脂溶性があり、加熱すると吸収率が高まるため、油と一緒に加熱調理して摂るとよいとされる。
同様に、低カロリーで食物繊維、特に水溶性食物繊維を多く含む食材であれば、腸内環境にもやさしく、ダイエットをはじめとした様々な効果が期待できる。寒天、キノコ類などがよく知られているが、茶葉や焼き海苔なども食物繊維、ビタミンCなどを多く含む。
地域の食性と寿命・特定の病気の罹患率の関係などから、健康に良いと考えられる食品と食べ方などが提言されることがある。医食同源といわれるように、日々の食事によって健康をコントロールするという役割である。
2つ目は、ティータイムのスイーツや酒席の酒・つまみ・肴、パーティ・宴会の酒・料理といった催し物、あるいは交流・交歓に際しての演出道具的役割、あるいはインスタ映えという言葉に象徴されるように、一つのシーンを演出する道具といった役割である。
インスタ映えでは、色やデザイン、意外性、話題性など、Web上で特定シーン、ストーリーを演出する道具としての役割であり、いわゆる「盛る(様々に加工して強調するなどし、演出する)」ことによって、現実とは異なる世界をつくり出す役割を果たす。
一方、ティータイムのスイーツや酒席・パーティ・宴会の酒・肴・料理などは、リアルの世界で、しかも一定時間、複数の人間が、同じ空間で時間を共有するため、同じ演出道具であっても、果たす役割ははるかに多く、複雑である。参加する人数やメンバーの距離感にもよるが、場合によっては、そこで提供される酒や肴、料理の産地、作り方、味、食べ方など様々なうんちくが会話の導入として重要な役割を果たすことも必要になる。美味しさや食べることでの満足感ばかりでなく、「場」を和ませ、また交流・交換を促進させるなど、多様で幅の広い役割が求められる。
3つ目は、共通の体験を通して交流・交歓・親睦を図るといった場合の題材としての役割である。キャンプでの料理、バーベキュー、タコパーティなどが典型的な例であり、一緒に準備し、調理するなど共同作業を行うことで、ふだん見ることのできないお互いの異なった側面を知ることができ、親近感が増すなどの効果が得られる。
4つ目は、知識・技術を高め、成長するための題材としての役割である。「食」「料理」は身近にあって馴染みやすく、自分の成長、自己実現のための題材としても取り組みやすい。
キャラ弁をはじめ、魚の三枚おろしや珍しい外国料理など、あまり馴染みがない、あるいは技術的に難しいと思えるものであれば、できた時の達成感、充実感も大きく、周囲からの評価も高い。
★イートイン、グロサラントなど飲食業と小売業の境目がなくなりつつある状況を考えると、まだまだ多くの機能が分化して専門特化し、それらをミックスした業態が生まれても不思議はない。
これまで、食品ブティック、テーマパーク型ストア(SM)、アミューズメントパーク型ストア(SM)を提案してきたが、一つの可能性として二次機能をベースに専門特化した食品スーパー、Sp.SM(Specialty Supermarket)を提案したい。
物を物としてしか売っていない現状は、商品の本来的価値を引き出しているとはいえず、生産者、流通業者、消費者のすべてが損をしているとしか思えない。
マーケット環境を考えてもWIN- WIN- WINの関係ができる業態を創り上げることが必要だろう。
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