◆机上論で勉強するのか、使いこなすのか
相乗積も交叉比率も効率を見る上で役に立つ指標であるが、知っているだけでは全く意味がない。
むかし、ある企業がもうそろそろ一年が経とうとする新入社員の研修に相乗積の問題を出したことがある。研修が終わった後で彼らに感想を求めると、店によって大きく3つに答えが分かれていた。
一つ目は、「全く分かりませんでした」というもので、入社以来、ずっと品出ししかやらせてもらってないため、相乗積などというものは見たことも聞いたこともないという答である。1年近くもアルバイトと同じでは可愛そうだが、部下は上司を選べないから仕方ない。
二つ目は、「習ったことはあるような気がするが、式は忘れてしまったから、計算問題は解けなかった」というものである。算数の授業と一緒で、式を暗記したのはいいが、意味が分かっていないから、記憶に残らないし、式を忘れてしまうと、導くことも、問題を解くこともできない。薄っぺらい形式主義の机上論という日本の悪しき教育方法を地で行ってしまったから、時間がもったいないし、若い人達もかわいそうである。
三つ目のグループは、「なんで、いまさらこんな問題を出すのですか?」というものである。彼らは発注の際、常に売上・粗利の予算に対する進捗状況に合わせて発注商品の粗利を相乗積によって算出しているという。日常の発注業務の一貫でしかないから、「何をいまさら…」という言葉になって表れたという。
何事も同じであるが、使わない、使えない知識は知っていても宝の持ち腐れである。学校の授業も多分にそのような傾向が感じられるが、机上論や形式的な教育では実際に使えないから、テスト問題が解けたとしても意味がない。
★使い方はいろいろある
◆発注に使う
通常、粗利ミックス=相乗積では、複数の商品の粗利率と売上構成比から、どのような比率でそれぞれの商品を売り上げたらよいかという目安を求める。仕入段階であれば、値入ミックス、複数商品の値入率と仕入構成比から一定条件(複数商品の値入率と仕入構成比)で仕入をした時のトータルの値入率を求める。
相乗積計算を用いて粗利率をシミュレーションするのは、このような商品ミックスだけではなく、先の事例の発注のような場合にも十分有効に使うことができる。
商品A、B、C、Dを月の第1週、第2週、対3週、第4週と置き換えればよい。
月の粗利予算を25%、第1週の売上構成比を24%、第2週を22%、….というように設定すれば、それぞれの週でどのくらいの粗利率が必要になるか、おおよその見当はつく。あとは予算に対する実績の進捗状況を見ながら今週末から翌週必要な粗利率の目安を確認していけば、粗利率、売価を含めて、どのような商品を、どのくらいの数量売り込む必要があるのか、目標設定ができる。厳密には売価還元法を用いて算出することも必要だが、今週末から翌週販売分を目安に発注するには、これで十分だろう。少なくとも値入率を超えた粗利率はないから、発注する内容を数値的にも考えるようになる。
◆棚割りに使う
「棚割りはあっても商品構成がない」というテーマで別項に原稿をアップしているが、多くの企業で棚割りをつくってはいるが、商品構成になっていないケースが多々見受けられる。
棚割りと商品構成の違いは明確である。
棚割りは、商品が什器の棚に並んでいるだけであるが、管理をしているのは、SKU、あるいはカテゴリーの販売数量や販売金額くらいでしかない。
改めて棚割りの基本、意味を確認すると、ファイス数×奥行きで最大陳列量が決まる。販売数量の比率と最大陳列量の比率が同じになるようにフェイス数を調整すると、全ての商品の回転率は同じになる。ふだん、あまり意識することはないかも知れないが、オペレーション、在庫管理などを考えた時には最も重要な特性と言ってもよい。
このことを利用すると、たくさんある商品の回転率をコントロールすることができる。
例えば、毎日補充する商品、2日に1度補充し、あとは前出しで済ませる商品、週2回補充してあとは前出しで済ませる商品、週1度補充し、あとは前出しで済ませる商品、2週間に1度補充して、あとは前出しで済ませる商品、…等々である。当然発注や在庫の持ち方もコントロールするように工夫すれば、発注、荷受け、補充といった作業を商品によって分けることができるから、作業量を平滑化し、作業スケジュール、人員配置などを組みやすくすることができる。
あとは、そのフェイス数を什器のどこに確保するかということになる。
難しいのは、フェイス数や商品を並べる什器の位置、高さ、関連付けなどによって売上が変化することである。
以前、週販60本の食器洗剤の最大陳列量が30本しかなかったことから、棚板を調整してフェイスを2倍強にし、週販数量の80本を売場在庫として置けるようにしたことがある。実際には、フェイスを広げたことで販売数量が伸び、週1回転以上するようになってしまった。売上が伸びたことはよかったが、補充作業はもくろみ通りには上手く改善できなかった。
分かったことは、フェイスを広げたり、陳列場所を変えたり、関連する商品を変えたりすると、売上が変化するということである。
「どのような商品が」「どのような場所で」「どのくらいフェイスを拡縮し」「どんな商品と一緒に」並べた時に、どのような変化をするのか、…ということは、現場でやってみないと分からない。いろいろ試して、データを蓄積するしかない。たとえ同じ商品を同じようにしたとしても、全ての店で同じような結果になるとは限らないから、厄介である。
ただし、この法則をある程度抑えることができると、相乗積計算によって、同じカテゴリーの商品であっても粗利率を改善したり、商品回転率を改善したりすることができる。当然、交叉比率も変わる。
ポイントは、全ての商品を同等に扱って複雑にしないことである。
主要な商品さえ、押さえておけばどうにかなるから、売上、粗利、在庫などのメインになる商品群、SKUについて優先して抑え、残りの数値に大きく影響しない、数値面で大きな変化をしない商品はその他とてまとめて処理することである。
◆他のカテゴリーと比較する 他店と比較する
相乗積や交叉比率の使い方として、同じ部門内の他のカテゴリーと比較をしたり、同一カテゴリー、または部門を他店と比較したりすると状況を客観的に見ることができる。
図表 相乗積と交叉比率は、バブルグラフで相乗積と交叉比率を表したものである。どちらも値が一定になる曲線を描き加え、そこに確認したい複数の商品の加えている。円の大きさは売上規模である。
このようにしてみると、たとえ相乗積や交叉比率が同じ値であっても内訳がどうなっているのか、円の位置を見れば一目でわかる。
例えば相乗積が同じ値でも粗利率が高い(右下にある)のか、売上構成比が高い(左上にある)のかでは、全く意味が違う。
このような表現をすることで、同一部門内のカテゴリーのポジションを比較したり、同一カテゴリーの店舗によるポジションの違いを確認したりすることができる。
残念ながらエクセルのバブルグラフでは曲線まで書くことができないので、相乗積や交叉比率の値が一定になる曲線はペッ書き加えなければならないが、それでも漠然と数値を眺めているのとは、全く違うものが見えてくるはずである。
知恵は使うためにあるし、使えば使うほど新たな世界が見えてくるから、さらに知恵が湧いてくる。いろいろなモノ・コトが見えてくれば、結果を出しながら楽しむこともできる。遊べるようになると面白いだろう。
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