第4回  なぜ、大きな企業がダメになっていったか-3

1. 総合化・大型化と専門性の喪失
(1)総合化=ワンストップショッピングに関する勘違い
小さな業種店が、いつしかお客に利便性を提供するために取扱商品を増やし、複合化していった。ワンストップショッピングの起こりである。
ワンストップショッピングは、お客の利便性(とりあえず必要な物が一箇所で揃う)を確保するために自然発生的に生まれた概念と考えられる。
まだ、商品も乏しく、供給するチャネルが限られていた時代のことである。
現在、店舗は著しく増加し、全体的に大型化した。類似商品を取り扱う類似店舗が増え、オーバーストアは常態化している。業態は細分化し、大型専門店・カテゴリーキラーなど商品ラインに特化した業態しか生き残れない分野も明らかになりつつある。
一般消費者が入手可能な情報量は飛躍的に増え、情報誌やインターネットを通じてさまざまな商品情報を瞬時に入手することができる。さらに、さまざまな形態の通信販売によって商品情報とともに商品そのものも容易に入手できる。
価格比較サイトでは、商品の価格比較だけではなく、その商品を実際に購入し、使っている人達の生々しい声(良い点、悪い点、分からないこと、アドバイスなど)を知ることができる。
このような時代に、ただ多くの商品を物理的に集めて店舗に並べ、『お客の利便性=競争力を高めるためのワンストップショッピングの実現』と言うのでは、時代錯誤と言わざるを得ない。インターネット上には、はるかに多くの商品が揃いこれまでとは全く違う次元でワンストップショッピングを実現している。
『物』も『商品を供給するチャネル』も乏しかった時代から考えれば、『お客が買物する環境自体』が大きく変わっている。現在の環境下で『お客にとっての利便性とは何か?』ということを改めて見直す必要がある。
もし、商品ラインを複合化することによってお客の買物に利便性を提供しようとするのであれば、漠然と『商品を集める』のではなく、具体的にお客の買物の仕方を調べ、利便性を高めるために関連させる商品を特定すべきである。
これがMD(Merchandising)戦略の基本的な柱である。
例えば、用途・機能別で関連付けることが有効であればハード(器具、用品)とソフト・消耗品・メンテナンス用品などの組み合わせであるし、頻度でとらえるのであれば衣食住に関係なく購入頻度によって関連づけた商品のラインアップをすべきである。
以前、大型DSが極端な用途・機能MDを展開したことがある。
掃除関連は掃除機+バケツ+モップ+住居洗剤、洗濯関連は洗濯機+乾燥機+物干し台+物干し竿+四角ハンガー+ピンチ+衣料洗剤+仕上げ剤、...という具合である。
家電製品から器具・用品、消耗品までを用途・機能別に集めてみたが、お客の混乱を招いただけで、すぐに元に戻している。
いくら用途・機能と言っても、お客は高額な耐久消費財と日常的に消費する洗剤などを同じ売場で同じように買うことに対して違和感を覚えている。
この実例から分かることは、いくら商品をまとめて揃えたからといって、それだけでは『お客に利便性を提供するワンストップショッピングにはならない』ということである。
店舗を大型化する理由の一つに商品ラインの複合化・総合化=ワンストップショッピング=お客に対する利便性の提供=他社との差別化・競争力アップ、...等々を挙げるケースは多い。しかし、それは大昔からそのように言われてきたということであり、『ただ品集めをしているだけ』というのが実情だろう。
本当の意味で『お客にとっての利便性』を理解しない限り、巨大迷路のような売場の中でお客に商品を探させ、かえって混乱させるだけである。
実際にさまざまな商品の組み合わせを売場で実験し、検証しなければ、お客に利便性を提供するのに『有効な商品の組み合わせ』、『やっても意味のない商品の組み合わせ』、『かえってお客を混乱させる商品の組み合わせ』を知ることはできない。
ペットを例に取れば、『犬』という対象をベースに生体、フード、用品、トリマーなどのサービスを複合化させた方が有効なのか、それとも『生体』『フード』『用品』という大きな商品分類の中で、生体なら生体だけで犬・猫・小鳥・小動物・魚を集める、あるいはフードならフードだけで犬・猫・小鳥・小動物・魚用フードを集める、用品なら用品だけで犬・猫・小鳥・小動物・魚用品を集めた方が有効なのか。
豊富な商品情報、専門知識、経験を持つお客は、漠然と集めただけの商品が並んだ売場に決して満足しない。極端に言えば、犬を飼っている人にとって犬に関する用品やフードは重要であるが、他の動物は一切興味がない。他に付いても全く同様だろう。
何処にでも売っているようなペット関連の商品が、ただ漠然とたくさん並んでいるよりも自分の興味の対象となる商品が数多く揃った店舗の方が利便性は高く、良いに決まっている。
店舗・売場はどんどん大きくなるが、売場を埋めるために、売りやすい商品ばかりをいくら集めてみてもバイヤーは育たないし、専門性=競争力も失われていく一方である。

(2) 規模の競争と質の競争
総合化をすることによって専門性を喪失してきた業態の典型は総合DSとGMS(総合スーパー)である。
類似店舗・類似商品が溢れる時代に、消費者はどのような商品を、どのような店舗で、どのようにして買いたいと考えるだろうか。
日常的に高頻度で購入する消耗品は、とにかく安いことが重要である。ただし、何でも安ければ良いというのではなく、多少高くてもPB(プライベート・ブランド)商品よりもNB(ナショナル・ブランド)商品の方が信頼できる(ただし、いくら価格が違ったらPBを選択するか、といった調査データはない)。しかも時としてNB商品の方がPB商品よりも安いという価格の逆転現象が起きる。
時間をかけて遠くまで買いに行くよりは近場で、短時間で済ませたいから近所の食品スーパー、ドラッグストアを用いることが増える。
ショートタイムショッピングが重要な要素となる。
一方、家具や家電製品、パソコン、カー用品(メンテナンス)などは安さも重要な要素であるが、それ以外に品揃えの豊富さ、きちんとした接客、信頼できるアフターサービスなどが店舗を選ぶ上での重要な基準となる。専門的なアドバイスを受けながら安心して購入したい商品である。
このような商品は、大型専門店、カテゴリーキラーが寡占状態をつくっている商品であり、一般的な大型店から取り扱いが縮小、もしくはなくなっている商品でもある。
小売業は、誰でも容易に取り扱うことのできる商品だけを扱っている一般的業態と、専門的な知識・技術を要し、容易に参入することのできない専門的業態に大きく二分していることが分かる。
一般的な商品を扱う業態は、低価格と立地が重要な要素である。小型店はショートタイムショッピングを自店の武器とし、大型店は複合化・総合化することでワンストップショッピングを自店の武器として位置づけている。どちらもローコストであることが前提だから人を減らし、パート・アルバイト中心の売場運営となる。費用と時間がかかる専門的な知識・技術を高める余地など全くない。
近隣に類似店舗が増えた時には、お互いの力の差(接客応対、機能的サービス、売場管理などの管理レベルのみ)を明確に示すことが難しく、大型化しただけで簡単に商圏は拡大しない。
規模の競争力だけを追求した場合の限界と言ってよいだろう。
一方、専門的業態は、品揃え、接客(知識・ノウハウ)、アフターサービス(技術、品質)などさまざまな意味で専門性の競争である。もちろん、専門性を発揮する上で店舗規模、価格なども重要な要素となることは一般的業態と同じである。
専門的業態は、一般的業態と比べて品揃え(新商品、特殊商品、話題商品などの入荷状況)、価格(実勢価格に対する割引率)、接客(商品に対する説明の分かりやすさ、専門的な見解・アドバイスなど)、アフターサービス(修理・メンテナンスなどサービスの内容、無償の範囲、有償の際の費用、技術レベル、品質など)など企業・店舗間の差が直接お客の購買行動(どの店を選ぶか)に反映されるので分かりやすい。
単純に規模の競争ではなく、規模+質の競争である。
GMSからは家電売場(一時期打ち出したパソコン強化もすぐに絶ち切れ)が消え、スポーツ売場もウエアとシューズしか残っていない。
HC(ホームセンター)も、資材館は盛んだが、一方ではピットを持たない店舗のカー用品売場は消耗品中心に大幅縮小している。
専門店の集合体というように質的競争力を確立しない限り、規模的拡大だけで競争力を維持することは難しい。
『近い』『安い』以外の来店理由が『大きい』『何でも揃う』というのがGMSであったわけだが、結果的には巨大なコンビニエンスストアと化しただけである。

(3)『広く浅く』から『広く深く』の時代へ
すでに家電量販店の中には一万数千㎡の店舗を中心に展開する企業もある。取り扱う商品の中心は家電製品とパソコン関連である。
HCも限られた商品ラインでありながら一万㎡から中には三万㎡という店舗までつくり上げている業態である。
衣食住で一万㎡のGMSが『広く浅く』であるのに対し、家電量販店やHCは特定分野で『広く深く』を実現している。
30数坪のCVS(コンビニエンスストア)でさえ、ただ漠然と商品を扱うことはしない。
惣菜に代表されるような特定の商品分野についてはすでにSPA;specialty store retailer of private label apparel;製造小売業と言ってもよいほどに進化している。ここでも取組み方は特定分野について『広く深く』と言ってよいだろう。
競争力の根源である。
既にこのような専門的な業態でさえ、同質の競争に入りつつある。質的に変わらなくなった時に規模に答えを求めるとGMSと同様な結果になる。抜け出せるのは、『広く深く』を実践し、規模+質の競争力を進化させ続けた企業だけである。
ただ大きくなっただけでその代償に専門性を失くした業態・企業は確実に衰退し、消滅していく。

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