■なぜ、大きな企業がダメになっていったか-1
1. 企業の栄枯盛衰
昔、企業の寿命は30年という本が注目されたことがある。いろいろな企業の業績変化を10年単位で比較した結果、それぞれの時代にあった事業内容の企業が業績を伸ばし、30年も経つと社会・経済・文化など環境変化に伴って主役となる業種・企業が変化していくという調査研究である。
『重厚長大』から『軽薄短小』へと変化していった時代を象徴する調査研究であるが、いまや『重厚長大』や『軽薄短小』というレベルを超えてアナログからデジタル、リアル(実体)からサイバー(情報=仮想空間)へと次元が変わっている。
プロ野球球団の所有母体に象徴されるような変化はとどまるところを知らない。
これからの変化は、これまでの常識を前提としては計り知れないものとなるだろう。
このような企業ポジションの変化は、小売業でもまた同様に見ることができる。
1970年代はじめにダイエーが三越の売上を抜いて日本一になった時は、安売り企業が天下の三越を抜いて日本一になったと注目され、大きく報道された。
それから約30年、今度はセブンイレブン(加盟店売上)がダイエーを抜いて売上日本一になっている。しかし、ダイエーの売上が日本一になった時のようには騒がれていない。
このような変化を当然のこととして受け入れる素地が出来上がっていたのだろう。
古くからある企業が新しい企業に抜かれていくのは、さまざまな業種、業態に見られる現象であり、小売業でも総合スーパー、食品スーパー、ホームセンター、家電量販店などさまざまな業態間、あるいは業態内で観測することができる。
団塊世代のライフステージに合わせて『結婚し、子供ができると総合スーパー』『家を持つようになるとホームセンター』『中高年になって健康問題が重要になるとドラッグストア』、そして『これからの高齢化時代は介護』などと言われたこともある。しかし、同じ業態内での栄枯盛衰を考えると、それほど単純な図式とも思えない。もっとさまざまな要因が複雑に絡み合っていることだろう。
いずれにせよ、このような業種・業態の変遷をメカニズムとしてとらえることができれば、我々が進むべき方向に大きなヒントとなることは確かである。
2. なぜ、大きな企業がダメになっていったか-1 マーケットの変化
どんなに大きな企業であってもはじめから大きかったわけではない。はじめは小さな企業が、成功を繰り返すことで大きくなっている。
同様に、どんなに店舗数の多い企業であってもはじめから店舗数が多かったわけではない。一店舗から始めて徐々に店舗数を増やし、現在の店舗数にまでなっている。
店舗規模もまた同様である。初めから数千坪の大型店舗ができたのではなく、商品力、販売力、資金力に応じて小さな店から徐々に規模を拡大してきた結果である。
我々が知る成功事例は、このように小さな出発点から始まり、現在のような店舗規模、店舗数、売上規模を手に入れている。
歴史的に見ても、総てにおいて大きくなることは成功の証であり、多くの経営者が目指す目標となっている。
しかし、すべての企業が競争を勝ち抜いて大きくなれたのではない。大きくなろうとしたが故に自分のよさ、強みを見失い、消えていった企業も多い。
これらの成功事例の出発点から何十年も経った現在、前提は大きく変化している。
産業革命以来、企業活動を支えてきた『拡大再生産』という論理、一つの事業を永久機関のように拡大し続けるという手法がこれまでと同様に使える環境にあるとは思えない。全く同様の成功ストーリーを求めることはなかなか難しいだろう。
状況を整理すると次のようになる。
3.企業が直面するリスク マーケット ニーズ・ウォンツの変化
企業が誕生し、成長していく過程で直面するリスクはさまざまである。その間、社会、経済、文化などは世界的規模で変化し、結果として企業の置かれるポジションも大きく変化する。さらに、さまざまな官業の民営化、規制緩和なども企業ポジションの変化に重大な影響を与える要因である。
ここでは、直接企業ポジションに影響を与える消費者=マーケット(=ニーズ・ウォンツ)の変化について整理する。
(1)マーケット ニーズ・ウォンツの変化
①『仮に,1996(平成8年)年」における女性の年齢別出生率(合計特殊出生率1.43),出生性比(女性100に対して男性105.2)および死亡率(平均寿命 男;77.01歳,女;83.59歳)がずっと続いた場合の状況を,敢えて計算してみると,日本の人口は,2100年ころには約4900万人,2500年ころには約30万人,3000年ころには約500人,3500年ころには約1人という計算になる。』(平成10年版厚生白書より)
*年金問題で注目されたように2003年の合計特殊出生率は1.29、東京だけに限れば0.9987。現状はこの推計値よりもはるかに悪い方向へ進んでいる。このような記述は、その後一切記載されることはなくなっている。
増加傾向にあった我国の人口は、まもなくピークを迎え減少に向かう。
②1970年に31.5歳であった日本人の平均年齢は、2000年には10歳上がり、41.3歳である。
65歳以上人口2,484万人(平成16年9月15日現在推計)、総人口の19.5%。15歳未満人口1,781万人(平成16年4月1日現在推計)、同13.9%。
急速に進む少子高齢化は、さまざまな形でマーケットに影響を与える。高齢者の単身世帯、高齢者同士の夫婦世帯、もしくは夫婦のうち一方が高齢者という高齢者世帯数は700万を超え、6世帯に一世帯の割合である。
標準世帯と考えられてきた『夫婦と子供2人』という世帯構成は現在32%に過ぎず、平成19年には単身世帯の方が多くなるという。東京都に限れば、一般世帯に占める一人世帯の割合は40.9%にものぼり、夫婦と子供2人という標準世帯は幻想と言ってもよい状況になっている。
実は、夫婦と子供2人=標準世帯というのは団塊の世代を中心として、僅か25年しか続いていない。今では、人口動態の中で短期的に現れる人口ボーナス(一時的に現れる特異な形態により、人口が増える)という一時的な現象ではなかったのか(京都大学 落合恵美子教授)とさえ言われている。
生活様式、生活時間、食事のとり方、衣料品、趣味、娯楽、医療、買い物の仕方、……。我々がこれまで抱いてきた(あるいは、経験的に知っていた)標準的消費者像こそ歴史的時間の中ではイレギュラーであり、日本はこれまでと全くかけ離れた状況に向かっていることを改めて認識する必要がある。
③国土交通省が明らかにした資料では,人口の減少により2006年-2010年の新規宅地需要は2001年-2005年の3分の2まで減少し,5年間でおよそ1万ヘクタール(総宅地面積の約1%,東京ディズニーランドの120倍に相当)もの余剰が生じると予測している。バブルの反動とは別に需給関係の悪化から土地の下落が再び始まることが予測される。
地価の下落により、地方に拡散していた人口は全国的規模で都市部へ集中し始めている。人口集中と過疎という状況は人口だけではなく、資金、物、情報などあらゆる面での二極化を生み出す。
唯一都市部と地方を同レベルに維持できるものがあるとすれば、インターネットという世界だけである。
このように、子供中心の生活を送っていたニューファミリーは高齢化し、着る物も食べるものも以前のように多くは必要としなくなる。
地方に行くとクルマという交通手段を持たない高齢者と中高生が公共交通機関を利用できる駅前に集まり、クルマを持つ中間の年齢層が郊外のショッピングセンターを利用するという二極化現象が見られる。高齢化すれば利用できる交通手段も限定される。行動半径は狭まり、商圏は確実に縮小する。
実用的な物への支出を押さえ、自分の好きなものへの支出を優先する傾向が強まっている。また、物よりも時間の消費(参加、体験、自己実現)を志向する傾向も強まっている。消費の二極化は進み、消費する費目の優先順位、消費する量は過去のデータが参考にならないほどに様変わりする。
勤労者世帯の年齢階層別一世帯あたりの収入と支出(平成11年度総務省統計局)によると、一世帯当たりの実収入は50~59歳を中心にして両サイドが低くなる山型を示す。しかし、実収入を世帯人数で割り、一人当たりに換算すると、50~59歳で高い値を示すが30~44歳で低く、両サイドが高くなる谷型に変わる。
一世帯当たりの消費支出では45~59歳が最も高くなるが、一人当たりに換算すると30~44歳で低くなるのに対し、29歳以下、50歳以上という両サイドが逆に高くなる。
一般に世帯収入、世帯支出だけを見るために実収入も各費目の支出も多い40~59歳がマーケットとして注目されることが多い。
しかし、一人当たりに換算すると食費、被服および履物、交通・通信、教養娯楽では30歳代、40歳代を底にして両サイドがその約1.5倍という高い値を示す。
世帯支出ばかりに目を奪われていると本質的なことを見落としてしまう。特に食費では24歳以下と70歳以上で32,000円以上と最も高い値を示しており、食事の量を考えると高齢者は質の高いものを少量食べていると推測できる。
多くの量販店が世帯支出を基に30~50歳代という量の消費を優先するターゲット設定をしていることを考えるとデパ地下が支持される理由も理解できる。
これらは統計データであり、あくまでも平均を算出しているにすぎない。しかし、通常我々が常識と思って頭に描く姿とは異なる消費者像を垣間見せてくれる。
多くの企業が、団塊の世代とともに成長してきただけに大量生産、大量販売、大量消費という呪縛から逃れられないでいる。大きな企業は、その規模を維持するために余計この論理から抜け出せずにいる。
しかし、マーケットの変化を理解することができなければ、マーケットの支持を得ることはできない。
構造的に変化できない企業にとってのリスクも、変化することのできる企業にとっては大きなチャンスである。
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