◆巨大なコンビニエンスと化したGMS
アメリカではGMSという業態はディスカウントストア、もしくは百貨店に業態転換して消滅しており、我国でもGMSという業態の存在に対する疑問の声が挙がっている。
商業施設の増加に伴い、様々な店舗・業態が生まれ、さらにインターネット通販が加わったことで商品供給チャネルは確実に多様化している。
また、一般消費者の中には就業人口の6割(現在は7割)を占める第3次産業就業者、学生・フリーター・主婦など第3次産業でのパート・アルバイトの経験を持ち、小売業の裏側を知る消費者が増え続けている。店舗の内情だけではなく、中には商品原価や問屋ルートなどまでを知り尽くしている人も少なからずいる。現に筆者が教える芝浦工大の授業では「品出し」「前出し」と言って通じる学生は少なくないし、中には商品やファストフードの原価をレポートに書いてくる学生もいて驚かされる。
多くの商品情報と経験・知識を持ち、消費することに習熟した消費者、流通・小売での就業経験を持つ消費者は、専門的な立場から商品・価格を評価することも、魅力ある店舗を見分けることもでき、そのための情報を入手する術も持ち合わせている。(いまでは、情報を発信し合っている)
商品を購入することに習熟し、なおかつ多くの選択肢を持つ消費者には、巨大なコンビニエンスストアと化したGMSで「一箇所でいろいろなものが揃うから」という理由だけでワンストップショッピングをする必要はない。1000坪~3000坪超の専門量販店が珍しくない時代にフルラインで3000坪~4000坪というGMSは既に大きな店舗ではない(Web上の品揃えを考えれば比べ物にならない)
多くのGMSで食品の売上構成比が40~50%前後になっている。実体は総合スーパーというよりもSSM(スーパースーパーマーケット)に近いと言ってよいだろう。 その結果、GMS を核とした3万㎡クラスのショッピングセンターの商圏が食品スーパー並みの半径2~3kmというケースも見受けられる。
すでにGMSは,取敢えずの商品が一通り揃う巨大なコンビニエンスストアとしての機能だけで成立していることになる。
◆GMSからSMSへ
10年(いまから20年)以上も前にGMS (General Merchandise Store)に代わる業態としてSMS(Specialty Merchandise Store)という概念を提唱したことがある。
総合化したために個々の部門の専門性が薄れ、競争力をなくしたGMSを立て直すには、個々の部門を専門店化してつくり直すしか方法はない。それぞれをショップとして確立し、ショップマスターを配置して仕入から利益管理までを任せるしか売場のレベルを上げることはできない。
GMSの総ての間違いは、カジュアルウエアなどインショップ化した商品部門を別事業部・別会社に分離し、残った商品だけで売場=平場を構成したことにある。
時代の流れにあった商品を売場の外に出せば、残る商品に大きく望むことは難しい。売場作り、販売形態、商品など特徴あるもの総てを外に出した後に残ったのがGMSでは、弱体化することはあっても強化することなどできるはずもない。
セルフサービスで売れる商品しか扱わなくなったことは、商品面の弱体化だけではなく、人員面での弱体化も同時に引き起こしている。
一つの方向として考えられるのがSMSである。カテゴリーマネジメントより、さらに専門化したインショップをユニットとして運用し、そこで確立した手法を総ての商品に広げていけば、独立した専門店の集合業態として再生できたはずである。
10年(20年)ほど前に筆者が提唱した「食品ブティック」と全く同様の概念を取り入れた店舗がアメリカのスーパーマーケットでも見られるようになったことがある。広い売場の中に特徴のある品揃えと販売方法の「ブティーク」を組み込み、アクセントとしている。「ブティーク」は他店との差別化を図るためのものであるが、その手法を見れば、あまりにも無機質化した売場づくりに対する反省、アンチテーゼであることは一目瞭然である。
完全に総ての商品ラインをコーナー化・インショップ化したわけではないが、スーパーマーケットでさえ、このような試みをせざるを得ない状況にあることは十分認識する必要がある。まして、フルラインでファッション商品までを扱うGMSであれば尚更だろう。
物事の流れを見れば、必ず行き着く先は見えてくる。
経験・知識とも豊富で消費に習熟した消費者、インターネットの普及による豊富な情報、...。
大型家電量販店、大型スポーツ量販店、収納・インテリア・寝具などを充実させる大型ホームセンター、価格とショートタイムショッピングで存在感を増すドラッグストア、クオリティを上げる食品スーパー、紳士服専門店、ジーンズショップ、ショッピングセンター中心に拡大するファストファッション、アウトレット、観光立地の行楽型ショッピングセンター...等々、多様化した店舗形態と商品供給チャネル。
選択肢は限りなく広がっており、ドル箱である肌着がユニクロのヒートテックに取って代わられたことはGMSの凋落を象徴する出来事である。
このような環境を考えれば、ただの大きな店が成り立つことは難しい。例え特徴ある専門店やシネマコンプレックスなどを配置してショッピングセンターという形態をとったとしても、核店舗のGMSが「ただの大きな店」では長続きすることは難しい。現にショッピングセンターの中には、1年間に10億円単位で売上が減少しているところも珍しくない。
「狭く深く」「広く深く」の店づくりはどうにかなるが、「広く浅く」では難しい。大きな店にたくさん商品が置いてあっても、品揃えが豊富な魅力的な店ということにはならない。
「ローコストを目指してずっとやってきたが、ローコストの向こうにローコストはなかった」とは、ある経営者の名言である。
売場から人員を減らし、そのためにセルフサービスでも売れる商品、パート・アルバイトでも扱える商品、パート・アルバイトでも維持できる売場を志向してきたが、結局売場の販売技術・ノウハウを失っただけだけではなく、消費者からの支持もなくし、働く者からも販売という魅力ある仕事とプライドを奪って、ただの作業だけにしてしまった。
このことの代償はあまりにも大きいと言わざるを得ないだろう。
◆これからどうするのか
実は、ここまでの原稿は2003年頃、いまから10年以上前に書いた原稿に多少手を加えたものである。数値など一部の記述は( )の中に注意書きを加えたが、いま読み返してもあまり違和感がない。失われた20年、いろいろな修正を加えてみても時代の変化に対して本質的な修正ができていなかったということだろう。
1990年代(20年前)に総合スーパー (General Merchandise Store)に代わる新しい業態としてSMS(Specialty Merchandise Store)を提唱した。
すでに市場には商品も店舗も溢れている。「巨大なコンビニエンスストア」と揶揄されるように、GMSはコンビニエンス性を維持したとしても、全ての商品を巨大な売場にまんべんなく扱う意味、必要性は失われつつある。まして高齢化時代にコモディティ商品の巨大店舗は時代に逆行する。
昨今、消費サイクルを自分独りで完結できない高齢者世帯・単独世帯が増えており、サービス型小売業のニーズが拡大している。マーケットのニーズは商品面での総合化、巨大な売場より、消費サイクルを完結させるための商品とサービスの融合、あるいは物よりもサービス(例えば高齢者の余命という時間の有効活用、若者のお金は物ではなく思い出に使いたいという物離れ)へと向いている。
筆者はかつて、無印良品の可能性について提言したことがあるが、個々の商品ラインを専門ショップ(サービスを含んだビジネスユニット)として確立すれば、単独でテナント出店することもできるし、専門ショップを組み合わせたユニットとして出店することもできる。さらにユニット同士の組合せ、総合化して大型店、他社をテナント、コンセッションとしてユニットに組み込む複合化など、フレキシビリティに富んだ構成を実現できる。
モジュール化したビジネスユニット(物販に限定せずサービスも含む)により、さまざまな状況に対応できるよう自由度を増せば、多様な立地条件、事業環境の変化に対する対応力も強化できる。
重要なことは、ただでさえ、高齢化・世帯人員減少、サービス付き高齢者住宅などへの住み替え、競合の激化などで、一部の観光立地の大型商業施設を除けば、足元商圏は確実に狭まり、かつ薄まっていることである。
さらに首都圏を中心に鉄道の乗り入れが進み、時間的距離が急速に短縮していることで都心に人が集まりやすく、その分地元の足元商圏では世帯数、人口規模はある程度あったとしても生活基盤(学校・仕事・買い物・娯楽など)は都市部へ移行していく傾向にある。
実際に埼玉県、千葉県、神奈川県の3県だけでも約290万人が毎日東京へ通勤・通学しており、筆者が試算した結果では少なく見積もっても年間約3兆円が東京都内で消費されている計算になる。
かつては最寄り品か、買回り品かという購買頻度や商品の価格・耐久年数などで単純に業態=立地や取扱い商品が決まり、棲み分けることができた。
現在は足元商圏か、通過客・来訪客が来る観光立地か、あるいは実店舗でのキャッシュ&キャリーか、インターネットで商品を探し、価格を比較にして購入するかというように従来とは全く異なる要因で購入する商品、購入するチャネルが変わっている。
かつて商圏を広げることができた商品が、大型専門店やインターネットへとシフトし、確実に売上が取れる食品のウエイトばかりが高まれば、自ずと商圏は狭まり、客単価、粗利率は下がっていく。食品のウエイトがやたらと高くならざるを得ない理由である。
このように売上、客数だけを意識した方向に舵を切れば、余計に購買頻度が高く、価格に敏感な商品のウエイトが高まるから、ますます本質的な解決とは異なる方向へと向かわざるを得なくなる。
「ハイブリッド化」という表現を使ったこともあるが、店舗を維持するためには、実店舗だけでなく、インターネット、宅配、移動販売など、複数チャネルを活用してシェアを高めていくしかない。
ただし、実店舗、キャッシュ&キャリーの現物販売をベースに出来上がってきた店舗にはクリアーしなければならないハードルが多い。インターネット通販、移動販売、宅配などの手法は商圏という枠組みを超えるから、隣接する自社店舗、フランチャイズ店舗などとの棲み分けを明確にしなければならない。
レンタルビデオなどがデジタル化した場合には企業としては物から解放されて大きく効率が上がるが、地域に存在する店舗、特にフランチャイズ店舗への影響をクリア―する必要がある。
いずれにせよ、環境は大きく変化し、従来の実店舗が前提としていた条件が大きく変わっている。
前提が大きく変わっていることを考えれば、修正ではなく、進化をするしか方法はない。
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