いま教えている学生が20歳であるから、ちょうど彼らが生まれた頃から人口動態を調べていることになる。すでにその頃には「いずれ近い将来、急激な高齢化と人口減少が起こる」と指摘されていたが、実感がないのか、多くの組織が何の対応もせずに、結果としてその時を迎えてしまったことになる。
ここ1,2年、政府が本腰を入れ始めたことで、さすがに地方自治体も何らかの行動をとりはじめてはいるが、本当の意味で効果のある動きかどうかは定かではない。
一方、企業、特に小売業は、目先のことに忙しいのか、そんな先のことまで構ってはいられないということなのか、何となく分かってはいても、実際の状況に関しては全くと言ってよいほど把握できていない。当然、準備もできていないから、多くの企業がかなりの確率で難しい状況に陥るだろう。
「茹でガエルの話」ズバリそのものが目の前で起きているから、見ている方がハラハラしてくる。気づいた時には….と散々警告を発してはいるが、行動パターンはそう簡単に変わらない。経営者の限界が組織の将来を決めてしまうことになる。
どこに基準を置くかにもよるが、まず学生に関しては、我々が過ごした時代より、はるかに難しい時代を生きていかなければならないことは確かだろう。そうであれば、卒業するまでにどのような武器を持たせてやれば良いのか、ということが教える側にとっての重要な課題になる。
筆者が学生の時に教わった故津村豊治 芝浦工業大学名誉教授は、「産業界に優秀な学生を送り出す」という使命感を持って学生を育てていた。筆者が何十年経っても変わらずに自分の基本に置いている原理原則はその時身につけたものと思っている。
そう考えると、我々も21世紀に貢献できる人材を…と願うばかりだが、それでも、現在の環境与件を考えるとなかな状況は難しい。
「国内の市区町村のうち約半分に当たる896の都市が消滅可能性都市である」という日本創成会議の発表も、実際に細かなデータを見てみれば、全くの嘘、脅しということではないことがすぐに分かる。まず都市が消滅する以前に、人口減少と高齢化によって、もっといろいろな現象が次から次へと顕在化してくるから、大騒ぎになるか、あるいは騒ぐだけの余力もなく人知れず消滅していくことになるのだろう。
「その時はその時、どうにかなるサ」という楽観的な考え方もないわけではないが、理工系の学生であれば4年という歳月に加え、600万円という高額な授業料を投資している。ただ大学を出ましたというだけではあまりにも効率の悪い投資だから、少なくともそんな時代を生き抜くだけの知恵、スキル、ネットワークなどの武器を身につけていって欲しい。
情報はWebを探せばいくらでも手に入る時代であるが、頭の中に情報が引っ掛かる糸が張り巡らされていなければ、どんなに価値ある情報も気づかずにスルーしてしまう。それでは、こんなにチャンスの多い時代に、いつまでたってもスタートラインに立つことはできない。
小中高12年の間に、頭の中に糸を張りめぐらすような作業が済んでいれば、大学生になってから基本的な勉強の仕方を身につけるような作業は必要ないのだが….。
「教育」「勉強」というと、どこか神聖で、俗っぽくあってはならない、全てのモノに優先するといった風潮が昔からある。まるで錦の御旗のように正論を振りかざして、どんどん現実離れした虚構の世界へと子供たちを誘導してしまう人達がいる。
しかし、現在のような時代にこのような勘違いばかりが横行していては取り返しのつかないことになってしまう。
人口が減る時代には一人一人がとても大切である(人口が多い時は大切ではないというつもりで言っているのではない)。
持てる能力、可能性をいかに引き出すことができるかが非常に重要なテーマである。しかし、小中高12年の間に堅く固まって閉ざされてしまうと、その殻を壊し、本来の持てる能力を引き出して開花させることはかなり難しくなる。
そもそも「勉強とは何かが分かっていない」し、「思考方法が身についていない」「世間知らずで危機感もない」からスタートライン(自分は分かっていないと気づくまで)に着くまでに時間がかかる。「勉強とは工夫すること」「実技だから実際にできるようになること」「大学では観察力や工夫の仕方を身につけること」ということを実践的にやるしかない。
一度でも専門的な分野の現場に入り込み、実際に行われているレベルを自分の目で見、肌で感じることで、自分とのレベルの差を身をもって実感できれば早いのだが、そのような環境もなかなか揃わない。
少なくとも12年間(おそらく閉鎖社会の中しか知らないで、子供を教えている人達はもっともっとず~ッと長い間)も社会から隔離されてきたことを考えれば、簡単ではないかもしれないが、早急に自分たちが生きていかなければならない世界を知る必要がある。
持てる能力を十分に引き出し、開花させることこそが、自分にとっても社会にとってもWin-Winの関係をつくり出す最も望ましい姿である。
経営者も教える側も、「自分の限界を超えては与えることができない」という点では全く同じである。
人口が増えていた時代を生きてきた人たちが、人口減少時代を生き抜かなければならない人たちに、何をどう教え、何をどう残すのか、…..。
できないのであれば、早めに退席してバトンタッチすべきだと思うが、どうも理屈通りにはいかないから難しい。
大阪都構想の反対票が高齢者に多かったという後日談があるが、イギリスのEU離脱同様、これなどは典型的な例である。47都道府県の中で最も人口減少数(2010年比2040年▲140万人)が多いのが大阪府である。このことを知って投票した人が何人いただろうか。全ての都道府県、市区町村について、将来の推計人口を見ていけば、現在の地方自治の仕組みがそのままの形で維持できるはずがないことは容易に理解できる。
何が正しい判断かは前提条件(今なのか、それとも20年後、30年後への準備なのか)によって変わるし、住民投票の結果であれば、それが民意ということになってしまうが、それでは将来に向けての最善の選択は無視される。さらに、大阪と構想は、単に大阪だけの話ではすまないということも重要である。
日本という国を構成する地方自治の仕組みを今後どうするのか(ずいぶん前になるが、日本をいくつかのブロックに分ける道州制という構想があった)、…。20年後、30年後に対する非常に重要な修正の切っ掛けと見られていただけに、大きなチャンスを逸したことだけは確かである。
20年後、30年後、誰もこの意思決定の責任はとれ(ら)ないが、その分、その時代を生きる人たちの負担が増すことだけは確かである。
人口減少時代に、何を残すべきなのか?
難しい問題であるが、どんな時代にも使える普遍的な知恵を残すのが一番だろう。課題形成、問題解決、クエスチョニング…等々、言葉はいろいろあるが、要は観察すること、疑問に持つこと、考えること、工夫すること・試すこと(ダメモト)、実行すること、実現すること、そして何よりも難しくせず、簡単にやってしまうことである。
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