チェーンストア企業が成長し、一定の規模を超えると低迷しはじめ、その後負のスパイラルに陥って最悪の場合破綻する。本来であれば有利であるはずの「規模の拡大」が、返って企業の自由度を奪い、低迷、破綻を引き起こす重要な要因となる。 筆者が様々な業態の企業約200社について、最長30年間に渡る単独売上と営業利益を分析した結果見出したチェーンストアの法則である。(詳細は「何故、チェーンストアは成長を止めるのか?」同友館) チェーンストアのアキレス腱、成長期には気づくことがなかったチェーンストアが内包する構造的矛盾と言ってもよいだろう。 チェーンストアがもつ「損益分岐点が高く、経費が固定費的に発生するという構造的特性」は良い時、悪い時、どちらの場合も極端に働く。成長期には利益を倍加させるテコの原理として働くが、ひとたび売上が低迷すれば、高い損益分岐点ゆえに固定費が重しのようにのしかかり、経営を圧迫する。 チェーンストアは、成長期にこそ、その強みをいかんなく発揮する経営形態であり、マグロが泳ぎ続けないと生きていけないように、どこまでも成長を追い求めていかないと逆のその構造に押しつぶされてしまう。 人口が減少し、マーケットが縮小する時代には「規模」は武器からリスクに変わる。 時代は規模の競争から損益分岐点と生産性の競争へと変わっている。 チェーンストアが拡大の前提を失った時にどのような状況を迎えるのか、特に高齢者が急増する2025年までの10年間、非常に難しい時代を迎えることになるだろう。 できるだけ早いうちに固定費を下げ、生産性を倍化させるような構造転換を図る必要がある。 少なくともこれまでの延長線上で生き残れる企業は限られるだろう。
◆CGPのメカニズム さまざまなデータを総合すると、CGPのメカニズムは、以下のように考えられる。 ①規模拡大に伴う新店効果(業績変化率)の低下 チェーンストアが小規模で店舗数が少ないうちは、新店効果による業績変化率が非常に大きい。売上増⇒利益増⇒再投資(出店)⇒売上増・利益増(新店効果)⇒再投資(出店)⇒...という成長の循環に入りやすく、効果が強調される。 店舗数が増え、企業規模が大きくなると、それと反比例するように出店比率が低下し、業績変化率は小さくなる。 小売業の構造的特性である損益分岐点が高く、固定費比率が高いという利益構造ゆえに、高い売上伸長が維持できなくなると、利益の伸びは急速に停止する。 チェーンストアが戦略目標とする規模の拡大は、同時に成長を鈍化させるマイナス面を併せ持つことになる。 ②商圏の高齢化に伴う消費構造の変化、既存店の競争力低下と業績低迷 既存店の増加に伴い高店齢の店舗が増える。同時に商圏も高齢化して、ライフステージ(年齢、職業、家族構成など)、消費構造なども大きく変わる。 高齢化によって世帯人員、世帯収入は減少する。商圏は縮小(行動半径の縮小)し、客数も減少(外出頻度=来店頻度の低下)して消費量・消費金額は減少する。 消費構造の変化は立地(特に交通手段)や業態(部門構成、商品構成など)の優位性に影響し、出店時のまま店舗を維持することが難しくなる。高店齢の店舗は後から出店した商業施設に対して競争力が弱く、商圏は縮小してシェアも低下する。 ③新規出店の前提となる既存店の業績低迷と出店の減少・停止=成長循環の停止 既存店の競争力は相対的に弱まり、多くの既店舗を抱えた企業は構造的な業績低迷に陥りやすくなる。特に企業規模が大きく、店舗数、人員数が多い場合、立地、業態、店舗規模などが多岐に渡る場合が多く、閉店、改装、業態転換、人員の再教育など、短期間での修正が困難になる。大規模企業の低迷が長引く大きな理由である。 拡大再生産の前提、企業成長の源でもある既存店の業績低迷が始まると、やがて出店は滞り、成長の循環を維持することが難しくなる。 ④ 逆に働くテコの原理、チェーンストアが破綻する負のスパイラル 既存店の業績が低迷し、出店が止まると、弱体化した既存店だけで企業を支えなければならない。このような状況に陥ると「高い損益分岐点、高い固定費比率」という成長期には利益を倍加させ、企業の成長を加速させたテコの原理が逆に働く。固定費の塊である「低迷する既存店」は選択肢を限定し、経営を圧迫する。 赤字店の閉鎖など既存店の整理がはじまると、売上は急激に減少し、負のスパイラルに陥る。 人口ボーナス(人口=働く人が増えて豊かになる)後に必ず訪れる人口オーナス(高齢化して社会が養わなければならない人が増え、重荷になる)同様に、成長期には多くのスケールメリットをもたらした「規模」もやがて強みから弱みへと変わる。 これまであまり注目されることがなかったチェーンストアの負の側面である。 これが、チェーンストアが破綻するCGPのメカニズムであり、多くの企業が規模拡大後に必ずと言ってよいほど経験する負のスパイラルである。 チェーンストアは成長する時も衰退する時も一方通行であり、生き延びるには、どこまでも規模を拡大し続けるしか術を持たない。 半世紀に渡る小売業の歴史を見る限りでは、CGPに陥ることなく拡大し続けることができた企業はほとんど見当たらない。そうであれば、成長するマーケットを求めて海外へシフトすることは、理にかなった選択と言うことができる。 ただし、人口減少、地方の過疎化、急速な高齢化、生産年齢人口の減少、買い物難民、…等々、数多くの難題を抱えながら縮小すると考えられる国内マーケットで、今後どのように企業が存続していけばよいのかという答えは未だ得られていない。 多くの難題に直面する日本には、産業革命以来続く拡大再生産の論理に変わる論理、手法の構築が急務である。 ◆CGPを加速させる環境変化 構造的問題 CGPを加速させる環境変化、構造的問題は複雑かつ多岐にわたる。 ①人口減少、急激な高齢化、中~大規模都市の減少(人口データはいずれも国立社会保障人口問題研究所の資料より、年間商品販売額は商業統計より) 日本の人口は、毎年、地方主要都市に相当する20~30万人ずつ減少している。減少数は、やがて50万人(2018年~)、70万人(2024年~)と増え続け、2041年からの30年間は毎年一つの県に相当する100万人ずつ減少すると推計される。 2010年12800万人の人口は2030年までの20年間に約9%、1140万人減少し、11660万人になる。50歳以上が人口の過半数を占め、平均年齢は51歳を超える。 消費支出をGDP(2010年約480兆円)の約6割として計算すると、人口減少分9%に相当する消費支出の減少額は約26兆円、うち小売業の年間商品販売額(2010年134.7兆円)=物消費の減少分は約12.1兆円になる。この金額は平成25年日本チェーンストア協会の加盟全58社、8,231店舗分の売上12.7兆円にほぼ匹敵する。 人口減少以外にも高齢化(世帯主の年齢が50歳台➡60歳台➡70歳台と上がると消費支出は5万円/月ずつ減る)、単独世帯(2人以上世帯が単独世帯になると消費支出は13万円/月減る)の増加による消費支出の減少分もあるから、その影響は計り知れない。 また、人口減少に伴う市区町村の規模別分布を見ると、2010年から2040年までの30年間に3~100万人規模の市区町村が約140減少し、5千人未満規模の市区町村だけが増える。首都圏、地方を問わず、商業、工業、農業などの中心を成す中~大規模都市の減少によって日本全体の活力は低下する。 すでに都道府県、市区町村という日本を構成する基本単位を維持することは難しくなるだろう。(そのような意味で大阪の都構想は重要な社会実験と考えられたのだが...) ②商業施設の大規模化、オーバーストアに伴う設備生産性の低下 小売業の年間商品販売額は平成9年に147.7兆円でピークを打ち、その後低迷している。しかし、売場面積は増加し続けており、単位面積二人商品販売額=設備生産性は著しく低下している。競争力と生産性を高めることを目的とした商業施設の大型化が、いまでは設備生産性の低下を招き、膨大な固定費が経営を圧迫するように変わっている。 すでに総合スーパーの大量閉店という発表が話題となっているが、今後3~100万人規模の都市が大きく減少すれば大型商業施設の立地は失われ、地域一番店が固定費負担に耐えられずに撤退を余儀なくされるという事態も十分考えられる。 ③インターネットの普及 消費者にとっての買物の意味・仕方の変化 インターネットの普及は、タイムフリー/ロケーションフリー/カテゴリーフリー/コストフリーなど、これまでとは全く異なる状況をつくりだし、小売は特定事業者が行う「業」から誰でも行うことができる「機能」へと変わった。 ショールーミングが議論されるように、買物の利便性、情報量、時間的・場所的制約など多くの点でインターネット通販が大型商業施設の機能を凌いでいる。ウインドウショッピングを含めたさまざまな要素で勝るインターネットショッピングによって実店舗で買物するオケージョンは著しく減少している。 さらにロングテール(Chris Anderson「the Long Tail」2004年10月)で指摘されたように、特殊商品がインターネットに集中すれば、店数分在庫を持たなければならない実店舗は自ずとコモディティ商品を中心とした品揃えと価格競争へ向かうことになる。 グローバル化に伴う価格低下、大量普及は、かつてのスペシャルティ商品をコモディティ化し、マーチャンダイジングの重要な要素は、価格とロジスティックス(必要な時に、必要な商品が、適正価格で、必要な量、お客に提供できる)へと変わっている。 さまざまな面でシステム構築が進む大規模なグローバル企業、店舗を持たないロジスティクス型メガ小売業が、消費者とのインターフェイス、利便性の提供などで有利さを増し、そのことが消費者の購買行動を大きく変える。 ④サービス・ニーズの増加 高齢者世帯、単独世帯の増加に伴い、電球が買えても、一人では換えられない=消費が完結できない世帯が増えている。同様に身体的・物理的・経済的理由から生鮮食品を買えても一人で夕食をつくらない・つくれない世帯、日用品を買えても一人では家事をしない・できない世帯が増加する。 マーケットのニーズは、物の充足によるソリューションから状況改善・状況充足によるソリューションへと大きくシフトしている。 マーケットの成長が見込めない以上、多くの費目をカバーできる「消費を完結させるためのサービス機能」を併せ持つサービス型小売業へと転換する必要がある。 いち早く少量パックの総菜や宅配に乗り出したコンビニエンスストアがある一方で、生鮮食品と低価格にこだわる食品スーパーがある。 サービス付き高齢者住宅の普及、調理をする家庭の減少などを考えれば、物販中心に拡大してきた小売業はビジネスモデル、インフラなどのミスマッチから、急激に衰退する可能性が高い。 団塊の世代が70歳台に入り、年齢構成が最も大きく変わるのが2015~2025年までの10年間である。 地方創生によって地方経済が活性化したとしても、人口減少、高齢化の流れは変わらない。人口減少の仕方、高齢化の仕方、生産年齢人口減少の仕方など様々な推計値から読み取れるのは、中~大規模の地方主要都市を中心にして難しい局面を迎える可能性が高いということである。
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