◆なぜ、分析をするのか?、分析した後に、何を、どうするのか?
1.何故、分析をするのか、分析の目的によって使用するデータ、分析の仕方は変わる
分析の目的によって用いるデータ、加工の仕方=検討の仕方が変わるから、分析を行う際には、目的を明らかにしてスタートする必要がある。
たとえば、来週以降の売上を予測することが目的であれば、過去数週間、および昨年、あるいは過去3年の同時期前後数週間の売上・客数・客単価、仕入、在庫など数値の推移、売上に影響を与えたと考えられる天候、自社・競合他社の販促などの周辺情報、売場のつくりや売場体制、在庫・仕入・粗利率など様々な情報を検討することで、売上変化の仕方(法則性)、売上に影響を与える要因と影響の仕方などを把握することができる。多くの情報は「モレがない」という意味では有効であるが、その中から特に重要と考えられる要因を特定することで予測の精度を高めることができるから、イタズラに多ければよいということにはならない。
もう少し、的を絞り、たとえば来週の発注をどうするのかについてアウトラインを整理するのであれば、過去数週間の商品構成・在庫構成、主要商品群の売上・在庫・仕入の状況(特に数量)、および過去の同時期における同様の情報、あるいは主要アイテムに関する同様の情報について整理する。
この場合、いずれも知りたいことは、対象となる商品やトータル売上の時系列推移であるから、商品の数量、および、部門、ライン、クラス、主要商品群などの売上金額を対象として、過去にはどのような時系列変化をしているのか、そのデータに影響を与えた要因、影響の仕方について確認できるような情報が必要になる。
一般的には折れ線グラフに結果のデータを整理した時間軸をベースにして、結果に影響を与えると考えられる要因を時間軸に関連付けて整理する。結果と要因との間に一定の因果関係が確認できれば、それを利用し、要因をコントロールすることで結果をコントロールすることが可能になる。
時間軸には、時点、期間、時系列があるが、この場合は時系列を用いる。
2.データがあるから分析をするという本末転倒なアプローチは難しい
たとえば、POSシステムのような元々システムの目的が様々な業務の効率化であり、商品構成の分析・改善を前提としていないシステムの場合には、データが取れるから、何かうまい具合に分析に活用できないかという発想で取り組むことになる。
しかし、POSシステムのベースにあるJANコードのコード構成を見ればわかるように、本来の目的は商品のSKU識別が目的であるから、一般的な商品構成の分析・改善に活用しようとしてもかなり無理がある。
JANコード標準タイプ(13桁)は、①GS1事業者コード(JAN企業コード 9桁または7桁)、②商品アイテムコード(3桁または5桁)、③チェックデジット(1桁)で構成されている。
何と言ってもJANコードを用いることで得られる最大のメリットは、納品伝票、送り状などの手書き、レジ精算における手入力が不要になったことである。
当初、アメリカではレジの不正防止が重要な目的とも言われていたが、人の手を介することなく自動入力する事務作業などの効率化が目的であるから、MD(マーチャンダイジング)は当初から重要な目的として考慮されていない。(日本ではOA:Office AutomationやFA;Factory Automationと語呂合わせでSA;Store Automationなどという言葉が使われたことで、POSによって自動で商品改善ができるような大きな勘違いが生じている。)
POSでは販売するたびにたくさんのデータが取れてしまうので、何か途轍もなく精度の高く高度な商品分析ができるような錯覚を起こしているが、データが多くてもデータが目的に合致となければ何の役にも立たない。たくさん取れるデータ活用として苦肉の策が、売れ筋把握や死に筋把握というものであるが、販売情報だけで在庫数やフェイス数、販促などについては分からないから、単純に各商品がパラレルな状態(相互に影響しあうことなど考慮できない)で売上の大小を比較してもあまり意味があるとは言えない。
実際にある食品スーパーで昼前後に鮮魚の売上点数が極端に減少し、その後夕方になって回復したことから買物が昼に途絶え、夕方に集中すると解釈していたが、客数や在庫がなくならない冷凍魚などのデータでは昼もそれほど売り上げは減少しておらず、よく調べてみたら、昼は売り上げが少ないからと補充されず、単に売場在庫がなかっただけといったこともあった。
欠品で売上ゼロなのか、在庫をたくさん抱えて売上がゼロなのかの違いは在庫を確認しない限り分からない。POSデータを鵜呑みにしたことによる勘違いは改善効果ではなく、間違った行動をつくり出してしまう。
また、商品アイテムに振られた3-5桁の通し番号では商品の識別はできるが、コードに意味を持たせることができなければただの数値の羅列であり、コーディングによるデータ活用を全て放棄してしまうことになる。大昔にあった3連タグでさえ、コードに意味を持たせることでどのような商品特性のグループが売れているのかという売れ方の特性を知ることができた。そのことを考えれば機械化し、データがたくさん取れるというだけで、マネジメントツールとしての機能は大きく後退している。
3-5桁あれば、アパレルであればデザインやモチーフ、素材、ブランド、シリーズなど様々な分類情報を設定することができる。つまり、単品情報だけでは分からない様々な商品特性の情報を商品に持たせることができ、それによって売上のデザイン比率、素材比率などが曜日・時間帯など時系列でどのように変化しているかも知ることができる。しかし、POSのような単品識別コードによって何らかの商品特性による分類をしようとすれば、商品マスターに新たなコードを付加するなり、何らかの形でフラッグをつける必要がある。残念ながら、現在のJANコードの構成ではそれができないから、別枠で分類コードを持たせる必要がある。
結局、目的から入れば、データの持たせ方や集計の仕方、分析の仕方など全てが一貫して設計された状態にあり、分析後の対応もスムースに行くが、ただ単に商品に機械的に通しNO.でコードを振り、何らかのデータが取れたから、何かできないかというのでは、せっかくのデジタル技術の進歩も活かすことはできない。
とりあえず、データを取っておけばどうにかなる、データがあるから分析するという現在の情報システムの在り方では使えないものに多額の費用と労力を投入しているだけで終わる。
長年に渡るPOS、JANコードの歴史からはMDのマネジメントに有効な仕組みが何も生まれなかったことを考えれば、システムの設計思想(事務手続きなどオペレーション改善目的か商品構成・売り場づくりなどマネジメント目的か)とその活用に対する期待のミスマッチがどれほどのものかがよく分かる。
目的を明確にし、そのために必要な情報を整理することがなければ、ただいたずらに意味のないデータ、情報をたくさん垂れ流しているだけである。
3.分析後に状況をどう修正するのか
図表1は、ある企業の売場マネジャー用マニュアルに掲載されていたものをベースに筆者が修正を加えたものである。
売上、在庫、粗利に関して数値ではなく、単純化して〇、✖の8パターンに要約してある。これら8パータンについて想定される状況と検討内容、対応策さえ整理すれば、細かな数値にこだわることなく、基本的に売場で起こり数る状況の把握と対処がスムースに行われるようになる。
特に売場における数値分析では、その特性からポイントとなる注意点がある。
売場は常に変化しており、精度を求めて分析に時間をかけすぎると、その間に状況が変化してしまうことがあるから、迅速であることが求められる。
方向性さえ正しければ、精度よりもスピードが重要ということになる。
データが溢れるようになると、分析の精度をとやかく言う人もいるが、重要なことは、もともとあるデータが果たして目的に対応した適正なものであるか否かであり、そのような意味では前述のように売場にたくさんあるデータが必ずしも有効なデータとは言い切れない点を考慮する必要がある。
分析のための分析よりは、現状改善のための分析が適切に行えるようになるまでにはまだまだ時間がかかるのだろうが、デジタル化が進めば進むほど、本当の意味を理解しないままデータを振りかざす人、データに振り回される人が増えるのかもしれない。
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