◆数値は代用特性( alternative characteristic )
データばかりが級数的に増えているが、データが増えたからと言って全てをうまく使いこなせているわけではない。場合によってはデータの多さが煩雑さと混乱を招き、生産性と精度を著しく低下させることも考えられる。
どのような目的に対して、どのようなデータが必要なのか、どのようにデータを組み合わせ、あるいは加工して使いこなせば有効なのか、….等々、最も基本的なこと=目的と手段の関係が分からなければ試行錯誤するしかない。
データ加工は元データよりもはるかに多くのデータを生み出すから、むやみに取り組むだけでは手間ばかりかかり何も得られないという可能性もある。
データと目的との間にある関係性を理解しない限り、どんなにデジタル化が進んでもその対応は典型的なアナログ的作業ということになる。
結局、技術ばかりが先行しても、人の頭=思考回路やユーズウエアがついてこられなければ意味がない。
我々が日常的に目にし、また使っている「数値は状況を表わす代用特性」である。したがって、数値の持つ意味に関する定義が重要になる。
QC用語で代用特性( alternative characteristic )は「要求される品質特性を直接測定することが困難なため、その代用として用いる品質特性」と説明される。
例えば「男の人」について知ろうとしても直接「男の人」というものを測定することはできない。そこで男の人を知る上で測定可能な項目を設定し、その項目について数値でとらえていく。
例えば外観であれば年齢、身長、体重、BMI、..など、、運動能力であれば50m走、1500m走などのタイム、反復横跳びや垂直ジャンプ、遠投の距離、...など、また、健康状態であれば血圧やコレステロール値、中性脂肪、血糖値、尿酸値、..など、測定可能な意味ある項目である。
「男の人」という漠然としたとらえ方では分からなかったことが、このような項目に整理することで要素ごとに把握できるようになる。これが代用特性という意味である。
このように「知りたい内容=目的」に応じて、関連する意味ある数値を抽出し、組合わせていくことで知りたい内容をより具体的にとらえていくことができる。
◆売場の代用特性
そこでこのようなことを前提にして「売場」について考えてみる。
売場の健康状態を判定するには、どのような数値を、どのように組合わせていけば良いのだろうか。これが分からなければ、どんなに高価なコンピュータを導入し、どんなに多くのデータを蓄積しても、使えない。
いろいろな企業で日常的に管理に使う帳票を見る機会があるが、ほぼすべての企業がシーズ発想で作られた帳票しかアウトプットできないでいる。
理由は簡単である。コンピュータメーカー、ソフトウエアハウスのの「これだけ多くの帳票が出せます」「こんなに細かなデータが出せます」という売り文句に乗っているだけだからである。
いくら高額な費用を払ってメーカーの「シーズ」を買っても、業務上どのようなデータをどう使えばよいのかという「ノウハウ」がなければ、ただの数字の羅列、意味のない数字の組合せがたくさん並んでいるだけでしかない。
ほとんどのケースでノウハウがないから、何でもできる、たくさん出せるという形を取らざるを得ない。
「これだけ見ていれば大丈夫」ということにはならないから、使う方もどうしてよいか分からない。しかし、売場が健康であるかどうかを判定するために必要な数値はある程度限られる。
基本は、売上/荒利/在庫の3つである。我々が目標としているのは基本的に売上と荒利である。
売上は量を、荒利は質を表わしていると考えてよいだろう。売上と在庫の関係は販売や売場運営のバランスや効率を見る上で重要になる。この3つの数字が基本である。
他にもいくつかの数値があるが、これらは、売上/荒利/在庫のバランスを見る上でその過程、内訳など原因分析のために必要となる。
例えば、売上に対して在庫が多めだとする。その原因を探すには、仕入を見れば良い。売上を超えた仕入が行われれば在庫は増え、その逆であれば在庫は減る。
仕入は売上と在庫のバランスをコントロールするための手段であり、そのコントロールがうまくいっていないと売上と在庫のバランスが崩れる。
また、予定の荒利率よりも実績が低く出た場合は、一定期間内の値入率(仕入の内容)と値下金額を見れば良い。更に2,3ヶ月前の仕入やその後の在庫推移を見れば値下の原因を知ることができる。
つまり、あらゆる「結果」は売上/荒利/在庫という数値へ集約されており、他の数値はこれら3つの数値が「なぜ」そのようになったのかというプロセスや内訳、原因などということができる。
したがって、売場が健康であるかどうかを見るためには売上/荒利/在庫の3つの数値をキチンと押さえた上で、そこから遡っていけば良いことになる。
◆関連する数値
(1)売上に関連する数値
売上が予定通りにいっているかどうかを見るためには2つの系列で見る必要がある。
一つは、単位をそのまま細分化するという方法である。全社、店、事業部、部門、ライン、クラス、..アイテム、SKUという具合である。全体はあくまでも合計でしかないから、単位を細分化し、その内訳を見ていくことで原因、重点を探すというやり方である。
もう一つは、売上を客単価×客数、客単価を買上単価×一人当たり買上げ点数というように分解する方法である。このように分解することで、お客の購買状況をとらえることができるし、客数や一人当たり買上げ点数によってお客が支持している状況を知ることができる。
通常、客数は店に対するお客の支持を表わし、客単価=買上単価×一人当たり買上げ点数は店の工夫(商品構成や売り方)を表わしている。商品構成が買上単価を決定し、売り方の工夫が一人当たり買上げ点数として現われてくる。
(2)荒利に関連する数値
荒利率についても売上と同様に2つの系列で見ることができる。一つは、売上と同様に単位を細分化していくものであり、もう一つは値入率と値下率である。
一般的に値入率は特売商品やチラシ商品などの仕入が増えれば低くなるので、定番比率、特売比率( チラシの回数、チラシ商品の設定の仕方 )という見方も同時に必要となる。
値下は在庫の内訳( 商品別の売上比率/在庫比率から在庫過多、不良在庫の有無などを見る )や2,3ヶ月前の仕入( 仕入過ぎなど )を見ていくことで原因を特定することが可能である。
ただし、値下がぜんぜん計上されていないという場合、不良在庫が売場の中に放置されている可能性もあるので注意する必要がある。
(3)在庫に関連する数値
在庫についても売上と同様に単位をそのまま細分化してみていく方法と、売上と仕入のバランスを見ていく方法がある。(Cf.OTB)
基本は、売上と在庫のバランスであり、そのバランスを維持するための手段として仕入がうまく機能しているか否かが重要になる。
このように、様々な数値、あるいは数値間の関係にはそれぞれ意味があり、それを理解することが重要になる。したがって、目的が明確であれば、そのために必要となる数値も限定される。
いたずらに多くの数値を並べるのではなく、目的に応じて必要な数値を関連付けてみられる帳票に整理することがノウハウである。
◆3つの分析
小売業では、通常、3つの分析方法があれば十分である。
①時系列での変化を見る ( 目的は、将来を予測するため )
売上推移、在庫推移などなど時間と共にどのように変化しているかをとらえ、今後どのように変化していくかを予測する。
②内訳を見る ( 目的は、重点を知ったり、他との比較から問題を発見するため )
売上構成、在庫構成など内訳を知ることで管理する重点を知ったり、売上構成と在庫構成の比較からバランスの良否を調べ問題発見に用いたりする。
③ ①×② 内訳の時系列変化を見る ( 目的は①と②の組合せである )
売上構成の時系列変化を見ることで今後重点がどのように推移していくのかを知る。さらに在庫構成の時系列変化を組合わせて見ることで売場の拡縮や在庫の持ち方の設定をし、発注に活かしていく。
このように分析は3つのパターンがあるが③がキチンとできていれば他の2つは包括していることになる。したがって、代用特性として設定した数値についてこれらの分析ができれば、基本的に売場の状況は把握できることになる。
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