平成28年3月30日、第2回「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」において、訪日観光客の目標が大幅に引き上げられている。
すでに2015年の実績が2000万人弱(1974万人、消費額は3兆4771億円、買い物代金は全体の約4割)と当初の2020年目標をほぼ達成するような状況にあることから、目標は大きく修正され、2020年4000万人、訪日外国人旅行者の消費額8兆円、2030年6000万人、同15兆円という数値まで提示されている。
さらに、現在、東京、大阪に宿泊、インバウンド消費が集中していること、またリピーターが増えたことで、メジャーな観光地から地方に残る日本の文化、日常生活へと訪日外国人の興味が変化しつつあること、LCC(Low Cost Carrier;低コストの航空会社)を中心に地方空港への乗り入れが増えたこと、…などから、訪日外国人を都市部だけでなく、地方部(三大都市圏;埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫 県以外の地域)に呼び込む施策を強化する方向にある。
3大都市圏以外の外国人宿泊者数の目標を、2015年実績2519万人泊に対し、オリンピックイヤーの2020年には7000万人泊、2030年には1億3000万人泊と大幅に増やすとし、それに伴う様々な施策も具体的に明示されている。
外国人リピーター数は、2020年には2015年の約2倍2400万人、2030年には約3倍3600万人を目標にしている。
観光に関するニーズも民泊やKitchHike(キッチハイクhttps://ja.kitchhike.com/ 例えば日本人家庭=ホストが設定した有料メニューをゲストが選択し、ホスト宅で一緒に調理し、食事をしながら交流するマッチングサイト)に象徴されるような普段着の日本を見たい、経験したいというように変わっていくと考えられる。当然、その周辺にあるニーズも変わるから新たなビジネスチャンスが様々な形で生まれることだろう。
その他、日本人の旅行消費額についても2020年21兆円、2030年22兆円を目指すとしており、過去5年間の平均伸び率を参考に5年ごとに約5%ずつ伸びると想定している。
このような想定を前提として、規制緩和、制度改革の議論、各施策についての行動目標も具体的に示されているから、周辺マーケットへの動きは今後ますます活発になることが予測される。
政府が観光ビジョンとして挙げた政策は、・迎賓館など公的施設の一般開放、・規制緩和による国立公園の宿泊施設誘致、・著名外国人による広告宣伝活動の強化、・外国語観光ガイドの規制緩和、・通訳などがそろう医療施設の5倍増、・美しい景観作り(電柱の地中化など)、・観光地におけるクレジットカードへの対応、…な多岐に渡る。
すでにセブン銀行では、このような状況を踏まえ、他行に先駆けて海外で発行されたキャッシュカード、クレジットカードで日本円が引き出せるATMへ切り替えている。コンビニエンスストアのセブンイレブン、総合スーパー、百貨店、ショッピングセンターなどの商業施設、主要空港など身近な設置場所、22000台という設置台数の多さ、ほぼ24時間可能な利用時間など(4月8日時点セブン銀行のホームページより)、多くの点で優位なポジションを確立しており、他行との比較においてその優位性は揺るぎないものになっている。特に訪日外国人はSNSを通して様々な情報を発信しており、その情報に基づいて次の訪日来訪者も行動するという傾向にある。海外発行カードが使えるATMがまだ少ない状況で「セブン銀行は使える」「セブンイレブンへ行けばよい」という情報が流れれば、実際のATMの数以上のメリットがあると考えてよいだろう。
免税店だけでなく、マーケットの変化に素早く対応した企業は確実に次のステージの主役の座を確保していくと考えるべきである。
政府が提示する施策に関し、特に小売業と関連すると思われる項目をあげると、地方の商店街等における観光需要の獲得・伝統工芸品等の消費拡大に向け、◍地方部の免税店数2015年10月1日時点11137店を2018年2万店(当初2020年目標を前倒し)、◍2020 年までに計50 箇所の商店街・中心市街地・観光地で街並み整備、◍計1500 箇所の商店街・中心市街地・観光地で外国人受入環境(免税手続カウンター、Wi-Fi 環境、キャッシュレス端末、多言語案内表示、観光案内所等)を整備、◍市町村が旗振りとなり、ふるさと名物の開発、◍世界に知られていない、日本が誇るべき優れた地方産品を500選定し、海外販路を開拓する、…などの他、「東北6県見るもの・食べるもの100選」を国内外に発信など、様々なものがある。
内容を見れば、大手小売業を対象としているという印象はなく、地元密着の中小零細企業、個人が中心と考えられるが、これだけの内容を、しかも短期間で実現することは実質的にかなり難しい。
すでに「地方創生」で明らかなように、人材、技術、経験、資金など、新たな事業を展開するのに必要な資源が豊富にあるわけではなく、行政が音頭を取っても、実際に動く中小零細企業、個人はなかなか前に進めないという状況が見えてくる。
展示会への出店も盛んだか、ちょっと注文が入ると生産能力が間に合わず、全ての活動が止まってしまうという。
そのような意味では、チェーンストア企業が持つ経験やノウハウ、人材、資金力は非常に重要であり、地元企業、自治体と一緒になって取り組むことはいろいろな意味で有効である。
ちょっと考えただけでも、商品企画・開発、販売チャネル、オペレーションシステム、リクルート・教育システム、資金調達など、チェーンストア企業が持つ資源は多い。
地域を運命共同体と考えるか否かで選択肢は大きく変わるが、もし運命共同体と考えるのであれば、小売業という限定された事業だけにこだわらず、企業組織としての動き方、成長・発展の仕方を地域に還元しながら、共に成長していくような関与の仕方が必要になる。単に地元商品を仕入れるという協力の仕方ではなく、調達や生産まで踏み込んだ指導、あるいは複数の中小零細企業、個人の機能統合をリード、コーディネイトするようなかかわり方が必要になるだろう。
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