■店が変わる必要性
すでにマーケット環境を考えれば、固定的な客層(足元商圏)の、固定的マーケット(日常の食事)を対象としている限り、店舗を維持することが難しいことは明白である。
このような状況に対応するには、従来の固定的な客層・オケージョンに新たな客層・オケージョンを加え、従来のマーケットとは異なる新たなマーケットを開拓する必要がある。
そう考えれば、野球場をボールパークに変え、ベースボールをスポーツビジネスに変えるのと同様な修正がSMにも必要なことは十分理解できるだろう。
様々な要素を科学的に分析し、デジタル技術を駆使して、お客に従来見えなかった様々なモノ・コトを見せる、参加させる、体験させる、結果として様々な欲求を満たし、QOL(Quality of Life)を高めることで現在のSMも大きく変わることが可能になる。
昔、あるホームセンターの役員がリタイヤする直前に「長年、『効率』を追求してきたが、結局、効率の向こうに効率はなかった」とつくづく言っていたことがある。敗者の弁と言えなくもないが、一つの時代の結論とも言える。
コスト削減のために、販売に手間のかかる商品をカットし、売場作業を減らして人員削減を実現し、効率化を図ろうとしてきた。しかし、そうすると、それ以上に売上は低下し、粗利も下がるから、結局、いつまで経っても追い求めた「効率」を得ることはできなかった。業績はもちろん、売場、商品、人(知識・技術・モチベーション)など、すべてが取り返しのつかないほどに疲弊し、悪化してしまった。
特に大きかったのは、客離れである。ローコストを優先し、お客にとっての売場の魅力、買い物の楽しさが失われれば、どんなにコストが下がってもお客は店から離れていく。
そういえば業務改革で高収益を誇ったイトーヨーカ堂も、いまでは話題になることもなくなってしまった。科学的に問題解決を行い、乾いた雑巾をさらに絞るといわれたメーカーのように利益を生み出したイトーヨーカ堂も、残念ながらマーケットの変化にまでは科学的な対応ができなかったということなのかもしれない。
上手の手から水をこぼれないようにと技術を磨いてきたが、いつの間にか水を湛える泉は他所に移っていた。上手に水をすくう術も大切だが、それとともに水が豊富に湧き出る泉を見つけ出す術もそれ以上に重要になる。
現在はAIなどデジタル化の進展、ECの台頭、人口減少・高齢化など、売上を左右するマーケット環境が急激に変化している。それに対応することができなければ、いくらコストを削減し、日常業務を改善しても経営を維持することはできない。
科学的に問題解決することは重要であるが、その対象は従来のコスト偏重から売上・利益を上げるためのマーケット分析、ビジネスモデル(仕組み・仕掛け)開発へとウエイトが移っている。
筆者が提唱するテーマパーク型ストア、アミューズメント型ストアも、全ての店舗を同じように変えようという単純なものではない。立地や経営環境によって、いくつものタイプに分化する必要がある。
最も基本的なこと、ビジネスの本質は、消費者が「なぜ、その商品を欲しいと思うのか」「なぜ、その商品を買おうとするのか、買ってしまうのか」であり、それが理解できなければ、いまの時代に商品を売りこなすことはできない。
すでに生活にどうしても欠かせない必需品を売る時代ではなく(基本機能的商品だけではマーケットはシュリンクするから店舗が維持できない、経営が成り立たない)、なければなくて済む、ある意味不要な商品(二次機能・三次機能的商品)を、いかにして喜んで買ってもらうのかという時代になっている。
そのためには、消費者の生活、興味、価値観、欲求など購買心理の大元にある様々な要素を理解し、消費者に響く(共感を得る)アプローチ、売り方をすることが必要になる。
今後、ますますそのような商品を売ることが重要になると考えれば、根本的に発想、仕組みを変えていく必要がある。
SMも野菜、肉、魚など「物単体を売る」時代から、「健康に良い食生活」や「いつまでも若々しく美しくいられる食生活(アンチエイジング、セルフメディケーション)」など、「ライフスタイルとしての食」「カルチャー(食文化)としての食」「二次機能、三次機能としての食」を提供する店舗に変わる必要がある。
テレビで何かが良いといえば、次の日にはその商品がいつもの何倍も売れることは、誰もが経験的に知っているが、その本質を理解し、ビジネスモデルとして確立することはできていない。
いつまでも、「物単体」を売るのではなく、お客と商品の意味、価値を共有しながらQOL(quality of life)を高めるための時間・空間として売場を創り上げることが求められている。
いつもコラムを読ませて頂き、大変勉強になっております。
新しい本のご出版の予定がありますでしょうか?
ご連絡、ありがとうございます。
「なぜ、チェーンストアは成長を止めるのか?」を出版後に回答編を準備しましたが、あまりにも状況変化が早く、頓挫しました。その後もコラムに書いているように、いろいろな原稿を用意していますが、何回か仕切り直しをしています。
とりあえず、少し方向が見えてきましたので、現在まとめに入っています。
★ただし、出版業界は状況が厳しく、簡単には受けてくれないので、その辺も悩ましいところです。前著も初めの原稿からまとめるまで10年以上、原稿をまとめてから出すまでに4年くらいかかっています。